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ヨネ、婚家を飛び出す
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暮れも押し迫ってきた、師走のある日。
吉竹家では年末の大掃除を家族全員で行っていた。
トラは障子を洗い、畳を虫干し、窓を拭いた。
ヨネと七緒は障子張りと、破れたふすまの修繕をし、はたきをかけ、床を掃き、サッシを水吹きをしていた。
トラの家は広くて大きいのだ、手が足りずにみんな大忙しであった。
それというのも長年女主人が居なかったので、細かい所まで気が回らなかったのだろう。
しかも近年は、足の不自由な七緒が一人で暮らして居たのだ、どこそこやりきれなかったようで、放ってある時間が長かったこの家が、ヨネが嫁いできたことで今年は生き返ったようだった。
痛んでいる分、修繕には時間と労力が非常にかかるのだが、新年を清々しい気分で迎えたいとみんな頑張って働いたのだった。
そんなこんなで、やっと一段落し、大掃除も終わりお茶を飲みのみ、一息ついていた時だった。
「そう言えばヨネ、年越しそばはどうすんだい?」
トラがヨネに不意に聞いてきた。
「どうするって?年越しそばがどうしたの?」
ヨネは要領を得ない顔をして聞き返した。
「いや、二八にするのか十割にするのかとかさ、ヨネはどっちを打つんだい?」
トラが自然な様子でそう言った。
「え?ええ?年越しそばって家で打つの?私、お蕎麦は打てないよ!」
ヨネは驚きの声をあげて、ちょっと批判的な答え方をした。
それに珍しくトラがムッとして
「ええ、ヨネは蕎麦も打てないのかい?」
そう言ったのだった。
いや、本当は別に、トラの蕎麦の質問は、けっして悪気はなかったのだが。
ただ、洋食など色々かわった料理を作る、料理上手なヨネがどんな蕎麦はを打つのかな?と思っていた矢先に、蕎麦は打てないなんていう、へえ蕎麦は打てないんだ、単純にそう思っただけだった。
芝山村じゃ、年がら年中蕎麦は家で打って食べる物だったから。
トラの家でも父親が良く打ってくれたものだし、トラも父親ほどの腕前ではないが蕎麦は打てるから。
しかし、ここ最近の大掃除で疲れが堪っていたヨネはそういう風に聞こえなかったようで、口調が否定的になってしまった。
こんなに疲れてるのに、まだ蕎麦まで打たせる気かと、イラっとしたのである。
それにトラも釣られるように、ムッとした表情を浮かべてしまったのだ。
ヨネには、トラの言葉が、
「(なんだ、お前は嫁の癖に)蕎麦(くらいの打てて当たり前なもの)も打てないのか!」
と言う風に聞こえて、非難を受けたと感じた。
「なによ、トラちゃんたら。ええ、そうよ、どうせ私は蕎麦も打てないわよ!だって名古屋じゃ蕎麦屋なんて屋台でも店でも、通りに出ればいくらでもあったんだもの。蕎麦なんてわざわざ打たなくたって食べれたもの、打つ必要がなかったのよ。もうひどいわトラちゃん、トラちゃんなんて、大嫌いよ!」
突然そう怒り出したヨネは、その上えーんえーんと声をあげて泣き出したのだ。
これにトラは面食らって、
「なんだヨネ、子供みたいにわんわん泣いてみっともないぞ。ええか、ここらじゃ子供でも蕎麦くらい打つんだわ。」
売り言葉に買い言葉、自分の地元を貶されたように感じたトラは、勢いそんな意地悪な言い返しをしてしまった。
(子供でも打つですって!私は子供以下ってことね、もう知らない)
その言葉を聞いて、ヨネは怒りに震え、大きな声で
「もういい、もうトラちゃんなんか知らないから。バカー!」
と叫んで、走って外に飛び出していった。
「ふん、勝手にしろ。」
ガシャンと大きな音を立てて戸を閉めて出ていったヨネにトラは怒鳴って言い返した。
