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第122話 帝国海軍々人の矜持
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1月31日昼前、蛟龍、出雲、葉月、櫟の4艦は、ナルヴィック港沖合に到着した。
翌日には、国王ミズガルズ四世の即位日記念式典の一環である観艦式が、ナルヴィック港で開催されるが、王都クラズヘイムからナルヴィックまでは馬車で一日行程なので、国王一行は、そろそろ王都を出立する頃合いである。
国王がわざわざ名指しで招待したからには、蛟龍、出雲のいずれの艦にも乗りたがるに違いない。
桑園は、両艦の艦長に通知し、艦内の環境整備を徹底させた。
更に、士官食堂の軍属の割烹手(コック)のほか、給糧艦浦賀からも洋食の割烹手を借りて、国王が食事を摂る場合は、蛟龍の士官食堂で提供する手筈を整えた。
烹炊所の掌衣糧長には、兵員のために副長から
「夜食ニハ『汁粉』ヲ用意セヨ」
と下令されている。
若い兵隊たちが、大喜びするはずである。
烹炊所では、烹炊班の若い上等水兵が、電気烹炊器を前にして、汁粉を作っていた。
彼は、烹炊器の汁の中に砂糖を放り込み、味見の後に首を傾げてはまた砂糖を放り込むことを繰り返していた。
「おい、貴様、何をやっとる。」
上官の二等主計兵曹が声を掛けた。
「はい、砂糖をいくら入れても汁が甘くならないのです。」
上水が答えた。
「貴様、入れておるのは砂糖だけか?」
「はい、そうです。」
上水が答えると
「バカヤロー。砂糖だけじゃなくて、塩を入れるんだ、塩を。」
と二曹が言った。
「は?汁粉に塩を入れるんですか?」
「貴様、知らんのか。スイカを食う時に塩を振りかけると甘くなるだろう。あれと同じだ。早く塩を持って来い!」
言われた上水は、すぐに塩を持って来ると、汁粉の中に投げ入れてかき混ぜた。
「うわぁ!」
味見をした彼は、具合が悪くなりそうな甘さに思わず声を上げた。
「うぇ、何だこりゃ。水を足せ、水を。」
同じく味見をしたニ曹も、あまりの甘さに舌を出した。
言われた上水が汁に水を足すが、まだまだ甘い。
「もっと水を足せ。」
二曹に急かされて上水が汁に水を足して行くが、まだまだ甘過ぎであった。
しばらくすると、汁が烹炊器から溢れそうになったため、二人は、水を足すのを諦めざるを得ず、そのまま汁粉として提供することにした。
その夜、艦内のあちこちで兵隊たちが
「うわぁ。今日の汁粉は特別に甘いな!」
と言うのを聞いて、上水は何となく嬉しくなるのであった。
翌2月1日、衛兵が街中を厳重に警戒する中、国王ミズガルズ四世は、近衛兵100騎を引き連れ、絢爛豪華な馬車に乗り、港へ現れた。
根拠地隊4艦では、手空きの全将兵が、第一種軍装に身を包み舷側に整列して敬意を表す登舷礼と、出雲の高角砲が放つ21発の礼砲で、国王を迎えた。
桑園少将は、観艦式と銘打っているからには、さぞかし多数の艦船が集合しているだろうと思っていたが、いざ蓋を開けてみると、根拠地隊4艦のほかは、大型帆船が4~5隻いるくらいで、国王の即位記念日を祝うには、王国の国力に比して、随分と少ない数であると思えた。
「やっぱり、俺たちを見せびらかしたかっただけじゃないか。」
桑園は、苦々しく思った。
確かに、自分の即位記念日の式典に、出雲や蛟龍のような、こちらの世界の常識を超えた軍艦が祝意を伝えに来たとなれば、大変な宣伝になる。
「まるで俺たちは、チンドン屋かサンドイッチマンみたいなもんだ。ライバル国へ『異世界の軍を従えた。』と宣伝するための道具にされたって訳だ。」
桑園は、レンダール男爵とハッケン准男爵が近くにいるのを忘れた様に捲し立てた。
「サンドイッチマン…とは、如何なるものにございましょうか。」
レンダールが、傍らにいた副長の米里中佐に尋ねた。
「ええっとですね。店や商品の看板を…こう…身体を挟むように前後にぶら下げて歩く、宣伝屋のことです。」
