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一巡目(二〇二二)
第73匙 僕、いつの日か最強マサラをつくってやるZE:ゼロツー ナシカンダール トーキョー(B16)
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十一月二日の夜、書き手は、連休に帰省する前に、大手町駅のレストラン街に入っている〈ゼロツー ナシカンダール トーキョー〉を訪れた。
カレー・ガイドブックによると、この店は「日本初!」の「マレーシアの屋台」風の店であるらしい。
今回のイヴェントにも、東南アジア系のカレー店、特にタイのカレー店は幾つもあったのだが、マレーシアのカレー店というのは、もしかしたら、この店だけかもしれない。
ところで、店名になっている〈ナシカンダール〉とは、一体どういった意味なのだろう?
「ナシ」とは〈ご飯〉のことで、「カンダール」とは〈天秤棒〉の事であるらしい。
つまり、昔、マレーシアに移住した南インド人が、天秤棒を担いで料理を売り歩いた事が、〈ナシカンダール〉の語源だそうだ。
イメージ的に言うと、カンダールとは、江戸時代を舞台にした時代劇で見られるように、一心太助のような行商人が魚を売り歩く時に、両脇に売り物を入れる容器が取り付けられている棒、すなわち、〈棒手振(ぼてふり)〉のような代物なのであろうか?
そういった疑問を抱きながら大手町に到着したところ、店には、カンダールを肩に担いだインド人の絵が置かれており、カンダールは、まさしく、書き手のイメージぴったりな物であった。
実は、書き手は、この店、ゼロツーに関して、大手町にあるマレーシア・カレーの店という事しか知らずに訪れ、〈ナシカンダール〉が、いかなるスタイルで提供される物なのか、まったく情報〈ナシ〉なまま訪店したのであった。
そもそも、この店は、日本初のマレーシアの屋台スタイルなのだから、日本では〈ナシカンダール〉が、まだまだ馴染みが薄いようにも思われる。
端的に言うと、〈ナシカンダール〉とは、ワンプレートに次々と盛ってゆく料理である。
まず、五つの選択肢の中から、一つの主菜を選ぶ。それは、半熟マサラエッグの「エッグ」、「グリルチキン」、「ラム肉」、魚のフィンガーフライの「フィッシュ」、ポテトギーローストの「ベジタリアン」の五種類である。ちなみに、メインの具材なしの「シンプル」や、全てのメインが少しずつ乗った「全部乗せ」、あるいは、親子丼的な「エッグ、チキン、ポテト」が乗った、店長おすすめのメニューもあるのだが、この日が初めての書き手は、なんとなく気分で、「ベジタリアン・ナシカンダール」を注文したのであった。
通常の店ならば、これで注文は終わる。
しかし、ゼロツーでは、実は、まさにここから、本格的な注文が始まるのだ。
メインの具材、主菜を選んだ後で、次に、皿の一番下に敷かれる〈ナシ(ご飯)〉を選ぶ事になる。
ナシの選択肢は二つで、一つが、「長粒米と五分撞き玄米を半々で混ぜた」〈ベーシックライス〉、そしてもう一つが、「バスマティライス」を使ったビリヤニ風ごはん〈ナシブリヤーニ〉である。ちなみに、〈ナシブリヤーニ〉を選んだ場合は、一〇〇円の課金となる。
ライスの量は、S・M・Lの三つで、一五〇グラムのMを基準とし、二五〇グラムのLはプラス五〇円、一三〇グラムのSはマイナス五〇円であった。
初来店の書き手は、これまた、あまりよく考えずに、ベーシックのМという、いかにも普通な選択をしてしまったのであった。
とまれ、具無しと全部乗せを除いても、主菜とする具材とナシ(飯)の組み合わせ、これだけで十パターンもある分けなのだ。
さらにである。
この後、副菜として、「季節の青菜炒め」、「カブのココナッツ煮」、「キャベツとニンニクの芽の炒め物」、「パクチーとバミセリの和え物」、ヨーグルトとココナッツのペーストである「ビーツのパチャディ」、野菜のヨーグルト添えである「ライタ」という、六つの副菜の中から三つを選ぶのだが、六種類の中から三つを選ぶとゆうことは、組み合わせは二〇、つまり、ナシ・主菜・副菜の在り方は二〇〇パターンという事になる。
そして最後に、マサラ(カレー)を選ぶのだが、マサラも、「骨付きチキンカレー」、「天使の海老とイカのカレー」、「季節野菜のベジマサラ」、ひよこ豆の「ダール・フライ」、「期間限定のマサラ」の六つから二種類を選ぶ事になるので、二種のカレーの組み合わせは十五パターンとなる。
つまるところ、簡単に言ってしまうと、下敷きとなるナシ(飯)の上に、注文者が選んだ具材やカレーが、ガシガシ乗っけられてゆく分けで、ここで着目すベきは、飯・主菜・副菜・マサラの組み合わせは、計算してみると(間違っていたらごめんなさい)、〈三〇〇〇〉パターンもある分けなのだ。
毎日一食試したとしても、それだけで約十年かかってしまうであろう。
この店を初めて訪れた書き手は、あまりよくシステムが分かっていなかったので、直感で、全て、なんとはなしに選んだ結果できあがったのが、以下の組み合わせである。
ナシ(飯):ベーシック(M)
主菜:ベジタブル
副菜:季節の青菜炒め、カブのココナッツ煮、キャベツとニンニクの芽の炒め物
マサラ(カレー):天使の海老とイカのカレー、ダール・フライ
これが、この日の選択の結果なのだ。
ちょっと平凡である。
仮に、だ。
次の来店時にも、なんとなく選んでいったら、同じプレートが出来上がってしまうかもしれない。
他の可能性が、二九九九もあるのにそれはもったいない。
ゼロツーの可能性は、三〇〇〇もあるのだから。
この日、出来上がったプレートは、凡庸な書き手の無自覚な味の好みの反映になってしまったのだが、意識的に、食べた事のない副菜や、味わった事のないマサラを選んだら、未体験で全く未知のナシカンダールと遭遇できる可能性だってあろう。
様々な組み合わせを模索しながら、三〇〇〇の選択肢の中から、僕が選んだ最強のマサラを考え出すのも面白いように、書き手には思えたのであった。
〈訪問データ〉
ゼロツー ナシカンダール トーキョー
B16
十一月二日・水曜日・十九時半
ベジタリアン・ナシカンダール:一一五〇円(QR)
〈参考資料〉
「ゼロツー ナシカンダール トーキョー」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十四ページ。
〈WEB〉
「わんぱく過ぎるワンプレート専門店が日本初上陸…!インド移民によるマレーシア料理『ナシカンダール』は360°どこをどう食べても美味しい」、『ぐるなび』、二〇二三年一月二十五日閲覧。
「順列・組合せ」、『ke!san』、『CASIO』、二〇二三年一月二十五日使用。
カレー・ガイドブックによると、この店は「日本初!」の「マレーシアの屋台」風の店であるらしい。
今回のイヴェントにも、東南アジア系のカレー店、特にタイのカレー店は幾つもあったのだが、マレーシアのカレー店というのは、もしかしたら、この店だけかもしれない。
ところで、店名になっている〈ナシカンダール〉とは、一体どういった意味なのだろう?
「ナシ」とは〈ご飯〉のことで、「カンダール」とは〈天秤棒〉の事であるらしい。
つまり、昔、マレーシアに移住した南インド人が、天秤棒を担いで料理を売り歩いた事が、〈ナシカンダール〉の語源だそうだ。
イメージ的に言うと、カンダールとは、江戸時代を舞台にした時代劇で見られるように、一心太助のような行商人が魚を売り歩く時に、両脇に売り物を入れる容器が取り付けられている棒、すなわち、〈棒手振(ぼてふり)〉のような代物なのであろうか?
