カレイなる日々

隠井迅

文字の大きさ
上 下
20 / 147
一巡目(二〇二二)

第018匙 神田須田町のティックトック:トプカ(A15)

しおりを挟む
 この日、書き手は夕方に秋葉原に行く用事があった。 
 そこで、秋葉原付近で、日曜日の夕方に営業をしている、という基準で訪れる店を探す事にしたのだった。

 東京メトロの丸の内線を利用して、淡路町駅の須田町側の改札を出てから、〈A3〉出口の階段を上がると靖国通りがある。
 この辺りから秋葉原方面に向かう場合には、靖国通りを右にみて、歩道橋の先にある〈U〉字の分かれ道のうち、右の靖国通りではなく、左の細道に入り、白壁に〈BIG APPLE〉と書かれている建物を正面に見て、秋葉原の目抜き通りである中央通りに出るまで、ひたすら真っすぐに進んでゆくことになる。
 とまれかくまれ、A3を出てすぐの細い道をとって、しばらく行くと、その進行方向左手にある店の扉の左側に、コック帽を被り、カイゼル髭をたくわえた、こう言ってよければ、ドワーフのような、独特な雰囲気のある小柄なオジサンの像が目に留まるのだ。
 それが、カリー専門店トプカを象徴している人形なのである。
 日曜のトプカの営業は十八時までで、ラスト・オーダーは十七時四十五分、そして、書き手が淡路町駅に到着したのが十七時半だったので、書き手は、閉店直前にまさに滑り込むように入店したのであった。
  
 秋葉原に隣接している神田界隈で、カレーを食べるならばこの店だろ、といった代表的な店が何軒かあって、そのうちの一つとして〈トプカ〉を推す人が何人もいる。
 そんなトプカが提供しているカレー・ソースは、欧風カレーとインド風カレーの二種類である。
 冊子の店紹介頁や、店の公式サイトによれば、マイルドな「欧風カリーは、契約農家からの大量のリンゴやこだわりあるバター」「白ワインなどを使ってあめ色になるまで炒めたタマネギに、20種類以上のスパイスと鶏スープを加え12時間煮込んで作って」いるとの事であった。
 また、刺激的なインド風カリーは、「北インドの伝統的なカレーにフランス料理の要素を加え」、「シナモンやカルダモン、クミンなどで香りや辛さを引き立て」、「数々のスパイスが調和するように」「手間と時間をおしまない」との事であった。

 カレー・ソースはインド風と欧風の、わずか二種類のように思えてしまうが、驚愕したのは、「注文があってから、一皿一皿、フライパンで調理し」、加えて、「具によってベースになるルーを使いわけ、具材から抽出したブイヨンを加え、一つ一つ違う風味を感じてもらえるように」仕上げているという点だ。
 実際、ホームページには、「欧風エビカリー」や「キマカリー」、そして「カツカリー」の調理動画がアップされていた。

 トプカのホームページによれば、メニューは以下の如くである。

 インド風カリーは、ムルギカリー、インド風ポークカリー、インド風エビカリー、マトンカリー、そして、キマカリーの五種類である。

 欧風カリーの方は、純野菜カリー、牛すじ煮込みカリー、牛すじ野菜カリー、欧風ポーク野菜カリー、チーズカリー、欧風エビカリー、欧風ポークカリー、欧風チキンカリー、コロッケカリー、メンチカリー、カツカリーの十二種類だ。

 ソースと具次第で、上記のような数のメニューがある分けだから、その数だけ別々の味が楽しめる、という事になろう。

 さて、どっちのソースで、いったい何を注文するべきか、それが問題だ。

 トプカは、店の入口のレジにて、対面で事前に注文するスタイルで、そこにいた受付の店員さんによると、閉店間際なので、チキンは既に終わっている、という話であった。

 書き手は、メニュー一覧の中で、インド風カレーの具で「ムルギ」という名称を耳にしたことがなかった。
 そしてこの時、知らないモノに挑戦してみよう、という気がムクムクっと起ち上がってきて、通ぶって、「それじゃ、ムルギカリー」をお願いします、と注文してしまったのである。
 すると、店員さんはこう返してきた。「だから、チキンはありませんよ」
 「???!!!!」
 そこで、書き手は、〈ムルギ〉ではなく、インド風ポークカリーを注文したのであった。

 気になって、後で調べてみたところ、ムルギとは、ヒンディー語で鶏肉の事であった。
 なんで、鳥だけ、現地語を使ってんだよ、と思いつつも、次にインドカレーを食べる機会がある時には、赤っ恥をかかないように、しっかりと覚えて帰ろうと、書き手は思ったのであった。

 それにしても、である。
 ここの店名の「トプカ」は、自店の味に自信を抱いているのであろう、店名は「トップ・クオリティ・オブ・カリー」の頭文字をとったものであるらしい。
 ここから、書き手がつい発想してしまったのは、〈西洋〉は英語で〈オクシデント〉だし、「トップ・インド・カリー」にして「トップ・オクシデント・カリー」でもあるこの店を、「TicToc(ティックトック)」という別称で呼んでもよいかもな、って。

〈訪問データ〉
 トプカ 神田本店:神田・淡路町
 A15
 八月二十八日・日曜日・十七半
 インド風ポークカリー:九八〇円(現金)

〈参考資料〉
 「トプカ 神田本店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十一ページ。
〈WEB〉
 『カリー専門店トプカ』、二〇二二年九月十三日閲覧。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

七絃──キンのコト雑記

国香
エッセイ・ノンフィクション
琴をキンと読めないあなた! コトとごっちゃにしているあなた! 小説『七絃灌頂血脉』シリーズを読んで、意味不明だったという方も、こちらへどうぞ。 本編『七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり』の虎の巻です。 小説中の難解な楽器や音楽等について、解説しています。 これを読めば、本編の???が少しは解消するかもしれません。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...