それを横で見ていた七緒が、
「トラ兄ちゃんそんな言い方してひどい。ネエサン出てっちゃったよ。どうするの、追いかけないと。」
オロオロしながらもトラの言い草を非難して連れ戻すように言った。
「うるさい、うるさい、ヨネが出てこうと知るか、もう放っておけ。」
そう七緒にも八つ当たりして、トラはズンズンと自室へと行ってしまった。
後に残された七緒は、立ち上がると、杖をついて坂道を下り、出ていったヨネを追いかけたけれど、全く追い付かない。
小さく遠くなって行くヨネの背中に向けて大きな声でヨネを呼んだ。
「ネエサーン、ネエサーン待っておくれよーネエサーン」
その声を聞いたヨネが振り返って七緒を見て、手を合わせて『ごめんね』と言っている様子で頭を下げて、すぐに走って行ってしまった。
「あら、珍しい。寅造さんじゃないかい、どうしたんだい?まあまあ、いらっしゃい、あれ、今日はヨネは一緒じゃないのかい?」
あの後、泣きながら七緒が分家に駆け込んで、トラとヨネの夫婦喧嘩の顛末を話した。
最初は祥子叔母さんが聞いてくれていたけれど、叔父さんも呼ばれて、一緒に話を聞いた。
その騒ぎを聞き付けて、奥から大叔父まで出て来る始末。
結局、七緒と一緒に上の家に祥子叔母ちゃんがやって来て、トラの言い方が全くなってないと、しこたま怒られた。
「いいかいトラちゃん、良くお聞きよ。
あのねえ、ヨネちゃんはねえ、今日までずっとあの家を片付けて掃除をしていたんだ、そりゃ疲れだって出るわさ。
この大きな家を台所、風呂場、厠と一ヶ所ずつ綺麗にして。
納屋も納戸も整理してさ、そりゃ七緒ちゃんも手伝ってたけどね、あの子は足が不自由だからさ、七緒ちゃんの何倍もヨネちゃんが張り切って掃除や片付けをしてたんだから。
只でさえ、大掃除ってのは大変なのにさ、この長いこと使ってなかった家を磨き上げるなんて、難儀なもんだよ。
だいたい蕎麦くらい言ってくれたら、うちからトラちゃんちに届けたよ。」
全く呆れて物が言えないよと、たくさん物言う祥子叔母ちゃんがため息を吐きながらそう言った。
「ああ、そうだったのか。言われてみればどこそこ、キレイになってら。
ヨネは今日だけじゃなくてずっと家の掃除をしてくれてたんだな。
いや、違うんだよ、叔母ちゃん。言い訳になっちまうけどな、ヨネはなんでも料理ができるだろ?
でもここらの人が普通に作る料理を知らなかったり、作れなかったりそういうのがあるなって思ってな。
ああ、蕎麦は出来ない方の料理なのかって思っただけだったんだよ。
蕎麦を打てないなんて嫁失格だ、けしからん、そんな風に思っちゃいなかったんだよ。」
トラがヨネが疲れていると、思いやらなかったことを指摘されてばつが悪い顔でそう言った。
「じゃあ、始めからそう言えばいいだろうに。
なんだい、子供でも蕎麦くらい打つなんてつまらないこと言って虐めてさ。あんた幾つだね、とっとと探しておいでよ。遠くから嫁いできたあの子には、どうせ行き先なんざ、あの子の親の家くらいしかないんだからさ。」
祥子叔母ちゃんは半眼で冷たく睨んで、トラにそう言った。
「ああ、まさか、こういう時のためにお義父さんは近くへと越してきたのかな?ヨネのために。」
トラが祝言の時に立派な黒引きの振り袖を着せたヨネの親を思い出してそう言った。
「理由はそれだけじゃないとは思うけどね、まあ一人娘だろ。ずいぶん年の子だもの、親は心配さ。師走のこんな時期に嫁いだ娘が泣いて帰ってきたら、あんた、親は驚いて心臓止まっちまうよ。」
祥子叔母ちゃんがそう言ってトラを責めた。
いつまで経ってもグズグズと言い訳して、探しに行かないトラに業を煮やして、従兄弟の叔父ちゃんも大叔父までやって来て『グズグズ言ってないで、ヨネちゃんをドンドン迎えに行かんか!』と雷を落とされて追い出された。
