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後日談 クリスとエラの事情
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「だから、クリス先生にはエラしかいないんですよ。」
突然、タウンハウスの公爵邸で寛いでいたクリスの元に従兄弟の息子のケントが訪ねてきて、いきなりエラとの結婚を進言してきた。
「何をバカなことを」
そうクリスがあしらった途端、エラがクリスにお似合いな理由トップ10を上げてきた。
①エラを見かけても逃げない。
②エラと普通に飲食を共に出来る。
③エラとは同じ屋敷で結界を張らずに寝られる。
④エラとはなにも意識しないで話が出来る。
⑤エラとはなにも話さなくても気にならない。
⑥エラとなら魔法以外の話も出来る。
⑦エラの趣味を興味深く眺めていられる。
⑧エラの服装のギャップを新鮮だと見ていられる。
⑨エラと暮らすことを自然に想像できる。
⑩あと2年で30になるので、このままだと魔法使いになってしまうが、エラならそれも受け入れてくれる。
「⑩はどういう意味?」
クリスが首を傾けて聞き返した。
「クリス先生はご存じないですか?男は30まで童●だと魔法使いになれるそうですよ。」
ケントが少し得意気な顔をして説明をした。
「じゃあ、魔法使いはみな童●って見られているってことかい?」
皮肉な笑顔を向けてケントに嫌みを言うが、
「さすがにそれは無いでしょうけど、エラならそう言えば『確かにさすが大魔法使いですね、尊い』って言って祈ってくれますよ。そんな寛容な人は、そういないですよ。」
ケントはそれを意に返さず、如何にもエラが答えそうな回答をエラの物真似つきで答えた。
「・・・・・ケント、君はサリーと違う意味で物知りだね。どこでそんな話を?」
そう問うクリスに、ケントは
「この家のメイドに、ある時期からそう言った類いの娯楽本が出回りだしたんですよ。
みな回し読みしていたらしくて、休憩室でも娯楽室でも何気なく置いてあるんですよ、ふと目につきやすい場所にそっとあるんです。で、見つける度に読んでみました。
それから、意識してメイドたちの話を聞くようにしたんですよ、そしたら、多くのメイドは恋の話が好きなんですよね、誰それが彼氏ができた、フラれた、あの子は駄メンズだの、男の前では猫を被ってるだのってね。
それを聞き、更に本を読み、繰り返すこと数年、そこで僕は気がついたんですよ、統計上クリス先生とエラは上手く行くハズってね。」
始まりはエラの置き土産の、ラノベであった。
エラが読み尽くした古い本を布教と称して回りのメイド仲間に貸し出し、それがメイド仲間内で回し読みされていき、公爵のタウンハウスにメイド内でちょっとした流行になっていたのを、ケントがたまたま気づいて本を読んだことから始まった。
ケントは、ビーのエルも読破した、始めは脳が拒否したが、暫くしたら慣れた。
今では立派なラノベ愛好家である。
「エラ、クリス先生と結婚するのはどう?」
タウンハウスの応接室にクリスと赴き、エラを呼んで単刀直入にケントが聞く。
「私など、恐れ多いです。」
ぶれない女、エラである。
「恐れ多くない、人助けだと思ってエラ、結婚してあげてよ。」
ケントが悪びれず本人の前で言ってのけた。
「それはどういう意味ですか?」
エラが要領を得ない様子に質問を返すと、
「クリス先生はもうすぐあと数年で30才だよ、このままじゃ魔法使いになっちゃうよ。」
クリスに言ったまんまをエラに伝えた。
「そ、それはあの、伝説の魔法使いのことですか!いや、しかしそんなことは無いですよ、だってクリス様は既に、今代の大魔法使いですもの。ケント様、あれは物語の設定と言うものですよ、そろそろ現実との違いを知る方が傷は浅いのでぶっちゃけちゃいますが。俺様ヤンデレなぞ、現実に居たらそれはもう恐怖のストーカーですからね、絶対真似しちゃダメですよ!」
エラがケントに本気のダメ出しをして嗜めた。
「え?以外・・・」
クリスがそのエラの反応に少なからず興味をひかれた様子。
「そうですか?如何せん、私だって物語と現実の区別くらいつけますよ、この国の王家の行く末を見てたら頭の中お花畑だと破滅しちゃいますもの。」
エラがけっこう的確な論評をしていた。
「へえぇ、エラって思っていたのとは違うね。」
クリスのこの言葉に、ケントは、
「では、前向きに検討してもらっても?」
なぜかエラが了承したことになって話が進みだした。
「え?え?なぜですか?クリス様結婚したいんですか?」
エラが驚いたようにクリスに聞いた。
「結婚したいという気は持ってなかったが」
「ですよね、クリス様はそのまま孤高の存在で居続けて下さい、尊い。」
エラがクリスの言葉に言葉を被せて、キラキラした目を向けて祈りだした。
「いや、孤高の存在ってなんだい?そんな存在になる気は無ぃ」
「誰とも交わらず、魔法とのみ真摯に向き合って行く、究極の魔術を求め研究に没頭し、気がつけばもう余命幾ばくもない。ああ、私の一生はこの魔法を生み出すためにあったんだ、ガクッて感じで。後の大賢者に相応しい最期を」
