6 / 28
クリスの隠し子騒動 ①
しおりを挟む
クリスはサリエルの魔法の教師として一室を与えられ公爵邸で生活するようになった。
「学園卒業後は寮を出なければならないのに『魔術師団に入らないならば屋敷の門は跨げないと思え』なんて父上に言われてちょうどどうしょうかと思っていたところだったんだ。あの時小公爵から声をかけられなければ、どこか行くあての無い旅へと出ようかと思っていた矢先だったのでね、ちょうど良かったよ。」
朝食の席で朝から朗らかにクリスが話すと、小公爵の眉間に深い皺が寄った。
クリスとガブがやって来てからサリエルの一日は劇的に変わった。
朝は日が昇る前に起き出して、ガブとクリスと共に公爵邸の私設騎士団の鍛錬場へ向かい広い外周を走り、クリスが独自に編み出したという準備体操をした後模造刀を使って剣術指南をクリスから受けた。
クリスは本人が何でも教えられると豪語するだけあって、大魔法使いであるだけでなく、剣術も確かな腕前であった。
初めて剣を持つサリエルとガブに、先ずは剣の重さを軽減する魔法を教える。
それが出来るようになると、次にクリスの動きを模倣する魔法も教えてそれをサリエルとガブはお互いかけっこをさせた。
そうして、やっと、剣術を教え出すのである。
教える、というのもまた違って、クリスの身体動作をコピーする魔法をかけた二人にクリスが切りかかる。
かわす、切りかかる、かわす・・・サリエル・ガブチームとクリスの2対1で延々とそれを繰り返すのだった。
とにかくクリスの教え方は何であれ同じ様子で、乗馬であれ体術であれ、語学であれ、クリスの身体動作のコピー魔法をかけてすぐに実践を行うのだ、魔法の授業以外は。
今まで座学の授業のように、教師が教え生徒が覚えるというやり方しか知らないサリエルはこのクリス式授業に感動した。
「クリス先生、このやり方ってとても効率がいいわ。覚える時はまず真似から入るのですもの、特に体を使うものは動きを体に覚え込ませることが重要ですものね。みな同じように学べばいいのに。」
「いや、このやり方はまずコピー魔法を使いこなせる素要素がなければ無理だよ。この魔法は闇属性がなければ出来ないからね、僕と君たち二人だから出来る方法だよ。」
そうして、朝の鍛錬を終えると、着替えて身支度を整えてクリスと家族と一緒に食事を取る。
そこは身分が違うので、ガブは使用人用の食堂で取るのだが。
そして、午前中いっぱい魔法の授業を受ける。
クリスは授業をサリエルの部屋だけでなく、公爵邸の庭や時には魔法で姿を変えて町中へと繰り出したり、王都の外れにある森へ乗馬で出掛けたりと気の向くまま自由に好きな場所で行った。
自由奔放なクリスの教え方に小公爵夫妻は頭を抱えていたのだが、一方でその授業中はサリエルが生き生きとして楽しそうに笑って過ごしている姿を見るにつけ、これが情緒教育ではないかとお互い慰めあって黙認していた。
側仕えのガブはサリエルの言うことを聞くだけでなく、間違いをやんわり嗜めたり、なんなら暴走しそうなクリスの手綱も巧く操って行くようになって行ったので、公爵邸のみなも温かい目で独創的なクリスの授業を見守っていた。
しかし、問題というのは慣れた頃に起こるもの。
その日の昼過ぎ、使用人の食堂で食事を終えたガブに侍従の一人が話しかけた。
「やあ、ガブ。いつも朝から晩まで大変だね、身体は大丈夫かい?」
使用人はみな、朝日が昇る前に起きて鍛錬し、夜サリエルをメイドに引き渡して寝る準備に入ると執事のセバスチャンにマナーや侍従の仕事を教わっているガブの姿をみていたので、まだ幼い子供なのに大丈夫かと心配していた。
「はい、特に問題は無いです。」
しかし、ガブは特に気にする素振りも無い。
「そうかい、ねえ、これからは何をするか決まっている?」
「午後はサリー様はピアノと刺繍のお稽古だそうなので、僕は特に用はありません。セバスさんに侍従についてマナーを教えてもらおうかと思っていたくらいです。」
サリエルに名前で呼ぶように言われてから、セバスチャンに確認を取ると、お嬢様がそう命じたのであれば従うのが侍従であると教えられたので、あれ以来そう呼ぶことになった。
