カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第037匙 二代目社長の新時代の航海術:Restaurant Mari(D11)

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 この『神田カレー街食べ歩きスタンプラリー2022」の完全制覇は言わずもがな、二十五店から成るAからEの五コースの何れか一つのコースの場合であれ、このゲーム・クリアのポイントは、昼営業のみという、訪店難易度が高めの店にいかに赴くか、という点なのだ。
 結果、ランチ・タイムに時間的余裕がある時には、否、昼に時間をなんとか作って、昼にしかカレーを食べられない店に行く事になる。

 この場合、しっかりと、冊子やWEBサイトを参照して営業時間を確認しておかないと、夜や土日も営業している店に〈昼〉に行ってしまう、といったもったいない事をしてしまいかねない。
 昼時にカレーを食べに千代田区に行ける〈時間的リソース〉は限られているのだ。

 そういった次第で、この日、書き手が選んだのは、東京メトロの丸の内線の淡路町駅、あるいは、千代田線の新御茶ノ水駅から五分かからない所に位置している〈Restaurant Mari〉であった。

 この店は、平日は十一時から十六時(L.O.)、土曜日は、十一時半から十五時(L.O.)が営業時間、すなわちランチ・タイムのみの営業とサイトに出ていたので、書き手のカレー店巡りの昼戦略にピタリ合致した。
 また、サイトには、「カレーはなくなり次第終了です」という但し書きがあり、売り切れ情報は、ツイッターで情報更新との事であった。
 察するに、実際に、カレーが売り切れ御免になる事もあるのだろう。
 そのため、書き手は、売り切れ回避のために、多くの会社が昼休みに入る前、午前中のうちに、淡路町に行く事にしたのであった。

 「レストラン・マリ」は、駅から程近く、具体的に言うと、靖国通りから、お茶の水方面に向かって外堀通りの左側をとって、三本目の通りを左折し、まっすぐ進んだ、その路地の角に位置している。ただし、極細の通りに在るため、地図もなしに適当に道を曲がると迷いかねないので、移動には若干の注意を要する。
 こう書いている書き手は、なんとなく事前に地図を見ておいただけで、駅に着いてから〈地図アプリ〉を使わずに、フンイキで歩いた結果、予定の到着時刻を超過してしまったのであった。
 無理矢理、昼に時間を作ったので、開店凸して、さっとカレーを食べて、さっと仕事場に戻る予定だったのに……。
 かくの如く道に完全に迷ったら、時間のロスになるので、本当に〈情報〉は肝なのである。

 さて、十一時の訪店こそ叶わなかったものの、会社一般の昼休み前ということもあり、待つことなく着席する事ができた。

 この店は二〇二〇年の十一月にリニューアル・オープンし、サイトにも載っていた、二代目の「まり社長。」と、社長のお母さんらしき方の二人で切り盛りしているようだ。

 このレストランは、カレー専門店ではなく洋食店なので、メニューのラインナップは種類豊かだったのだが、書き手の選択肢は、無論、カレーである。
 カレーのメニューは、「チキンカレー」、「キーマカレー」、「カツカレー」、「牛すじカレー」、「季節の野菜とポークカレー」の五種類があった。

 サイトによれば、おすすめカレーは「試行錯誤を繰り返して作り上げた新メニューの牛すじカレー」で、「とろける牛すじの食感を残しつつ味わい深い仕上がりに」なっているそうで、当初は、この牛すじカレーを注文する気でいたのだが、実際に店に来てみると、季節野菜という限定感のある響きに心奪われ、結局、「季節の野菜とポークカレー」を書き手は選んでしまった。

 カレーの皿は、入店し着席し注文した数分後、あっという間に提供された。開店まもなくだったので、既に仕込まれていたのかもしれない。

 カレーは、白い皿の四分の一が白米で、残り四分の三がカレーで、やや、ごはんが少なめの印象だった。
 女性社長と女性店員経営の店で、おしゃれなエクステリアとインテリアの路地裏の隠れ家的店舗、OLや有閑マダムが好みそうな雰囲気で、このライスの量は、客層が女性が多いことを表わしているのかもしれない。
 しかし、カレーの湖に沈んでいる具材は、ポークも、じゃがいも、なす、にんじん、たまねぎ、ピーマンもゴロっと大き目であった。野菜多めということはヘルシーということなのであろうか?
 この辺の事情は、書き手の勝手な憶測なので、真相はカレーの中である。

 書き手は、注文から皿が提供されるまでの待ち時間に、店の様子を観察したり、店内や机上の掲示を読んで時間を費やす事が多いのだが、今回は皿の提供時間が短かったので、カレーを口に運びながら、店内の様子を観察する事にした。

 これまで既に三十以上のカレー提供店を訪れてきた書き手が掲示を見て気付いたのは、この店の営業努力である。
 この時代、メディアの活用は重要なポイントだ。

 実際、書き手自身、来店する店の情報はネットで調べるのが常だ。
 この「Restaurant Mari」に関しても、サイトを参照し、カレーの売り切れ情報はツイッターで更新という事も知った。
 この日の書き手は、午前中に来店したので、カレーが枯れている心配はなかったのだが、午後の深い時刻に訪問したとしたら、おそらくツイッターを見たに違いない。

 カレー店の中には、ツイッターを活用している店は他にもあるに違いないが、レストラン・マリに関しては、SNSは、ツイッターだけではなく、フェイス・ブックやインスタ、その他、ブログもやっているのは驚きであった。
 そしてさらなる驚きは、社長がYouTube活動もしている事であった。

 こう言ってはなんだが、この店は極細の路地に位置しているので、歩いていて偶然見つけられるのは難しい。
 この時代、どんなに良き店だとしても、知られなければ客に来てもらうことはできない。
 また、口コミにも限界があるだろう。

 この情報化時代、SNSその他、メディアを巧みに使ってゆくのが、この新しき時代の海を渡ってゆく、店舗経営の航海術なのかもしれない。

 だから、僕もこの姿勢を見習いたいな、と思ってしまった書き手であった。

〈訪問データ〉
 Restaurant Mari:淡路町・新御茶ノ水
 D11
 九月十五日・木曜日・十一時二十分
 キーマと野菜のあいもりカリー:一一〇〇円(QR)

〈参考資料〉
 「Restaurant Mari」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、二十六ページ。
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