115 / 163
第115話 欲しがりません勝つまでは
しおりを挟む
エンジンを止めた陸攻の後部胴体左側日の丸の乗降口から、花川少尉以下の陸戦隊5名がまず降機し、次いで山花大佐が降機した。
重爆からも、挺身隊員たちが降機し、周囲を警戒している。
陸攻からは、続けて、ケッペル男爵とグリトニル辺境伯が降り、グリトニルは、胴体内のアールトと一緒に、イザベラ姫の降機に手を貸した。
イザベラが、出雲に乗艦したときのように乗馬ズボンを穿いてくれれば簡単だったが、今回は、普段のようにドレスを着用しており、乗機も降機も手間が掛かる。
イザベラの後から、アールトと機長の矢切飛行兵曹長が降りて来たが、ペアの残りの搭乗員は、副操縦員は自席で待機、ほかの者は機銃座で機銃を構えている。
こちらを目指す人の群れは、輪を縮める様に近付いている。
場所が練兵場であるから、群衆の多くは兵士たちであり、その手には着剣したマスケット銃が握られている。
その表情は一様に険しく、お世辞にも友好的とは言えない。
すると、兵士の群れの中から、胸甲と兜を身に着け、栗毛色の馬に跨った騎士らしい人物が前に進み出て来た。
「問う。栄えある王国騎士団の練兵場に、前触れなくワイバーンで降り立つ貴殿らは何者か!」
その騎士の手には槍が握られており、「寄らば撃つ」の構えである。
「控えよ!こちらにおわすは、ミズガルズ王国第二王女イザベラ・ラーシュニン・ファン・ミズガルズ殿下なるぞ!また、その隣におわすは、ブリーデヴァンガル属領主代官にしてグリトニル王国王子セーデルリンド・グレーゲルソン・ファン・グリトニル殿下なるぞ!」
アールトが、周囲に響き渡る大音声で呼ばわった。
その騎士は、アールトの台詞を聞き終わる前に馬から飛び降り、地面に片膝を着いた。
周囲の兵士たちも、一斉に片膝を着いた。
「ははー。臣は、王国騎士アンダーソン、練兵場教練担当を務める者にございます。知らぬこととは申せ、御無礼、平にご容赦頂きますよう、お願い申し上げまする。」
アンダーソンは、深く頭を下げて言った。
「宮仕えは、どこでも大変だなぁ。」
矢切飛曹長は、目の前の光景を見ながらぼんやりと思った。
そして、ハッとして
「高貴な人とは聞いていたが、俺は、とんでもなく偉い人たちを運んで来たのか。」
と改めて気付いた。
矢切は、「とにかく高貴な人を乗せるので気を付けろ。」ぐらいの説明しか受けていなかったから、周囲が仰々しくひれ伏せるような高貴な身分の人物を乗せているとは、さすがに思っていなかったのである。
「やべえな。俺、あの若い貴族にタメ口きいちまった。航空弁当代わりの缶詰とかも、気軽に勧めたな。」
グリトニルが気さくに応じるものだから、機中で矢切は
「ねえ、若殿様。」
などと気軽に呼び、口の肥えているであろうグリトニルに、糧食である牛肉缶詰や稲荷ずしの缶詰を勧めて食べさせていたのである。
「まあ、今更、四の五の言ってもしゃあないな。」
矢切は、文句を言われないのだからそれで良い、と割り切ることにした。
「騎士アンダーソン。」
「ははっ!」
「両殿下は、お城に赴かれる。速やかに馬車を2台準備せよ。」
「ははっ!」
アンダーソンの手配で、素早く馬車が2台用意されたが、間に合わせのもので、姫君が乗る馬車とは言い難かった。
城までの警護は、花川少尉以下の陸戦隊が行い、鹿島少尉以下の挺身隊は、機材の警備に当たることになった。
任務分担に特に理由はなく、どちらもお城行きを希望したので、花川と鹿島がジャンケンをしたところ、花川が勝っただけのことであった。
馬車の1台にグリトニルとイザベラ、アールト、警護の陸戦隊花川少尉ほか1名と騎士が、もう1台にケッペルと山花、警護の陸戦隊員3名と騎士が乗り込み、お城へと進み始めた。
山花と陸戦隊員たちは、デ・ノーアトゥーンとは比較にならない王都の賑やかさに目を見張った。
彼らの祖国は、戦争のため疲弊が著しいが、今、眼前に広がっているのは、彼らが想像もできない平和で豊かな光景であった。
