カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第007匙 Aジアン・カレーの差異と特徴その2 ネパールのダル・バート:ラミちゃんの台所(A05)

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 書き手の飯田橋南での用事も、二十一日の日曜で最終日を迎えた。
 この日の昼食も、前々日、前日同様に、飯田橋から九段下までの飯田橋南エリアで取ろうと計画していたのだが、飯田橋エリアだけではなく、九段下寄りの神保町エリアに在るカレー店で、日曜に営業している店がなかなか見つからなかった。
 店の日曜休業は、この界隈がオフィス街である事と関係があるのかもしれない、と思いながら、書き手は、このスタンプラリーを効率的にクリアするためには、日曜に営業していない店は平日に訪れるとか、逆に、日曜・祝日も営業している店は、平日ではなく休日に赴くとか、そういった戦略を採る必要があるな、と考えるのであった。

 とまれ、目下の問題は、この日の昼食をどうするかだ。
 実は、普段、水道橋に赴くのに電車移動をしているので、完全に盲点だったのだが、飯田橋駅東口から水道橋駅西口までは歩いて十分、実は徒歩圏内なのだ。
 そこで範囲を水道橋エリアにまで拡大して調べてみたところ、水道橋界隈に日曜も営業している店を発見したのだった。しかも、Aコース配置の店である。

 それが〈ラミちゃんの台所〉であった。

          *

 ラミちゃんの台所は、民族料理居酒屋なのだが、カレーも提供しているアジアン・レストランである。

 この店は、ネパール料理店で、ネパールの家庭料理を提供している。
 メニューには、ノーマル・メニュー以外に、ランチタイム・メニューもあって、昼時に訪れたので、書き手は、ランチタイムの中からチョイスする事にした。
 ラインナップは四種類で、家庭風ダル・バートを軸に、カレーは、デラックス、チキン、マトン、野菜の中から選択するのだが、書き手は、〈家庭風ダル・バート&野菜セット〉を注文した。

 このセットメニューの内訳は、「家庭風味のダル(豆スープ)、ライス、サグ、野菜のタルカリ、自家製ピクルス」で、これに、前菜のサラダと、ドリンクが付いてくるのだが、書き手はマンゴー・ラッシーを選んだ。

 やがて出てきたのは、銀色の金属製の食器で、その盆の上に、全ての料理が盛られており、これが、ネパール料理の一般的な提供方法であるらしい。

 書き手は、ネパール料理を食するのが初めてで、馴染みのない料理名がほとんどだったので、待ち時間の間にタブレットでネパール料理について調べた。それから、出てきた料理を見比べながら、情報と実物の摺り合わせをした。

 〈ダル〉とは、挽いた豆のスープの事であるらしい。
 出てきたプレートには、具が入っていないスープがあったのだが、このスープの方がダルで、具が見当たらないのは、豆が挽いた物だからであろう。
 一方、〈バート〉とは、米を意味する。
 つまり、〈ダル・バート〉とは、スープとライスで、これに、サグと、野菜のタルカリが付いていた。
 
 〈サグ〉とは、青菜を炒めたものである。

 〈タルカリ〉とは、ネパール語で、食卓に並ぶ〈おかず〉に相当するらしい。また、野菜のこともタルカリと呼ぶそうだ。ゆえに、主として、野菜をスパイスで味付けしたものも〈タルカリ〉との事であった。
 いずれにせよ、「野菜のタルカリ」とは、おかずとしての野菜のカレーを意味しているのかもしれない。たしかに、出てきた器に入っていたのは、ゴロゴロと野菜の具が入ったスープ状のカレーであった。

 つまるところ、ダルとバートのダル・バートに、サグとタルカリというのが、ネパールの典型的なワンセット・プレートなのだ。
 
 ネパールは、インドの北東に位置しているのだが、インド料理とネパール料理との違いは、ネパールのカレーは、スパイスが少なめで、主として用いられるのは、ターメリック、クミン、フェヌグリークシード、唐辛子の四種で、それゆえに、比較的優しい味になっているらしい。

 なるほど、そういう情報を得ると、食しているタルカリは、さして刺激的ではないように思え、一昨日に食したパキスタンのカレーとは随分と違うように感じられる。

 北インドを軸に、西にパキスタン、東にネパールが位置しており、一見、同じ北インド文化圏に属しているように思えても、実質、似て非なる物なのだ。
 しかし差異を認めんと欲しないと、北インド文化圏のカレーを食べて終わりという、単なる一体験になってしまいそうだ。だからこそ、知識を携えた上で、食べるという経験を積んでいって、様々なアジアン・カレーを味わう意識を抱くべきなのかもしれない。

 ちなみに、家庭やレストランによって、料理の品数が違ったり、用いる食材やスパイスの種類も違うのがダル・バートの特徴らしいので、一概にネパール料理といっても、店によって、銀の大皿に盛られる料理も大きく異なっているかもしれんな、とも思う書き手であった。

〈訪問データ〉
 ラミちゃんの台所:飯田橋・水道橋
 A05
 八月二十一日・日曜日・十一時半
 ダルバート野菜セット:八〇〇円(QR)

〈参考資料〉
「ラミちゃんの台所」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十四ページ。
〈WEB〉
「タルカリとは?」、『TARKARI』、二〇二二年八月三十日閲覧。
「いま注目のネパール料理『ダルバート』」、『macaroni』、二〇二二年八月三十日閲覧。
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