カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第025匙 ビルマの素朧:OCEAN breeze(A19) 、メトロ新御茶ノ水駅(Dm)、JR秋葉原駅(Djr)

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 この日、書き手がカレー店を訪れる事ができたのは夜八時を過ぎてからであった。
 カレー店の中には、八時には既に閉まっている店も多いため、この時刻だと行ける店は限られてしまう。
 かくして、この日、書き手が選んだのは、神田駅北口界隈に位置する雑居ビルの地下に在る〈OCEAN breeze〉であった。

 この店は、ミャンマー人のマスターがワンオペで営業しているバーなのだが、書き手がガイドブックを片手に入ってきたので、マスターは、カレー・スタンプラリー目当ての客と察したようだ。おそらく既に何人ものカレー好きが来店しているのであろう。

 ミャンマーのかつての国名はビルマ、日本では『ビルマの竪琴』の映画で有名な東南アジアの国である。
 ミャンマーは、北と北東は中国、東はラオス、南東はタイ、西はバングラディッシュ、北西はインドといった五つの国と国境を接しているのだが、このように様々な国に囲まれているミャンマーは、大小含めると、およそ百三十五もの部族が混在する多民族国家で、国民の八割は仏教徒なのだが、少数ながら、キリスト教徒もいる。
 仏教やキリスト教は、食に関するタブーが比較的少ないため、イスラム教やヒンドゥー教のように豚や牛を食べない、という事もなく、料理に使われる食材は、実に多種多様だという。

 この店のミャンマー人のマスターが作る〈香草そぼろカレー〉は、冊子の説明によると、「12種類の香辛料で味付けされた豚そぼろ」であった。すなわち、食材は豚肉であるようだ。そして書き手は、〈そぼろカレー半熟卵のせ〉を注文する事にした。

 しばらくしてから提供された料理は、いわゆる〈ドライカレー〉で、ドライカレーとは、汁気がほとんどないカレーで、ひき肉や野菜を炒めてカレーで味付けした料理のことである。
 この店のドライカレーに「そぼろ」という名が入っているのは、客の日本人に、どんな料理かすぐに分るようにしているからかもしれない。

 そぼろ(素朧)とは、獣肉の挽き肉や魚肉を茹でて解した後、汁気がなくなりパラパラになるまで炒めた物なのだが、なるほど確かに、そぼろは、汁気のない粗い挽き肉というイメージで、これを、スパイスで味付けしてカレー味にすれば、ドライカレーの出来上がりとなる。

 しばらくして提供された料理は、真ん中にライスが島のように在って、その米飯の上に、カレー風味のそぼろの塊が載っていた。汁気がないので、ドロッとライスの端に流れてゆくことはなく、ご飯の周りは香草で囲まれていた。
 
 味は、「そぼろ」という名に相応しく、日本人の味覚に合わせられているのか、書き手の好みとも合致したし、そぼろに加え、香草の味がピリっと効いていたのであった。
 会計時に、マスターにその感想を伝えたところ、返礼なのか、「スタンプ集め、頑張って」という激励を、書き手は送られたのであった。

          *

 この日は、八月の最終日という事もあり、やれる事は今月中にやってしまう事にした。
 つまり、メトロ系の残り一つのスタンプであった〈新御茶ノ水駅〉と、JR系の残り一つのスタンプであった〈秋葉原駅〉を集めてしまう事にしたのだ。

 新御茶ノ水駅は広い駅で様々な出入口があるため、設置場所を探すのに一苦労したのだが、スタンプ台が置かれているのは靖国通りの出入口付近であった。
 これに対して、秋葉原駅のスタンプ台は電気街口に在ったので、こちらはあっさりと見つけられた。
 とまれ、メトロの駅には店に行く前に、JRのスタンプは店を出てから立ち寄り、かくして、各コースに配されているメトロとJRの駅系のスタンプは、八月中に、十個全てを集め終える事ができたのであった。

〈訪問データ〉
 OCEAN breeze:神田・神田駅北口
 A19
 八月三十一日・水曜日・二十時十五分
 そぼろカレー半熟卵のせ:八八〇円(現金)

〈参考資料〉
 「OCEAN breeze」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十五ページ。
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