窓外の光景を食い入るように見つめる山花にケッペルが
「異世界からの稀人には、我が国の光景がお気に召したとお見受けする。」
と言った。
「いえ、我々の知らない世界に、これほど豊かな国があるとは思いもしませんでした。」
山花は正直に答えた。
「これは痛み入ります。民草が豊かに暮らせるということは、我が王による治世が正しく行き届いている証にございます。」
ケッペルは、少々自慢気に言い、続けた。
「山花様のお国も、あのように大きな軍艦を建造し、多数の『ヒコーキ』を飛ばしている科学をお持ちなのですから、さぞ豊かなのでございましょうな。」
このケッペルの言葉は、山花の胸に刺さった。
確かに、日本は、戦艦や空母、航空機を製造し運用しているが、国民生活は疲弊、窮乏の度合いを深め、食料その他の物資欠乏は甚だしく、政府は
「欲しがりません勝つまでは」
「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」
などというスローガンを掲げ、実態から国民の目を逸らさせようと必死であった。
そんな祖国の実態と眼前の光景を対比して、山花は「国の豊かさ」について考えざるを得なかった。
「我が政府や軍のお偉方が、この街の様子を見たらどう思うだろうか。」
街の豊かさに圧倒された山花は、ふと思った。
「いや。でも、結局は満州やほかのアジアのように、できるだけ資源を確保しようとするだけの、貧困な発想になるのかな。」
彼は、石油発見のときの自分を思い出すと、少し嫌な気分になった。
重爆からも、挺身隊員たちが降機し、周囲を警戒している。
陸攻からは、続けて、ケッペル男爵とグリトニル辺境伯が降り、グリトニルは、胴体内のアールトと一緒に、イザベラ姫の降機に手を貸した。
イザベラが、出雲に乗艦したときのように乗馬ズボンを穿いてくれれば簡単だったが、今回は、普段のようにドレスを着用しており、乗機も降機も手間が掛かる。
イザベラの後から、アールトと機長の矢切飛行兵曹長が降りて来たが、ペアの残りの搭乗員は、副操縦員は自席で待機、ほかの者は機銃座で機銃を構えている。
こちらを目指す人の群れは、輪を縮める様に近付いている。
場所が練兵場であるから、群衆の多くは兵士たちであり、その手には着剣したマスケット銃が握られている。
その表情は一様に険しく、お世辞にも友好的とは言えない。
すると、兵士の群れの中から、胸甲と兜を身に着け、栗毛色の馬に跨った騎士らしい人物が前に進み出て来た。
「問う。栄えある王国騎士団の練兵場に、前触れなくワイバーンで降り立つ貴殿らは何者か!」
その騎士の手には槍が握られており、「寄らば撃つ」の構えである。
「控えよ!こちらにおわすは、ミズガルズ王国第二王女イザベラ・ラーシュニン・ファン・ミズガルズ殿下なるぞ!また、その隣におわすは、ブリーデヴァンガル属領主代官にしてグリトニル王国王子セーデルリンド・グレーゲルソン・ファン・グリトニル殿下なるぞ!」
アールトが、周囲に響き渡る大音声で呼ばわった。
その騎士は、アールトの台詞を聞き終わる前に馬から飛び降り、地面に片膝を着いた。
周囲の兵士たちも、一斉に片膝を着いた。
「ははー。臣は、王国騎士アンダーソン、練兵場教練担当を務める者にございます。知らぬこととは申せ、御無礼、平にご容赦頂きますよう、お願い申し上げまする。」
アンダーソンは、深く頭を下げて言った。
「宮仕えは、どこでも大変だなぁ。」
矢切飛曹長は、目の前の光景を見ながらぼんやりと思った。
そして、ハッとして
「高貴な人とは聞いていたが、俺は、とんでもなく偉い人たちを運んで来たのか。」
と改めて気付いた。
矢切は、「とにかく高貴な人を乗せるので気を付けろ。」ぐらいの説明しか受けていなかったから、周囲が仰々しくひれ伏せるような高貴な身分の人物を乗せているとは、さすがに思っていなかったのである。
「やべえな。俺、あの若い貴族にタメ口きいちまった。航空弁当代わりの缶詰とかも、気軽に勧めたな。」
