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ヨネとトラの初デート ~山菜の天ぷら~
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「ただいまー!ナナちゃん、たんと採れたよ!今日はご馳走だよー。」
ヨネが大きな声で七緒に話しかけた、自慢である。
初の山菜摘みの成果報告が嬉しくてしょうがない。
「まあ、ネエサン本当にたくさん採って来て。大変だったでしょう?」
「そんなこと無いよ、あちこちに生えているのを探ってたら、あっという間だったよ。」
「七緒、泥がついてるから洗うのヨネを手伝ってくれや。俺はアク抜きの仕方がわからんから、ちょっと祥子おばちゃん呼んでくらぁ。」
「あい、ニイサン。ネエサン、ザルを取って来るね。」
「ありがとう、ナナちゃん。じゃあ、トラちゃんよろしくね。」
「ああ、すぐに行ってくらぁ。」
「こんにちはー、おばちゃん居ますか?」
トラの家から坂を下って、叔母ちゃんちの勝手口から声をかける。
「あら、トラちゃんどうした?」
「いやあ、朝からヨネと山菜摘みに行ってきたんだけどな、ゼンマイやワラビのアク抜きをヨネがわからんっていうもんで、叔母ちゃん教えてやってくれんかね?」
「ああ、良いよ。どれどれ、うちのザルもあった方が良いかい?」
「ああ、たんと採ってきた。叔母ちゃんちの分もあるから、持って帰ってな。」
「あら、ご馳走さま。じゃあ、ちょっと行ってくるから、あんた、おーい、聞いてんのかい、あんたー上の家にいってくるからねー。じゃあ、行こうか。」
そうして、祥子叔母ちゃんが来てくれて、山菜の下準備の仕方を教わった。
「まあまあ、本当にたくさん採って!大変だったら?じゃ、みんなで下準備するかね。まず山菜を井戸できれいに洗ってきてね。」
「はい。こっちの分は洗ってあるから、後はこっちのザルの分だけよ。」
「あら、手際が良いこと。じゃあ、そっちも頼むよ。」
ハイと、返事をしてヨネと七緒がザルを持って残りの山菜を井戸に洗いにいった。
「そうだ、トラちゃん。うちの人も叩き起こして、うちの畑の畔にノンビルいっぱい出てたから、それを二人で掘って採っておいでよ。それも料理して食べようかね。」
「ああ、良いな、わかったよ。でも俺一人で出来るけど。」
「良いんだよ、寝てばっかりじゃボケちゃったら困るだろう?あたしが叩き起こせって言われたって言いなよ。」
「叔父ちゃん、ボケないと思うけど、言ってくるよ。」
そう言うと、トラはスコップと背負子を持って坂を下りて、分家の叔父を起こして二人で畑にノンビルを掘りに行った。
「さあ、じゃあ、アイゴからやろうかね。アイゴは葉と茎を分けて、茎の筋をフキみたいに取るんだよ。アイコは葉と茎を分けてね、そうそう、スーっと茎の筋を向くんだよフキみたいに、そういう風にしてね。
次はワラビとゼンマイかい?
ワラビはワラビ、ゼンマイはゼンマイと別の鍋に入れて、竈の灰を二掴み。そしたら沸かしといた熱湯をザーッとかける。そのまま一晩置いて、朝水洗いすれば、もうアクは抜けてるから食べれるよ。」
祥子叔母さんの指示に従って、筋を取ったりお湯を沸かしたり、三人で手分けして作業をした。
シドケとアイゴの茎とアケビの蔓先は塩湯でして水にさらして。
シドケはほうれん草に似ていて、アイゴの茎はアスパラのよう。
鰹だしに醤油を足らした出汁醤油に浸ける。
アケビの蔓は二センチ位に刻んで、祥子叔母さんちで採れた玉子とお醤油であえる。
山ブドウの若葉、タラの芽、山ウド、残しておいたシドケとアイゴの葉も小麦粉を水で溶いた衣をサッとつけて温めておいた油の中へ。
灰汁抜きしてあった筍も一緒に天ぷらにした。
大きなお皿いっぱい、天ぷらが揚がった。
今日はご馳走だ!
トラが叔父さんと掘ってきた、たくさんのノンビルは、祥子叔母さんの手によって、細く切った昆布とニンジンと一緒に三杯酢で和え物になった。
もちろん、たくさんたくさん揚げた天ぷらもお裾分け。
今日は下の家もご馳走だ。
「いただきまーーーーす!」
ヨネは好きなものは先に食べる。
タラの芽の天ぷらは塩でまず一番に食べた。
「んんー、本当に美味しい春の味だわー。」
サクサクした口当たりに、ほんのり苦くて。
「ネエサン、美味しいね!」
「本当に美味しいわね、ナナちゃん。」
ヨネと七緒は顔を見合わせて微笑みあう。
「トラちゃん、今日はありがとう!こんなたくさんの天ぷらなんて、なんと贅沢なことでしょう。」
「みんなが喜んでくれて良かった。まだまだ春の間に何度も採れるからな、また行こうな。」
満面の笑みの新妻をみて、トラはとても満足だ。
なんとも言えない、心が温かくなった。
思えば、家族の食卓ってのはいつぶりだろう。
旬の物を家族で笑いながら食べた、遠い子供時分を思い出した。
あの頃は、食卓の真ん中にはお母ちゃんが居たなあ。
今はそこに、嫁のヨネ子が笑顔でご飯をおかわりして食べている。
その風景に、トラは鼻の奥がツンとした。
そんなことは知らない、ヨネはトラのセンチメンタルに気がつかない様子で、話しかけてきた。
「ねえ、トラちゃんってば、お酒飲まないの?」
「ああ、オレはあんま強くないからな。すぐに赤くなって眠くなるから、普段は飲まないんだ。」
「そうなのね。うちのお父ちゃんはね、大酒飲みだから、今日みたいに山菜の天ぷらなんてご馳走だったら、きっと飲み過ぎちゃうくらい飲むよ、それでお母ちゃんに『あんた、飲み過ぎだよ、ええ加減におしよ!』って怒られると思うわぁーフフフ」
ヨネは母親の声真似をして、クスクスと笑った。
「オレは酒より飯のがいいなー」
そんなヨネを、優しい眼差しで見つめながらトラはおかわりをもらった。
「それは私もよー。」
「ネエサン、ワタシもー、ワタシもご飯が良いよー。」
そんなでみんなおかわりして、最後はアケビの卵和えをご飯にかけて食べた。
アケビはシャクシャクして癖もなく美味しい。
炊いた飯はみんな盛り返し食べて、空になった。
裏山でトラとヨネが摘んだ山菜を天ぷらにして、三人で腹一杯食べた、これは、そんな春先の美味しいお話。
ヨネが大きな声で七緒に話しかけた、自慢である。
初の山菜摘みの成果報告が嬉しくてしょうがない。
「まあ、ネエサン本当にたくさん採って来て。大変だったでしょう?」
「そんなこと無いよ、あちこちに生えているのを探ってたら、あっという間だったよ。」
「七緒、泥がついてるから洗うのヨネを手伝ってくれや。俺はアク抜きの仕方がわからんから、ちょっと祥子おばちゃん呼んでくらぁ。」
「あい、ニイサン。ネエサン、ザルを取って来るね。」
「ありがとう、ナナちゃん。じゃあ、トラちゃんよろしくね。」
「ああ、すぐに行ってくらぁ。」
「こんにちはー、おばちゃん居ますか?」
トラの家から坂を下って、叔母ちゃんちの勝手口から声をかける。
「あら、トラちゃんどうした?」
「いやあ、朝からヨネと山菜摘みに行ってきたんだけどな、ゼンマイやワラビのアク抜きをヨネがわからんっていうもんで、叔母ちゃん教えてやってくれんかね?」
「ああ、良いよ。どれどれ、うちのザルもあった方が良いかい?」
「ああ、たんと採ってきた。叔母ちゃんちの分もあるから、持って帰ってな。」
「あら、ご馳走さま。じゃあ、ちょっと行ってくるから、あんた、おーい、聞いてんのかい、あんたー上の家にいってくるからねー。じゃあ、行こうか。」
そうして、祥子叔母ちゃんが来てくれて、山菜の下準備の仕方を教わった。
「まあまあ、本当にたくさん採って!大変だったら?じゃ、みんなで下準備するかね。まず山菜を井戸できれいに洗ってきてね。」
「はい。こっちの分は洗ってあるから、後はこっちのザルの分だけよ。」
「あら、手際が良いこと。じゃあ、そっちも頼むよ。」
ハイと、返事をしてヨネと七緒がザルを持って残りの山菜を井戸に洗いにいった。
「そうだ、トラちゃん。うちの人も叩き起こして、うちの畑の畔にノンビルいっぱい出てたから、それを二人で掘って採っておいでよ。それも料理して食べようかね。」
「ああ、良いな、わかったよ。でも俺一人で出来るけど。」
「良いんだよ、寝てばっかりじゃボケちゃったら困るだろう?あたしが叩き起こせって言われたって言いなよ。」
「叔父ちゃん、ボケないと思うけど、言ってくるよ。」
そう言うと、トラはスコップと背負子を持って坂を下りて、分家の叔父を起こして二人で畑にノンビルを掘りに行った。
「さあ、じゃあ、アイゴからやろうかね。アイゴは葉と茎を分けて、茎の筋をフキみたいに取るんだよ。アイコは葉と茎を分けてね、そうそう、スーっと茎の筋を向くんだよフキみたいに、そういう風にしてね。
次はワラビとゼンマイかい?