そうして、重い足取りで隣町のヨネの親の家にやって来たのだった。
そんな思いで押し掛けたヨネの親の家には、残念ながら、ヨネの姿はなかったのだった。
そんな、トラが独りでやって来た理由をボソボソと話して聞かせると、
「で、こんな師走に夫婦喧嘩かい?まったく、犬も食わないねえ・・・」
ヨネの母親がなんとも言えない顔をしてため息を一つ、そうして中へと招くとお茶を出してくれた。
そうして、トラの顔をジッと眺めては、はぁと小さくまた溜め息をついて、そして暫く黙ってしまった。
そんな長い時間では無いのだろうが、トラには永遠にも感じられる沈黙の中、どうにも居たたまれなくなってトラは他を探して、それでも見つからなければ、もう一度夜にでも出直そうと暇を告げたのだった。
「寅造さん、ウチのこと、あの子からどこまで聞いてます?」
それを受けて、ヨネの母がそう聞いてきた。
「え?どこまでとは?」
トラは要領を得ずに聞き返した。
「あの子はウチの本当の子じゃないってのは知ってます?」
今度はヨネの母がズバリと聞いてきた。
「ああ、その話ですか。ええ、それはお義父さんから見合いの時に初めに伺いましたよ。」
トラが一年前の今時分、名古屋の長屋の茶の間でのやり取りを思い出しながらそう言った。
「そうですか、あの子からは聞いてないんですか。」
ヨネの母がもう一度確認とばかりに、そう聞いた。
「はい。ヨネからその事は聞いていません。」
トラはヨネの母親が何を言いたいのかさっぱりわからんと思いながらも、そう答えた。
「じゃあね寅造さん、少しばかり私の昔話に付き合ってくださいな。」
そうしてヨネの母親はスッと姿勢を正して、静かな語り口で話し出したのだった。
吉竹家では年末の大掃除を家族全員で行っていた。
トラは障子を洗い、畳を虫干し、窓を拭いた。
ヨネと七緒は障子張りと、破れたふすまの修繕をし、はたきをかけ、床を掃き、サッシを水吹きをしていた。
トラの家は広くて大きいのだ、手が足りずにみんな大忙しであった。
それというのも長年女主人が居なかったので、細かい所まで気が回らなかったのだろう。
しかも近年は、足の不自由な七緒が一人で暮らして居たのだ、どこそこやりきれなかったようで、放ってある時間が長かったこの家が、ヨネが嫁いできたことで今年は生き返ったようだった。
痛んでいる分、修繕には時間と労力が非常にかかるのだが、新年を清々しい気分で迎えたいとみんな頑張って働いたのだった。
そんなこんなで、やっと一段落し、大掃除も終わりお茶を飲みのみ、一息ついていた時だった。
「そう言えばヨネ、年越しそばはどうすんだい?」
トラがヨネに不意に聞いてきた。
「どうするって?年越しそばがどうしたの?」
ヨネは要領を得ない顔をして聞き返した。
「いや、二八にするのか十割にするのかとかさ、ヨネはどっちを打つんだい?」
トラが自然な様子でそう言った。
「え?ええ?年越しそばって家で打つの?私、お蕎麦は打てないよ!」
ヨネは驚きの声をあげて、ちょっと批判的な答え方をした。
それに珍しくトラがムッとして
「ええ、ヨネは蕎麦も打てないのかい?」
そう言ったのだった。
いや、本当は別に、トラの蕎麦の質問は、けっして悪気はなかったのだが。
ただ、洋食など色々かわった料理を作る、料理上手なヨネがどんな蕎麦はを打つのかな?と思っていた矢先に、蕎麦は打てないなんていう、へえ蕎麦は打てないんだ、単純にそう思っただけだった。
芝山村じゃ、年がら年中蕎麦は家で打って食べる物だったから。
トラの家でも父親が良く打ってくれたものだし、トラも父親ほどの腕前ではないが蕎麦は打てるから。
しかし、ここ最近の大掃除で疲れが堪っていたヨネはそういう風に聞こえなかったようで、口調が否定的になってしまった。
こんなに疲れてるのに、まだ蕎麦まで打たせる気かと、イラっとしたのである。
それにトラも釣られるように、ムッとした表情を浮かべてしまったのだ。
ヨネには、トラの言葉が、
「(なんだ、お前は嫁の癖に)蕎麦(くらいの打てて当たり前なもの)も打てないのか!」
と言う風に聞こえて、非難を受けたと感じた。
「なによ、トラちゃんたら。ええ、そうよ、どうせ私は蕎麦も打てないわよ!だって名古屋じゃ蕎麦屋なんて屋台でも店でも、通りに出ればいくらでもあったんだもの。蕎麦なんてわざわざ打たなくたって食べれたもの、打つ必要がなかったのよ。もうひどいわトラちゃん、トラちゃんなんて、大嫌いよ!」
突然そう怒り出したヨネは、その上えーんえーんと声をあげて泣き出したのだ。
これにトラは面食らって、
「なんだヨネ、子供みたいにわんわん泣いてみっともないぞ。ええか、ここらじゃ子供でも蕎麦くらい打つんだわ。」
売り言葉に買い言葉、自分の地元を貶されたように感じたトラは、勢いそんな意地悪な言い返しをしてしまった。
(子供でも打つですって!私は子供以下ってことね、もう知らない)
その言葉を聞いて、ヨネは怒りに震え、大きな声で
「もういい、もうトラちゃんなんか知らないから。バカー!」
と叫んで、走って外に飛び出していった。
「ふん、勝手にしろ。」
ガシャンと大きな音を立てて戸を閉めて出ていったヨネにトラは怒鳴って言い返した。
それを横で見ていた七緒が、
「トラ兄ちゃんそんな言い方してひどい。ネエサン出てっちゃったよ。どうするの、追いかけないと。」
オロオロしながらもトラの言い草を非難して連れ戻すように言った。
「うるさい、うるさい、ヨネが出てこうと知るか、もう放っておけ。」
そう七緒にも八つ当たりして、トラはズンズンと自室へと行ってしまった。
後に残された七緒は、立ち上がると、杖をついて坂道を下り、出ていったヨネを追いかけたけれど、全く追い付かない。
小さく遠くなって行くヨネの背中に向けて大きな声でヨネを呼んだ。
「ネエサーン、ネエサーン待っておくれよーネエサーン」
その声を聞いたヨネが振り返って七緒を見て、手を合わせて『ごめんね』と言っている様子で頭を下げて、すぐに走って行ってしまった。
「あら、珍しい。寅造さんじゃないかい、どうしたんだい?まあまあ、いらっしゃい、あれ、今日はヨネは一緒じゃないのかい?」
あの後、泣きながら七緒が分家に駆け込んで、トラとヨネの夫婦喧嘩の顛末を話した。
最初は祥子叔母さんが聞いてくれていたけれど、叔父さんも呼ばれて、一緒に話を聞いた。
その騒ぎを聞き付けて、奥から大叔父まで出て来る始末。
結局、七緒と一緒に上の家に祥子叔母ちゃんがやって来て、トラの言い方が全くなってないと、しこたま怒られた。
「いいかいトラちゃん、良くお聞きよ。
あのねえ、ヨネちゃんはねえ、今日までずっとあの家を片付けて掃除をしていたんだ、そりゃ疲れだって出るわさ。
この大きな家を台所、風呂場、厠と一ヶ所ずつ綺麗にして。
納屋も納戸も整理してさ、そりゃ七緒ちゃんも手伝ってたけどね、あの子は足が不自由だからさ、七緒ちゃんの何倍もヨネちゃんが張り切って掃除や片付けをしてたんだから。
只でさえ、大掃除ってのは大変なのにさ、この長いこと使ってなかった家を磨き上げるなんて、難儀なもんだよ。
だいたい蕎麦くらい言ってくれたら、うちからトラちゃんちに届けたよ。」
全く呆れて物が言えないよと、たくさん物言う祥子叔母ちゃんがため息を吐きながらそう言った。
「ああ、そうだったのか。言われてみればどこそこ、キレイになってら。
ヨネは今日だけじゃなくてずっと家の掃除をしてくれてたんだな。
いや、違うんだよ、叔母ちゃん。言い訳になっちまうけどな、ヨネはなんでも料理ができるだろ?
