カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第063匙 鳥のように九段下の宿り木で翼を休めて:wata軒(B12)

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 毎週火曜日の昼時に、ある仕事先から別の仕事先への移動のために、九段下駅にて東西線から半蔵門線に乗り換えねばならない書き手が、この日の昼、鳥のように九段下へと降下して、その翼を休めるために立ち寄った宿り木は、東京メトロ九段下駅の五番出口から約一分の細道にある〈wata軒〉であった。

 wata軒は、自身の店を「立ち飲みバル」と自称しているように、ディナー・タイムには、スペインやイタリア料理を中心に提供しているそうだ。そもそも、〈バ(ー)ル〉とは、イタリア語やスペイン語なので、この提供メニューは、なるほど納得である。だが同時に、メニューの中には、「おつまみちょこっとカレー」というカレー・メニューもあるそうだ。
 そして、このバルは昼営業もやっていて、この時間帯にもカレーを提供している、との事であった。バルなので、カレーは欧風カレーかと思いきや、なんと、ここの店が提供しているカレーは、レッドカレーとグリーンカレーの二種類であるらしい。ということは、この店のカレーはタイ・カレーという事になる。

 レッドカレーであれ、グリーンカレーであれ、その特徴とは、ココナッツミルクを加えている、という点だ。
 そして、この日、「今週のカレー」としてwata軒で提供されていたのは〈レッドカレー〉、「チキンレッドカレー」であった。
 察するに、カレー・メニューは、レッドとグリーンを週替わりで提供しているのであろう。そして、この日の具材は〈チキン〉だったのだが、週単位で具材が変わるかどうかまでは確認できていない。

 そういえば、そもそも、イタリアやスペインの〈バ(ー)ル〉とは、カウンターで立ち食い・立ち飲みをする、スタンディング・スタイルの飲食店で、アルコールのみならずコーヒーも提供している。
 〈バ(ー)ル〉は、これを英語読みすると〈バー〉で、特に外来語として日本語に入っているバーの場合、主として、カウンターで酒、特にカクテルが提供される店というイメージが強い。
 語源を同じくしながらも、国や地域によって、性質が異なっているのは興味深い点だ。

 外来語としては、長らくバーの方が日本では流通していたのだが、昨今では、日本各地で「~バル」と銘打っている店を見かけるようになった。
 このwata軒は、店名にバルという名称こそ使ってはいないものの、店の説明に「立ち飲みバル」という語を使っているのは、店のスタイルが、カウンター形式で、日本のバーのようにアルコールのみの提供ではなく、コーヒーや料理も出している事の表われなのだろう。
 事実、ランチ・タイムに、この店を訪れた書き手が口にしたのは、カレーと、食後のコーヒーであった。

 そういえば、バーのそもそもの意味とは〈横棒〉で、すなわち、バーに立ち寄る客のイメージとは、横棒、宿り木に降り立って、疲れた翼を休める鳥なのだ。
 
 だから、九段下のバールでチキンカレーを食べている自分が、まるで、仕事の移動の途中に、宿り木で翼を休める鳥のように、書き手には思えてしまったのである。
 あれ!? でも、今、自分はチキンレッドカレーを食べている分けだから、これって、いわゆる共……じゃん、とも書き手は思ってしまったのであった。

 ちなみに、「立ち飲み」バルの〈wata軒〉は、基本、立ち食い形式なのだが、椅子がない分けではなく、場合によっては、椅子に座る事も不可能ではない。
 事実、この日、書き手は椅子に座してカレーを食すことができたので、立ち食いがちょっと苦手な人も、店の状況次第で着座可能なのかもしれない。

〈訪問データ〉
 wata軒;九段下・九段下
 B12
 十月二十五日・月曜日・十三時
 チキンレッドカレー:九〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「wata軒」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、四十七ページ。
〈WEB〉
 『wata軒』、二〇二三年一月五日閲覧。
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