ワラビはワラビ、ゼンマイはゼンマイと別の鍋に入れて、竈の灰を二掴み。そしたら沸かしといた熱湯をザーッとかける。そのまま一晩置いて、朝水洗いすれば、もうアクは抜けてるから食べれるよ。」
祥子叔母さんの指示に従って、筋を取ったりお湯を沸かしたり、三人で手分けして作業をした。
シドケとアイゴの茎とアケビの蔓先は塩湯でして水にさらして。
シドケはほうれん草に似ていて、アイゴの茎はアスパラのよう。
鰹だしに醤油を足らした出汁醤油に浸ける。
アケビの蔓は二センチ位に刻んで、祥子叔母さんちで採れた玉子とお醤油であえる。
山ブドウの若葉、タラの芽、山ウド、残しておいたシドケとアイゴの葉も小麦粉を水で溶いた衣をサッとつけて温めておいた油の中へ。
灰汁抜きしてあった筍も一緒に天ぷらにした。
大きなお皿いっぱい、天ぷらが揚がった。
今日はご馳走だ!
トラが叔父さんと掘ってきた、たくさんのノンビルは、祥子叔母さんの手によって、細く切った昆布とニンジンと一緒に三杯酢で和え物になった。
もちろん、たくさんたくさん揚げた天ぷらもお裾分け。
今日は下の家もご馳走だ。
「いただきまーーーーす!」
ヨネは好きなものは先に食べる。
タラの芽の天ぷらは塩でまず一番に食べた。
「んんー、本当に美味しい春の味だわー。」
サクサクした口当たりに、ほんのり苦くて。
「ネエサン、美味しいね!」
「本当に美味しいわね、ナナちゃん。」
ヨネと七緒は顔を見合わせて微笑みあう。
「トラちゃん、今日はありがとう!こんなたくさんの天ぷらなんて、なんと贅沢なことでしょう。」
「みんなが喜んでくれて良かった。まだまだ春の間に何度も採れるからな、また行こうな。」
満面の笑みの新妻をみて、トラはとても満足だ。
なんとも言えない、心が温かくなった。
思えば、家族の食卓ってのはいつぶりだろう。
旬の物を家族で笑いながら食べた、遠い子供時分を思い出した。
あの頃は、食卓の真ん中にはお母ちゃんが居たなあ。
今はそこに、嫁のヨネ子が笑顔でご飯をおかわりして食べている。
その風景に、トラは鼻の奥がツンとした。
そんなことは知らない、ヨネはトラのセンチメンタルに気がつかない様子で、話しかけてきた。
「ねえ、トラちゃんってば、お酒飲まないの?」
「ああ、オレはあんま強くないからな。すぐに赤くなって眠くなるから、普段は飲まないんだ。」
「そうなのね。うちのお父ちゃんはね、大酒飲みだから、今日みたいに山菜の天ぷらなんてご馳走だったら、きっと飲み過ぎちゃうくらい飲むよ、それでお母ちゃんに『あんた、飲み過ぎだよ、ええ加減におしよ!』って怒られると思うわぁーフフフ」
ヨネは母親の声真似をして、クスクスと笑った。
「オレは酒より飯のがいいなー」
そんなヨネを、優しい眼差しで見つめながらトラはおかわりをもらった。
「それは私もよー。」
「ネエサン、ワタシもー、ワタシもご飯が良いよー。」
そんなでみんなおかわりして、最後はアケビの卵和えをご飯にかけて食べた。
アケビはシャクシャクして癖もなく美味しい。
炊いた飯はみんな盛り返し食べて、空になった。
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