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一巡目(二〇二二)
第046匙 三日月の壺の中の水の無いカレー:BAR CAFE 三月の水(E03)
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十月初旬の木曜日の十四時半過ぎ、雨が降りしきる中、目当ての店のカレーが枯れていたため、書き手は、神保町界隈を右往左往していた。
提供するカレーが無くなった結果、閉店予定時刻以前に店じまいするケースがある。
そして、昼にランチ営業を行っている店のラスト・オーダーや営業終了時刻が、十四時半の場合が割と多く、そのため、書き手は入るべきカレー店を探していたのだ。
予定が狂ってしまった書き手が、計画していたスタンプ・ラリー巡りのスケジュールを崩してでも、どこかの店に入る事を望んだのも致し方なかろう。
神保町界隈において、カレー店が特に密集しているのは、靖国通りからみると、逆Ⅴ字の〈△〉になっている、こう言ってよければ、〈神保町デルタ・ゾーン〉である。
雨が降っているので、片手で傘を差しながら、スマフォで検索したり、紙のガイドブックを開くのは面倒だったので、歩けばカレー店に出くわす、このゾーンに赴く事にしたのだ。
神保町デルタならば、昼営業終了前の店に出会えるにちがいない、そんな期待感を抱きながら書き手は、靖国通りから、逆V字の左辺を上り出した次第なのである。
「神田カレーグランプリ」参加店の店の前には、リラックマののぼりが立っているので、カレー店は本当に見つけ易い。
そして、坂道を上り出してすぐに、書き手は、道の左側の雑居ビルの入り口に、件のノボリを見止めたのである。
店は、そのビルの三階にあるので、書き手は、ビルの入り口で傘の水を切ってから、建物に足を踏み入れた。
その店こそが「BAR CAFE 三月の水」で、このバーは昼の時間帯にも営業しているのだ。
実は、三月の水は、昼営業のラスト・オーダーが十四時半、閉店が十五時なので、十四時半過ぎであるその時点で、営業が終わっている可能性もあったのだが、〈3〉〈月〉〈壺〉という店名を表わした図が描かれている扉を抜けて、入店の可否を問うたところ、まだ入れるとの返答を得て、書き手は胸を撫でおろした。
店のメニューには、様々な料理があったのだが、その中でもカレー系は、「豚肉と牛肉のたっぷり野菜キーマカレー」「無水ベトナムチキンココナッツカレー」「無水ベトナムチキンココナッツカレーヌードル」「サグカレー(野菜カレー)」「無水ココナッツシーフードクリーミー卵カレー」、そして「無水ココナッツ豚バラ角煮カレー」であった。
このラインナップから察するに、この店のカレーの特徴は、ベトナムのココナッツカレーがベースになっているという点と、〈無水〉という点であるようだ。
〈無水〉とは、無水調理のことで、この調理法は、途中で水分を加えずに、食材の水分だけで仕上げる方法である。
普通の水を加える煮込みをすると、加熱によって、食材に含まれている水分が水蒸気となって出て行ってしまうのだが、これに対して、無水調理だと、水を加えないので、食材の水分を逃がさずに済むらしい。
ちなみに、無水調理のメリットとは、まず第一に、煮込むことによって水蒸気となって損なわれてしまうビタミンやミネラルといった栄養素が失われない点にある。
また、無水調理では、素材自体に水分をたっぷり含んでいる野菜を、水代わりに使うので、料理で野菜をふんだんに採れる点も栄養面におけるメリットである。
そして、それより何より、食材それ自体の水分を使って調理するので、その旨味を逃さずに済むのが最大のメリットである。
ちなみに、この店のメニューに「無水ココナッツ」と書かれているのは、水分をココナッツから取っているからなのかどうか、その点は定かではない。
とまれ、栄養面でも味の面でもメリットのある、無水調理の濃厚なカレーが、美味くないはずはなかろう。
そして、この〈三月の水〉の〈無水ココナッツカレー〉のラインナップの中から、書き手が選んだのは、メニューの一番下に載っていた「無水ココナッツ豚バラ角煮カレー」であった。
メニューの説明書きによると、このカレーは、具材として、豚バラ肉角煮、つまり、「ルーローハンで使うほろほろの豚肉」を使っているらしく、それだけでも垂涎ものなのだが、このメニューの煽り文句として、「漫画『カレーマン』連載記念メニュー」と書かれていた点に、書き手は非常に興味を引かれた。
