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別の世界から来た傲慢たる救世主
ウィリアム その2
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後ろから女性の声が聞こえた。リクにはそれを確認する暇はない。
その声が聞こえた瞬間ウィリアムに巨大な火の玉が襲いかかった。
「ぬう!」
それは巨大な炎の竜巻となりウィリアムを燃やす。
「リク」
「!レイラさん」
そこにいたのはレイラであった。
「大丈夫ですか?クレアから非常に危険な状況であることを聞いてここまできました。クレアは今カーティスの方へ加勢しているはず」
「ほぅ。救世主の次にその者を支える聖女様までも出会えることになろうとは。やはり今日はとても愉快な良い日だ」
先ほどまで業火に襲われていたとはとても思えないほど涼しげな表情でウィリアムはレイラを見る。そのことにレイラの表情が険しくなる。
(先程の一撃はかなり強力な火力だったはず。それなのにこの男は立っているとなると、クレアのいう通り、相当の手練れ)
レイラは身構える。
「だが聖女様よ。私は今非常に楽しい時間を過ごしている。もうすぐ終わる。そこで黙ってはくれないか?」
ウィリアムはそのようにレイラに願う。
だがその願いは到底受け入れられるものではなかった。
「そう言われて、そんなことを言われて。私がはいそうですかといって、彼を置いて黙っていると思っているのですか?」
レイラは毅然とした態度を持って答えた。
「たしかに。それは確かにそうだ。この世界を救ってくれるかも知れぬ者が危うい状況だ。それを黙って見ていては聖女失格だからな」
ウィリアムは納得したような表情をするが―――
「違います」
レイラはそれを否定する。
「確かに彼はその資格があります。ですがそんなことは些細な理由。聖女だからというのは私自身の『意思』ではないです」
「!」
リクはその言葉に驚いてしまう。
「聖女だから。彼をここに連れてきてしまった。巻き込んでしまったという罪悪感があるか。それらは私が動く理由にならない。私が彼を助けるのはあくまで私の『意志』。まだ少ない日々しか過ごしていないですが、それでも私は私の正義を持って、私の道義を持って、私の意志を持って彼を助けたいのです。だからこそ私は危険を冒してまでここにいるのです」
「……愉快。とても良い覚悟、とても良い勇気だ。素敵だ。ならばその意志を持って私を倒してみせろ!」
ウィリアムはメイスを持って、再びリクのところへ向かう。
「させない」
レイラは自分の魔力を持って、青白く輝く氷の刃を生み出し、ウィリアムを襲う。狙うは足。相手の行動を止めることが目的だ。
「ほお」
ウィリアムは感心した様子を見せる。レイラの目的は確かに達成した。
リクはそれを見計らったように銃を構え引き金を引く。
着弾とともに巨大な火炎の渦が発生する
―――特殊装弾プレケス。その弾丸によるものだ。
レイラもまたすかさず追撃を行う。鞭を振るうようにうねる雷光がウィリアムを襲いかかる。
恐ろしいほどの火力、脂肪を焼きつき、骨すら残るか怪しいほどの威力。人を一人殺すにはあまりにも過大。
だがそれでも。
「……やはり」
「これでもだめなのね」
それでもやはり。この男。ウィリアムを倒すには及ばなかった。
「ふはははは。良いぞ。良い攻撃だ。次はこちらだ」
足止めのための氷は、道端で踏んでしまったガム程度の足止めであるとでも言いたげに軽々しく、砕く。
そして一瞬にしてまたもやリクとの距離を詰める。そして何ら一切小細工なしの攻撃。メイスを上から振り下ろすというとてもシンプルな攻撃を行う。
「させない!」
そこに割って入ったのはレイラだった。
「レイラさん!ダメだ!」
リクは慌てるような声をあげるが、間に合わなかった。
レイラは魔力を集中し、全力で透明な壁をはる。二人を守る盾を生み出す。
鈍い音がする。メイスと魔法による盾が衝突により生まれた音だ。
ウィリアムは涼しい顔でその状況を認識する。レイラはウィリアムの力を抑えるために踏ん張り、歯を食いしばりながら状況を認識する。どちらが優位かは分かり切っていた。
