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一巡目(二〇二二)
第050匙 茶水のミルフぅ~ゆ:金沢ミルカツカレーおちゃのみず(B08)
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スタンプ・ラリー目的で、ここまで訪問してきたカレー提供店のデータを見てみると、銀の皿に先割れスプーン、山盛りのキャベツが特徴的な、いわゆる〈金沢カレー〉は、五食目の〈アパ社長カレー 飯田橋駅南店〉と、二十八食目の〈カレーの市民アルバ・秋葉原本店〉で食しているのだが、アルバを訪れたのが、記録によれば、九月一日なので、ということは、金沢カレーは、もう一か月も食べていない、という事になる。
この日の書き手は、急に金沢カレーを食べたくなってしまい、あまり下調べもせずに、メトロの丸ノ内線のお茶の水駅で下車して、JR御茶ノ水駅前の、ウナギの寝床のような飲食店が軒を連ねている、あの「茗渓通り」にある〈金沢ミルカツカレーおちゃのみず〉に向かったのであった。
通りに面した金沢ミルカツカレーの出入口は、黄色を背景色とした目立つ色だったので、すぐに見つける事ができた。その入り口には、メニュー・ポスターがあったのだが、この日は雨が降っていた事もあって、書き手は、そのメニュー一覧を見ないまま、幅のない入口を通った。しかし、扉のすぐ先には店はなく、店それ自体は、階段を下りた地下のスペースにあった。
この店、〈金沢ミルカツカレー〉は店名に〈ミルカツ〉というワードが入っているように、カツがミルフィーユになっている。
ちなみに、ミルフィーユとはフランス語で、本当は〈ミルフぅ~ゆ〉という発音なのだが、「フぅ~ゆ」というのが日本語にはない仏語独特の音なので、この語が日本に入ってきた時に、発音し易い〈フィーユ〉と、音が日本語風に変更になってしまった、不遇な外来語なのである。だから、書き手は「フぅ~ゆ」という発音に拘りたいのだが、とまれかくまれ、その意味は、というと、そもそも〈ミル〉が〈千〉、〈フぅ~ゆ〉が〈葉っぱ〉という意味なので、あのケーキは、千枚の葉っぱを並べたような多層を成していることから、〈ミルフぅ~ゆ〉という名称になっているのである。
だから、〈ミルカツ〉とは、カツが多層になっている分けなのだ。
店内の券売機には、トッピング無しのノーマルなカレー・ライス以外にも、「エビフライカレー」「唐揚げカレー」「ソーセージカレー」「ハンバーグカレー」「ゆで卵カレー」などのトッピング・カレーもあったのだが、〈金沢ミルカツカレー〉という名の店に来て、「ミルカツカレー」以外の選択肢はなく、書き手は、〈迷わず〉に「ミルカツカレー」を選んだのであった。
そして、購入した食券をスタッフに渡したところ、ソースはどうするのか訊かれてしまったのだ。
えっ、ソースって何?
この店に初来店の書き手は意味が分からず、問い返してしまった。
どうやら、このカレー店では、カレーソースを、「濃厚なデミグラスソースとビーフのブイヨンで深みのあるうまみと辛み!!」の〈金沢カレー〉か、「厳選したスパイスのブレンドと玉ねぎ。トマトなどの野菜の旨味がたっぷりの王道カレー!」である〈お茶の水カレー〉の何れかから選ぶ事になっていたのだ。
だが、下調べもせずに来店した書き手は、その事を知らずに、トッピングのミルカツだけを選んで満足してしまっていた。
すでに食券を渡しているので、金沢か、お茶の水かで迷っている時間はない。
書き手は、たしかに、この日、金沢カレーを食べにきた。
しかし、である。
ここは、石川ではなく、お茶の水だ。
ということは結論は……。
書き手は、数秒、否、数瞬の逡巡の末に、「お茶の水カレー」を選択したのであった。
やがて提供されたカツカレーは、皿の縁に銀の先割れスプーン、白い皿の上には白米とたっぷりのお茶の水カレー、そして、その上には、大きなミルカツが置かれていた。
「いただきますっ!」
小声でそう唱えて、手を合わせてから、書き手は、白い皿の上の〈お茶の水ミルカツカレー〉に手を付けた。
ちょ、ちょっと、待てよ。白い皿?
ふと、近くの客を見ると、その客の皿は、ステンレスの銀の皿であった。
そっか、そうゆう事か……。
どうやら、この店では、金沢カレーは銀の皿、お茶の水カレーは白い皿で提供しているらしい。
そう納得しつつ、視線を銀の皿から、自分の白い皿に戻す時に、店の壁に貼られていた一枚のポスターが目に入った。
な、なんですとおおおぉぉぉ~~~!!!
書き手は、心の中で絶叫していた。
なんと、「毎月11日はミルカツカレーの日で」、この日には「ミルカツカレー中盛1杯」(七八〇円)が五五〇円で提供されているらしい。
この日は十月十二日、という事は、昨日来ていれば、もっとお安くミルカツカレーが食べられたはずだったのにっ!
