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第134話 災害派遣、出発
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山花大佐は、急いでガルフピッケン島住民救出作戦の概要を立案した。
現地の状況では、出雲や蛟龍は、大き過ぎてヴォッサリー港周辺には近寄ることができなさそうで、令川丸と給糧艦浦賀が、精一杯と思われる。
避難民の救出は、事実上の戦車揚陸艦に近い形状を持つ、輸送艦第百号と九十九号は、浜辺さえあれば、直接、座洲すれば良い。
しかし、その他の艦艇については、陸と艦の間に大発や内火艇、カッターを往復させて、輸送するしかない。
こうした前提に立って、山花が立案した計画における参加艦艇と、艦ごとの乗艦避難民数は、以下のとおりとなった。
特設水上機母艦 令川丸 500人
宗谷型輸送艦 根室 500人
第101号型輸送艦 第99号 300人
第101号型輸送艦 第100号 300人
駆逐艦 葉月 200人
駆逐艦 櫟 200人
海防艦 利尻 200人
海防艦 天売 200人
海防艦 第83号 200人
給糧艦 浦賀 300人
駆潜艇 第59号 100人
問題は、3,000人の避難民を、混乱なく秩序立って乗艦させられるかであった。
キスカ島撤退作戦の際は、救出艦隊は10隻、5,200名余りの将兵が、10艘の大発(特型運貨船)で、艦隊の投錨から55分で撤収を完了している。
これは、事前連絡が徹底し、守備隊の個人個人がそれぞれどの艦に乗艦するかあらかじめ決められているなど、周到な準備があってのことである。
しかし、今回の救出作戦では、仮に、避難民が我先に接岸した舟艇に殺到すると、統制が取れなくなり危険であるほか、時間が掛かってしまう。
この点、事前に連絡鳩を飛ばして情報共有を図るが、先方で巣箱が溶岩流に飲まれるか火災で焼失するなどしていると、鳩は到着できない。
色々考えても仕方がないと、山花は立案した計画を桑園司令に打電し判断を仰ぐとともに、属領首府庶務尚書ケッペル男爵にも、計画を前倒して伝え、現地への伝達を依頼した。
根拠地隊司令部では、属領首府による避難民救助依頼の災害派遣ということで、特に異論もなく承認された。
ただし、直ちに偵察を兼ねて連絡機を派遣し、鳩とは別に、救出計画を現地へ伝達することとなった。
デ・ノーアトゥーン港では、ギムレー湾在泊艦艇と同流するため、葉月と櫟が急いで出港した。
また、属領首府からガルフピッケン島宛ての連絡文と、山花が作成させた海図の謄写を携えた水偵瑞雲が飛び立ち、いったん令川丸に立ち寄り、海図の謄本を手渡した後、ガルフピッケン島に向かった。
本作戦の指揮は、令川丸艦長南郷大佐が執ることになったため、現在、こちらに向かっている葉月と櫟以外の各艦艇の長を集め、海図の謄本を手渡すとともに、蛟龍から打電された作戦の概要を説明した。
「とにかく時間がない。直ちに出港する。」
南郷は、各艦長に伝えた。
救出艦隊のうち、輸送艦各艦と浦賀の速力が遅いため、ギムレー湾からでも、避難民が集まっているヴォッサリー港までは、半日は必要となる。
葉月と櫟は、巡航速度でも、往路の途中で艦隊に追い付き、合流できるはずである。
ギムレー湾に、出港ラッパと各艦が錨を揚げる音が響き渡った。
◆◆◆◆
その頃、ガルフピッケンのヴォッサリー港は、溶岩流に追い詰められた避難民たちでごった返していた。
着の身着のままの者もいれば、家財道具を馬車に積み込んだ者、両手に荷物を抱えた者、子供の手を引いた者、様々であるが、一様に不安と恐怖の表情を浮かべている。
島唯一の村、ムーガ村の村長マテオ・アッセルは、病身のため担架に乗せられていたものの、村人たちにあれこれと指示を出していた。
溶岩流は、すでに村はずれに迫っていて、一部の家屋が燃え始めている。
「畜生、このままじゃ、みんな溶岩に飲まれて焼け死んじまう。」
「ああ、神様。」
悲観的な声ばかりである。
「皆の衆、落ち着け。助けを呼びにカッターを出したではないか。助けはきっと来る。」
アッセルが周囲の村人をたしなめた。
「そうは言っても、間に合うかどうか…。」
悲観論の渦中で、アッセルも
「いざという時は、漁に使うカッターやボートに、女子供を乗せられるだけ乗せて、沖へ逃がせ。」
と、悲観的にならざるを得ない。
その時、上空から聞き慣れない音が聞こえ、ワイバーンのようなモノが飛来するのが見えた。
「ワーバーンだ!」
誰かが叫んだ。
その「ワイバーン」は、高度を下げると、爆音を立てて避難民たちの上を通過した。
「何か落として行ったぞ!」
そのワイバーンは、一本の筒を落として行った。
拾った村人がアッセルの許へ届け、アッセルがその筒を開けると、通信文が入っていた。
「属領首府からの通信文だ!」
アッセルの言葉に、周囲にはざわめきが広まった。
「あと半日待て、とある。半日で救援が来ると。」
「本当ですか?」
「でも、どうやってそんなに早く救援が来れるんだ。」
村人たちは、信じられないという表情である。
「この通信文には、船が迎えに来た時の、乗船の仕方や人数の区分が書いてある。とにかく、備えるだけは備えておこう。皆の衆、協力してくれ。」
アッセルが言うと、村の主だった者たちが、村人たちを分け、乗艦の準備を始めた。
現地の状況では、出雲や蛟龍は、大き過ぎてヴォッサリー港周辺には近寄ることができなさそうで、令川丸と給糧艦浦賀が、精一杯と思われる。
避難民の救出は、事実上の戦車揚陸艦に近い形状を持つ、輸送艦第百号と九十九号は、浜辺さえあれば、直接、座洲すれば良い。
しかし、その他の艦艇については、陸と艦の間に大発や内火艇、カッターを往復させて、輸送するしかない。
こうした前提に立って、山花が立案した計画における参加艦艇と、艦ごとの乗艦避難民数は、以下のとおりとなった。
特設水上機母艦 令川丸 500人
宗谷型輸送艦 根室 500人
第101号型輸送艦 第99号 300人
第101号型輸送艦 第100号 300人
駆逐艦 葉月 200人
駆逐艦 櫟 200人
海防艦 利尻 200人
海防艦 天売 200人
海防艦 第83号 200人
給糧艦 浦賀 300人
駆潜艇 第59号 100人
問題は、3,000人の避難民を、混乱なく秩序立って乗艦させられるかであった。
キスカ島撤退作戦の際は、救出艦隊は10隻、5,200名余りの将兵が、10艘の大発(特型運貨船)で、艦隊の投錨から55分で撤収を完了している。
これは、事前連絡が徹底し、守備隊の個人個人がそれぞれどの艦に乗艦するかあらかじめ決められているなど、周到な準備があってのことである。
しかし、今回の救出作戦では、仮に、避難民が我先に接岸した舟艇に殺到すると、統制が取れなくなり危険であるほか、時間が掛かってしまう。
この点、事前に連絡鳩を飛ばして情報共有を図るが、先方で巣箱が溶岩流に飲まれるか火災で焼失するなどしていると、鳩は到着できない。
色々考えても仕方がないと、山花は立案した計画を桑園司令に打電し判断を仰ぐとともに、属領首府庶務尚書ケッペル男爵にも、計画を前倒して伝え、現地への伝達を依頼した。
根拠地隊司令部では、属領首府による避難民救助依頼の災害派遣ということで、特に異論もなく承認された。
ただし、直ちに偵察を兼ねて連絡機を派遣し、鳩とは別に、救出計画を現地へ伝達することとなった。
デ・ノーアトゥーン港では、ギムレー湾在泊艦艇と同流するため、葉月と櫟が急いで出港した。
また、属領首府からガルフピッケン島宛ての連絡文と、山花が作成させた海図の謄写を携えた水偵瑞雲が飛び立ち、いったん令川丸に立ち寄り、海図の謄本を手渡した後、ガルフピッケン島に向かった。
本作戦の指揮は、令川丸艦長南郷大佐が執ることになったため、現在、こちらに向かっている葉月と櫟以外の各艦艇の長を集め、海図の謄本を手渡すとともに、蛟龍から打電された作戦の概要を説明した。
「とにかく時間がない。直ちに出港する。」
南郷は、各艦長に伝えた。
救出艦隊のうち、輸送艦各艦と浦賀の速力が遅いため、ギムレー湾からでも、避難民が集まっているヴォッサリー港までは、半日は必要となる。
葉月と櫟は、巡航速度でも、往路の途中で艦隊に追い付き、合流できるはずである。
ギムレー湾に、出港ラッパと各艦が錨を揚げる音が響き渡った。
◆◆◆◆
その頃、ガルフピッケンのヴォッサリー港は、溶岩流に追い詰められた避難民たちでごった返していた。
着の身着のままの者もいれば、家財道具を馬車に積み込んだ者、両手に荷物を抱えた者、子供の手を引いた者、様々であるが、一様に不安と恐怖の表情を浮かべている。
島唯一の村、ムーガ村の村長マテオ・アッセルは、病身のため担架に乗せられていたものの、村人たちにあれこれと指示を出していた。
溶岩流は、すでに村はずれに迫っていて、一部の家屋が燃え始めている。
「畜生、このままじゃ、みんな溶岩に飲まれて焼け死んじまう。」
「ああ、神様。」
悲観的な声ばかりである。
「皆の衆、落ち着け。助けを呼びにカッターを出したではないか。助けはきっと来る。」
アッセルが周囲の村人をたしなめた。
「そうは言っても、間に合うかどうか…。」
悲観論の渦中で、アッセルも
「いざという時は、漁に使うカッターやボートに、女子供を乗せられるだけ乗せて、沖へ逃がせ。」
と、悲観的にならざるを得ない。
その時、上空から聞き慣れない音が聞こえ、ワイバーンのようなモノが飛来するのが見えた。
「ワーバーンだ!」
誰かが叫んだ。
その「ワイバーン」は、高度を下げると、爆音を立てて避難民たちの上を通過した。
「何か落として行ったぞ!」
そのワイバーンは、一本の筒を落として行った。
拾った村人がアッセルの許へ届け、アッセルがその筒を開けると、通信文が入っていた。
「属領首府からの通信文だ!」
アッセルの言葉に、周囲にはざわめきが広まった。
「あと半日待て、とある。半日で救援が来ると。」
「本当ですか?」
「でも、どうやってそんなに早く救援が来れるんだ。」
村人たちは、信じられないという表情である。
「この通信文には、船が迎えに来た時の、乗船の仕方や人数の区分が書いてある。とにかく、備えるだけは備えておこう。皆の衆、協力してくれ。」
アッセルが言うと、村の主だった者たちが、村人たちを分け、乗艦の準備を始めた。
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