カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第78匙 現実世界放浪カレー:パンチマハル(D16)

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 火曜日の夜に書き手が訪れたのは、JRの水道橋駅、JRの御茶ノ水駅、そして、メトロの神保町駅を三角形の点にした場合に、その三角形の中ほどに位置している〈パンチマハル〉であった。
 つまり、この店には、どの駅からも同じような移動距離でアクセス可能なのだが、書き手は、神保町駅から錦華通り、というルートを選択した。
 この錦華通りを選んだのは、かつて〈インドカレー・カーマ〉に赴く際に使った既知の道だったので、未知の店に行く時には既知の道を使った方が迷わずに行ける、という判断からである。

 書き手が神保町駅でメトロを出たのは十八時半過ぎであった。
 ガイドブックや店のブログの情報によると、パンチマハルの夜営業時間帯のラスト・オーダーは二〇時、まだ充分な時間があったのだが、ガイドブックの注意事項にあった「売り切れ次第終了」の文言が、書き手に既知の道を選ばせ、さらに、その足を速めさせたのである。

 店に到着した書き手が、店内に足を踏み入れてみると、その印象は、まさしく〈印度〉であった。
 というのも、店内には、インドの地図だけではなく、店主がインドを放浪していた時のものと思われる写真や、おそらくヒンドゥー教のものと思われる幾つもの神像(多分、ガネーシャ)が置かれていたからである。
 察するに、この店の店主は、インド放浪の経験があって、そうしたインド好きが高じて店を開いたのかもしれない。

 しかし、この認識は、書き手の第一印象に過ぎなかったようだ。

 ガイドブックの店紹介ページによると、店主は、「カレー屋での独立を思い立ち、美味しいカレーを求めて色々な国や地方を旅」し、「結局自分で(カレーを)編み出す事にした」と書かれていたからだ。

 カレー、ないしは、究極のスパイスを求めて旅するなんて、まるで漫画やドラマ、フィクション的な行動力である。

 とまれ、たしかに、店内に入った時の店の印象は、「インドぉ~」だったのだが、それは、店主のカレー放浪の一部を切り取ったものであって、おそらく、カレーを求めて巡った国や地域は、インドに限定される分けではないようだ。
 ガイドブックには、この店の分類は、インドカレーとはされてはおらず、「ジャンル分け不可 唯一無二のオリジナルカレー」と書かれていたのだ。
 そもそもの話、店名には、「インディアン」ではなく、「エスニック(民族的)」という文言が頭に付いている。
 つまるところ、この事は、パンチマハルのカレーが、インドに限定されるものではない事を意味していよう。

 さて、着座した書き手が、メニュー一覧を見たところ、チキン、キーマ、やさい、インド、ドライカレーなどが並んでいたのだが、十九時前のこの時点において既に、チキン・カレーなど、終わってしまっている品もあった。そのため、書き手は〈キーマカレー〉を選ぶ事にした。

 メニューのキーマカレーには、「鶏ひき肉たっぷりのサラサラカレー」という説明が為されていた。
 この「サラサラ」というワードは、他のメニューの説明書きにも入っていたのだが、この「サラサラ」こそが店のカレーの特徴なのかもしれない。
 ガイドブックによると、このサラサラ感は、「玉葱を使わない」事によって生み出されているらしい。

 やがてトレイに載せられ、提供されたカレー・ライスは、ワンプレート式ではなく、白米が置かれた平らな皿、赤みの強いカレーが入れられた椀という、セパレート式であった。
 このカレーこそが、世界を放浪した結果、店主がたどり着いた「ジャンル分け」不可能な、「サラサラ」なオリジナルカレーなのであろう。 

〈訪問データ〉
 神保町エスニックカレー&ヌードル パンチマハル:神保町・水道橋
 D16
 十一月八日・火曜日・十八時四十五分
 キーマカレー:一〇〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「パンチマハル」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、ページ。
〈WEB〉
 「パンチマハル公式ブログ」、二〇二三年二月九日閲覧。
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