それは屋敷の者ならみな知っている。
家庭教師として多くのことをクリスが教えているのだが、令嬢に必要なお稽古事と領地経営についてはそれ専用の別の家庭教師が通いで来ていた。
その時間ガブは休息していてもいいし、他に学びたいことがあればしても良いと言われていた。
「なら良かった。そろそろ暑くなってきただろう?最近、みなで各部屋の模様替えを行っているのだが少し手伝ってくれないかい?」
その侍従に頼まれると、
「ええ、良いですよ。お手伝いします。」
二つ返事で答えた。
その日、ピアノのお稽古が終わった後、来る筈だった刺繍の家庭教師が体調不良で急に来れなくなり時間が空いてしまったサリエルは、ガブとお茶でもしようかと公爵邸の中を探し歩いていた。
それを部屋から出てきたクリスが気がつき、サリエルに声をかけた。
「ねえ、サリーどうしたの?」
「あら、クリス先生。刺繍の先生がご病気で授業がお休みになってしまったので、ガブとお茶でもしようかと探しているのですけれど、姿が見えないようで。」
「ああ、今は夏の屋敷に模様替えをしている最中だから、その手伝いにガブも呼ばれたのかもしれないね。」
「まあ、そうですのね。先生はお出掛けですの?」
しょんぼりとした様子のサリエルがクリスに尋ねた。
「やあ僕も時間が空いたのでね、久しぶりに王立図書館へでも出掛けようかと。どうだい、暇ならサリー君も一緒に行くかい?」
クリスの楽しそうなお誘いに、サリエルは二つ返事で答えた。
「ええ、お願いしますわ。」
サリエルはクリスが一緒なら、屋敷の外に出ても咎められることはない。
王国一の魔法使いが護衛でついているのだから。
しかし、その護衛の魔法使いが厄介者なのだが本人は頓着がない。
サリエルを小脇に抱えると、転移魔法を詠唱してあっという間に王立図書館の前に着いてしまった。
「まあ、これが転移魔法!素晴らしいですわ。わたくしにも出来るかしら?」
目をキラキラさせてサリエルがクリスに尋ねる。
「そうだね、これもは闇と風属性が必要な魔法だから、練習次第でサリーもいずれ出来るようになるよ。まだ魔力量が足りないから、すぐには無理だけれどね。」
そうクリスがサリエルを地面に下ろしながら答えた。
王宮の近くにある王立図書館はいつも人の往来が多い場所である。
そこに、滅多にお目にかかることが出来ない大魔法で現れた二人にそこにいる人々はギョッとして目を見張った。
(あれは今代の大魔法使いじゃないか!)
(あの連れの少女は誰だ?)
(同じ髪と目の色合いに、なんとなく面影が似ているような?)
(大魔法使いの隠し子じゃないか?)
(いや、それじゃ、あの少女の年頃からみて学園の時の子供か?)
(相手は誰だ?大魔法使いの恋人がいたのか!)
・・・
ヒソヒソと人々が囁く。
完全な誤解なのだが、魔術師団長の息子で王国一の魔法使いなのだが魔術師団に入らずしばらく行方知れずだったクリスが似た面立ちの少女を連れてやって来たのだ、本人を無視して噂が加速していく。
クリスとサリエルが髪と目の色が一緒なのは、サリエルが小公爵の色を受け継いだからであり、公爵家には良く出る色合いだ。クリスの母も黒髪黒目である。
どちらかと言えば母親似な顔立ちのサリエルだが、クリスは所謂女顔なのでそう見えただけなのだが。
二人連れだって図書館へと入っていく姿をみた人々は、サリエルをクリスの隠し子だと思い込んだのだった。
図書館の魔術書のコーナー仲良く魔術書を探しながら歩く姿を、そこにいた多くが目撃した。
小耳に挟む言葉の端々に、
「サリーなら・・魔法・・使える」
「僕と・・・同じだ・・大丈夫・・・」
「お父様・・・お願・・・」
「そうでは・・・出てしまおうか」
そんな単語が聞こえてきた。
そこにいた王宮の関係者がそっとその場を離れ、王宮へと急ぐ。
そして自身の主、王太子に今まさに囁かれている噂話を話した。
「なに?あの大魔法使いに隠し子がいた!と。そしてその娘が幼くして魔法が使えて、大魔法使いと同じだと、それを儚んでこの国を捨てて父娘で出国しようと考えて、図書館で新たに住まう国を探していると!なんということだ!
