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一巡目(二〇二二)
第048匙 大きな玉ねぎの下での増量焼肉カレー:日乃屋・九段下(B06)
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東西線の九段下駅を降りた書き手は、「九段下の駅をおりて」と呟いていた。
「九段下の駅をおりて~」というのは、八十年代に大ヒットした、〈爆風スランプ〉の曲、「大きな玉ねぎの下で」のサビに出てくるフレーズだ。
八十年代・九十年代に青春期を過ごした者で、この歌を知らない者はほとんどいないのではなかろうか。実は、書き手は、上京後、生まれて初めて武道館に行った時には、思わず、「九段下の駅をおりて坂道を」という、このサビの一節を口ずさんでしまったのだった。
しかし、この曲の文脈とは違い、書き手は、靖国通りの坂道を上って、屋根の上の大きな玉ねぎのようなオブジェが象徴的な日本武道館に向かったのではなく、目白通りを右折したのだった。
秋の火曜日の書き手は、出先に向かうために、九段下駅で東西線から半蔵門線に乗り換えるのだが、九段下周辺で三十分程度の時間を取ることしかできない。
そのため、火曜・昼におけるカレー店巡りは、移動に時間を使わずに済む、九段下の駅周辺か、神保町の九段下寄りのエリア重視という空間戦略を採る事になる。
書き手は、九段下の五番出口から近い店から攻略してゆこう、と考えた次第なのである。
武道館に向かって靖国通りと交差している大きな通り、目白通りを右折し、しばし歩いた所にあるのが、〈日乃屋・九段下店〉なのだ。
今回のスタンプ・ラリーには、日乃屋は、神田店、神田西口店、御茶ノ水店、そして九段下店と四店舗が参加しているのだが、書き手が、スタンプ・ラリー目的で日乃屋を訪れたのは、この九段下店で二店目であった。
たしかに、日乃屋は、カレー・チェーン店でありながら、店舗による違いが認められるそうなのだが、しかし、この日の書き手は、どノーマルな「日乃屋カレー」を注文して、とにかくスタンプをゲットし、〈カレー&アウェイ〉を決めるつもりで、九段下の駅で下車したのだった。
だがしかし、である。
目白通りを曲がって店の前まで来た時、店の入り口の右脇の壁に、緑バックのパネル上にオーソドックスな十六種類のメニュー一覧が並べ置かれていた、その一方で、書き手は、入り口の透明なドアに、「多量! 150g 牛焼肉カレー 数量限定 990円」というポスターが貼られていたのを見止めてしまったのだ。
この肉の増量と数量限定の煽り文句を見た瞬間、もはや、書き手にはこの限定カレー以外の選択肢は無くなってしまい、牛焼肉カレーをライス大盛りで注文する決意を固めた。
この限定カレーは、緑バックのパネル上ではなく、貼り紙になっていた事が示唆しているように、券売機にはメニューが無く、店員に口頭で注文し直接支払う手筈になっており、ここにも、〈限定〉的な特別感が感じられた。
注文した牛焼肉カレーの提供を待っている間、例の如く、書き手は、店内で目に付いた様々な掲示物を読んでいたのだが、その中で特に気になったのが、閉店時刻に関する事柄であった。
ガイドブックにも、店の入り口にも、月から金の平日は、ラスト・オーダーが二十一時である事が明記されている。これは、その他多くの日乃屋のラスト・オーダーの時刻と同じである。
しかし、だ。
店内の掲示物には、「営業時間延長」の貼り紙があり、そこには、「通常日のラストオーダーを21:30に延長します(平日)」と書かれていたのだ。
三十分の時間延長、これは、営業時間を長くし売上を増やす事によって、昨今の原料値上げに起因する料金値上げに対抗せんとする方策なのだが、とまれ、三十分の時間延長を可能にしているのは、九段下という立地であるように、書き手には思われた。
事実、二十一時半ラスト・オーダーという文言の下に、こう付け加えられていた。
「日本武道館イベント時は終演後一時間後ぐらいがラストオーダー」
武道館では、毎日のように何らかのライヴが催されている。
平日だと、開演時刻が十八時半か十九時の場合が多く、ライヴ自体は一時間半から二時間、つまり、終演時刻は二十時半から二十一時となる。
そして、武道館から店までは、徒歩で十分もかからない。
つまり、二十一時半ラスト・オーダーというのは、武道館のライヴ帰りの客を見込んでの時刻設定なのであろう。
日乃屋・九段下店には、このような点にも、立地を活かした独自性が認められるのは、実に興味深い。
今度、平日に武道館のライヴにソロで参加する事があったら、ライヴ帰りに、日乃屋・九段下店に立ち寄るのも一興だな、と思った書き手であった。
〈訪問データ〉
日乃屋・九段下:九段下・九段下
B13
十月十一日・火曜日・十三時
牛焼き肉カレー(150g):九九〇円(現金)
〈参考資料〉
「日乃屋・九段下」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十九ページ。
〈楽曲〉
爆風スランプ「大きな玉ねぎの下で」、作詞:サンプラザ中野;作曲:嶋田陽一;編曲:久米大作、セカンド・アルバム『しあわせ』収録、一九八五年十一月一日リリース(「大きな玉ねぎの下で ~はるかなる想い」 としてシングルカットされ、一九八九年十月二十一日発売 )、CBS/SONY。
