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居なくなった!?魔法の先生登場
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公爵邸では、深夜にも関わらず煌々と魔石のランプが灯り、全員体制でサリエルの捜索にあたっていた。
先程まではベッドで寝ていたハズのお嬢様が居ないのだ!
交代の騎士がそっと中を伺ったところ、お嬢様のルームシューズが無い、おかしいぞとベッドをみるとそこには誰も寝ていない。
急ぎ、父の小公爵と騎士団長に報告しての大捜索が始まった。
「お、お前たち、何をしていたんだ!」
大激怒の小公爵を前に、扉番の騎士は平謝りであるが、本当に先程まで居たのだと、交代の瞬間の数分、いや一分位の時間で居なくなったのだが、そんなハズがあるかと怒鳴られた。
「勝手戸の施錠が開いています。お嬢様は外に連れ出されたのでは!?」
捜索していた執事が鍵が開いているのを見つけて、
《誘拐!?公爵邸で!?》
と一同に戦慄が走った。
と言うことは、魔法使いか闇ギルドの者が絡んでいるのではないか、と悪い方へと意識が流される。
「な、なぜサリエルが!」
母親の小公爵夫人が泣き崩れる。
「わからぬが、どこぞの貴族の恨みを買ったか、サリエルの才能を聞き付けた者に拐われたか、もしくは他国の工作か!とにかく王国騎士団と憲兵に至急連絡だ!団長、公爵邸の警備を残して、速やかにサリエルを探せ!私も捜索に加わる。」
「御意」
大捜索が始まった。
一方同時刻、闇ギルドの見張りが中を覗くといるハズの小僧が居ない。
中に入って見てみると、壁に小さな穴が空いていた。
「あんの、小僧、逃げやがったな!」
「ど、どうやって。」
「みりゃわかんだろ、あの小僧魔法で穴を空けて出てったんだ!司祭め何がまだ魔法は使えないだ!いい加減なこと言いやがって。」
「お前たち、探せ。小僧を探して連れてこい。足や手の一本二本折ってでも連れてこい!」
報告を聞いた、あの豚鼻の男が青筋を立てて、子分に命令していた。
「なんか慌ただしい足音が聞こえませんこと?」
身の上話を木箱の上でしていたサリエルとガブは遠くから聞こえる騒がしい声と足音に気がついた。
「あ、ギルドの奴らに抜けたのバレたか!」
ガブは頭を抱えた。
「まあ、そうですのね。ではここから逃げますか?」
サリエルは何でもないように言ってのけた。
「え?どうやって?」
「魔法を使ってですわ。《闇のローブ》」
サリエルが魔法を詠唱し、先程の倍の大きさのローブが二人を包む。
『シズカニススメデスワ』
小さい声でサリエルが指示し、ガブは首肯した。
二人で足音と反対方向に向かって歩き出した。
足音をさせないように、ゆっくり静かに。
そして、大通りの明るい街灯の下までやって来た時、
「いたー!親方、居ましたぜ!こんの小僧、手間かけさせやがって!」
闇ギルドの子分全速力で走って向かってきた。
「え?なんで見えてるの?」
ガブが自分の姿が見えることに驚いてサリエルに聞くと、
「どうやら、魔力切れのようですわ。ローブの大きさが二倍になったので随分くたびれました、もうここまでのよう、で、す、わ・・・」
そう言って、ガクンと崩れ落ちそうなサリエルの体を支えてガブが立ちすくんだ。
(ええー絶対絶命じゃーん。あーどうしよー)
「誰か、誰かたすけてーーーーーーーー!」
ガブが大きな声で叫んだ。
深夜の大通り、他には音がなく静かな時間帯だ。
かなり遠く離れた場所まで声が響いた。
「この小僧、お前のせいで俺たちが叱られたじゃねーか!なんだ、その小娘どうした!」
闇ギルドの子分たちがワラワラと集まって来て、ガブたちを取り囲む。
「なんだ、その娘良い服着とるな。貴族の娘か!お前どうした?拐ったか?」
「この娘も連れて帰りゃ親方の機嫌も直るだろう。」
「そうだな、結果オーライよ」
ニタリと笑い、ジリジリと迫り来る闇ギルドの子分。
(もう逃げれない、巻き込んでごめんよ。)
せめてサリエルが痛い思いをしないようにとガブが自身の体を盾にして守りの姿勢になった。
「おーお、いっちょ前にナイト気取りかよ。ハハン」
と、子分がガブの肩に手をかけた瞬間、その手をスゴい力で掴まれた。
「お前たち、こんなことしてただじゃおかないからな、覚悟しろ!」
公爵家騎士団の団長の怒声が響き渡った。
そこには公爵家だけでなく王国騎士団、憲兵までもワラワラ集まっており、一瞬で全員が捕らえられた。
その後、ガブからの話から闇ギルドの事務所へと踏み込み、全員捕縛、あの豚鼻の親方も西教会の司祭も児童誘拐の罪で捕まり、闇ギルドは解体されたのだった。
「君は誰だ、うちのサリエルとどういう関係だ」
