日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第144話 ミスリル鉱山奪還

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 まるで日常をそのまま放り出して船員が退船したかのような有様を見て、立検隊の花川少尉は、船員といえども簡単に持ち場を放り出すか、という疑念が消えなかった。

 航海日誌や機関日誌をはじめ、およそ本船樽前山丸の行動を記したような記録類は全て持ち去られており、通信室の暗号書も見当たらず、船員がそれなりの準備の上、退船したことが窺われる一方、船室には途中であったと思われる食事が放置されている等、相当、慌てて退船したことも推定されるのである。

「まあ、考えても仕方がないか。」

 花川少尉は、独り言ちた。

 ◆◆◆◆

 駆逐艦葉月は、2昼夜かけて樽前山丸をデ・ノーアトゥーン港まで曳航した。

 樽前山丸は、主機が石炭焚きのタービンであるため、根拠地隊各艦艇から何とか掻き集めた機関員により罐に火が入れられ、蒸気圧を上げた。

 これでようやく船内の電灯が灯り、デリック・クレーンその他の機械類が動かせるようになったため、必要な物資の陸揚げが可能となった。

 積載されていた物資は、出雲の主砲弾が見当たらないくらいで、その他の武器・弾薬は豊富であり、当面の間は、補給に困らないと思われた。

 また、船自体も、驚くほど良い状態に保たれており、すぐにでも航行可能と思われたが、いかんせん根拠地隊は人手不足であり、本船に充当できる人的余裕はないため、当分は、最小限度の焚火要員を、交代で乗せておくのみに止めた。

 ◆◆◆◆

 少し話は前後する。

 ミズガルズ王国の王都クラズヘイム所在の王宮ヴァ―ラスキャールヴ城へ、叙勲のため招かれていた、根拠地隊司令官桑園少将、空母蛟龍艦長稲積大佐、戦艦出雲艦長白石大佐、特設水上機母艦令川丸艦長南郷大佐は、あまり気が進まなかったが、王宮での晩餐会に出席していた。

 長方形のテーブルには、上座に国王夫妻が並び、そこから第一王子、第二王子、第一王女、第三王女が、それぞれ対面に着座していた。

 桑園以下の4人は、第二王子の隣席から順にそれぞれ対面に着座していた。

 その他の列席者も、幾つかの長方形のテーブルに割り振られているが、国王一家のテーブルに近い席ほど、身分が高い人物であると推察された。

 桑園自身は、在外公館で駐在武官の経験があったから、幾分か気楽であったが、その他の3人の艦長たちは、せいぜい占領地の有力者と会食したことがあるくらいで、王侯貴族などは無縁であったから、場違いも甚だしく思え、緊張を通り越して現実感が湧かなかった。

 食事の合間、国王の話し相手は、主に桑園が行っているが、3艦長たちは、王子や王女たちと話をした。

 王子と王女たちは、異世界人であり異世界の軍隊の構成員である稲積たちに大いに興味をそそられたと見受けられ、また、彼らが「大きなワイバーン」と呼んでいる、一式陸攻と四式重爆飛龍が王宮上空に飛来したことに強烈な印象を持ったらしく、若者らしく遠慮のない様々な質問を浴びせて来た。

 稲積たちは、それらの質問にできるだけ丁寧に回答していたが、稲積が桑園の方をチラリと見遣ると渋い顔付きになっており、何かしら不愉快な話題を振られたように思われた。

 国王夫妻との会話を一手に引き受けていた桑園であったが、話題がこちらの世界の国際情勢になると

「そら、おいでなすった。」

と密かに思った。

 要するに、東の隣国であるヴァナヘイム王国とは緊張関係にあり、全面武力衝突には至らないが、国境付近では小競り合いが続いている、という内容で、これは、桑園も、ブリーデヴァンガル属領首府から、本国の情勢として聞き及んでいたものであった。 

 国王の話は、より突っ込んだもので、資源、特に希少金属の鉱山の帰属に関する内容であった。

「希少金属といいますと、やはり金鉱山に関することでございましょうか?」

 桑園は、我ながら俗っぽいとは思いつつ、国王に質問した。

「まあ、金も大切ではあるが、もっと別のものとなる。」

 国王は、理解が浅いな、という表情で答えた。

「我々の世界では、鉄、銅、錫などのほかに、ボーキサイト、ニッケル、タングステン、マンガン、マグネシウムなどが戦略物資となりますが、こうしたものでしょうか?」

 今度の桑園の問いに国王は、例に挙げられた金属が何であるか理解できなかったらしく

「只今、ヘネラールが申された物資…資源がどのようなものか、余には分からぬが、ちと違うようじゃな。」

と眉間に皺を寄せて回答した。

「では、どのような?」

 桑園が再び問うと

「ミスリルじゃよ。ヘネラールはご存じないか?」
「ミスリル…でございますか。」

 桑園は、聞いたこともない物質名を聞き

「ミスリル…なんて元素周期表にあったかな…。」

と中学校の化学の時間を思い出していた。
 
「ご存じないようじゃな。ミスリルとは、如何なる金属よりも丈夫で、武器にすれば突き通せぬ物はなく、また、防具にすれば防げぬ物はない、まさに天下無双の『物質』じゃ。」

 不思議そうな顔の桑園に、国王が説明した。

「じゃあ、ミスリルでミスリルを突いたらどうなるんだろう。まるで矛と盾の昔話みたいだ。」

 桑園は、「矛盾」の故事を思い出した。

「それで、そのミスリル鉱山が、目下の懸案であると陛下は仰るのでございますな。」
「いかにも。」

 ようやく分かったか、とも言いたげに、国王は返答した。

「奪われた鉱山の奪還に手を貸せ、とか言うんじゃないだろうな。」

 桑園は、また面倒に巻き込まれそうな予感がした。

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