「これほどの力を持っているとは。あなたは一体……ただの力わざではない。これほどの力を出すには魔力との調和を図って練り上げなければ生み出すことはできない。一体何者!」
レイラは力を緩めることなくウィリアムに問う。
「何者?私は対逸れた人間ではない。ただのゴミ処理係よ。ただの処刑人よ。悪を滅ぼすことに身を賭したどうしようもない悪党よ」
くだらない質問をされて、ため息をつきたくなるような退屈な表情で応える。そしてウィリアムは追撃を加える。
「ぬう!」
「あぁ!」
追撃は先程レイラが受け止めた攻撃よりも数段上の威力であった。なんとか魔力によって生み出された盾を破られることは阻止することができたが、威力を殺すことができなかず、吹き飛ばされてしまった。
「っ!レイラさん」
リクは吹き飛ばされ壁に激突しようとするレイラを庇うように抱え込みその衝撃を受けとめる。
「ぐっ!」
肺の酸素が持っていかれそうになるが、気にしている余裕はなかった。目の前にはその大きなメイスを振り上げているウィリアムがいたのだから。
ウィリアムのメイスが振り下ろされる。逃げ場はない。レイラをそのままにしておくわけにもいかない。それをするのはリクの道義に反する。
望みは薄いがリクは銃を向け引き金を引こうとする。それ以外の方法が思いつかなかった。
「うおおおおおお!!!」
殺すことはできない。しかし怯ませることは、攻撃を中断することはできる。その可能性に欠けて叫び引き金を引く―――
ぐしゃっ!というなんとも気味の悪い音が聞こえる。何か水分を含んだ果物を踏み潰したような感じの悪い音だ。
ウィリアムからではない。その音はリクからだ。正確には銃を構えた右手だったものからだ。
―――右腕が強引な力によって潰されたことによってできた音だ。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
その事実を認識することができるのと同時に襲いかかる激痛。経験したこともない激痛にリクは叫ばずにはいられなかった。
「なんてこと!すぐに止血を!」
レイラはその事実を見て顔を青くしながらすぐに応急手当てを行おうとする。
「やめろ。その必要はない。そいつがそれで。そんなことでくたばるものか。その程度の『かすり傷』でそいつが死ぬものか」
その手当を止めようとするのはウィリアムだ。だがレイラはリクをウィリアムから離しながら手当てを開始し始める。
だがその手がぴたりと止まった。
ウィリアムが止めたのではない。レイラが止まったのだ。助ける気がなくなったからではない。目の前で驚くことが起こっていたからだ。
「血が……血がリクのもとへ?元へ戻ってくる。こっ。これは!」
「やはり愉快だ。とんでもない男。恐ろしい魔力。でなければそれはできない。できるはずがない」
トマトを踏み潰した後のような惨状であったリクの右手がゆっくりと『復元』し始めていた。ちぎれた筋肉がリクの元へとゆったりと帰ってくる。
「自己再生……。ですがこれほどの再生は……」
「そうだ。そいつはそれほどまでの力を有しているのだ。私はそいつを確かめたくなったのだ」
レイラはこの世界でも一級の魔力を所持する人間。その力は絶大だ。レイラ自身もまた自分の傷を自分で癒すことはできる。骨折ぐらいならばすぐに治ってしまう。
だがそんなレイラでもこれはできない。切れ味の良い刃物で綺麗に切られた腕ならばまだ治すことはできる。だがこれほどまでにぐちゃぐちゃにされてもなお修復することは不可能に近い。可能であっても一日二日でできるものではなかった。
「それがそいつの力よ。それが聖女様。あなたが助けを乞うた男よ。そいつこそが貴様が望む救世主よ。素敵だ。愉快だ。これからが楽しみで仕方がない」
ウィリアムはそう言ってコートのポケットを漁り始めた。そのことにレイラは警戒する。
「警戒することはない。ただ帰るだけだ。そいつの力を確認することができて私はもう満足した。十分だ。帰るとしよう。これ以上いたらさらに邪魔者も増えるしな」
ウィリアムはそう言いながら青白い涙の形をした結晶を取り出し。それを砕く。