「九段下の駅をおりて~」というのは、八十年代に大ヒットした、〈爆風スランプ〉の曲、「大きな玉ねぎの下で」のサビに出てくるフレーズだ。
八十年代・九十年代に青春期を過ごした者で、この歌を知らない者はほとんどいないのではなかろうか。実は、書き手は、上京後、生まれて初めて武道館に行った時には、思わず、「九段下の駅をおりて坂道を」という、このサビの一節を口ずさんでしまったのだった。
しかし、この曲の文脈とは違い、書き手は、靖国通りの坂道を上って、屋根の上の大きな玉ねぎのようなオブジェが象徴的な日本武道館に向かったのではなく、目白通りを右折したのだった。
秋の火曜日の書き手は、出先に向かうために、九段下駅で東西線から半蔵門線に乗り換えるのだが、九段下周辺で三十分程度の時間を取ることしかできない。
そのため、火曜・昼におけるカレー店巡りは、移動に時間を使わずに済む、九段下の駅周辺か、神保町の九段下寄りのエリア重視という空間戦略を採る事になる。
書き手は、九段下の五番出口から近い店から攻略してゆこう、と考えた次第なのである。
武道館に向かって靖国通りと交差している大きな通り、目白通りを右折し、しばし歩いた所にあるのが、〈日乃屋・九段下店〉なのだ。
今回のスタンプ・ラリーには、日乃屋は、神田店、神田西口店、御茶ノ水店、そして九段下店と四店舗が参加しているのだが、書き手が、スタンプ・ラリー目的で日乃屋を訪れたのは、この九段下店で二店目であった。
たしかに、日乃屋は、カレー・チェーン店でありながら、店舗による違いが認められるそうなのだが、しかし、この日の書き手は、どノーマルな「日乃屋カレー」を注文して、とにかくスタンプをゲットし、〈カレー&アウェイ〉を決めるつもりで、九段下の駅で下車したのだった。
だがしかし、である。
目白通りを曲がって店の前まで来た時、店の入り口の右脇の壁に、緑バックのパネル上にオーソドックスな十六種類のメニュー一覧が並べ置かれていた、その一方で、書き手は、入り口の透明なドアに、「多量! 150g 牛焼肉カレー 数量限定 990円」というポスターが貼られていたのを見止めてしまったのだ。
この肉の増量と数量限定の煽り文句を見た瞬間、もはや、書き手にはこの限定カレー以外の選択肢は無くなってしまい、牛焼肉カレーをライス大盛りで注文する決意を固めた。
この限定カレーは、緑バックのパネル上ではなく、貼り紙になっていた事が示唆しているように、券売機にはメニューが無く、店員に口頭で注文し直接支払う手筈になっており、ここにも、〈限定〉的な特別感が感じられた。
注文した牛焼肉カレーの提供を待っている間、例の如く、書き手は、店内で目に付いた様々な掲示物を読んでいたのだが、その中で特に気になったのが、閉店時刻に関する事柄であった。
ガイドブックにも、店の入り口にも、月から金の平日は、ラスト・オーダーが二十一時である事が明記されている。これは、その他多くの日乃屋のラスト・オーダーの時刻と同じである。
しかし、だ。
店内の掲示物には、「営業時間延長」の貼り紙があり、そこには、「通常日のラストオーダーを21:30に延長します(平日)」と書かれていたのだ。
三十分の時間延長、これは、営業時間を長くし売上を増やす事によって、昨今の原料値上げに起因する料金値上げに対抗せんとする方策なのだが、とまれ、三十分の時間延長を可能にしているのは、九段下という立地であるように、書き手には思われた。
事実、二十一時半ラスト・オーダーという文言の下に、こう付け加えられていた。
「日本武道館イベント時は終演後一時間後ぐらいがラストオーダー」
武道館では、毎日のように何らかのライヴが催されている。
平日だと、開演時刻が十八時半か十九時の場合が多く、ライヴ自体は一時間半から二時間、つまり、終演時刻は二十時半から二十一時となる。
そして、武道館から店までは、徒歩で十分もかからない。
つまり、二十一時半ラスト・オーダーというのは、武道館のライヴ帰りの客を見込んでの時刻設定なのであろう。
日乃屋・九段下店には、このような点にも、立地を活かした独自性が認められるのは、実に興味深い。
今度、平日に武道館のライヴにソロで参加する事があったら、ライヴ帰りに、日乃屋・九段下店に立ち寄るのも一興だな、と思った書き手であった。
〈訪問データ〉
日乃屋・九段下:九段下・九段下
B13
十月十一日・火曜日・十三時
牛焼き肉カレー(150g):九九〇円(現金)
〈参考資料〉
「日乃屋・九段下」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十九ページ。
〈楽曲〉
爆風スランプ「大きな玉ねぎの下で」、作詞:サンプラザ中野;作曲:嶋田陽一;編曲:久米大作、セカンド・アルバム『しあわせ』収録、一九八五年十一月一日リリース(「大きな玉ねぎの下で ~はるかなる想い」 としてシングルカットされ、一九八九年十月二十一日発売 )、CBS/SONY。
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