グリトニルが気さくに応じるものだから、機中で矢切は
「ねえ、若殿様。」
などと気軽に呼び、口の肥えているであろうグリトニルに、糧食である牛肉缶詰や稲荷ずしの缶詰を勧めて食べさせていたのである。
「まあ、今更、四の五の言ってもしゃあないな。」
矢切は、文句を言われないのだからそれで良い、と割り切ることにした。
「騎士アンダーソン。」
「ははっ!」
「両殿下は、お城に赴かれる。速やかに馬車を2台準備せよ。」
「ははっ!」
アンダーソンの手配で、素早く馬車が2台用意されたが、間に合わせのもので、姫君が乗る馬車とは言い難かった。
城までの警護は、花川少尉以下の陸戦隊が行い、鹿島少尉以下の挺身隊は、機材の警備に当たることになった。
任務分担に特に理由はなく、どちらもお城行きを希望したので、花川と鹿島がジャンケンをしたところ、花川が勝っただけのことであった。
馬車の1台にグリトニルとイザベラ、アールト、警護の陸戦隊花川少尉ほか1名と騎士が、もう1台にケッペルと山花、警護の陸戦隊員3名と騎士が乗り込み、お城へと進み始めた。
山花と陸戦隊員たちは、デ・ノーアトゥーンとは比較にならない王都の賑やかさに目を見張った。
彼らの祖国は、戦争のため疲弊が著しいが、今、眼前に広がっているのは、彼らが想像もできない平和で豊かな光景であった。
窓外の光景を食い入るように見つめる山花にケッペルが
「異世界からの稀人には、我が国の光景がお気に召したとお見受けする。」
と言った。
「いえ、我々の知らない世界に、これほど豊かな国があるとは思いもしませんでした。」
山花は正直に答えた。
「これは痛み入ります。民草が豊かに暮らせるということは、我が王による治世が正しく行き届いている証にございます。」
ケッペルは、少々自慢気に言い、続けた。
「山花様のお国も、あのように大きな軍艦を建造し、多数の『ヒコーキ』を飛ばしている科学をお持ちなのですから、さぞ豊かなのでございましょうな。」
このケッペルの言葉は、山花の胸に刺さった。
確かに、日本は、戦艦や空母、航空機を製造し運用しているが、国民生活は疲弊、窮乏の度合いを深め、食料その他の物資欠乏は甚だしく、政府は
「欲しがりません勝つまでは」
「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」
などというスローガンを掲げ、実態から国民の目を逸らさせようと必死であった。
そんな祖国の実態と眼前の光景を対比して、山花は「国の豊かさ」について考えざるを得なかった。
「我が政府や軍のお偉方が、この街の様子を見たらどう思うだろうか。」
街の豊かさに圧倒された山花は、ふと思った。
「いや。でも、結局は満州やほかのアジアのように、できるだけ資源を確保しようとするだけの、貧困な発想になるのかな。」
彼は、石油発見のときの自分を思い出すと、少し嫌な気分になった。
21
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
異世界日本軍と手を組んでアメリカ相手に奇跡の勝利❕
naosi
歴史・時代
大日本帝国海軍のほぼすべての戦力を出撃させ、挑んだレイテ沖海戦、それは日本最後の空母機動部隊を囮にアメリカ軍の輸送部隊を攻撃するというものだった。この海戦で主力艦艇のほぼすべてを失った。これにより、日本軍首脳部は本土決戦へと移っていく。日本艦隊を敗北させたアメリカ軍は本土攻撃の中継地点の為に硫黄島を攻略を開始した。しかし、アメリカ海兵隊が上陸を始めた時、支援と輸送船を護衛していたアメリカ第五艦隊が攻撃を受けった。それをしたのは、アメリカ軍が沈めたはずの艦艇ばかりの日本の連合艦隊だった。
この作品は個人的に日本がアメリカ軍に負けなかったらどうなっていたか、はたまた、別の世界から来た日本が敗北寸前の日本を救うと言う架空の戦記です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる