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第123話 国王ハ出雲訪艦ヲ終了ス
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国王ミズガルズ四世の出雲参観(訪艦)に先立ち、属領首府海事・軍務尚書レンダール男爵が、蛟龍の内火艇で一度岸壁に上がり、国王の侍従と参観の順序や同行者について打ち合わせた。
その結果、国王には侍従長のほか、王国尚書省軍務尚書メルテニス辺境伯が随行した。
また、やはり、王妃も同行を主張して譲らず、侍女と侍従とともに参観することとなった。
国王一行は、改めて出迎えに来た出雲の内火艇に乗艇し、出雲に向かった。
艇長役は、グリトニル辺境伯の出迎えの時と同じ、宮澤航海長である。
本来の艇長は、古参の二等兵曹が務めており、元の世界では、例え皇族や聯合艦隊司令長官が乗艇する時でも変わることはなかったが、桑園司令と艦長の直々の命令では仕方がなかった。
宮澤は、折り目正しく敬礼した後、国王と王妃の乗艇に手を貸した。
「さすがに、王様とお妃様は緊張するな。」
国王と王妃の豪華な服装を見て、宮澤は、どうにも現実感が湧かず、お伽噺か芝居でも観ている気分だった。
一応、艇内には、一番上等の将官用絨毯を敷き、きれいに清掃してあったが、国王夫妻は、その辺りには気を留めず、ただ内火艇の速さに驚いているだけであった。
「王妃よ。儂が乗った『ヒコーキ』は、比べ物にならないくらい速かったぞ。」
国王が王妃に自慢している。
それを聞いた宮澤は
「やっぱり、陸攻に乗って味を占めやがったな、この王様は。」
と思った。
右舷の舷梯に内火艇をピッタリ付け、国王一行が出雲に乗艦するのに手を貸した。
ヒュイ ヒューイ ヒューイー…
サイドパイプの音が鳴り、国王夫妻一行が舷梯をゆっくりと登って行く。
サイドパイプの奏者は、賓客の動きに音色を合わせなければならず、息が続かないこともあるので、大変である。
国王はともかく、王妃と侍女は、裾の広いスカートのドレスに踵の高い靴を履いているので、傍から見ると、危なっかしいことこの上ない。
「副長の言うとおり、水偵よろしくデリッククレーンで吊り上げた方が良かったんじゃないか。」
宮澤は、揺れる舷梯を必死で押さえながら思った。
無事に舷梯を上がり終わった国王一行は、甲板士官以下の捧げ銃の礼を受け、桑園少将と艦長白石大佐の敬礼に出迎えられた。
桑園が進み出て
「国王陛下ご夫妻にお会いできて、光栄に存じます。」
と述べ、続けて白石が
「陛下ご夫妻を本艦にお迎えできたこと、恐悦至極に存じます。」
と丁寧に挨拶した。
「どうぞ、艦内をご案内申し上げます。」
白石が先に立ち、艦橋の中に入って行った。
艦内に入る際、国王は艦橋に直に触れ
「ほお、本当に鉄でできておる。」
と感心しながら言った。
ここでも、王妃と侍女のドレスが、ハッチの出入りやラッタルの昇降には明らかに不向きであったため、白石をはじめ、周囲の将兵は気を揉んだが、当の本人はどこ吹く風で、国王の後に続き、平気で艦内を歩き回った。
国王が興味を持ったのは、やはり主砲で、一番砲塔内を参観した時は、砲の威力や照準の方法について、盛んに質問を発していた。
次いで興味を示したのは、後部飛行甲板と搭載機で、今回は、瑞雲を定数の半分、11機を搭載していたが、格納庫内に降り、しきりに瑞雲の機体に触れて感心していた。
およそ2時間半ほどかけて艦内を駆け足で参観した国王夫妻に、桑園と白石は休息を勧め、艦長公室でコーヒーを振舞った。
国王は、参観の興奮冷めやらず、様々な質問を投げ掛けて来た。
それらの質問に、白石は丁寧に回答し、国王の満足が得られるようにした。
なるべくなら、出雲の参観だけで済ませたいところである。
しかし、一息ついたところで国王は
「さて、妃よ。これから見る『クウボ』というのは、あの『ヒコーキ』が発着する凄い艦と聞くぞ。」
と言い始めた。
「ああ、やっぱり出雲だけでは済まなかったか。」
桑園は、内心溜息交じりであったが、表には出さない。
「よろしければ、蛟龍へご案内する準備は整えてございますが、陛下、お疲れではございませんか。王妃様は如何でございますか。」
彼はそう言って、国王の出方を探った。
「何の。かような経験、人生で二度あるかどうか分からぬ。疲れ云々などと申している場合ではないわ。はっはっは。」
国王は、意気軒高である。
「妃よ。其方は無理をせずとも良いぞ。疲れたのであれば、休息を取るが良い。」
王妃を気遣ったが
「アナタ、私はアナタより年下ですのよ。それに、ご承知のとおり、若いみぎりは冒険者として諸国を旅したこともありましてよ。」
王妃は強気を見せた。
「『冒険者』とは、何ですか?」
白石が、陪席していたレンダールに小声で訊いた。
「『冒険者』とは、諸国を旅し、各地のギルドの依頼を受けて、魔物や魑魅魍魎の類を倒したり、山賊などの無頼の徒を討伐したりする者のことです。単独で行動する者もいれば、集団で行動する者たちもおります。」
レンダールの説明に白石は感心し
「ははあ。賞金稼ぎのようなものですか。しかし、そうするとあの王妃様、強者だったんですね。」
と言った。
「いえ、賞金だけが目当てではございませんが。まあ、それなりの経験を積んでおられるのでしょうな、王妃様は。」
「なるほど。」
レンダールの言葉に白石は納得し
「いずれにせよ、俺の出番はこれで仕舞いだな。」
と、内心で安堵していた。
同時に彼はメモ紙に鉛筆で
「国王ハ出雲の訪艦ヲ終了ス 蛟龍ニ向カフモノナリ」
と走り書きをし、伝令の兵に手渡した。
その結果、国王には侍従長のほか、王国尚書省軍務尚書メルテニス辺境伯が随行した。
また、やはり、王妃も同行を主張して譲らず、侍女と侍従とともに参観することとなった。
国王一行は、改めて出迎えに来た出雲の内火艇に乗艇し、出雲に向かった。
艇長役は、グリトニル辺境伯の出迎えの時と同じ、宮澤航海長である。
本来の艇長は、古参の二等兵曹が務めており、元の世界では、例え皇族や聯合艦隊司令長官が乗艇する時でも変わることはなかったが、桑園司令と艦長の直々の命令では仕方がなかった。
宮澤は、折り目正しく敬礼した後、国王と王妃の乗艇に手を貸した。
「さすがに、王様とお妃様は緊張するな。」
国王と王妃の豪華な服装を見て、宮澤は、どうにも現実感が湧かず、お伽噺か芝居でも観ている気分だった。
一応、艇内には、一番上等の将官用絨毯を敷き、きれいに清掃してあったが、国王夫妻は、その辺りには気を留めず、ただ内火艇の速さに驚いているだけであった。
「王妃よ。儂が乗った『ヒコーキ』は、比べ物にならないくらい速かったぞ。」
国王が王妃に自慢している。
それを聞いた宮澤は
「やっぱり、陸攻に乗って味を占めやがったな、この王様は。」
と思った。
右舷の舷梯に内火艇をピッタリ付け、国王一行が出雲に乗艦するのに手を貸した。
ヒュイ ヒューイ ヒューイー…
サイドパイプの音が鳴り、国王夫妻一行が舷梯をゆっくりと登って行く。
サイドパイプの奏者は、賓客の動きに音色を合わせなければならず、息が続かないこともあるので、大変である。
