カレイなる日々

隠井迅

文字の大きさ
上 下
2 / 147
一巡目(二〇二二)

第000匙 咖喱店朱印蒐集を意識してしまった

しおりを挟む
 書き手は、初めてカレー・スタンプラリーを巡った〈二〇二二〉年の事を思い起こしていた。

               *

 それは、八月の初めの事であった。

 所用で秋葉原に赴いた時、用事の開始まで、しばし時間があったので、書き手は、食事を済ませてしまう事にした。
 秋葉原で食事をする場合、決まったお店に入ることが多く、今や、飲食店に関しては、新規開拓は殆どしないのだが、生憎、いつもの店が休業だったので、目に入ったカレー店に入って、手早く食事を済ませよう、と書き手は考えた。

 書き手は、その店の名物であるロースカツカレーを注文した。
 カツが揚げ上がるまで少し時間がかかるそうなので、待ち時間の暇つぶしに、テーブルの上に置かれていた一冊のフリー・ペーパーを手に取った。
 その冊子は「神田カレー街 公式ガイドブック 2022」と題されており、表紙の真ん中には、次のような文言があった。

 「神田カレー街 食べ歩きスタンプラリー」

 どうやら、今年、二〇二二年八月一日から、同年の十二月十五日までの四か月半、神田のカレーの〈スタンプラリー〉が催されるらしい。
 この日は〈八月六日〉だったので、この企画は、まだ始まったばかりであるようだ。

 めくってみると、冊子の中程に、四ページに渡ってスタンプラリーのページがあった。
 それは、マス目になっていて、一ページにつき、横・五、縦・七の三十五マス、四ページ目だけが、縦・六の三十、つまり合計で一三五マスとなっていた。
 その一三五は、さらに、AからEまでの五つのコースに分かれていて、それぞれのコースは、二十五の店と、一つのJRの駅、一つのメトロの駅の計二十七からなっている。

 つまるところ、このカレー・スタンプラリーをコンプリートするためには、一三五箇所でスタンプを押してもらう必要がある。しかし、それは、かなり高い難易度だ。
 開催期間は、四か月半の一三七日間なので、参加一二五店を、ほぼ毎日、通わなければコンプできない。
 だからであろう。
 ラリーは五つのランクに分かれていて、例えば、AからEの何れか一つのコース制覇で無印の「マイスター」、二コース制覇で「ブロンズマイスター」、三コース制覇で「シルバーマイスター」、四コース制覇で「ゴールドマイスター」、そして、全五コース制覇で「グランドマイスター」に成れる。
 このように、五つのランクがあるので、それぞれの方針に応じて、いずれかのコースを選んで、二五店を巡れば、少なくとも、無印の「マイスター」の称号は得られるのだ。

 実は、このカレー・スタンプラリーは数年前から実施されていて、駅に貼られていたポスターや、街中の店の前に立っているのぼりなどで、この「神田カレーグランプリ」の存在を、書き手は以前から知ってはいた。
 いたのだが、このスタンプラリーに自分が参加するという発想がなかったので、意識野に入ってはいなかったのだ。そして、待ち時間にフリー・ペーパーを流し読みしていた際にも、全一二五店、否、一コース・二五店をクリアするだけでも凄いな、と完全に他所事と思っていた。

 そうこうしているうちに、注文したロースカツカレーがやってきたので、書き手は、さっそく、カツとカレーを口に運んだ。

 !!!!!!!!!!

 初めて入った店の、このカツカレー、とてつもなく美味だったので、秋葉原に来る機会があったら、この店を再訪する決意を抱いてしまった。
 さらに、である。
 どうせ、再びカレー店を訪れるのならば、いっちょ、今年のカレー・スタンプラリーに参加してみよう、という気にもなったのである。

 神田界隈のカレー店巡りをするのならば、闇雲に店に入るよりも、こうした企画を一つの切っ掛けにして、様々な店の色々なカレーを知っていくのが良いように思われる。
 その中には、未だ書き手が味わったことのない美味なるカレーとの新たな出会いが待っているかもしれない。

 そんな事を考えながら、書き手は冊子を鞄に入れたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

七絃──キンのコト雑記

国香
エッセイ・ノンフィクション
琴をキンと読めないあなた! コトとごっちゃにしているあなた! 小説『七絃灌頂血脉』シリーズを読んで、意味不明だったという方も、こちらへどうぞ。 本編『七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり』の虎の巻です。 小説中の難解な楽器や音楽等について、解説しています。 これを読めば、本編の???が少しは解消するかもしれません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...