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一巡目(二〇二二)
第71匙 麺ソーレ、タイ✕沖縄カオソーイ:BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ(B15)
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火曜日の昼、書き手は、いつものように、東西線の九段下駅で降りたのだが、半蔵門線に乗り換えずに、そのまま改札を出ると、九段下駅の五番出口から五分とかからない所に位置している店、〈東京カオソーイ〉に向かった。
この店のウリは、その店名が端的に表わしているように、東京にいながらにして、本格的なカオソーイが食べられる点にある。
カオソーイとは、東南アジアの麺料理で、歴史的に言うと、ミャンマーからラオス北部に伝わり、それから、ルアンパバーンのようなラオス北部から、チェンマイのようなタイ北部に拡がっていったそうだ。
それゆえに、ひとくちにカオソーイといっても、ラオス風のカオソーイと、タイ風のカオソーイとでは、かなり違った料理になっているらしい。
とまれ、我々日本人にとって、〈カオソーイ〉といえば、タイのチェンマイの料理として認知されているように思われる。
カレー・ガイドブックの店紹介ページには、「タイ家政大学でタイ料理を学んだシェフ」が研究を重ねた「自家製ペーストで作るタイカレー」、「チェンマイ名物のカレーヌードルカオソーイ」、「タイ現地と同じ製法、素材にこだわ」っているという〈カレーへの思い〉が記述されているので、この店のカオソーイは、間違いなくタイ風のカオソーイであろう。
タイ風のカオソーイの特徴とは、スープはココナッツミルクを加えたカレー・スープで、このスープに揚げた卵麺を入れ、ここに〈ナムプリックパオ〉と呼ばれている唐辛子や干しエビなどのペーストが添えられているそうだ。
つまり、東京カオソーイでは、このペースト、ナムプリックパオが自家製なのであろう。ちなみに、このペーストには「沖縄の生ハーブ」も使われているとも書かれていた。
何ゆえに沖縄、と思われるかもしれないが、実は、この店の正式名称は、「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」で、沖縄とタイの融合を東京で体現しているような店なのだ。
店のホームページを参照してみると、「タイと同じ種類の素材、調味料を同じ調理法で」「タイ、沖縄の新鮮素材」をもってして、「タイ✕沖縄」な料理を提供している、とも書かれていた。
はたして、九段下の路地裏にある店に到着してみると、そこに在ったのは、座席数わずか八席のコンパクトな店で、その佇まいは、那覇にいるような錯覚を書き手に抱かせた。
カオソーイは、タイでは屋台料理らしいので、タイの屋台のような雰囲気も、もしかしたら漂わせているのかもしれない。
運よく待たずに入店できた書き手は、もちろん、カオソーイを注文したのだが、タイ帰りの沖縄出身の店主から、カオソーイの提供には十五分ほど時間を要すると念を押された。
おそらく、会社員が昼休みの短い時間帯にさっと食べるつもりで訪れる場合には、十五分待ちというのは、けっこうな時間なので、待てるかどうかの確認が為されているのかもしれない。
もちろん、カオソーイ目的でわざわざ訪店した書き手が、十五分待ちできない分けがなかった。
やがて約十五分後に提供されたカオソーイは、カレー・スープに、軟らかな麺が入っていたのだが、ここに、大ぶりな骨付きの鶏肉が添えられ、さらにその上に、茹でる前のインスタントラーメンのような大きさの、固く揚げられた麺が載せられていた。
カレー・スープとその中の麺にたどり着くためには、その揚げ麺と大きな骨付き肉をまずは食せねばならない。
書き手が知っている、これまで日本で食べてきたカオソーイには、そのようなごっつい揚げ麺が載せられてはいなかったのだが、もしかしたら、それこそが、本格的なタイ風のカオソーイなのかもしれない。あるいは、沖縄風なのであろうか? もしかしたら、この店の独自のカオソーイなのでは?