クリスの話に、やはりエラは言葉を被せなにやら斜め方向に暴走を始めた。
エラのストーリーにはクリスはなにか究極の魔法を完成させることに生涯を捧げる系の展開らしい。
「いや、そんなに魔法を極めるつもりもない!エラ、僕はそんなに魔法オタクじゃないんだよ。
もし自分と生活を共にしても良いと双方が思う相手が出来たら、兄たちのように普通の日常を過ごしたいとさえ、思っている。大賢者になろうという発想も持ってないし、だいたい大賢者ってどんな人?」
「大賢者とは、人知を越えた存在なのです」
エラはクリスの話の前半をスキップしたようだ。
「うん、それだったらガブの方が適任では?神の力を与えられてる者にその称号は相応しいよ。」
「いえいえ、それではサリーが可哀想です。サリーとガブの胸キュンは外せない王道ですから。」
「だからって、その役を僕に押し付けるのは頂けないな。」
無意識に、女性とかなり近い距離で会話をしているクリスを見て、黙って掛け合いを聞いていたケントが口を挟んだ。
「なら、やっぱりエラが結婚してあげるしかないよ、孤高の大賢者は嫌だってさ。ほのぼのスローライフ系がお望みらしいよ。エラはクリス先生のこと、嫌いじゃないんでしょ?推しなんだから。」
「ななななな、なぜそれを!」
エラがギギギっと音がしそうなほど不自然に首を捻ってケントを見て声をあげた。
「そりゃあ、スコット公爵領で侍女をしたいっていったのは半分は姉上のためだけれど、あと半分は生クリスを拝むためってメイドのみんなが言っていたもの。」
「え?そうなの?」
クリスがエラの顔を覗き込む。
「あ、あ、あの推しというのは、その、嫌がる相手を無理矢理自分に向かせるようなことでは無いんです。ひっそりと日常の良いショットを心のアルバムに貯めていき、空いた時間に反芻して楽しむという、個人技なんです。決してクリス様にまとわりついて迷惑をかけるようなヤラカシはしないものなので、どうかご気分を悪くなさらないで下さい。」
エラが顔色を悪くしながら、つらつらと言い訳を語った。
「エラはクリス先生がトラウマになった学生時代のことを気にしているんだよね、でもその人とエラは立場が違うから大丈夫、だよね?クリス先生。」
ケントがエラを慮ってクリスに問いかけた。
「あ、ああ、嘗ての女性とエラは違うよ。エラは今まで一緒に居て僕は一度もイヤだと思ったことはな、い、な。うん、イヤなことは無かった。サリーやガブも一緒に居たが、エラに不快な思いを持ったことは無かった。」
クリスが自身の顎を人差し指で撫でながら、過去を思い出しているのか、そう言い切った。
「え?そうですか。それはヨカッタデス」
なぜかエラが赤くなってモジモジし始めた。
「じゃあ、お互いの気持ちに向き合って前向きに話し合って。では、後は若い者同士でごゆるりと。」
そういうと、ケントは部屋から出ていくのだった。
「何を言ってるんだアイツは。アイツが一番若い者だろうに・・・、で、だな。エラ、僕は君より8つも年上だし、今は臨時でケントの家庭教師をしているが、まあ職についていない。下手したら近いうちに無職になってしまうかもしれないのだが、そんな甲斐性無しな男と結婚してくれるのかい?」
自分で言っていて途中から悲しくなってしまったクリスが、捨て犬のような悲壮感を背負いながらエラに聞いてきた。
「ええ!私なんかがクリス様に良い悪いの判断するのも烏滸がましい!のですが、モチロン私でよければ、末長くお願い致します。
私、女剣士としてこれからもギルドで仕事を請け負ってクリス様の一人や二人養ってみせますから、そんな贅沢はさせてあげれるかわからないですが、いやダンジョンに一発潜ればあるいは贅沢させられるか!?
頑張ってダンジョン制覇して、クリス様が楽に暮らせるように頑張りますから、ヨロシクお願いします。」
ガバリっと頭を下げて、エラが男前な宣言をした。
「いや、いやいやいやいや、女剣士としてあの格好でダンジョンとかそれはぜひ辞めて欲しい!」
「全甲冑の方がお好みですか?」
「お好みかは置いといて、着るならじゃあ、全甲冑で。僕も冒険者だから、一緒に旅をして暮らせば良いね。ダンジョンも僕が一緒なら制覇も出来るだろうし、うん、楽しそうだ。」
そうして、二人が結婚の意思を持って冒険の話を熱く語っているところに、ケントが現れ、そうして1話前に戻るのである。
その後、叔父の公爵が国王になると時を同じくして、クリスは公爵にエラは公爵夫人となり、冒険の旅もダンジョン制覇も叶わぬ夢となったのであるが、二人は3人の子供にも恵まれ、末長く仲睦ましく暮らしたのであった。
《完》
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残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となるの4話目[魔法の先生]が不手際で消えてしまいました。スミマセン。3話の末尾に追記してありますが、良いねしてくださった方申し訳ありませんでした。
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