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一巡目(二〇二二)
第024匙 昭和の辛さの継続:ボルツ(A18)
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SNSで、〈ボルツ〉に行った事を呟いたところ、長年の友人から、「ボルツってあの十倍カレーとかのボルツ? まだあったのか! 昔は横浜にもありました」というリプライが返ってきた。
この日の夜、小雨降る中、書き手が、ラスト・オーダー直前に駆け込み入店したのは、東京メトロの竹橋駅近くの〈ボルツ・神田店〉で、この店は、竹橋駅の大手町駅側、平川門付近の出入口〈3b〉から出て、靖国通り方面に向かって、千代田通りの左側の歩道を取って、高速道路を過ぎたところで、小道を左折した所に在る。
冊子の店の紹介ページには、辛そうな顔をしている薄紫色のターバンを頭に巻いた白髭のオジイサンの絵が描かれていて、「インド人もビックリ!!」という吹き出しや、「辛さの元祖はボルツです」というキャッチコピーが付いている。
つまり、店のアイコンやキャッチコピーが言い表わしているように、ボルツのウリは、昭和の頃から変わらない〈辛さ〉で、その開業は一九七四年にまで遡るという。
半世紀前の日本におけるカレーの辛さといったら、甘口・中辛・辛口しかない、そのような時代にあって、辛さを数値化し、一倍から三十倍まで辛さを選べる、というのがボルツの特徴であったらしい。
そうした辛さの数値化が、当時の若年層のハートをキャッチし、「〇倍カレー」の元祖たるカレー・チェーン店・ボルツは、徐々に店舗数を増やしてゆき、一九八〇年代には、日本における〈第一次激辛ブーム〉の象徴となったのだそうだ。
冊子によると、「ボルツの古里は南インドのバンガロール」で、「昔ながらの石臼挽きの香辛料を直輸入し」、「十数種の香辛料を独特製法でブレンドした」のがボルツカレーであるらしい。そしてさらに、南インド由来のボルツのカレーは、「小麦粉を入れず、ゆっくりと煮込んだ肉と野菜だけのトロ味でサラッとしたシャープな味わい」なのだそうだ。
そして、このカレーの作り方は、昭和の頃から不変であるらしい。
ちなみに、インド南部の都市バンガロールには、老舗の香辛料会社〈ボルツ〉があって、カレーペーストやマンゴーチャツネなどを輸出しているのだが、日本のボルツの名は、このインドのボルツ社に由来し、竹橋のボルツは、今なお、食材の一部を、インドのボルツ社から輸入しているそうだ。
とまれ、八〇年代の後半には、日本のボルツの店舗数は五十ほどあったものの、かくの如く、昭和という時代に日本を席巻した日本風インドカレー専門店ボルツも、諸事情から店舗数を減らしていって、今や、関東で残っているのは栃木と東京で一軒ずつで、都内に最後に残された唯一の店舗こそが、この竹橋の〈ボルツ〉なのである。
こういった分けで、昔の友人からリプがきたのであろう。
*
この竹橋のボルツの開店は一九八〇年十一月で、既に開業四十年を超えている。
八〇年代だと、書き手は未だ上京していなかったため、激辛ブームの波に乗ってはおらず、実は、この日が、ボルツのカレーの初体験であった。
店外の掲示や店内のメニューによると、辛さは、「辛さに弱いカレー好きのため」の「ソフトマイルド」、普通の辛さの「マイルド」、「ホット」、「2倍ホット」、「3倍ホット」、「4倍ホット」、「5倍ホット」、「インド人もビックリ」の「6~7倍ホット」、さらに、「8倍~12倍ホット」、「13倍~14倍ホット」、「15倍~20倍ホット」、「30倍ホット」といった選択肢があったのだが、ボルツ初来店の書き手は、店の〈辛さ〉にビビッて、「マイルド」を選んでしまった。
辛さをマシマシにするのは、ボルツの店の辛さに慣れてからにしよう、と思った次第である。
そして、肝心のカレーに関しては、種類が沢山あったのだが、今日は、冊子で推されていた「ビーフとトマト」を選んだ。
さて、カレーの中のトマトは、味付けとして入っているのではなく、大きめに切られたトマトの塊がゴロっと入っており、そのトマト自体の酸っぱさが、実にカレーと相まっていた。
提供されたカレーは、白い容器に入ったカレーと平たい皿に盛られたライスといったように、セパレート式だったので、書き手は、例の如く、少しずつカレーをライスにかけながら食していった。
書き手は、ボルツの名に臆して、辛さはマイルドを選んだものの、「ホット」を選んでもよかったかなと思った。
もしも、辛さが予想以上であったとしても、テーブルに置かれている「玉ネギのヨーグルト漬け」が口をリフレッシュしてくれるであろうから。
*
この店、ボルツは、開店時から変わらない同じ店主がカレーを提供してくれており、書き手の来店時には、店は、老店主のワンオペで営業されていた。
そして退店時、いつもの如く、書き手は冊子を店主に渡したのだが、押印の際に、マスターから「頑張って」と声を掛けられた。
書き手は、この昭和から変わらずにいる店主からの、優しい言葉にほっこりとしたのであった。
〈訪問データ〉
カレーハウス ボルツ:神保町・竹橋
A18
八月三十日・火曜日・十九時半
ビーフとトマト、マイルド:九〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「ボルツ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十二ページ。
