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一巡目(二〇二二)
第047匙 エリア小川町のアーユル・ヴェーダの野菜ダルバート:Gravy(D13)
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十月から十二月の、秋の金曜日の書き手は、移動の関係上、三十分程度しか昼食に時間を取る事ができない。そのため、金曜日のスタンプ・ラリーの基本戦略は空間面重視となる。
かくして、十月最初の金曜日に書き手が選んだのは、カレー提供店が密集している〈小川町エリア〉であった。
この区域は、メトロの神保町駅〈A9〉からは徒歩五分、淡路町駅〈B7〉からは徒歩四分と、東西線・半蔵門線で神保町界隈に赴き、そこから、丸ノ内線で池袋方面に向かう金曜日の書き手には打ってつけのエリアであった。
だが、この日の書き手は、小川町のカレー・エリアに行く事しか決めてはおらず、入るべき店に関しては何も考えてはいなかったのだが、雨の中、路地を抜けた書き手の視界に、例のリラックマののぼりが入ってきた。
のぼりを置いている店の前でメニュー・パネルを眺めていたところ、書き手に気付いたスタッフに店に招き入れられ、結果として、この日は、ネパール・レストラン〈Gravy(グレビー)〉に入る事になったのだった。
グレビーは、その店名が直接的に表わしているように、グレイビー・ソース、あるいは、グレイビー・ポットが名の由来であるようだ。
書き手が着座した机に置かれていた説明書きには、次のような事が書かれていた。
「丁寧に作られたカレーソースをグレイビーソースといいます!」
そして、アラジンの魔法のランプに似た、あのグレイビー・ポットの絵の下に、こう文が続けられていた。
「Gravyのカレーはたっぷりの玉ねぎとトマトを使用した、身体のことを一番に考えた薬膳カレーです。お豆と野菜だけなのにコクとうまみがたっぷり豊か!
その秘密はこだわりのスパイスにあります。
アーユルヴェーダの知識豊富なシェフがその日の天候に合わせて配合。
冷えを改善したり、お腹の調子をととのえたり
食欲を助けてくれたり…!(……)」
なるほど、この店のカレーは、基本、身体によい薬膳カレーなのか……。
さらに、天候に合わせてスパイスの配合を変えているなんて、これって、〈大勝軒〉の麺における小麦の配合に似ているな、と書き手は感心したのであった。
この日は雨が強く降っていた。ということは、雨の日向けのスパイスの調合が為されているのかもしれない。
んっ!?
ところで、説明文にあった〈アーユルヴェーダ〉って一体なんなんだ?
〈リグヴェーダ〉なら、高校の世界史に出てきた記憶があるけれど……。
そこで、書き手は、〈アーユルヴェーダ〉について調べてみる事にした。
そもそも、〈リグヴェーダ〉の〈ヴェーダ〉もそうなのだが、〈ヴェーダ〉とは、サンスクリット語で〈知識〉や〈学〉を意味するのだそうだ。つまるところ、英語における〈~ロジー〉みたいな語なのであろう。
そして、〈アーユル〉とは、サンスクリット語の〈アーユス〉、〈生命〉や〈寿命〉という語が元になっているらしい。
要するに、〈アーユス〉と〈ヴェーダ〉の複合語が〈アーユル・ヴェーダ〉で、これを直訳してみると、アーユル・ヴェーダとは、〈ライフ・サイエンス〉や〈生命学〉に相当する事になるだろう。
ちなみに、アーユル・ヴェーダは、なんと、紀元前五・六世紀には体系化されたインド大陸の伝統的な医学・哲学なのだそうだ。
ざっくりとした理解なのだが、〈アーユル・ヴェーダ〉は、病気を治す、というよりも、病気になりにくい身体をつくる、という、病気の予防のための健康の維持に重きを置いているそうで、そのために、食によってバランスの良い身体を作り・保つ、という考えであるらしい。
まさしく薬膳で、そのために、健康によいスパイス配合をしているのであろう。
この店、グレビーでは、ビリヤニやバトウラなどのインド料理もメニューにあったのだが、ここは、ネパール料理店なので、書き手は、ネパールの家庭料理である〈ダルバート〉、ダル(豆の汁)とバート(米飯)のプレートを注文する事にし、それから、どんなダルバートにしようか悩みながらメニューを眺めていると、「ベジタブルダルバート」というランチ・メニューが、書き手の目に止まった。
グレビーは、アーユル・ヴェーダに基づく、スパイスによる薬膳料理を売りにしている分けだから、注文品は「ベジタブル」のダルバートにし、スパイスと野菜で健康食の二重掛けをし、食でこの日の身体を整えよう、と書き手は考えたのであった。
やがて提供された銀の大きなプレートには、豆と野菜の二種類のカレーが入った小鉢と、それに加え、付け合わせとして様々な種類の野菜が皿を覆うように置かれていた。
??? あっ、そういう事かっ!
注文時の書き手は、数多の野菜カレーの小鉢が並べ置かれたミールス(定食)、つまり、ダルバートの豪華版を想起していたのだが、「ベジタブルダルバート」とは、ダルバートに、タルカリ(おかず)として各種野菜が山盛りのプレートの事だったのである。
〈訪問データ〉
Gravy(グレビー):淡路町・小川町
D13
十月七日・金曜日・十二時
ベジタブルダルバート:一四〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「Gravy」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十ページ。
かくして、十月最初の金曜日に書き手が選んだのは、カレー提供店が密集している〈小川町エリア〉であった。
この区域は、メトロの神保町駅〈A9〉からは徒歩五分、淡路町駅〈B7〉からは徒歩四分と、東西線・半蔵門線で神保町界隈に赴き、そこから、丸ノ内線で池袋方面に向かう金曜日の書き手には打ってつけのエリアであった。
だが、この日の書き手は、小川町のカレー・エリアに行く事しか決めてはおらず、入るべき店に関しては何も考えてはいなかったのだが、雨の中、路地を抜けた書き手の視界に、例のリラックマののぼりが入ってきた。
のぼりを置いている店の前でメニュー・パネルを眺めていたところ、書き手に気付いたスタッフに店に招き入れられ、結果として、この日は、ネパール・レストラン〈Gravy(グレビー)〉に入る事になったのだった。
グレビーは、その店名が直接的に表わしているように、グレイビー・ソース、あるいは、グレイビー・ポットが名の由来であるようだ。
書き手が着座した机に置かれていた説明書きには、次のような事が書かれていた。
「丁寧に作られたカレーソースをグレイビーソースといいます!」
そして、アラジンの魔法のランプに似た、あのグレイビー・ポットの絵の下に、こう文が続けられていた。
「Gravyのカレーはたっぷりの玉ねぎとトマトを使用した、身体のことを一番に考えた薬膳カレーです。お豆と野菜だけなのにコクとうまみがたっぷり豊か!
その秘密はこだわりのスパイスにあります。
アーユルヴェーダの知識豊富なシェフがその日の天候に合わせて配合。
冷えを改善したり、お腹の調子をととのえたり
食欲を助けてくれたり…!(……)」
なるほど、この店のカレーは、基本、身体によい薬膳カレーなのか……。
さらに、天候に合わせてスパイスの配合を変えているなんて、これって、〈大勝軒〉の麺における小麦の配合に似ているな、と書き手は感心したのであった。
この日は雨が強く降っていた。ということは、雨の日向けのスパイスの調合が為されているのかもしれない。
んっ!?
ところで、説明文にあった〈アーユルヴェーダ〉って一体なんなんだ?
〈リグヴェーダ〉なら、高校の世界史に出てきた記憶があるけれど……。
そこで、書き手は、〈アーユルヴェーダ〉について調べてみる事にした。
そもそも、〈リグヴェーダ〉の〈ヴェーダ〉もそうなのだが、〈ヴェーダ〉とは、サンスクリット語で〈知識〉や〈学〉を意味するのだそうだ。つまるところ、英語における〈~ロジー〉みたいな語なのであろう。
そして、〈アーユル〉とは、サンスクリット語の〈アーユス〉、〈生命〉や〈寿命〉という語が元になっているらしい。
要するに、〈アーユス〉と〈ヴェーダ〉の複合語が〈アーユル・ヴェーダ〉で、これを直訳してみると、アーユル・ヴェーダとは、〈ライフ・サイエンス〉や〈生命学〉に相当する事になるだろう。
ちなみに、アーユル・ヴェーダは、なんと、紀元前五・六世紀には体系化されたインド大陸の伝統的な医学・哲学なのだそうだ。
ざっくりとした理解なのだが、〈アーユル・ヴェーダ〉は、病気を治す、というよりも、病気になりにくい身体をつくる、という、病気の予防のための健康の維持に重きを置いているそうで、そのために、食によってバランスの良い身体を作り・保つ、という考えであるらしい。
まさしく薬膳で、そのために、健康によいスパイス配合をしているのであろう。
この店、グレビーでは、ビリヤニやバトウラなどのインド料理もメニューにあったのだが、ここは、ネパール料理店なので、書き手は、ネパールの家庭料理である〈ダルバート〉、ダル(豆の汁)とバート(米飯)のプレートを注文する事にし、それから、どんなダルバートにしようか悩みながらメニューを眺めていると、「ベジタブルダルバート」というランチ・メニューが、書き手の目に止まった。
グレビーは、アーユル・ヴェーダに基づく、スパイスによる薬膳料理を売りにしている分けだから、注文品は「ベジタブル」のダルバートにし、スパイスと野菜で健康食の二重掛けをし、食でこの日の身体を整えよう、と書き手は考えたのであった。
やがて提供された銀の大きなプレートには、豆と野菜の二種類のカレーが入った小鉢と、それに加え、付け合わせとして様々な種類の野菜が皿を覆うように置かれていた。
??? あっ、そういう事かっ!
注文時の書き手は、数多の野菜カレーの小鉢が並べ置かれたミールス(定食)、つまり、ダルバートの豪華版を想起していたのだが、「ベジタブルダルバート」とは、ダルバートに、タルカリ(おかず)として各種野菜が山盛りのプレートの事だったのである。
〈訪問データ〉
Gravy(グレビー):淡路町・小川町
D13
十月七日・金曜日・十二時
ベジタブルダルバート:一四〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「Gravy」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十ページ。
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