急ぎ、魔術師団長を呼べ!いやこうしては居れまい。私が足止めしておくので、そこに来るように伝えろ。
大魔法使いが向かう国は大きな戦力を手にするのだ、我が国にとっては驚異。しかも同じ素要素の子供まで連れて。
一刻の猶予もない。」
そう言うと王太子は側近を引き連れて王立図書館へと急ぎ向かった。
そんなことが起きているなど、全く気がつかない二人は、他国の魔術書を見ながら歓談室で楽しく話していた。
「クリス先生、言語が異なっていても魔法は同じなのですか?」
「ああ、サリー良いところに気がついたね。詠唱する言葉が違えども、発現する魔法は一緒だ。なぜなら呪文の基本部分は古代文字で決まっているのだから。犬というかドッグというか、そう言った物の名前が異なるだけなんだ。そして詠唱する時に脳裏に浮かぶ映像は、どこの国でも一緒だろ?犬とドッグ、同じ映像が頭に浮かぶ。そういう違いだけだ。」
ものすごく、真摯に魔法に向かい合っている二人であったが、残念ながら周囲はそう見ていなかった。
クリスが相手をしてるのはどうみても4、5才児で、古代文字だの他国の言語だの、理解できると普通は思わない。
しかし大魔法使いの娘なら、それも可能なのかもしれない、英才教育かはたまた出国の相談か・・・
談話室に居る者はみな息を潜めて話を聞いていた。
「学園卒業後は寮を出なければならないのに『魔術師団に入らないならば屋敷の門は跨げないと思え』なんて父上に言われてちょうどどうしょうかと思っていたところだったんだ。あの時小公爵から声をかけられなければ、どこか行くあての無い旅へと出ようかと思っていた矢先だったのでね、ちょうど良かったよ。」
朝食の席で朝から朗らかにクリスが話すと、小公爵の眉間に深い皺が寄った。
クリスとガブがやって来てからサリエルの一日は劇的に変わった。
朝は日が昇る前に起き出して、ガブとクリスと共に公爵邸の私設騎士団の鍛錬場へ向かい広い外周を走り、クリスが独自に編み出したという準備体操をした後模造刀を使って剣術指南をクリスから受けた。
クリスは本人が何でも教えられると豪語するだけあって、大魔法使いであるだけでなく、剣術も確かな腕前であった。
初めて剣を持つサリエルとガブに、先ずは剣の重さを軽減する魔法を教える。
それが出来るようになると、次にクリスの動きを模倣する魔法も教えてそれをサリエルとガブはお互いかけっこをさせた。
そうして、やっと、剣術を教え出すのである。
教える、というのもまた違って、クリスの身体動作をコピーする魔法をかけた二人にクリスが切りかかる。
かわす、切りかかる、かわす・・・サリエル・ガブチームとクリスの2対1で延々とそれを繰り返すのだった。
とにかくクリスの教え方は何であれ同じ様子で、乗馬であれ体術であれ、語学であれ、クリスの身体動作のコピー魔法をかけてすぐに実践を行うのだ、魔法の授業以外は。
今まで座学の授業のように、教師が教え生徒が覚えるというやり方しか知らないサリエルはこのクリス式授業に感動した。
「クリス先生、このやり方ってとても効率がいいわ。覚える時はまず真似から入るのですもの、特に体を使うものは動きを体に覚え込ませることが重要ですものね。みな同じように学べばいいのに。」
「いや、このやり方はまずコピー魔法を使いこなせる素要素がなければ無理だよ。この魔法は闇属性がなければ出来ないからね、僕と君たち二人だから出来る方法だよ。」
そうして、朝の鍛錬を終えると、着替えて身支度を整えてクリスと家族と一緒に食事を取る。
そこは身分が違うので、ガブは使用人用の食堂で取るのだが。
そして、午前中いっぱい魔法の授業を受ける。
クリスは授業をサリエルの部屋だけでなく、公爵邸の庭や時には魔法で姿を変えて町中へと繰り出したり、王都の外れにある森へ乗馬で出掛けたりと気の向くまま自由に好きな場所で行った。