そういった疑問を抱きながら大手町に到着したところ、店には、カンダールを肩に担いだインド人の絵が置かれており、カンダールは、まさしく、書き手のイメージぴったりな物であった。
実は、書き手は、この店、ゼロツーに関して、大手町にあるマレーシア・カレーの店という事しか知らずに訪れ、〈ナシカンダール〉が、いかなるスタイルで提供される物なのか、まったく情報〈ナシ〉なまま訪店したのであった。
そもそも、この店は、日本初のマレーシアの屋台スタイルなのだから、日本では〈ナシカンダール〉が、まだまだ馴染みが薄いようにも思われる。
端的に言うと、〈ナシカンダール〉とは、ワンプレートに次々と盛ってゆく料理である。
まず、五つの選択肢の中から、一つの主菜を選ぶ。それは、半熟マサラエッグの「エッグ」、「グリルチキン」、「ラム肉」、魚のフィンガーフライの「フィッシュ」、ポテトギーローストの「ベジタリアン」の五種類である。ちなみに、メインの具材なしの「シンプル」や、全てのメインが少しずつ乗った「全部乗せ」、あるいは、親子丼的な「エッグ、チキン、ポテト」が乗った、店長おすすめのメニューもあるのだが、この日が初めての書き手は、なんとなく気分で、「ベジタリアン・ナシカンダール」を注文したのであった。
通常の店ならば、これで注文は終わる。
しかし、ゼロツーでは、実は、まさにここから、本格的な注文が始まるのだ。
メインの具材、主菜を選んだ後で、次に、皿の一番下に敷かれる〈ナシ(ご飯)〉を選ぶ事になる。
ナシの選択肢は二つで、一つが、「長粒米と五分撞き玄米を半々で混ぜた」〈ベーシックライス〉、そしてもう一つが、「バスマティライス」を使ったビリヤニ風ごはん〈ナシブリヤーニ〉である。ちなみに、〈ナシブリヤーニ〉を選んだ場合は、一〇〇円の課金となる。
ライスの量は、S・M・Lの三つで、一五〇グラムのMを基準とし、二五〇グラムのLはプラス五〇円、一三〇グラムのSはマイナス五〇円であった。
初来店の書き手は、これまた、あまりよく考えずに、ベーシックのМという、いかにも普通な選択をしてしまったのであった。
とまれ、具無しと全部乗せを除いても、主菜とする具材とナシ(飯)の組み合わせ、これだけで十パターンもある分けなのだ。
さらにである。
この後、副菜として、「季節の青菜炒め」、「カブのココナッツ煮」、「キャベツとニンニクの芽の炒め物」、「パクチーとバミセリの和え物」、ヨーグルトとココナッツのペーストである「ビーツのパチャディ」、野菜のヨーグルト添えである「ライタ」という、六つの副菜の中から三つを選ぶのだが、六種類の中から三つを選ぶとゆうことは、組み合わせは二〇、つまり、ナシ・主菜・副菜の在り方は二〇〇パターンという事になる。
そして最後に、マサラ(カレー)を選ぶのだが、マサラも、「骨付きチキンカレー」、「天使の海老とイカのカレー」、「季節野菜のベジマサラ」、ひよこ豆の「ダール・フライ」、「期間限定のマサラ」の六つから二種類を選ぶ事になるので、二種のカレーの組み合わせは十五パターンとなる。
つまるところ、簡単に言ってしまうと、下敷きとなるナシ(飯)の上に、注文者が選んだ具材やカレーが、ガシガシ乗っけられてゆく分けで、ここで着目すベきは、飯・主菜・副菜・マサラの組み合わせは、計算してみると(間違っていたらごめんなさい)、〈三〇〇〇〉パターンもある分けなのだ。
毎日一食試したとしても、それだけで約十年かかってしまうであろう。
この店を初めて訪れた書き手は、あまりよくシステムが分かっていなかったので、直感で、全て、なんとはなしに選んだ結果できあがったのが、以下の組み合わせである。
ナシ(飯):ベーシック(M)
主菜:ベジタブル
副菜:季節の青菜炒め、カブのココナッツ煮、キャベツとニンニクの芽の炒め物
マサラ(カレー):天使の海老とイカのカレー、ダール・フライ
これが、この日の選択の結果なのだ。
ちょっと平凡である。
仮に、だ。
次の来店時にも、なんとなく選んでいったら、同じプレートが出来上がってしまうかもしれない。
他の可能性が、二九九九もあるのにそれはもったいない。
ゼロツーの可能性は、三〇〇〇もあるのだから。
この日、出来上がったプレートは、凡庸な書き手の無自覚な味の好みの反映になってしまったのだが、意識的に、食べた事のない副菜や、味わった事のないマサラを選んだら、未体験で全く未知のナシカンダールと遭遇できる可能性だってあろう。
様々な組み合わせを模索しながら、三〇〇〇の選択肢の中から、僕が選んだ最強のマサラを考え出すのも面白いように、書き手には思えたのであった。
〈訪問データ〉
ゼロツー ナシカンダール トーキョー
B16
十一月二日・水曜日・十九時半
ベジタリアン・ナシカンダール:一一五〇円(QR)
〈参考資料〉
「ゼロツー ナシカンダール トーキョー」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十四ページ。
〈WEB〉
「わんぱく過ぎるワンプレート専門店が日本初上陸…!インド移民によるマレーシア料理『ナシカンダール』は360°どこをどう食べても美味しい」、『ぐるなび』、二〇二三年一月二十五日閲覧。
「順列・組合せ」、『ke!san』、『CASIO』、二〇二三年一月二十五日使用。
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