ガブの前に、黒髪にカイゼル髭の身形の良い貴族が突然現れ、クタリと寝てしまったサリエルをガブから奪うと抱き抱えた。
「あ、あ、ガブと言います。闇ギルドから抜け出して路地に隠れている所をか、彼女に声をかけられて。そうしたら闇のローブという魔法を使って逃げようと言われたのですが、ここまで来て魔力切れと言ってました。」
ガブが、初めてみる高位貴族にブルブルと震えながら説明をした。
きっとこの女の子の父親だ。
自分が拐ったと思われたらどうしようと考えていると、
「な、なに!?闇のローブと言ったのか!確かか?」
「は、はい。魔術書を読んでできるようになったから家を抜けるのに使ったと言ってました。」
ガブはサリエルから聞いた話を精一杯思い出して伝えた。
「なんと!君、とにかくここではなんだ、我が家へと来たまえ。騎士団長、この場は任せたぞ。私はサリエルを先に連れて戻るからな。」
「お任せ下さい。後程、王国騎士団長と共に向かいます。」
「では、君。もう少し私の近くに寄りなさい。」
すると、光に包まれて一瞬で情景が変わった。
移動するとすぐに、執事という人に連いて行くよう言われ、そのまま進むと、メイドに風呂に入れられ、身支度を整えられた。
「ここはどこですか?貴族様のお屋敷ですか?」
ガブが所在無げにメイドに聞くと、
「ここはスコット公爵家です。」
メイドは丁寧に答えた。
「げ!公爵家!ではあの女の子、公爵家のお嬢さんだったんだ!」
ビックリして、ひどい言葉使いになってしまう。
「そうですよ、夜中に居なくなってしまって、誘拐されたかとみな大騒ぎだったのです。無事で良かった。」
「本当ですよ。さて、支度が整いましたね。ご主人様がお待ちです。こちらへ。」
風呂の前に会った執事について歩いて行くと、重厚な扉をその人がノックした。
「入れ。」
「失礼します。」
ガブが入室すると、その部屋のソファに小公爵夫妻が並んで座っていた。
「どうぞ、腰かけて。さて、君の話を聞かせて欲しい。そして今日起こったことも。」
そういう小公爵に、自分の身の上話から始まり、東の孤児院のはずが西の孤児院へ入れられたこと、魔力適性検査で闇属性で魔力量が一万と出たこと、翌日その司祭のお使いで行かされた場所が闇ギルドでそのまま捕まったこと。
暗殺者に成りたくないと逃げることを決意して穴を空ける魔法を使って逃げたこと、疲れて木箱の上で休んでいたら、暗闇から声がして幽霊かと思ったこと。
それがお嬢さんだったこと。闇ギルドの追手から逃げるためにお嬢さんが《闇のローブ》という魔法を二倍の大きさでかけてくれたけど、魔力切れで見つかったことを話した。
「あのね、ガブちゃん。うちのサリエルも闇ギルドに拐われていたのではないの?」
サリエルの母親と思われる人が祈るような感じで聞いてきた。
「いや、拐われていません。《闇のローブ》という魔法を使って勝手戸から自分で家出してきたと言ってました。」
「なんてこと!」
「なぜ家出したか理由は聞いたかね?」
夫人は泣きそうな顔をして体を震わせていて、小公爵は苦虫を噛んだような顔をして聞いてきた。
「・・・聞きましたけど。」
「教えてくれ。聞いたことで君の不敬はもちろん問わない。」
「お父様もお母様も誰もわかってくれないのよ。わたくしはやらなければならないことは全部やってきたのに、わたくしがしたいことはさせてくれないのだもの。わたくしはもう自分でしたいことをするのだわ!と、言ってました。」
「・・・そ、そうか。して、やりたいこととは何だと?どこにいくつもりだったのだろうか?」
「それが、まだあまりはっきりわからないそうです。行き場所は決まってないと言ってました。」
「・・・え?ではなぜ家出を?」
「《闇のローブ》の魔法がとりあえず出来たから家を出てみたと言ってました。」
「あなた!」
「そ、そうだな。規格外ではあるが、サリエルはまだ齢5才の子供だ。」
「そうですわね。少しお勉強をさせ過ぎたのかもしれません。あの子に必要なのは年相応の経験なのかもしれませんわ。」
「そうだな。そこでだ、ガブ君。君が良ければ我が公爵家で仕えないかな?サリエル付きの侍従としてだが。」
小公爵様が片眉をクイっと上げて聞いてきた。
そうして、ガブは公爵家の侍従見習いになったのだった。
主な仕事はサリエルの付き添い、サリエルの見張り、サリエルの稽古の相手、サリエルの見張り、サリエルの話し相手、サリエルの見張りだった。
(めちゃくちゃ見張りが多いなー)
しかし、闇魔法を使うお嬢様の見張りは同じ闇属性の自分が向いているのだそうだ。
サリエルと一緒に、公爵家騎士団の鍛練場での訓練を公爵家騎士から一緒に受け、魔術師の家庭教師に習って魔法を一緒に覚え、マナーや語学、領地経営などの講義も一緒に受けた。