でもここらの人が普通に作る料理を知らなかったり、作れなかったりそういうのがあるなって思ってな。
ああ、蕎麦は出来ない方の料理なのかって思っただけだったんだよ。
蕎麦を打てないなんて嫁失格だ、けしからん、そんな風に思っちゃいなかったんだよ。」
トラがヨネが疲れていると、思いやらなかったことを指摘されてばつが悪い顔でそう言った。
「じゃあ、始めからそう言えばいいだろうに。
なんだい、子供でも蕎麦くらい打つなんてつまらないこと言って虐めてさ。あんた幾つだね、とっとと探しておいでよ。遠くから嫁いできたあの子には、どうせ行き先なんざ、あの子の親の家くらいしかないんだからさ。」
祥子叔母ちゃんは半眼で冷たく睨んで、トラにそう言った。
「ああ、まさか、こういう時のためにお義父さんは近くへと越してきたのかな?ヨネのために。」
トラが祝言の時に立派な黒引きの振り袖を着せたヨネの親を思い出してそう言った。
「理由はそれだけじゃないとは思うけどね、まあ一人娘だろ。ずいぶん年の子だもの、親は心配さ。師走のこんな時期に嫁いだ娘が泣いて帰ってきたら、あんた、親は驚いて心臓止まっちまうよ。」
祥子叔母ちゃんがそう言ってトラを責めた。
いつまで経ってもグズグズと言い訳して、探しに行かないトラに業を煮やして、従兄弟の叔父ちゃんも大叔父までやって来て『グズグズ言ってないで、ヨネちゃんをドンドン迎えに行かんか!』と雷を落とされて追い出された。
そうして、重い足取りで隣町のヨネの親の家にやって来たのだった。
そんな思いで押し掛けたヨネの親の家には、残念ながら、ヨネの姿はなかったのだった。
そんな、トラが独りでやって来た理由をボソボソと話して聞かせると、
「で、こんな師走に夫婦喧嘩かい?まったく、犬も食わないねえ・・・」
ヨネの母親がなんとも言えない顔をしてため息を一つ、そうして中へと招くとお茶を出してくれた。
そうして、トラの顔をジッと眺めては、はぁと小さくまた溜め息をついて、そして暫く黙ってしまった。
そんな長い時間では無いのだろうが、トラには永遠にも感じられる沈黙の中、どうにも居たたまれなくなってトラは他を探して、それでも見つからなければ、もう一度夜にでも出直そうと暇を告げたのだった。
「寅造さん、ウチのこと、あの子からどこまで聞いてます?」
それを受けて、ヨネの母がそう聞いてきた。
「え?どこまでとは?」
トラは要領を得ずに聞き返した。
「あの子はウチの本当の子じゃないってのは知ってます?」
今度はヨネの母がズバリと聞いてきた。
「ああ、その話ですか。ええ、それはお義父さんから見合いの時に初めに伺いましたよ。」
トラが一年前の今時分、名古屋の長屋の茶の間でのやり取りを思い出しながらそう言った。
「そうですか、あの子からは聞いてないんですか。」
ヨネの母がもう一度確認とばかりに、そう聞いた。
「はい。ヨネからその事は聞いていません。」
トラはヨネの母親が何を言いたいのかさっぱりわからんと思いながらも、そう答えた。
「じゃあね寅造さん、少しばかり私の昔話に付き合ってくださいな。」
そうしてヨネの母親はスッと姿勢を正して、静かな語り口で話し出したのだった。
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