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一巡目(二〇二二)
第034匙 日向へと導く昭和なエレベーター:ヒナタ屋(D08)
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九月五日、この日の昼、書き手は、靖国通りの歩道の左側を、神田・秋葉原方面に向かって真っすぐに進んでいたのだが、〈V〉字型の分岐路に至ると、その左側の道をとったのであった。
実は、この分岐路は、JR御茶ノ水駅の御茶ノ水口から神保町方面に向かった場合には、〈▽〉逆三角形の左側の辺に相当する例の道で、ここは、書き手が、一昨日、三日の土曜の夜に、フォワグラ・カレーを食べた、あのバーがある路地である。
さらに、である。
実を言うと、この日の昼に訪れた店もまた、書き手が土曜日の夜に赴いたバーが入っているのと全く同じ雑居ビルなのである。
暗がりの中、一昨日の夜に訪れた時には、階段で三階に位置しているバーに向かったので、全く気が付かなかったのだが、この日の昼、階段を昇り始めるや否や、エレベーターの存在が初めて、書き手の意識野に入ったのであった。
この雑居ビルには、エレベーターが設置されていたのである。
この日の昼に、書き手が訪問する予定の〈ヒナタ屋・神保町本店〉は、この雑居ビルの四階に位置している。
書き手は、三階までなら階段を使うことが多いのだが、四階以上だと、エレベーターかエスカレーターを使うのが常なので、エレベーターがあるのならば、と、書き手は、一階と二階の間、すなわち、中二階にあったエレベーターの呼び出しボタンを押したのであった。
しかし、である。
スマフォを見ながら、昇降機の到着を待っていたのだが、待てども待てども、扉が〈自動〉で開かないのだ。
ふと顔を上げて、エレベーター付近を見てみた時、「到着になったら扉を手であけてください」「引いてください」という貼り紙に気が付いた。
このエレベーターは、なんと〈手動式〉、自分で扉を開ける方式だったのだ。
そりゃ、自動では開かないのも道理だ。
書き手が、赤く少し錆びついた扉を、四苦八苦しながら開けると、その先にも蛇腹の入口があって、既に〈昭和な〉エレベーターが到着していた。
しぶい、渋すぎるぞ、このエレベーターはっ!
こうしたレトロでレアなエレベーターに乗れるだけでも、この雑居ビルに来た意義はある。
でも、例えば、土曜日の夜に、このエレベーターを使っていたら、ちょっと怖かったかも、と思いながら、書き手は、スリルを味わいつつ、ゆっくりと目的の店に向かって昇っていったのであった。
店が入っている雑居ビルや、昭和なエレベーターから、ヒナタ屋もまたレトロな雰囲気の店なのか、と想像していたのだが、その予想に反して、扉を開けると、モダンな雰囲気の、おしゃれな感じのカフェ風のインテリアが、書き手の目に飛び込んできた。
印象的だったのは、壁面の大きな窓で、そこから、太陽の自然光が差し込んできていて、実に開放的であった。
昼のみ営業の店だし、もしかしたら、それが〈ヒナタ屋〉という店名の由来なのかもしれない。
そして書き手は、大きな窓の前の席に案内された。そこからは、明大通りが眼下に見え、素晴らしき眺望であった。
ネット、その他の情報によると、ヒナタ屋のカレーの特徴は、「香辛料たっぷりのインド風チキンカレー」なのだが、この日の書き手は、土曜の夜に雑居ビルの入口で目にした貼り紙に書かれていた、九月のマンスリー・カレーに完全に心奪われていたのだ。
だから、書き手の選択は、マンスリー・カレー一択であった。
九月のマンスリー・カレーは、「リンゴとポークのオーブン焼き ブラウンソースカレー」であった。
店の掲示によると、そのカレーは、「林檎と豚肉をじっくり火に入れ」、結果、「りんごの甘さと豚肉の香ばしさがスパイスとよく合」っているらしい。
しばらくして提供された料理は、白い皿の半分が白米、もう半分がカレー・ソースで、白米とカレーの境目に、件の豚肉とリンゴ、そしてニンジンが添え置かれていた。
そのカレー・ソースの辛さは〈中辛〉で、たしかに、やや辛い印象であったのだが、しかし、口が辛さでいっぱいになったとしても、真ん中のリンゴを口に入れれば、その甘さのおかげで、いい感じに口がリフレッシュされる、そんな感じであった。
当初は、店の代表的なカレーである「チキンカレー」か「シーフードトマトカレー」のいずれかを注文するつもりであったのだが、書き手は、マンスリーのリンゴ・ポークカレーを頼んで、大正解だったという気持ちである。
マンスリー・カレーは、当然、月で内容が変わってゆくのだが、また機会を設けて、今度は、別の月替わりカレーを味合うために、この店を訪れたい、と思う書き手であった。
もちろん、昭和なレトロでレアなエレベーターにも再び乗車してみたい気持ちがあるのは言うまでもない。
〈訪問データ〉
ヒナタ屋・神保町本店:神保町・御茶ノ水
D08
九月五日・月曜日・十一時四十五分
リンゴとポークのオーブン焼き ブラウンソースカレー:一二〇〇円(交通系)
〈参考資料〉