そんな事を考えていると、店の中で流れていたラジオから、次のような話が耳に入ってきた。
そのラジオは、沖縄の放送局の番組だったのだが、番組のパーソナリティーによると、その日、十一月一日は、なんと〈琉球文化の日〉であるらしい。
琉球文化の日とは、「先人たちが創り上げてきた沖縄の歴史と文化への理解を深め、故郷への誇りや愛着を感じられる地域社会の形成に取り組むとともに、新たな歴史と文化を県民自らの手で創造していくことを決意するもの」で、令和三年三月三十一日に制定された、二〇二二年で二回目を迎えたばかりの、出来立てほやほやの記念日であるとの事であった。
「タイ✕沖縄」を謳っている東京の店に〈カオソーイ〉を食べに来た日が、まさに十一月一日、〈琉球文化の日〉であるという偶然に、何か因縁めいたものを感じてしまった書き手であった。
〈訪問データ〉
BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ
B15
十一月一日・火曜日・十三時
東京カオソーイガイ:九一八円(QR)
〈参考資料〉
「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十六ページ。
〈WEB〉
『東京カオソーイ』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
「琉球歴史文化の日とは」、『沖縄県』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
この店のウリは、その店名が端的に表わしているように、東京にいながらにして、本格的なカオソーイが食べられる点にある。
カオソーイとは、東南アジアの麺料理で、歴史的に言うと、ミャンマーからラオス北部に伝わり、それから、ルアンパバーンのようなラオス北部から、チェンマイのようなタイ北部に拡がっていったそうだ。
それゆえに、ひとくちにカオソーイといっても、ラオス風のカオソーイと、タイ風のカオソーイとでは、かなり違った料理になっているらしい。
とまれ、我々日本人にとって、〈カオソーイ〉といえば、タイのチェンマイの料理として認知されているように思われる。
カレー・ガイドブックの店紹介ページには、「タイ家政大学でタイ料理を学んだシェフ」が研究を重ねた「自家製ペーストで作るタイカレー」、「チェンマイ名物のカレーヌードルカオソーイ」、「タイ現地と同じ製法、素材にこだわ」っているという〈カレーへの思い〉が記述されているので、この店のカオソーイは、間違いなくタイ風のカオソーイであろう。
タイ風のカオソーイの特徴とは、スープはココナッツミルクを加えたカレー・スープで、このスープに揚げた卵麺を入れ、ここに〈ナムプリックパオ〉と呼ばれている唐辛子や干しエビなどのペーストが添えられているそうだ。
つまり、東京カオソーイでは、このペースト、ナムプリックパオが自家製なのであろう。ちなみに、このペーストには「沖縄の生ハーブ」も使われているとも書かれていた。
何ゆえに沖縄、と思われるかもしれないが、実は、この店の正式名称は、「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」で、沖縄とタイの融合を東京で体現しているような店なのだ。
店のホームページを参照してみると、「タイと同じ種類の素材、調味料を同じ調理法で」「タイ、沖縄の新鮮素材」をもってして、「タイ✕沖縄」な料理を提供している、とも書かれていた。
はたして、九段下の路地裏にある店に到着してみると、そこに在ったのは、座席数わずか八席のコンパクトな店で、その佇まいは、那覇にいるような錯覚を書き手に抱かせた。
カオソーイは、タイでは屋台料理らしいので、タイの屋台のような雰囲気も、もしかしたら漂わせているのかもしれない。
運よく待たずに入店できた書き手は、もちろん、カオソーイを注文したのだが、タイ帰りの沖縄出身の店主から、カオソーイの提供には十五分ほど時間を要すると念を押された。
おそらく、会社員が昼休みの短い時間帯にさっと食べるつもりで訪れる場合には、十五分待ちというのは、けっこうな時間なので、待てるかどうかの確認が為されているのかもしれない。
もちろん、カオソーイ目的でわざわざ訪店した書き手が、十五分待ちできない分けがなかった。
やがて約十五分後に提供されたカオソーイは、カレー・スープに、軟らかな麺が入っていたのだが、ここに、大ぶりな骨付きの鶏肉が添えられ、さらにその上に、茹でる前のインスタントラーメンのような大きさの、固く揚げられた麺が載せられていた。
カレー・スープとその中の麺にたどり着くためには、その揚げ麺と大きな骨付き肉をまずは食せねばならない。
書き手が知っている、これまで日本で食べてきたカオソーイには、そのようなごっつい揚げ麺が載せられてはいなかったのだが、もしかしたら、それこそが、本格的なタイ風のカオソーイなのかもしれない。あるいは、沖縄風なのであろうか? もしかしたら、この店の独自のカオソーイなのでは?
そんな事を考えていると、店の中で流れていたラジオから、次のような話が耳に入ってきた。
そのラジオは、沖縄の放送局の番組だったのだが、番組のパーソナリティーによると、その日、十一月一日は、なんと〈琉球文化の日〉であるらしい。
琉球文化の日とは、「先人たちが創り上げてきた沖縄の歴史と文化への理解を深め、故郷への誇りや愛着を感じられる地域社会の形成に取り組むとともに、新たな歴史と文化を県民自らの手で創造していくことを決意するもの」で、令和三年三月三十一日に制定された、二〇二二年で二回目を迎えたばかりの、出来立てほやほやの記念日であるとの事であった。
「タイ✕沖縄」を謳っている東京の店に〈カオソーイ〉を食べに来た日が、まさに十一月一日、〈琉球文化の日〉であるという偶然に、何か因縁めいたものを感じてしまった書き手であった。
〈訪問データ〉
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東京カオソーイガイ:九一八円(QR)
〈参考資料〉
「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十六ページ。
〈WEB〉
『東京カオソーイ』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
「琉球歴史文化の日とは」、『沖縄県』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
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