カレイなる日々

隠井迅

文字の大きさ
上 下
24 / 147
一巡目(二〇二二)

第022匙 通常の三倍のインパクトが醸し出す渾然一体感:生姜豚 香登利(C03)

しおりを挟む
 昼に、美味い国産三元豚のロースカツカレーを味わった事によって、書き手は、夜も豚肉料理を食べたい、という心理状態になっていた。

 とはいえども、昼も夜もトンカツというのは、さすがに芸が無さすぎる。そこで、夜は、同じ豚肉料理でも、トンカツ以外の料理を食すことにし、かくして、書き手が冊子のリストから選び出したのが、末広町駅界隈に在る〈生姜豚 香登利(かとり)〉である。

 上野方面に向かって中央通りを進み、中央通りと蔵前橋通りが交差したところで、蔵前橋通りの横断歩道を渡ってから、蔵前橋通りを左折し、この通りに接続している最初の細道を過ぎた所、すなわち、蔵前橋通りの右手に面しているのが目当ての店である。

 興味深いことに、中央通りは、蔵前橋通りを境に、その雰囲気がガラッと変わる。すなわち、横断歩道を渡った瞬間に、電気街にしてヲタク街であるアキバ・エリアから、落ち着いた雰囲気の湯島界隈に変貌するのだ。
 香登利も、その湯島界隈の、瀟洒な雰囲気を醸し出しており、その古民家風の店の外観は、高級そうな日本料理店の如き様相で、ちょっと、アキバに来ているヲタクには敷居が高そうな印象であった。だがしかし、店の前に置かれていた、QR決済も対応している自動券売機のメニューをざっと見てみると、それ程べらぼうな値段ではなく、書き手は、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。

 入店後、カウンター席に座り、食券を渡すと、程なくして、料理が載せられたお盆が提供された。
 お盆の上に置かれていたのは四つの品、らっきょうの小皿、サラダに豚汁、そして、蓋された大きめの黒塗りの椀であった。

 椀を見た瞬間の印象は、えっ、これにカレーが入っているの!? であった。

 それから蓋を開けると、中に入っていたのは、一面の咖喱汁で、一番上に豚肉とニンニクが載っていた。
 黒い木製の匙で豚肉をズラしてみると、その下に御飯があった。つまるところ、椀を満たした咖喱汁の中に御飯が完全に沈められており、その上に、具である生姜豚が載っていたのだ。

 まず最初に、書き手は汁を吸ってみる事にした。
 それから、汁が掛かっている、一番上の豚肉を数切れ食べた後に、目の前の咖喱料理をいただいた。

 これまで食べてきた、例えば、カツカレーなどは、トッピング、カレー、ライスが、ある程度セパレートになっていたので、カツ、トンカツ定食、カツカレーといった三種の食べ方が可能だったのだが、香登利の咖喱丼は、むしろ、咖喱汁がたっぷりと染み込んだ御飯と生姜豚が、一個の丼として一体感を成しているように感じられた。

 そして、咖喱の味は、生姜やニンニクの味と相まって、咖喱の旨味を存分に引き立てているような印象であった。

 この店の紹介頁では、この丼の豚肉は、生姜焼きではなく、あくまでも〈生姜豚〉である事が強調されていた。
 ここで思うのは、生姜豚とは何ぞや、という疑問である。

 店内に置かれていたポップによれば、「ニンニクや生姜などをふんだんに使用した特製のタレに、国産の厚切豚ロースを適正な温度管理のもとで長時間漬け込んで熟成させ」るという独特の製法で調理されたものであるそうだ。
 また、店から出た時に、店の前に置かれていた掲示を見たところ、香登利の生姜は〈高知県刈谷農園〉で作られた物で、さらに「注意書」によれば、香登利の生姜豚は、「ニンニクと生姜を通常の2~3倍使用し、かなり刺激の強い料理になって」いる、という事が、木製の板の上に赤字で書かれていた。

 なるほど、〈通常の三倍〉か……。
 道理で、生姜のインパクトが強かったはずだ。

 そう思いながら、書き手は末広町から銀座線に乗って、帰途についたのであった。

〈訪問データ〉
 生姜豚 香登利:秋葉原・末広町
 C03
 八月二十九日・月曜日・十九時
 一〇〇〇円(現金)

〈参考資料〉
 「生姜豚 香登利」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、六十一ページ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...