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一巡目(二〇二二)
第005匙 銀の匙と器:アパ社長カレー(D01)
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飯田橋駅東口付近での用事も二日目の土曜日を迎えた。
書き手は、前日の金曜日に引き続き、土曜日の昼食もまた、飯田橋駅南エリアのカレー店で取る事に決めていた。
このエリアに在るカレー店は全部で六軒なのだが、Aコースに属している唯一のカレー店である〈スルターン〉は、前日の昼にクリア済みであったので、コース戦略は括弧に入れて、この日は、エリア優先で、Dコースの〈アパ社長のカレー〉を訪れる事にしたのであった。
飯田橋駅を背にし、九段下方面に向かった場合、目白通りの左側にある背の高い建物がアパホテルで、その一階に在るのが〈アパ社長カレー 飯田橋駅南店〉である。
この店のカレーは、二〇一九年の「神田カレーグランプリ」で三位に入っているので、書き手は、ある種の期待感を抱きながら、店へと向かった。
注文は、店の入口にある券売機で購入するスタイルなのだが、券売機自体は現金のみ対応の機械なので、QR決済を希望する客は、店に入ってから直接、店員に申し出て決済処理をしてもらう事になる。しかし、これは、店員の仕事を増やす行為なので、店が混んでいた場合、少し遠慮したくなってしまう。しかし、さいわいにして、書き手の来店のタイミングは土曜の午前中で、さして混んではいない曜日と時間帯だったので、気兼ねなくQR決済を所望したのであった。ちなみに、スタンプは、この注文のタイミングで、店員に冊子を渡しスタンプを押してもらう事になる。
この店の定番メニューは、〈ロースカツカレー〉で、おすすめメニューは、〈焼き野菜社長カレー〉や、総重量二.五キログラムもの〈アパ社長メジャーカレー〉であった。たしかに、書き手は、これらの品にも心惹かれたのだが、今回は、八月三十一日までの〈夏限定〉メニューである〈夏野菜の彩カレー〉を注文する事にした。やはり、「限定」という言葉が持つ響きには抗えない魔力めいた何かがあるのだ。
例の如く、カレーが提供されるのを待っている間、書き手は、テーブルに置かれていた紙製のシートに書かれていた文言を読んでいた。
そのシートによると、アパ社長のカレーは「金沢カレーをベース」にしているらしい。
そもそも、アパホテルの第一号店、当時の名称は〈金沢ファーストホテル〉だったそうなのだが、そのホテルの開業地は石川県の金沢市で、だからこそ、シートにも「アパホテルの発祥地、石川」と書かれていたのであろう。
アパ社長のカレーが金沢カレーであるのも、これで納得である。
さらに、そのシートには、金沢カレーの五つの特徴が、こう記されていた。
「ルーは濃厚でドロっとしている」
「付け合わせとしてキャベツの千切りが載っている」
「ステンレス皿に盛られている」
「フォークまたは先割れスプーンで食べる」
「ルーの上にカツを載せ、その上にはソースがかかっている」
やがて間もなく提供されたカレーライスは、一枚の皿の中央部に盛られたライスを覆うように、どろっとした粘度が高そうなカレールーがたっぷりとかけられていた。
そのルーの具材は、赤、黄、緑といった様々な種類の色鮮やかな夏野菜で、皿の端にはキャベツが添えられていた。
そして、それらカレーライスとキャベツが置かれた皿はステンレス製で、色は銀色、スプーンは、銀色の先割れスプーン、白い皿に、丸いスプーンに慣れた者の目には、これが一風変わったものに映るかもしれない。しかし、これらは、まさしく、金沢カレー特有の食器であった。
この日、注文したのが、ロースカツカレーではなかったので、第五の特徴の確認はできなかったのだが、カツ以外の特徴は、アパ社長のカレーが典型的な〈金沢カレー〉である事を示していた。
しかし、カレーを口に運びながら抱いた事があって、それは何故のキャベツ、そして、先割れスプーンにステンレス性の銀色の食器なのか、という疑問であった。
あとで参照した「金沢カレーの歴史」というサイトによると、まず、キャベツが付け合わせになっているのは、金沢でカレーの提供を始めた店は、元々、洋食店で、例えば、カツカレーとは、豚カツ定食にカレーをかけたものだったそうなのだ。やがて、ご飯の上に、ふんだんにカレールーをかけ、定食時代そのままに、その脇にキャベツが添えられているという今の形に落ち着いたらしい。
ちなみに、そのサイトによれば、「カレーのルーは全体にかけ、ライスは全く見えないように盛り付けられて」いる事も金沢カレーの特徴である、との事であった。
アパ社長カレーでは、食べる時に使う器具、〈カトラリー〉は、先割れスプーンだったのだが、他店ではフォークをカトラリーにしている店もあるらしい。
それでは、スプーンではなく、フォークや先割れスプーンが使われる理由は何なのだろう?