国王はともかく、王妃と侍女は、裾の広いスカートのドレスに踵の高い靴を履いているので、傍から見ると、危なっかしいことこの上ない。
「副長の言うとおり、水偵よろしくデリッククレーンで吊り上げた方が良かったんじゃないか。」
宮澤は、揺れる舷梯を必死で押さえながら思った。
無事に舷梯を上がり終わった国王一行は、甲板士官以下の捧げ銃の礼を受け、桑園少将と艦長白石大佐の敬礼に出迎えられた。
桑園が進み出て
「国王陛下ご夫妻にお会いできて、光栄に存じます。」
と述べ、続けて白石が
「陛下ご夫妻を本艦にお迎えできたこと、恐悦至極に存じます。」
と丁寧に挨拶した。
「どうぞ、艦内をご案内申し上げます。」
白石が先に立ち、艦橋の中に入って行った。
艦内に入る際、国王は艦橋に直に触れ
「ほお、本当に鉄でできておる。」
と感心しながら言った。
ここでも、王妃と侍女のドレスが、ハッチの出入りやラッタルの昇降には明らかに不向きであったため、白石をはじめ、周囲の将兵は気を揉んだが、当の本人はどこ吹く風で、国王の後に続き、平気で艦内を歩き回った。
国王が興味を持ったのは、やはり主砲で、一番砲塔内を参観した時は、砲の威力や照準の方法について、盛んに質問を発していた。
次いで興味を示したのは、後部飛行甲板と搭載機で、今回は、瑞雲を定数の半分、11機を搭載していたが、格納庫内に降り、しきりに瑞雲の機体に触れて感心していた。
およそ2時間半ほどかけて艦内を駆け足で参観した国王夫妻に、桑園と白石は休息を勧め、艦長公室でコーヒーを振舞った。
国王は、参観の興奮冷めやらず、様々な質問を投げ掛けて来た。
それらの質問に、白石は丁寧に回答し、国王の満足が得られるようにした。
なるべくなら、出雲の参観だけで済ませたいところである。
しかし、一息ついたところで国王は
「さて、妃よ。これから見る『クウボ』というのは、あの『ヒコーキ』が発着する凄い艦と聞くぞ。」
と言い始めた。
「ああ、やっぱり出雲だけでは済まなかったか。」
桑園は、内心溜息交じりであったが、表には出さない。
「よろしければ、蛟龍へご案内する準備は整えてございますが、陛下、お疲れではございませんか。王妃様は如何でございますか。」
彼はそう言って、国王の出方を探った。
「何の。かような経験、人生で二度あるかどうか分からぬ。疲れ云々などと申している場合ではないわ。はっはっは。」
国王は、意気軒高である。
「妃よ。其方は無理をせずとも良いぞ。疲れたのであれば、休息を取るが良い。」
王妃を気遣ったが
「アナタ、私はアナタより年下ですのよ。それに、ご承知のとおり、若いみぎりは冒険者として諸国を旅したこともありましてよ。」
王妃は強気を見せた。
「『冒険者』とは、何ですか?」
白石が、陪席していたレンダールに小声で訊いた。
「『冒険者』とは、諸国を旅し、各地のギルドの依頼を受けて、魔物や魑魅魍魎の類を倒したり、山賊などの無頼の徒を討伐したりする者のことです。単独で行動する者もいれば、集団で行動する者たちもおります。」
レンダールの説明に白石は感心し
「ははあ。賞金稼ぎのようなものですか。しかし、そうするとあの王妃様、強者だったんですね。」
と言った。
「いえ、賞金だけが目当てではございませんが。まあ、それなりの経験を積んでおられるのでしょうな、王妃様は。」
「なるほど。」
レンダールの言葉に白石は納得し
「いずれにせよ、俺の出番はこれで仕舞いだな。」
と、内心で安堵していた。
同時に彼はメモ紙に鉛筆で
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