この日の夜、小雨降る中、書き手が、ラスト・オーダー直前に駆け込み入店したのは、東京メトロの竹橋駅近くの〈ボルツ・神田店〉で、この店は、竹橋駅の大手町駅側、平川門付近の出入口〈3b〉から出て、靖国通り方面に向かって、千代田通りの左側の歩道を取って、高速道路を過ぎたところで、小道を左折した所に在る。
冊子の店の紹介ページには、辛そうな顔をしている薄紫色のターバンを頭に巻いた白髭のオジイサンの絵が描かれていて、「インド人もビックリ!!」という吹き出しや、「辛さの元祖はボルツです」というキャッチコピーが付いている。
つまり、店のアイコンやキャッチコピーが言い表わしているように、ボルツのウリは、昭和の頃から変わらない〈辛さ〉で、その開業は一九七四年にまで遡るという。
半世紀前の日本におけるカレーの辛さといったら、甘口・中辛・辛口しかない、そのような時代にあって、辛さを数値化し、一倍から三十倍まで辛さを選べる、というのがボルツの特徴であったらしい。
そうした辛さの数値化が、当時の若年層のハートをキャッチし、「〇倍カレー」の元祖たるカレー・チェーン店・ボルツは、徐々に店舗数を増やしてゆき、一九八〇年代には、日本における〈第一次激辛ブーム〉の象徴となったのだそうだ。
冊子によると、「ボルツの古里は南インドのバンガロール」で、「昔ながらの石臼挽きの香辛料を直輸入し」、「十数種の香辛料を独特製法でブレンドした」のがボルツカレーであるらしい。そしてさらに、南インド由来のボルツのカレーは、「小麦粉を入れず、ゆっくりと煮込んだ肉と野菜だけのトロ味でサラッとしたシャープな味わい」なのだそうだ。
そして、このカレーの作り方は、昭和の頃から不変であるらしい。
ちなみに、インド南部の都市バンガロールには、老舗の香辛料会社〈ボルツ〉があって、カレーペーストやマンゴーチャツネなどを輸出しているのだが、日本のボルツの名は、このインドのボルツ社に由来し、竹橋のボルツは、今なお、食材の一部を、インドのボルツ社から輸入しているそうだ。
とまれ、八〇年代の後半には、日本のボルツの店舗数は五十ほどあったものの、かくの如く、昭和という時代に日本を席巻した日本風インドカレー専門店ボルツも、諸事情から店舗数を減らしていって、今や、関東で残っているのは栃木と東京で一軒ずつで、都内に最後に残された唯一の店舗こそが、この竹橋の〈ボルツ〉なのである。
こういった分けで、昔の友人からリプがきたのであろう。
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この竹橋のボルツの開店は一九八〇年十一月で、既に開業四十年を超えている。
八〇年代だと、書き手は未だ上京していなかったため、激辛ブームの波に乗ってはおらず、実は、この日が、ボルツのカレーの初体験であった。
店外の掲示や店内のメニューによると、辛さは、「辛さに弱いカレー好きのため」の「ソフトマイルド」、普通の辛さの「マイルド」、「ホット」、「2倍ホット」、「3倍ホット」、「4倍ホット」、「5倍ホット」、「インド人もビックリ」の「6~7倍ホット」、さらに、「8倍~12倍ホット」、「13倍~14倍ホット」、「15倍~20倍ホット」、「30倍ホット」といった選択肢があったのだが、ボルツ初来店の書き手は、店の〈辛さ〉にビビッて、「マイルド」を選んでしまった。
辛さをマシマシにするのは、ボルツの店の辛さに慣れてからにしよう、と思った次第である。
そして、肝心のカレーに関しては、種類が沢山あったのだが、今日は、冊子で推されていた「ビーフとトマト」を選んだ。
さて、カレーの中のトマトは、味付けとして入っているのではなく、大きめに切られたトマトの塊がゴロっと入っており、そのトマト自体の酸っぱさが、実にカレーと相まっていた。
提供されたカレーは、白い容器に入ったカレーと平たい皿に盛られたライスといったように、セパレート式だったので、書き手は、例の如く、少しずつカレーをライスにかけながら食していった。
書き手は、ボルツの名に臆して、辛さはマイルドを選んだものの、「ホット」を選んでもよかったかなと思った。
もしも、辛さが予想以上であったとしても、テーブルに置かれている「玉ネギのヨーグルト漬け」が口をリフレッシュしてくれるであろうから。
*
この店、ボルツは、開店時から変わらない同じ店主がカレーを提供してくれており、書き手の来店時には、店は、老店主のワンオペで営業されていた。
そして退店時、いつもの如く、書き手は冊子を店主に渡したのだが、押印の際に、マスターから「頑張って」と声を掛けられた。
書き手は、この昭和から変わらずにいる店主からの、優しい言葉にほっこりとしたのであった。
〈訪問データ〉
カレーハウス ボルツ:神保町・竹橋
A18
八月三十日・火曜日・十九時半
ビーフとトマト、マイルド:九〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「ボルツ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十二ページ。
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