これは、その昔、具材として使われていた欧州産の豚肉の肉質が固かったので、この豚肉を刺し、食べ易くするがために、カトラリーとして、フォークや先割れスプーンが利用されていたそうなのだ。
それでは、ステンレスの銀色の食器は?
なんでも、金沢カレーを提供している店舗は回転率が高く、多忙な店が多いので、すぐに破損してしまう瀬戸物の食器と違って、割れにくく、丈夫なステンレスの銀色の器が使われるようになった、というのが、その理由であるらしい。
でも、食材や食器の問題って、現代ではクリアされている話だよね。
もしかしたら、固いカツを具材として使わなくなっても、食べる時に使うカトラリーが今なおフォークや先割れ匙であったり、食器に、プラスチックの利用が可能になっても、今でも銀色の食器が使われているのは、銀の先割れの匙と銀の器が、そのカレーが〈金沢カレー〉であることを示す証になっているからなのかもしれない。
そう思った書き手であった。
〈訪問データ〉
アパ社長カレー 飯田橋駅南店:飯田橋・飯田橋南
D01
八月二十日・土曜日・十一時半
夏野菜の彩カレー:一〇〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「アパ社長カレー 飯田橋駅南店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十三ページ。
「アパ社長カレー」、店のテーブルに置かれていたシート。
〈WEB〉
「アパ社長カレー 飯田橋駅南店」、『APA HOTELS&RESORTS』、二〇二二年八月二八日閲覧。
「金沢カレーの歴史」、『チャンピオンカレー』、二〇二二年八月二八日閲覧。
書き手は、前日の金曜日に引き続き、土曜日の昼食もまた、飯田橋駅南エリアのカレー店で取る事に決めていた。
このエリアに在るカレー店は全部で六軒なのだが、Aコースに属している唯一のカレー店である〈スルターン〉は、前日の昼にクリア済みであったので、コース戦略は括弧に入れて、この日は、エリア優先で、Dコースの〈アパ社長のカレー〉を訪れる事にしたのであった。
飯田橋駅を背にし、九段下方面に向かった場合、目白通りの左側にある背の高い建物がアパホテルで、その一階に在るのが〈アパ社長カレー 飯田橋駅南店〉である。
この店のカレーは、二〇一九年の「神田カレーグランプリ」で三位に入っているので、書き手は、ある種の期待感を抱きながら、店へと向かった。
注文は、店の入口にある券売機で購入するスタイルなのだが、券売機自体は現金のみ対応の機械なので、QR決済を希望する客は、店に入ってから直接、店員に申し出て決済処理をしてもらう事になる。しかし、これは、店員の仕事を増やす行為なので、店が混んでいた場合、少し遠慮したくなってしまう。しかし、さいわいにして、書き手の来店のタイミングは土曜の午前中で、さして混んではいない曜日と時間帯だったので、気兼ねなくQR決済を所望したのであった。ちなみに、スタンプは、この注文のタイミングで、店員に冊子を渡しスタンプを押してもらう事になる。
この店の定番メニューは、〈ロースカツカレー〉で、おすすめメニューは、〈焼き野菜社長カレー〉や、総重量二.五キログラムもの〈アパ社長メジャーカレー〉であった。たしかに、書き手は、これらの品にも心惹かれたのだが、今回は、八月三十一日までの〈夏限定〉メニューである〈夏野菜の彩カレー〉を注文する事にした。やはり、「限定」という言葉が持つ響きには抗えない魔力めいた何かがあるのだ。
例の如く、カレーが提供されるのを待っている間、書き手は、テーブルに置かれていた紙製のシートに書かれていた文言を読んでいた。
そのシートによると、アパ社長のカレーは「金沢カレーをベース」にしているらしい。
そもそも、アパホテルの第一号店、当時の名称は〈金沢ファーストホテル〉だったそうなのだが、そのホテルの開業地は石川県の金沢市で、だからこそ、シートにも「アパホテルの発祥地、石川」と書かれていたのであろう。
