カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第043匙 二階へと歩く道:スパイスカレー アルクロード(B04)

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 火曜日の昼、書き手は、九段下方面の飯田橋駅の南に向かった。
 この界隈には、北インド・カレー店があり、それは、一階に上等カレー・飯田橋店が入っている雑居ビルの二階に位置している。
 だがしかし、店の前まで来て、書き手は戸惑ってしまった。
 二階へと続く外階段が見当たらなかったからだ。
 いったい、どのようにすれば、この建物の二階に行けるのであろうか?
 もしかしたら、大きな通りである目白通りに面した表ではなく、某有名カレー店のように、細い路地に面した建物の裏に、階段やエレベーターがあるのだろうか、とも考えたのだが、上等カレーの入り口を見てみると、正面の扉の左のシースルーの方には〈上等カレー〉の文字が、一方、右には、緑色と黄色バックに白字で、その北インド・カレー・ショップの店名〈アルクロード〉が書かれていたのである。

 つまり、だ。
 雑居ビルの二階にあるアルクロードへと続く階段は、建物の外や裏にあったのではなく、上等カレー・飯田橋店への入り口の扉を入ってすぐ右、つまり、上等カレーの店内に在ったのだ。
 いわば、アルクロードは、上等カレーの二階を間借りしているような形になっているのだが、そもそもの話、一階の上等カレー・飯田橋店と、二階のアルクロードは、経営者が同一人物であるらしい。
 この北インド料理店は、ほぼ一年前の二〇二一年の十月十五日にオープンしたばかりなのだが、もしかしたら、それ以前には、普通に二階も上等カレーであったのかもしれない。
 そう考えたくなる理由は、店の入り口に、「2階にも券売機がございます。1階が混雑のときはそのまま2階にどうぞ」という掲示があり、つまり、二階でも上等カレーの食券が買えるからである。
 それでも、同じ店の一階が、関西カレーの代名詞〈上等カレー〉で、二階が、北インド・カレーの〈アルクロード〉という、全く異なるカレー・ショップが上下に並存している、という構成は実に変わっていて面白いように、書き手には思えたのであった。

 その二階に位置する〈アルクロード〉への階段に足を踏み入れる前に、書き手は、店の外にあった、黄色バックのメニュー・パネルで、注文品を先に決めてしまう事にした。
 選択肢は、「スパイスチキンカレー」「イカとチキンのキーマカレー」「ホウレン草チキンカレー」「ビリヤニ」「2種のカレー」「3種のカレー」「1種のカレーとビリヤニ」であった。
 ここで、書き手の視線が釘付けになったのは〈ビリヤニ〉の値段である。
 というのも、他のインド・カレー店では、ちょっとお高い印象のビリヤニが、一一〇〇円と、比較的お手頃な価格で食せるからである。
 
  そこで、ビリヤニの注文を決意した書き手は、「北インドスパイスカレー アルクロード」へと続く階段がある、上等カレーの入り口を先ずは通り抜けた。

 代表的なインド料理の一つである〈ビリヤニ〉とは、いわゆる、炊き込みご飯で、パエリアや松茸ご飯と共に、〈世界三大炊き込みご飯〉の一つとされている。
 ちなみに、ビリヤニの発祥地として考えられているのは、現在のイランの地で、ペルシャ帝国の侵攻の際に、南西アジアのインドにもビリヤニが伝わり、後に、イスラーム国家であった、ムガル帝国において発展した、という説もある。

 ここで、書き手はハッとした。

 ナンもその起源はペルシアだと考えられているが、ビリヤニも、なんとペルシア起源なのかっ!
 もしかしたら、食の起源への道は、ペルシアに通じているのかもしれないな、と思いながら、シルクロードならぬ、歩くロードたる階段を上がって、アルクロードに向かった書き手であった。

〈訪問データ〉
 スパイスカレー アルクロード:飯田橋
 B04
 十月四日・火曜日・十三時
 ビリヤニ:一一〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「スパイスカレー アルクロード」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十一ページ。
〈WEB〉
 『日本ビリヤニ協会』、二〇二二年十二月十六日閲覧。
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