神保町にほど近い竹橋に、出版社・小学館があり、そこから、毎月、五日と二〇日の月二回発売されている漫画雑誌が『ビッグコミックオリジナル』である。
その『ビックコミックオリジナル』の二〇二二年七月二〇日発売の「第十五号」において、神保町を物語の舞台としたカレー漫画、『カレーマン』の連載が開始された。そして、その第一話に、十月の初めに書き手が訪れた、まさにこの「BAR CAFE 三月の水」が登場しているそうなのだ。
恥ずかしながら、現時点で、書き手は未だ『カレーマン』は未読である。
第十五号の発売は、書き手の来店の時点ですら、その約二か月半前なので、本屋にはもはや置いてはおらず、もし、第一話を読みたいと欲するのならば、何らかの方法で探すか、『ビックコミックオリジナル』のバックナンバーが揃っている漫画喫茶に赴かねばならない。
それならば、単行本を買えばよいではないか、という意見もありそうなのだが、この論考を書いている十二月二十日の時点で、未だ単行本は発売されてはいない。
しかし、だ。
実は、二〇二二年の十二月二十八日(このエッセイの初稿アップの約一週間後)に、ついに、『カレーマン』の第一巻が発売される。
『カレーマン』を未読の書き手は、年末に『カレーマン』を読む事で、「無水ココナッツカレー」の調理法を知れれば、と考えている。
また、来店から時間が経つと、舌の記憶が薄れてしまうのは、〈時は無慈悲な忘却の女王〉である以上、不可避な事態なのだが、近い未来、『カレーマン』の第一話を読みながら、三月の水の無水ココナッツカレーの味を思い出せれば、と望んでいる書き手であった。
〈訪問データ〉
BAR CAFE 三月の水:神保町・お茶の水
E03
十月六日・木曜日・十四時四十五分
無水ココナッツ豚バラ角煮カレー:一三〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「BAR CAFE 三月の水」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十六ページ。
〈参考資料〉
「カレーマン」、「2022年12月のコミックス発売リスト」、『ビックコミックBROS.NET』、二〇二二年十二月二十日閲覧。
提供するカレーが無くなった結果、閉店予定時刻以前に店じまいするケースがある。
そして、昼にランチ営業を行っている店のラスト・オーダーや営業終了時刻が、十四時半の場合が割と多く、そのため、書き手は入るべきカレー店を探していたのだ。
予定が狂ってしまった書き手が、計画していたスタンプ・ラリー巡りのスケジュールを崩してでも、どこかの店に入る事を望んだのも致し方なかろう。
神保町界隈において、カレー店が特に密集しているのは、靖国通りからみると、逆Ⅴ字の〈△〉になっている、こう言ってよければ、〈神保町デルタ・ゾーン〉である。
雨が降っているので、片手で傘を差しながら、スマフォで検索したり、紙のガイドブックを開くのは面倒だったので、歩けばカレー店に出くわす、このゾーンに赴く事にしたのだ。
神保町デルタならば、昼営業終了前の店に出会えるにちがいない、そんな期待感を抱きながら書き手は、靖国通りから、逆V字の左辺を上り出した次第なのである。
「神田カレーグランプリ」参加店の店の前には、リラックマののぼりが立っているので、カレー店は本当に見つけ易い。
そして、坂道を上り出してすぐに、書き手は、道の左側の雑居ビルの入り口に、件のノボリを見止めたのである。
店は、そのビルの三階にあるので、書き手は、ビルの入り口で傘の水を切ってから、建物に足を踏み入れた。
その店こそが「BAR CAFE 三月の水」で、このバーは昼の時間帯にも営業しているのだ。
実は、三月の水は、昼営業のラスト・オーダーが十四時半、閉店が十五時なので、十四時半過ぎであるその時点で、営業が終わっている可能性もあったのだが、〈3〉〈月〉〈壺〉という店名を表わした図が描かれている扉を抜けて、入店の可否を問うたところ、まだ入れるとの返答を得て、書き手は胸を撫でおろした。
店のメニューには、様々な料理があったのだが、その中でもカレー系は、「豚肉と牛肉のたっぷり野菜キーマカレー」「無水ベトナムチキンココナッツカレー」「無水ベトナムチキンココナッツカレーヌードル」「サグカレー(野菜カレー)」「無水ココナッツシーフードクリーミー卵カレー」、そして「無水ココナッツ豚バラ角煮カレー」であった。