悔しいです。
カレーの選択もそうなのだが、知らないって、こうゆう事なのだ。
そう思いながら、書き手は左腕の上腕二頭筋を右手で何度も叩いたのであった。
〈訪問データ〉
金沢ミルカツカレーおちゃのみず:お茶の水・御茶ノ水
B08
十月十二日・水曜日・十九時
お茶の水ミルカツカレー:七八〇円(現金)
〈参考資料〉
「金沢ミルカツカレーおちゃのみず」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十六ページ。
〈WEB〉
『金沢ミルカツカレー』、二〇二二年十二月二十四日閲覧。
この日の書き手は、急に金沢カレーを食べたくなってしまい、あまり下調べもせずに、メトロの丸ノ内線のお茶の水駅で下車して、JR御茶ノ水駅前の、ウナギの寝床のような飲食店が軒を連ねている、あの「茗渓通り」にある〈金沢ミルカツカレーおちゃのみず〉に向かったのであった。
通りに面した金沢ミルカツカレーの出入口は、黄色を背景色とした目立つ色だったので、すぐに見つける事ができた。その入り口には、メニュー・ポスターがあったのだが、この日は雨が降っていた事もあって、書き手は、そのメニュー一覧を見ないまま、幅のない入口を通った。しかし、扉のすぐ先には店はなく、店それ自体は、階段を下りた地下のスペースにあった。
この店、〈金沢ミルカツカレー〉は店名に〈ミルカツ〉というワードが入っているように、カツがミルフィーユになっている。
ちなみに、ミルフィーユとはフランス語で、本当は〈ミルフぅ~ゆ〉という発音なのだが、「フぅ~ゆ」というのが日本語にはない仏語独特の音なので、この語が日本に入ってきた時に、発音し易い〈フィーユ〉と、音が日本語風に変更になってしまった、不遇な外来語なのである。だから、書き手は「フぅ~ゆ」という発音に拘りたいのだが、とまれかくまれ、その意味は、というと、そもそも〈ミル〉が〈千〉、〈フぅ~ゆ〉が〈葉っぱ〉という意味なので、あのケーキは、千枚の葉っぱを並べたような多層を成していることから、〈ミルフぅ~ゆ〉という名称になっているのである。
だから、〈ミルカツ〉とは、カツが多層になっている分けなのだ。
店内の券売機には、トッピング無しのノーマルなカレー・ライス以外にも、「エビフライカレー」「唐揚げカレー」「ソーセージカレー」「ハンバーグカレー」「ゆで卵カレー」などのトッピング・カレーもあったのだが、〈金沢ミルカツカレー〉という名の店に来て、「ミルカツカレー」以外の選択肢はなく、書き手は、〈迷わず〉に「ミルカツカレー」を選んだのであった。
そして、購入した食券をスタッフに渡したところ、ソースはどうするのか訊かれてしまったのだ。
えっ、ソースって何?
この店に初来店の書き手は意味が分からず、問い返してしまった。
どうやら、このカレー店では、カレーソースを、「濃厚なデミグラスソースとビーフのブイヨンで深みのあるうまみと辛み!!」の〈金沢カレー〉か、「厳選したスパイスのブレンドと玉ねぎ。トマトなどの野菜の旨味がたっぷりの王道カレー!」である〈お茶の水カレー〉の何れかから選ぶ事になっていたのだ。
だが、下調べもせずに来店した書き手は、その事を知らずに、トッピングのミルカツだけを選んで満足してしまっていた。
すでに食券を渡しているので、金沢か、お茶の水かで迷っている時間はない。
書き手は、たしかに、この日、金沢カレーを食べにきた。
しかし、である。
ここは、石川ではなく、お茶の水だ。
ということは結論は……。
書き手は、数秒、否、数瞬の逡巡の末に、「お茶の水カレー」を選択したのであった。
やがて提供されたカツカレーは、皿の縁に銀の先割れスプーン、白い皿の上には白米とたっぷりのお茶の水カレー、そして、その上には、大きなミルカツが置かれていた。
「いただきますっ!」
小声でそう唱えて、手を合わせてから、書き手は、白い皿の上の〈お茶の水ミルカツカレー〉に手を付けた。
ちょ、ちょっと、待てよ。白い皿?
ふと、近くの客を見ると、その客の皿は、ステンレスの銀の皿であった。
そっか、そうゆう事か……。
どうやら、この店では、金沢カレーは銀の皿、お茶の水カレーは白い皿で提供しているらしい。
そう納得しつつ、視線を銀の皿から、自分の白い皿に戻す時に、店の壁に貼られていた一枚のポスターが目に入った。
な、なんですとおおおぉぉぉ~~~!!!
書き手は、心の中で絶叫していた。
なんと、「毎月11日はミルカツカレーの日で」、この日には「ミルカツカレー中盛1杯」(七八〇円)が五五〇円で提供されているらしい。
この日は十月十二日、という事は、昨日来ていれば、もっとお安くミルカツカレーが食べられたはずだったのにっ!
悔しいです。
カレーの選択もそうなのだが、知らないって、こうゆう事なのだ。
そう思いながら、書き手は左腕の上腕二頭筋を右手で何度も叩いたのであった。
〈訪問データ〉
金沢ミルカツカレーおちゃのみず:お茶の水・御茶ノ水
B08
十月十二日・水曜日・十九時
お茶の水ミルカツカレー:七八〇円(現金)
〈参考資料〉
「金沢ミルカツカレーおちゃのみず」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十六ページ。
〈WEB〉
『金沢ミルカツカレー』、二〇二二年十二月二十四日閲覧。
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