アパ社長のカレーが金沢カレーであるのも、これで納得である。
さらに、そのシートには、金沢カレーの五つの特徴が、こう記されていた。
「ルーは濃厚でドロっとしている」
「付け合わせとしてキャベツの千切りが載っている」
「ステンレス皿に盛られている」
「フォークまたは先割れスプーンで食べる」
「ルーの上にカツを載せ、その上にはソースがかかっている」
やがて間もなく提供されたカレーライスは、一枚の皿の中央部に盛られたライスを覆うように、どろっとした粘度が高そうなカレールーがたっぷりとかけられていた。
そのルーの具材は、赤、黄、緑といった様々な種類の色鮮やかな夏野菜で、皿の端にはキャベツが添えられていた。
そして、それらカレーライスとキャベツが置かれた皿はステンレス製で、色は銀色、スプーンは、銀色の先割れスプーン、白い皿に、丸いスプーンに慣れた者の目には、これが一風変わったものに映るかもしれない。しかし、これらは、まさしく、金沢カレー特有の食器であった。
この日、注文したのが、ロースカツカレーではなかったので、第五の特徴の確認はできなかったのだが、カツ以外の特徴は、アパ社長のカレーが典型的な〈金沢カレー〉である事を示していた。
しかし、カレーを口に運びながら抱いた事があって、それは何故のキャベツ、そして、先割れスプーンにステンレス性の銀色の食器なのか、という疑問であった。
あとで参照した「金沢カレーの歴史」というサイトによると、まず、キャベツが付け合わせになっているのは、金沢でカレーの提供を始めた店は、元々、洋食店で、例えば、カツカレーとは、豚カツ定食にカレーをかけたものだったそうなのだ。やがて、ご飯の上に、ふんだんにカレールーをかけ、定食時代そのままに、その脇にキャベツが添えられているという今の形に落ち着いたらしい。
ちなみに、そのサイトによれば、「カレーのルーは全体にかけ、ライスは全く見えないように盛り付けられて」いる事も金沢カレーの特徴である、との事であった。
アパ社長カレーでは、食べる時に使う器具、〈カトラリー〉は、先割れスプーンだったのだが、他店ではフォークをカトラリーにしている店もあるらしい。
それでは、スプーンではなく、フォークや先割れスプーンが使われる理由は何なのだろう?
これは、その昔、具材として使われていた欧州産の豚肉の肉質が固かったので、この豚肉を刺し、食べ易くするがために、カトラリーとして、フォークや先割れスプーンが利用されていたそうなのだ。
それでは、ステンレスの銀色の食器は?
なんでも、金沢カレーを提供している店舗は回転率が高く、多忙な店が多いので、すぐに破損してしまう瀬戸物の食器と違って、割れにくく、丈夫なステンレスの銀色の器が使われるようになった、というのが、その理由であるらしい。
でも、食材や食器の問題って、現代ではクリアされている話だよね。
もしかしたら、固いカツを具材として使わなくなっても、食べる時に使うカトラリーが今なおフォークや先割れ匙であったり、食器に、プラスチックの利用が可能になっても、今でも銀色の食器が使われているのは、銀の先割れの匙と銀の器が、そのカレーが〈金沢カレー〉であることを示す証になっているからなのかもしれない。
そう思った書き手であった。
〈訪問データ〉
アパ社長カレー 飯田橋駅南店:飯田橋・飯田橋南
D01
八月二十日・土曜日・十一時半
夏野菜の彩カレー:一〇〇〇円(QR)
〈参考資料〉
「アパ社長カレー 飯田橋駅南店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十三ページ。
「アパ社長カレー」、店のテーブルに置かれていたシート。
〈WEB〉
「アパ社長カレー 飯田橋駅南店」、『APA HOTELS&RESORTS』、二〇二二年八月二八日閲覧。
「金沢カレーの歴史」、『チャンピオンカレー』、二〇二二年八月二八日閲覧。
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