読み書き計算くらいの簡単なことを娼館の管理人夫婦に習っただけのガブには難しかったが、そこはわかるまでじっくりとサリエルが教えてくれたので、気がついたら授業についていける位にはなっていた。
そうして、サリエルとガブはお嬢様と侍従という枠を越えて年を重ねて行くのだった。
「なるほど、ガブはガブリエルというのか。南の娼館にいた娼婦の息子で間違いは無いな。父親は不詳と、まあ職業柄そうかもしれんな。しかし、あの魔力量だ、どこぞの貴族か魔術師の落とし種の可能性は捨てきれんな。髪色も目の色も黒に見えるほど濃い紺色など、珍しい色彩だ。」
「はい。娼館の管理人にも聞き取りをしましたが、父親については不詳で間違いないそうです。と、いうのも娼館に来てまもなく妊娠が発覚したので、務める前に付き合いのあった者との子ではないかということでした。」
「そんな状態でよくその娼館も雇っていたな。」
「はい。オーナーに相談したところ、子を産み体が元に戻ってから仕事をさせれば良いと管理人も言われたそうで、何か訳ありかと思ったようなのですが、そこは黙って指示に従ったと言っておりました。」
「なるほど、なるほど。益々ガブの父親が貴族の可能性が高くなったな。して、そこのオーナーの子というわけではないのだな?」
「はい。あの娼館は先代のロンデール伯爵の妾が伯爵が亡くなった後に開いたようで、訳ありは訳ありでしょうが、オーナーの子という訳ではあるますまい。」
「ほほう、あの先代のロンデール伯に妾がいたのか、それすら話題にも上って無かったな。まあ、そこはおいおいでよい。」
小公爵は執務室で、執事のセバスチャンからガブに関しての報告を受けていた。
サリエルの家出騒ぎの際に一緒にいた少年だったが、あの混乱の中年の割りに適切な説明をする姿に見所感じてサリエルの付きの侍従見習いにと雇ったのだった。
一応身辺調査をかけたが、本人の申し出と寸部変わらぬ内容に、正直な性質もみられ公爵家の使用人に相応しいと小公爵は自慢の髭を撫でた。
「して、問題のあやつはどうなった?」
小公爵は眉間に皺を寄せて聞いた。
「はい。本日、言いつけの通り支度をして参ると連絡がございました。」
「では、そのように。」
小公爵は小さく溜め息をついた。
サリエルはあの日以来、非常に機嫌が良い。
あの夜中のお散歩(サリエルの中ではそうなっている)の時に知り合った小さな男の子(年上)が、サリエル付きの侍従見習いになって屋敷にやって来たのだ。
サリエルはあの日魔力切れをおこして寝てしまった。
魔力を極限まで使うと生命の危機なので、その前に無意識にシャットダウンするように人の体はできているのだ。そんなことは露知らず、自己流で初めて魔法を使ったのだ、魔力切れをおこしても当然である。
父の小公爵に抱き抱えられて屋敷に戻ると、母の小公爵夫人は泣きながらサリエルの小さな体を抱き締めた。
お抱えの医師の診断をすぐに受け命に別状は無いものの幼い身故に可及的速やかに魔力を補うことが必要と判断され、魔力の供給を母から受けることになった。
そして暫く眠りの魔法をかけられて、深い眠りから覚めた頃には、体調は全く以前と同じように戻ったのだった。
気づけば彼女の近くにあの晩の男の子がいた。
聞けば自分の側仕えになったという。
そしてもう少し体調を整えたら、彼と一緒ならば騎士団の鍛練に加われると父に言われたのだ。
その男の子は執事のセバスチャンに教わった所作で、ガブと名を名乗り挨拶をしたのだった。
「いい、サリエル。もう勝手に出歩いては行けないわ。魔法も勝手に使ってはダメよ。あなたが思うよりも危険っていっぱいあるのよ。」
母は今までにない、幼子に聞かせるように話しかけて言い聞かせた。
「そうですわね、お母様。わたくし、魔法が切れるのがあんなだとは思わなかったわ。知らないことがたくさんあるのね、もっと色々知りたいわ。お母様心配かけてごめんなさい。」
サリエルは母の意図を汲んでいるのか、些か不安が残るが、反省を口にした。
「ええ、そうね。あなたはお勉強はたくさんしてきたけれど、それ以外のことを教えてこなかったことを母も反省しているわ。そこで、あなたに新しい家庭教師の先生を紹介するわ。今日いらっしゃるのよ。」
「え?また家庭教師の先生?」
「ええ、魔法とあなたの知りたいことを教えて下さる先生よ。」
「まあ!魔法の先生!?嬉しい。お母様ありがとう。」
サリエルは喜び母に飛び付いてお礼を言ったのだった。
「初めまして、サリエル嬢。僕はクリストファー、クリスと呼んでくれ。君の父上の従兄弟だよ。僕の母と君の祖父の公爵が兄弟なんだ。」
そう言ってサリエルの前に座ったのは黒髪黒目の若く美しい青年だった。
「まあ、お兄様、そんなにお若いのに父の従兄弟ですの?」
「ああ、僕の母と公爵は一回りも年が離れている上に、僕と小公爵も一回り離れているからね。僕は今年学園を卒業したばかりなんだよ。学生生活が終わってしまって、どうしようと思っていた矢先に、この仕事を小公爵から頼まれてね、ホントに良いタイミングだ!」
クリス先生はそういうとにこやかに笑った。
貴族的な笑顔ではなく、満面の笑みというやつだ。
「まあ、学園を卒業するのに、お仕事決まってらっしゃらなかったの?我が一門ならば王国魔術師団へとお勤めするのが普通では?」
サリエルが驚いて聞き返す。
サリエルの父は魔法大臣、祖父は王国魔術師団の団長でスコット公爵家とそれに連なる家門の者は魔術師団へと入団するのが暗黙の了解となっている。
それなのに、学園を卒業しても仕事が決まってなかったなんて、(この人魔法使えるのかしら?)そんなことをサリエルは思ったのだった。
「はは、君、僕が魔法を使えないなどと不埒なことを考えただろう?こう見えても僕は学園を首席で卒業しているのだよ、安心したまえ。君に魔法の楽しさを存分に教えてあげよう。」
そうクリスはいうと、話はここまでと言って自身の羽織っているローブのポケット(ポケット?)から水晶を取り出した。
「さて、サリエル、君と、そっちのガブ君だったかな?君たちの魔力適性検査を始める。」
そういうと、テーブルの上に水晶を乗せて手を翳した。
「さあ、サリエル。僕の手の上に君の手を重ねておくれ。」
言われたようにサリエルが自分の手をクリスの手の上に乗せると、水晶が赤青緑白黒と5色に光った。
「え?ええ?なんと!なんと!サリエル素晴らしいよ。魔力量も10万とか信じられない。」
クリスは興奮の面持ちを向けた。
「では次はガブ、同じように。」
ガブは言われたように、クリスの手の上に自分の手を重ねた。
すると水晶が真っ黒になったが、その真ん中に一筋の光の筋が見えた。
「これはまた珍しい。魔力量も一万と十分だ。よーし、今日から二人とも僕の弟子だな!」
そういうと、クリスはサリエルとガブを抱き締めたのだった。
「さて、小公爵ご夫妻も席に着かれたので、適性検査の結果を発表する。」
場所を公爵邸の応接室へと移動すると、そこにはサリエルの両親がソワソワした様子で待っていた。
そこに、クリスとサリエル、その後ろからガブがやってきて、勧められるままガブも一緒にソファへ腰かけた。
「サリエルは火水土風闇と5属性を持ち、齢5才現在で魔力量10万だよ、さすがスコット公爵家の直系だね。
ガブは闇属性なんだが微弱な光の属性も併せ持つ非常に珍しいタイプだ。教会の司祭はしっかりした判定が出来なかったのだろうな。光と闇を持つ者など、この世界に何人いるかわからない。魔力量も7才で1万だ、十分才能があるね。」
クリスが小公爵に向かって楽しそうに検査結果を告げた。
「ま、まあ・・・」
その結果を聞いた小公爵夫人はフラりと目眩を覚えた。
「な!」
父の小公爵は一言呟くとそのまま黙ってしまった。
自分の可愛い幼い娘が5属性もあり、魔力量も既に魔術師団に入れるほど。
(なんてことでしょう)
(なんてことだ)
と、二人とも悲壮感に苛まれた様子である。
「お母様、どうされたの?お加減が悪いの?」
サリエルは母の顔色が悪くなったことに気がつき声をかけた。
「いいえ、大丈夫よ。ありがとう、サリエル。」
母はスッと姿勢を正して淑女の仮面を被った。
「お父様、なにかお困りなの?」
今度は父に尋ねる、二人の様子が明らかにおかしい。
「サリエル、その説明は師匠である僕がしよう。
いいかい、良くお聞き。魔法の属性があれば有るほど、魔術師の特性が色濃く出るんだ。魔力量が多いのもね。
僕は君と全く同じ5属性持ちで、今では魔力量は1億以上だろうね、もう測定も出来ないほどだよ。このトーホー王国で僕以上の魔力量がり、属性が多い者は一人も居ない。それでね、僕以上に魔術師の特性が強い者も居ないんだよ。」
クリスが自嘲気味に言った。
「クリス先生、魔術師の特性って何ですの?」
サリエルが小首を傾げて聞いた。
「魔法は想像力が有れば有るほどより魔法が展開できるんだよね、想像する力の源は自由な心。だから大魔法使いは魔術師の特性が強くでる、より自由に何物にも囚われず、気の向くままに、とね。」
クリスがサリエルにウインクをして言った。
「何を良さそうに自分の都合良く子供に言ってるんだ、サリエル、魔術師は『心は自由に、然れど行動は慎重に』が信条だ!それはさておき、これからキチンと魔法の使用について教えてくれるんだな。」
小公爵はクリスを睨んで強い語尾で言った。
「ええ、それは勿論。魔法の正しい使い方を教えますとも。二人ともヨロシクね!」
クリスがサリエルとガブの肩を抱いて楽しげに言った。
先程まではベッドで寝ていたハズのお嬢様が居ないのだ!