「ヒナタ屋・神保町本店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十七ページ。
〈WEB〉
『ヒナタ屋・神保町本店』、二〇二二年十一月三日閲覧。
実は、この分岐路は、JR御茶ノ水駅の御茶ノ水口から神保町方面に向かった場合には、〈▽〉逆三角形の左側の辺に相当する例の道で、ここは、書き手が、一昨日、三日の土曜の夜に、フォワグラ・カレーを食べた、あのバーがある路地である。
さらに、である。
実を言うと、この日の昼に訪れた店もまた、書き手が土曜日の夜に赴いたバーが入っているのと全く同じ雑居ビルなのである。
暗がりの中、一昨日の夜に訪れた時には、階段で三階に位置しているバーに向かったので、全く気が付かなかったのだが、この日の昼、階段を昇り始めるや否や、エレベーターの存在が初めて、書き手の意識野に入ったのであった。
この雑居ビルには、エレベーターが設置されていたのである。
この日の昼に、書き手が訪問する予定の〈ヒナタ屋・神保町本店〉は、この雑居ビルの四階に位置している。
書き手は、三階までなら階段を使うことが多いのだが、四階以上だと、エレベーターかエスカレーターを使うのが常なので、エレベーターがあるのならば、と、書き手は、一階と二階の間、すなわち、中二階にあったエレベーターの呼び出しボタンを押したのであった。
しかし、である。
スマフォを見ながら、昇降機の到着を待っていたのだが、待てども待てども、扉が〈自動〉で開かないのだ。
ふと顔を上げて、エレベーター付近を見てみた時、「到着になったら扉を手であけてください」「引いてください」という貼り紙に気が付いた。
このエレベーターは、なんと〈手動式〉、自分で扉を開ける方式だったのだ。
そりゃ、自動では開かないのも道理だ。
書き手が、赤く少し錆びついた扉を、四苦八苦しながら開けると、その先にも蛇腹の入口があって、既に〈昭和な〉エレベーターが到着していた。
しぶい、渋すぎるぞ、このエレベーターはっ!
こうしたレトロでレアなエレベーターに乗れるだけでも、この雑居ビルに来た意義はある。
でも、例えば、土曜日の夜に、このエレベーターを使っていたら、ちょっと怖かったかも、と思いながら、書き手は、スリルを味わいつつ、ゆっくりと目的の店に向かって昇っていったのであった。
店が入っている雑居ビルや、昭和なエレベーターから、ヒナタ屋もまたレトロな雰囲気の店なのか、と想像していたのだが、その予想に反して、扉を開けると、モダンな雰囲気の、おしゃれな感じのカフェ風のインテリアが、書き手の目に飛び込んできた。
印象的だったのは、壁面の大きな窓で、そこから、太陽の自然光が差し込んできていて、実に開放的であった。
昼のみ営業の店だし、もしかしたら、それが〈ヒナタ屋〉という店名の由来なのかもしれない。
そして書き手は、大きな窓の前の席に案内された。そこからは、明大通りが眼下に見え、素晴らしき眺望であった。
ネット、その他の情報によると、ヒナタ屋のカレーの特徴は、「香辛料たっぷりのインド風チキンカレー」なのだが、この日の書き手は、土曜の夜に雑居ビルの入口で目にした貼り紙に書かれていた、九月のマンスリー・カレーに完全に心奪われていたのだ。
だから、書き手の選択は、マンスリー・カレー一択であった。
九月のマンスリー・カレーは、「リンゴとポークのオーブン焼き ブラウンソースカレー」であった。
店の掲示によると、そのカレーは、「林檎と豚肉をじっくり火に入れ」、結果、「りんごの甘さと豚肉の香ばしさがスパイスとよく合」っているらしい。
しばらくして提供された料理は、白い皿の半分が白米、もう半分がカレー・ソースで、白米とカレーの境目に、件の豚肉とリンゴ、そしてニンジンが添え置かれていた。
そのカレー・ソースの辛さは〈中辛〉で、たしかに、やや辛い印象であったのだが、しかし、口が辛さでいっぱいになったとしても、真ん中のリンゴを口に入れれば、その甘さのおかげで、いい感じに口がリフレッシュされる、そんな感じであった。
当初は、店の代表的なカレーである「チキンカレー」か「シーフードトマトカレー」のいずれかを注文するつもりであったのだが、書き手は、マンスリーのリンゴ・ポークカレーを頼んで、大正解だったという気持ちである。
マンスリー・カレーは、当然、月で内容が変わってゆくのだが、また機会を設けて、今度は、別の月替わりカレーを味合うために、この店を訪れたい、と思う書き手であった。
もちろん、昭和なレトロでレアなエレベーターにも再び乗車してみたい気持ちがあるのは言うまでもない。
〈訪問データ〉
ヒナタ屋・神保町本店:神保町・御茶ノ水
D08
九月五日・月曜日・十一時四十五分
リンゴとポークのオーブン焼き ブラウンソースカレー:一二〇〇円(交通系)
〈参考資料〉
「ヒナタ屋・神保町本店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十七ページ。
〈WEB〉
『ヒナタ屋・神保町本店』、二〇二二年十一月三日閲覧。
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