このラインナップから察するに、この店のカレーの特徴は、ベトナムのココナッツカレーがベースになっているという点と、〈無水〉という点であるようだ。
〈無水〉とは、無水調理のことで、この調理法は、途中で水分を加えずに、食材の水分だけで仕上げる方法である。
普通の水を加える煮込みをすると、加熱によって、食材に含まれている水分が水蒸気となって出て行ってしまうのだが、これに対して、無水調理だと、水を加えないので、食材の水分を逃がさずに済むらしい。
ちなみに、無水調理のメリットとは、まず第一に、煮込むことによって水蒸気となって損なわれてしまうビタミンやミネラルといった栄養素が失われない点にある。
また、無水調理では、素材自体に水分をたっぷり含んでいる野菜を、水代わりに使うので、料理で野菜をふんだんに採れる点も栄養面におけるメリットである。
そして、それより何より、食材それ自体の水分を使って調理するので、その旨味を逃さずに済むのが最大のメリットである。
ちなみに、この店のメニューに「無水ココナッツ」と書かれているのは、水分をココナッツから取っているからなのかどうか、その点は定かではない。
とまれ、栄養面でも味の面でもメリットのある、無水調理の濃厚なカレーが、美味くないはずはなかろう。
そして、この〈三月の水〉の〈無水ココナッツカレー〉のラインナップの中から、書き手が選んだのは、メニューの一番下に載っていた「無水ココナッツ豚バラ角煮カレー」であった。
メニューの説明書きによると、このカレーは、具材として、豚バラ肉角煮、つまり、「ルーローハンで使うほろほろの豚肉」を使っているらしく、それだけでも垂涎ものなのだが、このメニューの煽り文句として、「漫画『カレーマン』連載記念メニュー」と書かれていた点に、書き手は非常に興味を引かれた。
神保町にほど近い竹橋に、出版社・小学館があり、そこから、毎月、五日と二〇日の月二回発売されている漫画雑誌が『ビッグコミックオリジナル』である。
その『ビックコミックオリジナル』の二〇二二年七月二〇日発売の「第十五号」において、神保町を物語の舞台としたカレー漫画、『カレーマン』の連載が開始された。そして、その第一話に、十月の初めに書き手が訪れた、まさにこの「BAR CAFE 三月の水」が登場しているそうなのだ。
恥ずかしながら、現時点で、書き手は未だ『カレーマン』は未読である。
第十五号の発売は、書き手の来店の時点ですら、その約二か月半前なので、本屋にはもはや置いてはおらず、もし、第一話を読みたいと欲するのならば、何らかの方法で探すか、『ビックコミックオリジナル』のバックナンバーが揃っている漫画喫茶に赴かねばならない。
それならば、単行本を買えばよいではないか、という意見もありそうなのだが、この論考を書いている十二月二十日の時点で、未だ単行本は発売されてはいない。
しかし、だ。
実は、二〇二二年の十二月二十八日(このエッセイの初稿アップの約一週間後)に、ついに、『カレーマン』の第一巻が発売される。
『カレーマン』を未読の書き手は、年末に『カレーマン』を読む事で、「無水ココナッツカレー」の調理法を知れれば、と考えている。
また、来店から時間が経つと、舌の記憶が薄れてしまうのは、〈時は無慈悲な忘却の女王〉である以上、不可避な事態なのだが、近い未来、『カレーマン』の第一話を読みながら、三月の水の無水ココナッツカレーの味を思い出せれば、と望んでいる書き手であった。
〈訪問データ〉
BAR CAFE 三月の水:神保町・お茶の水
E03
十月六日・木曜日・十四時四十五分
無水ココナッツ豚バラ角煮カレー:一三〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「BAR CAFE 三月の水」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十六ページ。
〈参考資料〉
「カレーマン」、「2022年12月のコミックス発売リスト」、『ビックコミックBROS.NET』、二〇二二年十二月二十日閲覧。
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