交代の騎士がそっと中を伺ったところ、お嬢様のルームシューズが無い、おかしいぞとベッドをみるとそこには誰も寝ていない。
急ぎ、父の小公爵と騎士団長に報告しての大捜索が始まった。
「お、お前たち、何をしていたんだ!」
大激怒の小公爵を前に、扉番の騎士は平謝りであるが、本当に先程まで居たのだと、交代の瞬間の数分、いや一分位の時間で居なくなったのだが、そんなハズがあるかと怒鳴られた。
「勝手戸の施錠が開いています。お嬢様は外に連れ出されたのでは!?」
捜索していた執事が鍵が開いているのを見つけて、
《誘拐!?公爵邸で!?》
と一同に戦慄が走った。
と言うことは、魔法使いか闇ギルドの者が絡んでいるのではないか、と悪い方へと意識が流される。
「な、なぜサリエルが!」
母親の小公爵夫人が泣き崩れる。
「わからぬが、どこぞの貴族の恨みを買ったか、サリエルの才能を聞き付けた者に拐われたか、もしくは他国の工作か!とにかく王国騎士団と憲兵に至急連絡だ!団長、公爵邸の警備を残して、速やかにサリエルを探せ!私も捜索に加わる。」
「御意」
大捜索が始まった。
一方同時刻、闇ギルドの見張りが中を覗くといるハズの小僧が居ない。
中に入って見てみると、壁に小さな穴が空いていた。
「あんの、小僧、逃げやがったな!」
「ど、どうやって。」
「みりゃわかんだろ、あの小僧魔法で穴を空けて出てったんだ!司祭め何がまだ魔法は使えないだ!いい加減なこと言いやがって。」
「お前たち、探せ。小僧を探して連れてこい。足や手の一本二本折ってでも連れてこい!」
報告を聞いた、あの豚鼻の男が青筋を立てて、子分に命令していた。
「なんか慌ただしい足音が聞こえませんこと?」
身の上話を木箱の上でしていたサリエルとガブは遠くから聞こえる騒がしい声と足音に気がついた。
「あ、ギルドの奴らに抜けたのバレたか!」
ガブは頭を抱えた。
「まあ、そうですのね。ではここから逃げますか?」
サリエルは何でもないように言ってのけた。
「え?どうやって?」
「魔法を使ってですわ。《闇のローブ》」
サリエルが魔法を詠唱し、先程の倍の大きさのローブが二人を包む。
『シズカニススメデスワ』
小さい声でサリエルが指示し、ガブは首肯した。
二人で足音と反対方向に向かって歩き出した。
足音をさせないように、ゆっくり静かに。
そして、大通りの明るい街灯の下までやって来た時、
「いたー!親方、居ましたぜ!こんの小僧、手間かけさせやがって!」
闇ギルドの子分全速力で走って向かってきた。
「え?なんで見えてるの?」
ガブが自分の姿が見えることに驚いてサリエルに聞くと、
「どうやら、魔力切れのようですわ。ローブの大きさが二倍になったので随分くたびれました、もうここまでのよう、で、す、わ・・・」
そう言って、ガクンと崩れ落ちそうなサリエルの体を支えてガブが立ちすくんだ。
(ええー絶対絶命じゃーん。あーどうしよー)
「誰か、誰かたすけてーーーーーーーー!」
ガブが大きな声で叫んだ。
深夜の大通り、他には音がなく静かな時間帯だ。
かなり遠く離れた場所まで声が響いた。
「この小僧、お前のせいで俺たちが叱られたじゃねーか!なんだ、その小娘どうした!」
闇ギルドの子分たちがワラワラと集まって来て、ガブたちを取り囲む。
「なんだ、その娘良い服着とるな。貴族の娘か!お前どうした?拐ったか?」
「この娘も連れて帰りゃ親方の機嫌も直るだろう。」
「そうだな、結果オーライよ」
ニタリと笑い、ジリジリと迫り来る闇ギルドの子分。
(もう逃げれない、巻き込んでごめんよ。)
せめてサリエルが痛い思いをしないようにとガブが自身の体を盾にして守りの姿勢になった。
「おーお、いっちょ前にナイト気取りかよ。ハハン」
と、子分がガブの肩に手をかけた瞬間、その手をスゴい力で掴まれた。
「お前たち、こんなことしてただじゃおかないからな、覚悟しろ!」
公爵家騎士団の団長の怒声が響き渡った。
そこには公爵家だけでなく王国騎士団、憲兵までもワラワラ集まっており、一瞬で全員が捕らえられた。
その後、ガブからの話から闇ギルドの事務所へと踏み込み、全員捕縛、あの豚鼻の親方も西教会の司祭も児童誘拐の罪で捕まり、闇ギルドは解体されたのだった。
「君は誰だ、うちのサリエルとどういう関係だ」
ガブの前に、黒髪にカイゼル髭の身形の良い貴族が突然現れ、クタリと寝てしまったサリエルをガブから奪うと抱き抱えた。
「あ、あ、ガブと言います。闇ギルドから抜け出して路地に隠れている所をか、彼女に声をかけられて。そうしたら闇のローブという魔法を使って逃げようと言われたのですが、ここまで来て魔力切れと言ってました。」
ガブが、初めてみる高位貴族にブルブルと震えながら説明をした。