「さらば。また会おう。敵か味方か。どちらになるかは分からないが。また再び戦で」
光の粒子となりウィリアムは姿を消した。
その声が聞こえた瞬間ウィリアムに巨大な火の玉が襲いかかった。
「ぬう!」
それは巨大な炎の竜巻となりウィリアムを燃やす。
「リク」
「!レイラさん」
そこにいたのはレイラであった。
「大丈夫ですか?クレアから非常に危険な状況であることを聞いてここまできました。クレアは今カーティスの方へ加勢しているはず」
「ほぅ。救世主の次にその者を支える聖女様までも出会えることになろうとは。やはり今日はとても愉快な良い日だ」
先ほどまで業火に襲われていたとはとても思えないほど涼しげな表情でウィリアムはレイラを見る。そのことにレイラの表情が険しくなる。
(先程の一撃はかなり強力な火力だったはず。それなのにこの男は立っているとなると、クレアのいう通り、相当の手練れ)
レイラは身構える。
「だが聖女様よ。私は今非常に楽しい時間を過ごしている。もうすぐ終わる。そこで黙ってはくれないか?」
ウィリアムはそのようにレイラに願う。
だがその願いは到底受け入れられるものではなかった。
「そう言われて、そんなことを言われて。私がはいそうですかといって、彼を置いて黙っていると思っているのですか?」
レイラは毅然とした態度を持って答えた。
「たしかに。それは確かにそうだ。この世界を救ってくれるかも知れぬ者が危うい状況だ。それを黙って見ていては聖女失格だからな」
ウィリアムは納得したような表情をするが―――
「違います」
レイラはそれを否定する。
「確かに彼はその資格があります。ですがそんなことは些細な理由。聖女だからというのは私自身の『意思』ではないです」
「!」
リクはその言葉に驚いてしまう。
「聖女だから。彼をここに連れてきてしまった。巻き込んでしまったという罪悪感があるか。それらは私が動く理由にならない。私が彼を助けるのはあくまで私の『意志』。まだ少ない日々しか過ごしていないですが、それでも私は私の正義を持って、私の道義を持って、私の意志を持って彼を助けたいのです。だからこそ私は危険を冒してまでここにいるのです」
「……愉快。とても良い覚悟、とても良い勇気だ。素敵だ。ならばその意志を持って私を倒してみせろ!」
ウィリアムはメイスを持って、再びリクのところへ向かう。
「させない」
レイラは自分の魔力を持って、青白く輝く氷の刃を生み出し、ウィリアムを襲う。狙うは足。相手の行動を止めることが目的だ。
「ほお」
ウィリアムは感心した様子を見せる。レイラの目的は確かに達成した。
リクはそれを見計らったように銃を構え引き金を引く。
着弾とともに巨大な火炎の渦が発生する
―――特殊装弾プレケス。その弾丸によるものだ。
レイラもまたすかさず追撃を行う。鞭を振るうようにうねる雷光がウィリアムを襲いかかる。
恐ろしいほどの火力、脂肪を焼きつき、骨すら残るか怪しいほどの威力。人を一人殺すにはあまりにも過大。
だがそれでも。
「……やはり」
「これでもだめなのね」
それでもやはり。この男。ウィリアムを倒すには及ばなかった。
「ふはははは。良いぞ。良い攻撃だ。次はこちらだ」
足止めのための氷は、道端で踏んでしまったガム程度の足止めであるとでも言いたげに軽々しく、砕く。
そして一瞬にしてまたもやリクとの距離を詰める。そして何ら一切小細工なしの攻撃。メイスを上から振り下ろすというとてもシンプルな攻撃を行う。
「させない!」
そこに割って入ったのはレイラだった。
「レイラさん!ダメだ!」
リクは慌てるような声をあげるが、間に合わなかった。
レイラは魔力を集中し、全力で透明な壁をはる。二人を守る盾を生み出す。
鈍い音がする。メイスと魔法による盾が衝突により生まれた音だ。
ウィリアムは涼しい顔でその状況を認識する。レイラはウィリアムの力を抑えるために踏ん張り、歯を食いしばりながら状況を認識する。どちらが優位かは分かり切っていた。
「これほどの力を持っているとは。あなたは一体……ただの力わざではない。これほどの力を出すには魔力との調和を図って練り上げなければ生み出すことはできない。一体何者!」
レイラは力を緩めることなくウィリアムに問う。
「何者?私は対逸れた人間ではない。ただのゴミ処理係よ。ただの処刑人よ。悪を滅ぼすことに身を賭したどうしようもない悪党よ」
くだらない質問をされて、ため息をつきたくなるような退屈な表情で応える。そしてウィリアムは追撃を加える。
「ぬう!」
「あぁ!」
追撃は先程レイラが受け止めた攻撃よりも数段上の威力であった。なんとか魔力によって生み出された盾を破られることは阻止することができたが、威力を殺すことができなかず、吹き飛ばされてしまった。
「っ!レイラさん」
リクは吹き飛ばされ壁に激突しようとするレイラを庇うように抱え込みその衝撃を受けとめる。
「ぐっ!」
肺の酸素が持っていかれそうになるが、気にしている余裕はなかった。目の前にはその大きなメイスを振り上げているウィリアムがいたのだから。
ウィリアムのメイスが振り下ろされる。逃げ場はない。レイラをそのままにしておくわけにもいかない。それをするのはリクの道義に反する。
望みは薄いがリクは銃を向け引き金を引こうとする。それ以外の方法が思いつかなかった。
「うおおおおおお!!!」
殺すことはできない。しかし怯ませることは、攻撃を中断することはできる。その可能性に欠けて叫び引き金を引く―――
ぐしゃっ!というなんとも気味の悪い音が聞こえる。何か水分を含んだ果物を踏み潰したような感じの悪い音だ。
ウィリアムからではない。その音はリクからだ。正確には銃を構えた右手だったものからだ。
―――右腕が強引な力によって潰されたことによってできた音だ。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
その事実を認識することができるのと同時に襲いかかる激痛。経験したこともない激痛にリクは叫ばずにはいられなかった。
「なんてこと!すぐに止血を!」
レイラはその事実を見て顔を青くしながらすぐに応急手当てを行おうとする。
「やめろ。その必要はない。そいつがそれで。そんなことでくたばるものか。その程度の『かすり傷』でそいつが死ぬものか」
その手当を止めようとするのはウィリアムだ。だがレイラはリクをウィリアムから離しながら手当てを開始し始める。
だがその手がぴたりと止まった。
ウィリアムが止めたのではない。レイラが止まったのだ。助ける気がなくなったからではない。目の前で驚くことが起こっていたからだ。
「血が……血がリクのもとへ?元へ戻ってくる。こっ。これは!」
「やはり愉快だ。とんでもない男。恐ろしい魔力。でなければそれはできない。できるはずがない」
トマトを踏み潰した後のような惨状であったリクの右手がゆっくりと『復元』し始めていた。ちぎれた筋肉がリクの元へとゆったりと帰ってくる。
「自己再生……。ですがこれほどの再生は……」
「そうだ。そいつはそれほどまでの力を有しているのだ。私はそいつを確かめたくなったのだ」
レイラはこの世界でも一級の魔力を所持する人間。その力は絶大だ。レイラ自身もまた自分の傷を自分で癒すことはできる。骨折ぐらいならばすぐに治ってしまう。
だがそんなレイラでもこれはできない。切れ味の良い刃物で綺麗に切られた腕ならばまだ治すことはできる。だがこれほどまでにぐちゃぐちゃにされてもなお修復することは不可能に近い。可能であっても一日二日でできるものではなかった。
「それがそいつの力よ。それが聖女様。あなたが助けを乞うた男よ。そいつこそが貴様が望む救世主よ。素敵だ。愉快だ。これからが楽しみで仕方がない」
ウィリアムはそう言ってコートのポケットを漁り始めた。そのことにレイラは警戒する。
「警戒することはない。ただ帰るだけだ。そいつの力を確認することができて私はもう満足した。十分だ。帰るとしよう。これ以上いたらさらに邪魔者も増えるしな」
ウィリアムはそう言いながら青白い涙の形をした結晶を取り出し。それを砕く。
「さらば。また会おう。敵か味方か。どちらになるかは分からないが。また再び戦で」
光の粒子となりウィリアムは姿を消した。
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