自由奔放なクリスの教え方に小公爵夫妻は頭を抱えていたのだが、一方でその授業中はサリエルが生き生きとして楽しそうに笑って過ごしている姿を見るにつけ、これが情緒教育ではないかとお互い慰めあって黙認していた。
側仕えのガブはサリエルの言うことを聞くだけでなく、間違いをやんわり嗜めたり、なんなら暴走しそうなクリスの手綱も巧く操って行くようになって行ったので、公爵邸のみなも温かい目で独創的なクリスの授業を見守っていた。
しかし、問題というのは慣れた頃に起こるもの。
その日の昼過ぎ、使用人の食堂で食事を終えたガブに侍従の一人が話しかけた。
「やあ、ガブ。いつも朝から晩まで大変だね、身体は大丈夫かい?」
使用人はみな、朝日が昇る前に起きて鍛錬し、夜サリエルをメイドに引き渡して寝る準備に入ると執事のセバスチャンにマナーや侍従の仕事を教わっているガブの姿をみていたので、まだ幼い子供なのに大丈夫かと心配していた。
「はい、特に問題は無いです。」
しかし、ガブは特に気にする素振りも無い。
「そうかい、ねえ、これからは何をするか決まっている?」
「午後はサリー様はピアノと刺繍のお稽古だそうなので、僕は特に用はありません。セバスさんに侍従についてマナーを教えてもらおうかと思っていたくらいです。」
サリエルに名前で呼ぶように言われてから、セバスチャンに確認を取ると、お嬢様がそう命じたのであれば従うのが侍従であると教えられたので、あれ以来そう呼ぶことになった。
それは屋敷の者ならみな知っている。
家庭教師として多くのことをクリスが教えているのだが、令嬢に必要なお稽古事と領地経営についてはそれ専用の別の家庭教師が通いで来ていた。
その時間ガブは休息していてもいいし、他に学びたいことがあればしても良いと言われていた。
「なら良かった。そろそろ暑くなってきただろう?最近、みなで各部屋の模様替えを行っているのだが少し手伝ってくれないかい?」
その侍従に頼まれると、
「ええ、良いですよ。お手伝いします。」
二つ返事で答えた。
その日、ピアノのお稽古が終わった後、来る筈だった刺繍の家庭教師が体調不良で急に来れなくなり時間が空いてしまったサリエルは、ガブとお茶でもしようかと公爵邸の中を探し歩いていた。
それを部屋から出てきたクリスが気がつき、サリエルに声をかけた。
「ねえ、サリーどうしたの?」
「あら、クリス先生。刺繍の先生がご病気で授業がお休みになってしまったので、ガブとお茶でもしようかと探しているのですけれど、姿が見えないようで。」
「ああ、今は夏の屋敷に模様替えをしている最中だから、その手伝いにガブも呼ばれたのかもしれないね。」
「まあ、そうですのね。先生はお出掛けですの?」
しょんぼりとした様子のサリエルがクリスに尋ねた。
「やあ僕も時間が空いたのでね、久しぶりに王立図書館へでも出掛けようかと。どうだい、暇ならサリー君も一緒に行くかい?」
クリスの楽しそうなお誘いに、サリエルは二つ返事で答えた。
「ええ、お願いしますわ。」
サリエルはクリスが一緒なら、屋敷の外に出ても咎められることはない。
王国一の魔法使いが護衛でついているのだから。
しかし、その護衛の魔法使いが厄介者なのだが本人は頓着がない。
サリエルを小脇に抱えると、転移魔法を詠唱してあっという間に王立図書館の前に着いてしまった。
「まあ、これが転移魔法!素晴らしいですわ。わたくしにも出来るかしら?」
目をキラキラさせてサリエルがクリスに尋ねる。
「そうだね、これもは闇と風属性が必要な魔法だから、練習次第でサリーもいずれ出来るようになるよ。まだ魔力量が足りないから、すぐには無理だけれどね。」
そうクリスがサリエルを地面に下ろしながら答えた。
王宮の近くにある王立図書館はいつも人の往来が多い場所である。
そこに、滅多にお目にかかることが出来ない大魔法で現れた二人にそこにいる人々はギョッとして目を見張った。
(あれは今代の大魔法使いじゃないか!)
(あの連れの少女は誰だ?)
(同じ髪と目の色合いに、なんとなく面影が似ているような?)
(大魔法使いの隠し子じゃないか?)
(いや、それじゃ、あの少女の年頃からみて学園の時の子供か?)
(相手は誰だ?大魔法使いの恋人がいたのか!)
・・・
ヒソヒソと人々が囁く。
完全な誤解なのだが、魔術師団長の息子で王国一の魔法使いなのだが魔術師団に入らずしばらく行方知れずだったクリスが似た面立ちの少女を連れてやって来たのだ、本人を無視して噂が加速していく。
クリスとサリエルが髪と目の色が一緒なのは、サリエルが小公爵の色を受け継いだからであり、公爵家には良く出る色合いだ。クリスの母も黒髪黒目である。
どちらかと言えば母親似な顔立ちのサリエルだが、クリスは所謂女顔なのでそう見えただけなのだが。
二人連れだって図書館へと入っていく姿をみた人々は、サリエルをクリスの隠し子だと思い込んだのだった。
図書館の魔術書のコーナー仲良く魔術書を探しながら歩く姿を、そこにいた多くが目撃した。
小耳に挟む言葉の端々に、
「サリーなら・・魔法・・使える」
「僕と・・・同じだ・・大丈夫・・・」
「お父様・・・お願・・・」
「そうでは・・・出てしまおうか」
そんな単語が聞こえてきた。
そこにいた王宮の関係者がそっとその場を離れ、王宮へと急ぐ。
そして自身の主、王太子に今まさに囁かれている噂話を話した。
「なに?あの大魔法使いに隠し子がいた!と。そしてその娘が幼くして魔法が使えて、大魔法使いと同じだと、それを儚んでこの国を捨てて父娘で出国しようと考えて、図書館で新たに住まう国を探していると!なんということだ!
急ぎ、魔術師団長を呼べ!いやこうしては居れまい。私が足止めしておくので、そこに来るように伝えろ。
大魔法使いが向かう国は大きな戦力を手にするのだ、我が国にとっては驚異。しかも同じ素要素の子供まで連れて。
一刻の猶予もない。」
そう言うと王太子は側近を引き連れて王立図書館へと急ぎ向かった。
そんなことが起きているなど、全く気がつかない二人は、他国の魔術書を見ながら歓談室で楽しく話していた。
「クリス先生、言語が異なっていても魔法は同じなのですか?」
「ああ、サリー良いところに気がついたね。詠唱する言葉が違えども、発現する魔法は一緒だ。なぜなら呪文の基本部分は古代文字で決まっているのだから。犬というかドッグというか、そう言った物の名前が異なるだけなんだ。そして詠唱する時に脳裏に浮かぶ映像は、どこの国でも一緒だろ?犬とドッグ、同じ映像が頭に浮かぶ。そういう違いだけだ。」
ものすごく、真摯に魔法に向かい合っている二人であったが、残念ながら周囲はそう見ていなかった。
クリスが相手をしてるのはどうみても4、5才児で、古代文字だの他国の言語だの、理解できると普通は思わない。
しかし大魔法使いの娘なら、それも可能なのかもしれない、英才教育かはたまた出国の相談か・・・
談話室に居る者はみな息を潜めて話を聞いていた。
288
残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となるの4話目[魔法の先生]が不手際で消えてしまいました。スミマセン。3話の末尾に追記してありますが、良いねしてくださった方申し訳ありませんでした。
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる