[完結] 残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となる

有栖多于佳

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公爵令嬢サリエル

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この魔法大陸にあって、魔法先進国のトーホー王国

トーホー王国の魔法大臣を務め、魔法エリートを数多輩出するスコット公爵家の次期当主に第一子となる娘が生まれた。その名をサリエル スコットという。

サリエルは母親似の整った顔立ちの透けるように白い肌と父親に似た黒髪黒目の赤子であった。

顔立ちだけでなく非凡な才の片鱗も赤子の頃からみせており、生後まもなくから言葉を理解し半年経つ頃には会話が出来るようになっていた。

これには両親も驚いたが、聞き分けのある赤子であるサリエルを慈しんだ。

立って歩く頃になると、読み聞かせをしている童話を全て暗記して諳じるだけでなく、字も覚えてしまった。

三つになる頃には公爵家の図書室で手当たり次第に本を読んでいった。

これは早めに教育をつけた方が良いなと父が家庭教師を手配して、齢三歳にして令嬢教育が始まったのだった。

読み書き計算だけではなく、マナー、ピアノ、ダンス、絵画、刺繍と公爵家の令嬢として必要なこと全てのカリキュラムが施された。
サリエルはスポンジが水を含むが如くスゴい勢いで吸収し、貴族学園(入学13才)に入学するレベルに到達したのは弟が生まれた5才の頃だった。

ある朝、家庭教師がサリエルの部屋へ行くとサリエルが居なかった。
メイドや執事が探したが、どこにも居ない。
公爵家の嫡男を生んだばかりの夫人も起き出して屋敷中探してあるいた。

すると、父である小公爵の執務室の奥にある書庫の中で魔術書を読み漁っているサリエルを見つけた。

「サリエル!お前は何をしているのだ!ここには勝手に入ってはいかん!」
父が大きな声でサリエルを叱る。

「そうよ、みな心配していたのよ。今は家庭教師の時間でしょ?黙って居なくなってどうしたの!?」
普段聞き分けの良い娘の突飛な行動に母が動揺して尋ねた。

「お父様、大きな声を上げるのはマナー違反でしょ。今まで、ここに入っていけないって言われて無いわ。勝手に外に出てはいけないよと言われていたけれども。お母様、もう家庭教師の先生は必要ないわ。全てのカリキュラムは終えたって先週言われたもの。公爵家の娘としてやる必要のあることは全てやったのだから、後は自由にさせて頂くわ。」

サリエルは床に腹這いになって、魔術書をペラペラと捲りながらチラリとも親の顔を見ずに言った。

「な、なんだ!その態度は!口答えするな!」
昨日までのあの聞き分けの良い自慢の娘はどこにいったのか!と狼狽えた父が怒鳴る。

パタンと本を閉じると小脇に抱え、
「お父様、声が大きいわ。貴族が感情を露にするものでは無いのでしょ?」
そう言って立ち上がって呆れた顔をしながら父を嗜める5才児の娘サリエルに、父は息を飲んだ。

「この本を貸して下さいな。では部屋へと参ります。」
サリエルはそう言うと、美しいカーテシーをして両親の前から立ち去った。

それからは、常にああ言えばこう言う状態の娘に戸惑う両親、だけでなく公爵家の使用人も含め全てのサリエルを知る者が戸惑った。

サリエルは我が儘を言っている訳ではないのだ。

「お嬢様、今日は更に貴族学園の勉強を致しましょう。」
そう家庭教師が言えば、

「でも先生、今やったところで後8年したらまたやるのでしょ?同じことを二度やるのは時間の無駄では?」

「いえ、お嬢様。先にやっていればその時には誰よりも良い点が取れますから。」

「でも、8年前倒しで勉強をしているわたくしなら、その場で習っても良い点が取れるのでは?先にやってしまえば貴族学園に行く必要が無いのであればやるのも吝かではないのですが、そうは行かないのでしょ?通学は義務なのですから。ならば、今やる必然性が感じられませんわ。」

「・・・ゴモットモデス。」

こんな調子である。

メイドや執事に対しても、『ナンデ?ナンデ?』と質問し、回答があやふやだと正論パンチを浴びせてくる。
そんなサリエルの態度を母の夫人にメイド長が伝え、『では、しょうがない私が・・・』と母が話しに向かえども

「サリエル。勝手に外に出てはいけないと言っていたでしょ?」

「ええ、お母様。ですから、キチンと裏の騎士団の鍛錬場に向かいますと伝えてから向かいましたわ。」
サリエルは背筋を伸ばして真っ直ぐに母を見ると、力強く答えた。

「何をしにそんな所へ。」
母は、その目力に少々怯みながら聞き返すと、サリエルは胸を張って答えた。


「鍛錬場ですもの、鍛錬ですわ。令嬢教育を終えて時間があるのです、体を鍛えるのですわ。剣術と体術、あと魔術を練習するのですわ。8年もあるのですもの、時間を有効に使わねば。」

「あなたは、何を言ってるのです。レディが剣を持って戦う必要などありません。あなたは公爵家の娘なんですのよ。」
母が眉間に深い皺を浮かべて、強く嗜める。

「そうですけれど、この魔法大国において魔法を使えることは必然。魔法を使うには魔力量は元より自身の体躯・体力の有無が絶対的に必要だと、かの有名な魔術師セスリー・ネヴィル女史が言っていたとこの本に書いてありましたわ。」
サリエルはそう言うと、手にしていた魔術書の一ページを指し示して胸を張って答えた。

セスリー・ネヴィル女史とは、トーホー王国では伝説になっている有名な魔女であり、伯爵夫人だった女性である。
まだ王国の政情が安定しない時にあって、王家の剣として盾として活躍した人物であり、貴族学園でも必ず学ぶ項目であった。

「そう、もうセスリー女史のことを学んでいるの?」

「いいえ、家庭教師の先生に教わっては無いわ。随分小さい時に、公爵家の図書館の本を読み終えたでしょ?その時にセスリー女史の伝記もあったので読んでいたの。」

「え?サリエル。あなた図書館の本全て読んでしまったの?」
公爵家の図書館の蔵書数は一万冊はあるので母は驚いて、聞き返した。

「ええ、お母様。もう何度も読み返してしまって飽きてしまったわ。だからお父様の書庫の本を読むしかないのです。でも、あのセスリー女史の伝記にあった言葉が魔術書にも書かれているなんて、とても大事なことでしょ?であれば実践しなくてはいけないわ。時間は有限ですものね。」

サリエル齢5才である。

どう言っても正論で言い返してくる娘に困った母は夫である小公爵に相談した。

「なんと!優秀だとは思っていたが、蔵書を全て読破するとは。しかし、騎士団での鍛錬とは看過できんな。どうやら私が言って聞かせなければならないのだな。」

父が娘の元へと溜め息をつきつつ向かった。

(つい最近まであんなに聞き分けが良かったのに、どうしたのだろう、ハアー・・・)

「サリエル、母や使用人に我が儘を言ってはダメだ。」
そう言って娘の部屋へと入っていった。

「お父様、わたくし、我が儘など申しておりませんわ。魔法大臣であるお父様ならわかって頂けると思うのですけれど、トーホー王国において、魔力のある者はその力を最大限に活かす努力をしなければいけませんでしょ?まして我が家は公爵家。大災害の時に率先して魔法を使用し王国民を保護する義務が有りますわね。王国法第五十五条 緊急時の魔法支援法ではそう決められているのですよね。その法律に従って、伯爵夫人であったセスリー女史が戦いに駆り出されたのですものね。」

サリエル齢5才である。

「少し考えるのでそれまでは勝手にするでない。」
そう父が眉間を押さえながら言うと、サリエルはスンっと表情を無くして父を見た。

「なんだ、なにか言いたいことがあるのか。」

「考えるとは何をですの?公爵家の騎士団の鍛錬場で、公爵家の娘の私が鍛錬するのに何が問題なのです?」

「一人で行かせられる訳なかろう。付き添いとて、おいそれと我が家のメイドにさせるわけにはいかん。とにかく父が良いと言うまで外に出てはいけない。これは命令だ。わかったな!」
父が渋い顔でそう告げると、部屋から出ていってしまった。
そして、部屋の扉の前には公爵家の騎士がサリエルが勝手に出ないように見張りとして置かれたのである。

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残念令嬢と渾名の公爵令嬢は出奔して冒険者となるの4話目[魔法の先生]が不手際で消えてしまいました。スミマセン。3話の末尾に追記してありますが、良いねしてくださった方申し訳ありませんでした。
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