米里は、体の前後に両手を回しながら説明した。
「察するに、桑園様は、此度の国王陛下による招請を快く思われていない、ということでございますかな。」
「仰るとおりです。国王の即位記念日に礼を尽くすとは、見方によっては軍門に下ったようにも見えます。これは、日本帝国海軍々人の矜持が許しません。」
「いや、さすがに国王陛下におかれては、そのようなおつもりは微塵もないと思われまする。」
レンダールの言葉に
「ふん、どうだろうな。」
桑園は、そう思いつつ
「いずれにせよ、我々が、王国属領たるブリーデヴァンガル島で厄介になっていることは事実です。グリトニル辺境伯の顔を潰すような真似はいたしませんから、ご安心を。」
と言うと、レンダールは頷いた。
「さて、国王陛下は、出雲と蛟龍の、どちらから参観をお望みでしょうか。」
桑園が訊くと
「まずは、『浮かべる城』から、というのがよろしいかと存じます。」
レンダールが答えた。
「男性のお付きの方々はともかく、王妃様やその他の女性も来艦されますか。」
「女性の乗艦は禁止されておりますのでしょうか。」
稲積艦長の質問に、レンダールが訊き返した。
「いえ、そうではありません。先だって、イザベラ姫が出雲に乗艦されたとき、動き易い乗馬服をお召しいただと聞き及んでおります。こちらの女性が着用なさっているドレスでは、舷門然り、ラッタル然り、艦内の移動は困難です。」
米里副長が、実務的なこと、と説明した。
「承知いたしました。それでも王妃様などが、強く参観をご希望の場合は…左様でございますな。クウボの飛行甲板を散歩いただくことで如何でございましょう。」
レンダールの提案に
「まあ、舷梯をどう昇降するかが問題ですが、その線で行きましょうか。」
と稲積が応じた。
「艦長、いっその事、デリッククレーンで釣り上げちゃどうでしょう。」
米里が、小声で稲積に囁いた。
日本の空母は、水上機を支援することが任務の一つになっていて、どの空母も、飛行甲板に、埋め込み式のデリッククレーンを装備していたのである。
「まさか、そんな訳にもいくまいよ。」
出たとこ勝負、と稲積は考えた。
翌日には、国王ミズガルズ四世の即位日記念式典の一環である観艦式が、ナルヴィック港で開催されるが、王都クラズヘイムからナルヴィックまでは馬車で一日行程なので、国王一行は、そろそろ王都を出立する頃合いである。
国王がわざわざ名指しで招待したからには、蛟龍、出雲のいずれの艦にも乗りたがるに違いない。
桑園は、両艦の艦長に通知し、艦内の環境整備を徹底させた。
更に、士官食堂の軍属の割烹手(コック)のほか、給糧艦浦賀からも洋食の割烹手を借りて、国王が食事を摂る場合は、蛟龍の士官食堂で提供する手筈を整えた。
烹炊所の掌衣糧長には、兵員のために副長から
「夜食ニハ『汁粉』ヲ用意セヨ」
と下令されている。
若い兵隊たちが、大喜びするはずである。
烹炊所では、烹炊班の若い上等水兵が、電気烹炊器を前にして、汁粉を作っていた。
彼は、烹炊器の汁の中に砂糖を放り込み、味見の後に首を傾げてはまた砂糖を放り込むことを繰り返していた。
「おい、貴様、何をやっとる。」
上官の二等主計兵曹が声を掛けた。
「はい、砂糖をいくら入れても汁が甘くならないのです。」
上水が答えた。
「貴様、入れておるのは砂糖だけか?」
「はい、そうです。」
上水が答えると
「バカヤロー。砂糖だけじゃなくて、塩を入れるんだ、塩を。」
と二曹が言った。
「は?汁粉に塩を入れるんですか?」
「貴様、知らんのか。スイカを食う時に塩を振りかけると甘くなるだろう。あれと同じだ。早く塩を持って来い!」
言われた上水は、すぐに塩を持って来ると、汁粉の中に投げ入れてかき混ぜた。
「うわぁ!」
味見をした彼は、具合が悪くなりそうな甘さに思わず声を上げた。
「うぇ、何だこりゃ。水を足せ、水を。」
同じく味見をしたニ曹も、あまりの甘さに舌を出した。
言われた上水が汁に水を足すが、まだまだ甘い。
「もっと水を足せ。」
二曹に急かされて上水が汁に水を足して行くが、まだまだ甘過ぎであった。
しばらくすると、汁が烹炊器から溢れそうになったため、二人は、水を足すのを諦めざるを得ず、そのまま汁粉として提供することにした。
その夜、艦内のあちこちで兵隊たちが
「うわぁ。今日の汁粉は特別に甘いな!」
と言うのを聞いて、上水は何となく嬉しくなるのであった。
翌2月1日、衛兵が街中を厳重に警戒する中、国王ミズガルズ四世は、近衛兵100騎を引き連れ、絢爛豪華な馬車に乗り、港へ現れた。
根拠地隊4艦では、手空きの全将兵が、第一種軍装に身を包み舷側に整列して敬意を表す登舷礼と、出雲の高角砲が放つ21発の礼砲で、国王を迎えた。
桑園少将は、観艦式と銘打っているからには、さぞかし多数の艦船が集合しているだろうと思っていたが、いざ蓋を開けてみると、根拠地隊4艦のほかは、大型帆船が4~5隻いるくらいで、国王の即位記念日を祝うには、王国の国力に比して、随分と少ない数であると思えた。
「やっぱり、俺たちを見せびらかしたかっただけじゃないか。」
桑園は、苦々しく思った。
確かに、自分の即位記念日の式典に、出雲や蛟龍のような、こちらの世界の常識を超えた軍艦が祝意を伝えに来たとなれば、大変な宣伝になる。
「まるで俺たちは、チンドン屋かサンドイッチマンみたいなもんだ。ライバル国へ『異世界の軍を従えた。』と宣伝するための道具にされたって訳だ。」
桑園は、レンダール男爵とハッケン准男爵が近くにいるのを忘れた様に捲し立てた。
「サンドイッチマン…とは、如何なるものにございましょうか。」
レンダールが、傍らにいた副長の米里中佐に尋ねた。
「ええっとですね。店や商品の看板を…こう…身体を挟むように前後にぶら下げて歩く、宣伝屋のことです。」
米里は、体の前後に両手を回しながら説明した。
「察するに、桑園様は、此度の国王陛下による招請を快く思われていない、ということでございますかな。」
「仰るとおりです。国王の即位記念日に礼を尽くすとは、見方によっては軍門に下ったようにも見えます。これは、日本帝国海軍々人の矜持が許しません。」
「いや、さすがに国王陛下におかれては、そのようなおつもりは微塵もないと思われまする。」
レンダールの言葉に
「ふん、どうだろうな。」
桑園は、そう思いつつ
「いずれにせよ、我々が、王国属領たるブリーデヴァンガル島で厄介になっていることは事実です。グリトニル辺境伯の顔を潰すような真似はいたしませんから、ご安心を。」
と言うと、レンダールは頷いた。
「さて、国王陛下は、出雲と蛟龍の、どちらから参観をお望みでしょうか。」
桑園が訊くと
「まずは、『浮かべる城』から、というのがよろしいかと存じます。」
レンダールが答えた。
「男性のお付きの方々はともかく、王妃様やその他の女性も来艦されますか。」
「女性の乗艦は禁止されておりますのでしょうか。」
稲積艦長の質問に、レンダールが訊き返した。
「いえ、そうではありません。先だって、イザベラ姫が出雲に乗艦されたとき、動き易い乗馬服をお召しいただと聞き及んでおります。こちらの女性が着用なさっているドレスでは、舷門然り、ラッタル然り、艦内の移動は困難です。」
米里副長が、実務的なこと、と説明した。
「承知いたしました。それでも王妃様などが、強く参観をご希望の場合は…左様でございますな。クウボの飛行甲板を散歩いただくことで如何でございましょう。」
レンダールの提案に
「まあ、舷梯をどう昇降するかが問題ですが、その線で行きましょうか。」
と稲積が応じた。
「艦長、いっその事、デリッククレーンで釣り上げちゃどうでしょう。」
米里が、小声で稲積に囁いた。
日本の空母は、水上機を支援することが任務の一つになっていて、どの空母も、飛行甲板に、埋め込み式のデリッククレーンを装備していたのである。
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