きっとこの女の子の父親だ。
自分が拐ったと思われたらどうしようと考えていると、
「な、なに!?闇のローブと言ったのか!確かか?」
「は、はい。魔術書を読んでできるようになったから家を抜けるのに使ったと言ってました。」
ガブはサリエルから聞いた話を精一杯思い出して伝えた。
「なんと!君、とにかくここではなんだ、我が家へと来たまえ。騎士団長、この場は任せたぞ。私はサリエルを先に連れて戻るからな。」
「お任せ下さい。後程、王国騎士団長と共に向かいます。」
「では、君。もう少し私の近くに寄りなさい。」
すると、光に包まれて一瞬で情景が変わった。
移動するとすぐに、執事という人に連いて行くよう言われ、そのまま進むと、メイドに風呂に入れられ、身支度を整えられた。
「ここはどこですか?貴族様のお屋敷ですか?」
ガブが所在無げにメイドに聞くと、
「ここはスコット公爵家です。」
メイドは丁寧に答えた。
「げ!公爵家!ではあの女の子、公爵家のお嬢さんだったんだ!」
ビックリして、ひどい言葉使いになってしまう。
「そうですよ、夜中に居なくなってしまって、誘拐されたかとみな大騒ぎだったのです。無事で良かった。」
「本当ですよ。さて、支度が整いましたね。ご主人様がお待ちです。こちらへ。」
風呂の前に会った執事について歩いて行くと、重厚な扉をその人がノックした。
「入れ。」
「失礼します。」
ガブが入室すると、その部屋のソファに小公爵夫妻が並んで座っていた。
「どうぞ、腰かけて。さて、君の話を聞かせて欲しい。そして今日起こったことも。」
そういう小公爵に、自分の身の上話から始まり、東の孤児院のはずが西の孤児院へ入れられたこと、魔力適性検査で闇属性で魔力量が一万と出たこと、翌日その司祭のお使いで行かされた場所が闇ギルドでそのまま捕まったこと。
暗殺者に成りたくないと逃げることを決意して穴を空ける魔法を使って逃げたこと、疲れて木箱の上で休んでいたら、暗闇から声がして幽霊かと思ったこと。
それがお嬢さんだったこと。闇ギルドの追手から逃げるためにお嬢さんが《闇のローブ》という魔法を二倍の大きさでかけてくれたけど、魔力切れで見つかったことを話した。
「あのね、ガブちゃん。うちのサリエルも闇ギルドに拐われていたのではないの?」
サリエルの母親と思われる人が祈るような感じで聞いてきた。
「いや、拐われていません。《闇のローブ》という魔法を使って勝手戸から自分で家出してきたと言ってました。」
「なんてこと!」
「なぜ家出したか理由は聞いたかね?」
夫人は泣きそうな顔をして体を震わせていて、小公爵は苦虫を噛んだような顔をして聞いてきた。
「・・・聞きましたけど。」
「教えてくれ。聞いたことで君の不敬はもちろん問わない。」
「お父様もお母様も誰もわかってくれないのよ。わたくしはやらなければならないことは全部やってきたのに、わたくしがしたいことはさせてくれないのだもの。わたくしはもう自分でしたいことをするのだわ!と、言ってました。」
「・・・そ、そうか。して、やりたいこととは何だと?どこにいくつもりだったのだろうか?」
「それが、まだあまりはっきりわからないそうです。行き場所は決まってないと言ってました。」
「・・・え?ではなぜ家出を?」
「《闇のローブ》の魔法がとりあえず出来たから家を出てみたと言ってました。」
「あなた!」
「そ、そうだな。規格外ではあるが、サリエルはまだ齢5才の子供だ。」
「そうですわね。少しお勉強をさせ過ぎたのかもしれません。あの子に必要なのは年相応の経験なのかもしれませんわ。」
「そうだな。そこでだ、ガブ君。君が良ければ我が公爵家で仕えないかな?サリエル付きの侍従としてだが。」
小公爵様が片眉をクイっと上げて聞いてきた。
そうして、ガブは公爵家の侍従見習いになったのだった。
主な仕事はサリエルの付き添い、サリエルの見張り、サリエルの稽古の相手、サリエルの見張り、サリエルの話し相手、サリエルの見張りだった。
(めちゃくちゃ見張りが多いなー)
しかし、闇魔法を使うお嬢様の見張りは同じ闇属性の自分が向いているのだそうだ。
サリエルと一緒に、公爵家騎士団の鍛練場での訓練を公爵家騎士から一緒に受け、魔術師の家庭教師に習って魔法を一緒に覚え、マナーや語学、領地経営などの講義も一緒に受けた。
読み書き計算くらいの簡単なことを娼館の管理人夫婦に習っただけのガブには難しかったが、そこはわかるまでじっくりとサリエルが教えてくれたので、気がついたら授業についていける位にはなっていた。
そうして、サリエルとガブはお嬢様と侍従という枠を越えて年を重ねて行くのだった。
