カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第032匙 一番上にあるものが気になりました:ピッグテイル(D07)

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 神田カレー街スタンプラリー参加店の中には、夜のみ営業の店、例えば、カレーを提供している居酒屋やバーなどもある。

 土曜日の夜、どこかのスタンプラリー参加店に行こう、と考えた時、書き手は、昼とは逆の発想で、夜にしか営業していない店に赴く事にした。
 そういった次第で、書き手が選んだのは、神保町のお茶の水エリアに位置している〈豚バル ピッグテイル〉である。

 書き手は、JRの御茶ノ水駅の御茶ノ水口から、明大通りを靖国通り方面に向かって下ってゆき、明大通りが靖国通りと交差する一つ手前の〈Ⅴ〉字になっている分岐路の右側の道を取った後、左側すぐの所に位置している雑居ビルの中に入った。
 ちなみに、この〈V〉字の道は、靖国通りから見た場合には、〈△〉になっているのだが、そう、このエリアは、かの神保町の焼き肉街である。
 すなわち、目当ての店、〈豚バル ピッグテイル〉は、お茶の水側から見た場合には、〈V〉字底、靖国通り側から見た場合には、三角形の頂点に位置している分けだ。

 かの店は三階にあったのだが、書き手は、急角度の階段を一段一段ゆっくりと昇ってゆき、静かに扉を開けた。

 入店した際に、食事を終えた先客とすれ違ったのだが、雰囲気から察するに、どうやら、同好の士、すなわち、カレー・ラヴァーであるようだった。

 店に入った際の書き手の印象は、完全なるバー、イタリア語で言うところの〈バール〉で、カレー目的者にとっては、ちょっとした場違い感があった。とまれ、スタンプラリーのクリアを目指す以上、カレー専門店とは雰囲気が異なるとは言えども、こういったタイプの店も避けては通れない。

 ちなみに、店員たちとの会話のスペースでもあるカウンター席の方は、予約席となっていたため、一見さんである書き手は、入口近くのテーブル席の方に案内された。

 この店は、お酒提供がメインのカウンター・バーではあったが、書き手が注文するのは、もちろんカレーで、ここで提供されているメニューは、「温玉チーズカレー」、「黒ビール豚カレー」、「まるごとトマトの豚カレー」、「黒ビール豚野菜カレー」、「おこり豚カレー」、そして「豚フィレフォワグラカレー」の六種類であった。
 つまるところ、ここのカレーの具材は豚肉がメインであるようだ。

 それもそうか。
 店名の『ピッグテイル』とは、豚の尻尾の意味な分けだから、提供している食事メニューも豚料理が中心なのであろう。

 書き手は、最初は、値段も手頃な「ロース肉をジューシーに焼き上げて、各種スパイス他、黒ビールを入れたルゥをかけた」「黒ビール豚カレー」を選ぶつもりだったのだが、メニューの一番上に掲示されていた、「豚フィレフォワグラカレー」に目が釘付けになった。
 さらに、メニューには、こんな説明書きが付けられていた。

 「『富士ヶ峰ポーク』フィレ肉とフォワグラを、こんがりとソテーしてのせた贅沢なカレーです」

 もちろん、値段もそれなりであったのだが、書き手は、この、他店では見られない、フォワグラカレーが気になって気になって仕方がなくなってしまった。
 結果、まことに〈軽率〉の極みであったのだが、このフォワグラカレーを注文してしまったのである。

 料理の提供を待っている間、書き手は、テーブルの上にあった「富士ヶ峰ポーク」の説明書を読んでみることにした。

 「富士ヶ峰ポーク」とは、その名の通り、「山梨県、富士ヶ峰」で育てられている豚で、「富士高原の地下300mより汲み上げられた伏流水を飲用し」、さらに「黒ビールを飲ませ」ている豚であるらしい。

 カレー店巡りをするようになって以来、書き手は、牛や豚などの産地などに関しても意識するようになっているのだが、このお店が使っている「富士ヶ峰ポーク」は、書き手にとっては、完全なるお初の豚肉であった。

 しかし、注文していてアレな話なのだが、フォワグラは当たり外れが大きいため、口に運んでみるまで、どのような味なのか、実はドキドキものなのだ。

 やがて提供された皿は、四角形のやや深い白い皿に、カレーの池ができていて、その内側に島のようなライスがあり、さらに米上に肉が置かれ、その上にカレーがかけられていた。

 書き手は、まず最初に、一番上に置かれていた肉を口に運んでみた。

 か、硬っ! これって、フォワグラ?

 あっ、そうかっ!

 冊子の煽り文句にもあった「フォワグラ」のインパクトが、あまりにも強かったので、きちんと名称を確認していなかったのだが、この品は、「豚フィレ フォワグラカレー」なのだ。つまり、具材は、フォワグラだけではなく、フィレ肉もあったのである。
 そりゃあ、硬いに決まっているって話だ。

 で、肝心のフォワグラは、というと、柔らかく、かつ、クサミもなく、満足のゆく品であったため、書き手はホッとしたのであった。

 それから、書き手は、カレーと一緒に、硬いフィレと柔らかいフォワグラを交互に口に運び続けたのであった。

〈訪問データ〉
 ピッグテイル:神保町・御茶ノ水
 D 07
 九月三日・土曜日・二十時
 豚フィレフォワグラカレー:一七八〇円(現金)

〈参考資料〉
 「ピッグテイル」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十九ページ。
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