「なるほど、ガブはガブリエルというのか。南の娼館にいた娼婦の息子で間違いは無いな。父親は不詳と、まあ職業柄そうかもしれんな。しかし、あの魔力量だ、どこぞの貴族か魔術師の落とし種の可能性は捨てきれんな。髪色も目の色も黒に見えるほど濃い紺色など、珍しい色彩だ。」
「はい。娼館の管理人にも聞き取りをしましたが、父親については不詳で間違いないそうです。と、いうのも娼館に来てまもなく妊娠が発覚したので、務める前に付き合いのあった者との子ではないかということでした。」
「そんな状態でよくその娼館も雇っていたな。」
「はい。オーナーに相談したところ、子を産み体が元に戻ってから仕事をさせれば良いと管理人も言われたそうで、何か訳ありかと思ったようなのですが、そこは黙って指示に従ったと言っておりました。」
「なるほど、なるほど。益々ガブの父親が貴族の可能性が高くなったな。して、そこのオーナーの子というわけではないのだな?」
「はい。あの娼館は先代のロンデール伯爵の妾が伯爵が亡くなった後に開いたようで、訳ありは訳ありでしょうが、オーナーの子という訳ではあるますまい。」
「ほほう、あの先代のロンデール伯に妾がいたのか、それすら話題にも上って無かったな。まあ、そこはおいおいでよい。」
小公爵は執務室で、執事のセバスチャンからガブに関しての報告を受けていた。
サリエルの家出騒ぎの際に一緒にいた少年だったが、あの混乱の中年の割りに適切な説明をする姿に見所感じてサリエルの付きの侍従見習いにと雇ったのだった。
一応身辺調査をかけたが、本人の申し出と寸部変わらぬ内容に、正直な性質もみられ公爵家の使用人に相応しいと小公爵は自慢の髭を撫でた。
「して、問題のあやつはどうなった?」
小公爵は眉間に皺を寄せて聞いた。
「はい。本日、言いつけの通り支度をして参ると連絡がございました。」
「では、そのように。」
小公爵は小さく溜め息をついた。
サリエルはあの日以来、非常に機嫌が良い。
あの夜中のお散歩(サリエルの中ではそうなっている)の時に知り合った小さな男の子(年上)が、サリエル付きの侍従見習いになって屋敷にやって来たのだ。
サリエルはあの日魔力切れをおこして寝てしまった。
魔力を極限まで使うと生命の危機なので、その前に無意識にシャットダウンするように人の体はできているのだ。そんなことは露知らず、自己流で初めて魔法を使ったのだ、魔力切れをおこしても当然である。
父の小公爵に抱き抱えられて屋敷に戻ると、母の小公爵夫人は泣きながらサリエルの小さな体を抱き締めた。
お抱えの医師の診断をすぐに受け命に別状は無いものの幼い身故に可及的速やかに魔力を補うことが必要と判断され、魔力の供給を母から受けることになった。
そして暫く眠りの魔法をかけられて、深い眠りから覚めた頃には、体調は全く以前と同じように戻ったのだった。
気づけば彼女の近くにあの晩の男の子がいた。
聞けば自分の側仕えになったという。
そしてもう少し体調を整えたら、彼と一緒ならば騎士団の鍛練に加われると父に言われたのだ。
その男の子は執事のセバスチャンに教わった所作で、ガブと名を名乗り挨拶をしたのだった。
「いい、サリエル。もう勝手に出歩いては行けないわ。魔法も勝手に使ってはダメよ。あなたが思うよりも危険っていっぱいあるのよ。」
母は今までにない、幼子に聞かせるように話しかけて言い聞かせた。
「そうですわね、お母様。わたくし、魔法が切れるのがあんなだとは思わなかったわ。知らないことがたくさんあるのね、もっと色々知りたいわ。お母様心配かけてごめんなさい。」
サリエルは母の意図を汲んでいるのか、些か不安が残るが、反省を口にした。
「ええ、そうね。あなたはお勉強はたくさんしてきたけれど、それ以外のことを教えてこなかったことを母も反省しているわ。そこで、あなたに新しい家庭教師の先生を紹介するわ。今日いらっしゃるのよ。」
「え?また家庭教師の先生?」
「ええ、魔法とあなたの知りたいことを教えて下さる先生よ。」
「まあ!魔法の先生!?嬉しい。お母様ありがとう。」
サリエルは喜び母に飛び付いてお礼を言ったのだった。
「初めまして、サリエル嬢。僕はクリストファー、クリスと呼んでくれ。君の父上の従兄弟だよ。僕の母と君の祖父の公爵が兄弟なんだ。」
そう言ってサリエルの前に座ったのは黒髪黒目の若く美しい青年だった。
「まあ、お兄様、そんなにお若いのに父の従兄弟ですの?」
「ああ、僕の母と公爵は一回りも年が離れている上に、僕と小公爵も一回り離れているからね。僕は今年学園を卒業したばかりなんだよ。学生生活が終わってしまって、どうしようと思っていた矢先に、この仕事を小公爵から頼まれてね、ホントに良いタイミングだ!」
クリス先生はそういうとにこやかに笑った。
貴族的な笑顔ではなく、満面の笑みというやつだ。
「まあ、学園を卒業するのに、お仕事決まってらっしゃらなかったの?我が一門ならば王国魔術師団へとお勤めするのが普通では?」
サリエルが驚いて聞き返す。
サリエルの父は魔法大臣、祖父は王国魔術師団の団長でスコット公爵家とそれに連なる家門の者は魔術師団へと入団するのが暗黙の了解となっている。
それなのに、学園を卒業しても仕事が決まってなかったなんて、(この人魔法使えるのかしら?)そんなことをサリエルは思ったのだった。
「はは、君、僕が魔法を使えないなどと不埒なことを考えただろう?こう見えても僕は学園を首席で卒業しているのだよ、安心したまえ。君に魔法の楽しさを存分に教えてあげよう。」
そうクリスはいうと、話はここまでと言って自身の羽織っているローブのポケット(ポケット?)から水晶を取り出した。
「さて、サリエル、君と、そっちのガブ君だったかな?君たちの魔力適性検査を始める。」
そういうと、テーブルの上に水晶を乗せて手を翳した。
「さあ、サリエル。僕の手の上に君の手を重ねておくれ。」
言われたようにサリエルが自分の手をクリスの手の上に乗せると、水晶が赤青緑白黒と5色に光った。
「え?ええ?なんと!なんと!サリエル素晴らしいよ。魔力量も10万とか信じられない。」
クリスは興奮の面持ちを向けた。
「では次はガブ、同じように。」
ガブは言われたように、クリスの手の上に自分の手を重ねた。
すると水晶が真っ黒になったが、その真ん中に一筋の光の筋が見えた。
「これはまた珍しい。魔力量も一万と十分だ。よーし、今日から二人とも僕の弟子だな!」
そういうと、クリスはサリエルとガブを抱き締めたのだった。
「さて、小公爵ご夫妻も席に着かれたので、適性検査の結果を発表する。」
場所を公爵邸の応接室へと移動すると、そこにはサリエルの両親がソワソワした様子で待っていた。
そこに、クリスとサリエル、その後ろからガブがやってきて、勧められるままガブも一緒にソファへ腰かけた。
「サリエルは火水土風闇と5属性を持ち、齢5才現在で魔力量10万だよ、さすがスコット公爵家の直系だね。
ガブは闇属性なんだが微弱な光の属性も併せ持つ非常に珍しいタイプだ。教会の司祭はしっかりした判定が出来なかったのだろうな。光と闇を持つ者など、この世界に何人いるかわからない。魔力量も7才で1万だ、十分才能があるね。」
クリスが小公爵に向かって楽しそうに検査結果を告げた。
「ま、まあ・・・」
その結果を聞いた小公爵夫人はフラりと目眩を覚えた。
「な!」
父の小公爵は一言呟くとそのまま黙ってしまった。
自分の可愛い幼い娘が5属性もあり、魔力量も既に魔術師団に入れるほど。
(なんてことでしょう)
(なんてことだ)
と、二人とも悲壮感に苛まれた様子である。
「お母様、どうされたの?お加減が悪いの?」
サリエルは母の顔色が悪くなったことに気がつき声をかけた。
「いいえ、大丈夫よ。ありがとう、サリエル。」
母はスッと姿勢を正して淑女の仮面を被った。
「お父様、なにかお困りなの?」
今度は父に尋ねる、二人の様子が明らかにおかしい。
「サリエル、その説明は師匠である僕がしよう。
いいかい、良くお聞き。魔法の属性があれば有るほど、魔術師の特性が色濃く出るんだ。魔力量が多いのもね。
僕は君と全く同じ5属性持ちで、今では魔力量は1億以上だろうね、もう測定も出来ないほどだよ。このトーホー王国で僕以上の魔力量がり、属性が多い者は一人も居ない。それでね、僕以上に魔術師の特性が強い者も居ないんだよ。」
クリスが自嘲気味に言った。
「クリス先生、魔術師の特性って何ですの?」
サリエルが小首を傾げて聞いた。
「魔法は想像力が有れば有るほどより魔法が展開できるんだよね、想像する力の源は自由な心。だから大魔法使いは魔術師の特性が強くでる、より自由に何物にも囚われず、気の向くままに、とね。」
クリスがサリエルにウインクをして言った。
「何を良さそうに自分の都合良く子供に言ってるんだ、サリエル、魔術師は『心は自由に、然れど行動は慎重に』が信条だ!それはさておき、これからキチンと魔法の使用について教えてくれるんだな。」
小公爵はクリスを睨んで強い語尾で言った。
「ええ、それは勿論。魔法の正しい使い方を教えますとも。二人ともヨロシクね!」
クリスがサリエルとガブの肩を抱いて楽しげに言った。
407
残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となるの4話目[魔法の先生]が不手際で消えてしまいました。スミマセン。3話の末尾に追記してありますが、良いねしてくださった方申し訳ありませんでした。
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