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第74話 対潜掃討作戦準備方
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「何かあったようですね。」
花川に問われた鹿島は
「そうですね。正月とは思えない物々しさですね。」
と答えた。
ただ、今は異世界にいるとはいえ戦時中なのだから、正月だからのんびりするというのは、前提をはき違えているのかも知れなかった。
「とにかく、城へ行けば何か分るでしょう。」
「そうですね。」
二人は、足を速めた。
城に入った二人は、根拠地隊の事務室へ向かった。
「花川特務少尉、入ります。」
花川が先に部屋へ入ると、通信機に向かった通信兵と通信士のほか、25航戦参謀の山花大佐が椅子に座っていた。
「山花大佐、紹介したい人物がおります。」
花川は敬礼をしてから山花に言った。
「紹介だと?」
山花が怪訝そうに聞くと
「実は、我々以外にも、この世界へ転移した者がおります。こちらがそうです。」
花川は、手で鹿島を指した。
「陸軍第4挺身連隊第4中隊、帝国陸軍少尉鹿島源人であります。」
「挺身…ほう、じゃあ高千穂空挺隊の隊員だね。」
所属を聞いて山花は、すぐにレイテ降下作戦を連想した。
「はい、そうであります。重爆から跳下の最中、こちらの世界へ参った次第であります。」
鹿島がそう言ってから、花川は、今までの経緯をかいつまんで山花に説明した。
「なるほど。ギムレー湾に集結した我々以外にも、別ルートで転移した者がいたということか。さもありなん、だな。」
「と、申しますと?」
意味あり気な山花の言葉に、花川が聞いた。
「実はだな。潜水艦、それも米軍のものらしき潜水艦の活動情報が入ったんだ。」
「!?」
花川は、一瞬、声が出なかった。
元の世界で、膨大な艦船が沈められ、散々手を焼かされたあの米軍潜水艦が出没しているとなれば、こちらの世界でも、制海権が危うくなる。
「それで、駆逐艦、海防艦、駆潜艇は、全艦、デ・ノーアトゥーン港に集合となったので、上陸中の将兵も、急遽、呼び戻したという訳だ。」
「なるほど。それで、港へ急ぐ海軍将兵が多かったのですね。」
「それなら合点が行く。」
花川と鹿島は、先ほどの光景の理由が腑に落ちた。
山花の説明によれば、話は昨晩、つまり日本で言えば大晦日に遡る。
夜遅く、一羽の通信鳩が、迷い込むようにトゥンサリル城へ辿り着いた。
通信管に入っていた文面は、当初は、属領主府の役人が理解できない内容であった。
差出人は、イザベラ姫が乗っていたティアマト号の護衛を務めていたアスターテ号の艦長で、デ・ノーアトゥーン属領主府海事・軍務尚書レンダール男爵宛ての公文書の体を採っていた。
公文書といっても、緊急に発せられたため短く簡略化されていたが、要するに
「海中から出現した海賊に襲撃された。」
というものであった。
筆致の乱れが差し迫った危機を物語る文章であったが、要旨は
「海中から鉄の船が突然現れ、銃砲を放ち停船を命じたか思うと、国は不明だが、白い肌に青い目の男たちが乗り込んで来て、重要人物が乗艦していないかを確認した後、貴重品類を奪い、さらには、後に付いて来るよう命じたので、やむを得ずこれに従った。現在、西方に向け航行中。」
というもので、およその位置と時間が記されてあった。
「どうだ。どう考えても米軍潜水艦だろう。我が軍に青い目の潜水艦乗りはいないからな。もっとも、属領主府の連中には、何のことやらさっぱり分からんかったらしい。こちらから、推測ではあるがこれこれと事情を説明すると、大変な驚き様だったな。何しろ、異世界から今度は敵が乗り込んで来たのだからな。」
「確かにそうですね。」
花川が答えた。
「それで、海中から現れる船が、異世界、つまり俺たちの世界だが…そこから来たものに違いないのであれば、同じ世界から来た、我々日本海軍の出番となるという訳だ。」
「そうですが、潜水艦相手は厄介ですね。こちらの世界も海は広いですから、神出鬼没の潜水艦を探すのは、相当難儀すると思料されます。」
花川も、米軍潜水艦の脅威と対策の困難さは聞いていたから、やはり不安を感じる。
「今回、奴さんは、意図は不明だが、アスターテ号を拿捕している。これは、ある意味失策と言って良い。潜水艦は、位置を秘匿することでその優位さを担保している訳だが、アスターテ号を引き連れている限り、我々はアスターテ号さえ発見すれば、潜水艦もオマケで付いて来ることになる。」
「なるほど。それでは、水偵も出動となりますかね。」
「そうなるはずだ。」
花川が予想した通り、対潜用艦艇のほか、零式水偵、瑞雲と零式観測機も動員され、対潜掃討作戦が実施されることが、根拠地隊として決定され、準備が進んでいるところだったのである。
大晦日の半舷上陸で、上陸組は命の洗濯をしていたが、艦艇残留組は、出航・出撃準備を始めていたことになる。
「事態は切迫しているようですが、なぜ夜中に非常呼集を掛けなかったんですか?」
花川が当然の疑問を呈した。
「上陸組は、酒が入って大騒ぎだったろう。突然、特定した艦の乗組み将兵に集合を命じても、混乱して危なっかしいだけだろう。どのみち、将兵を艦へ移動させるより、艦をデ・ノーアトゥーン港へ移動させた方が手っ取り早いから、夜明けを待って集合を掛けても十分だったということだ。」
山花の回答に
「どのみち、陸戦隊の俺には関係なかったはずだよな。」
と花川は思った。
同時に、チラリとだけ、ソーニャとの事を思い出し、内心で照れた花川であった。
「まあ、そんな訳だが、それはそうと鹿島少尉。さっき聞いた貴公のエルフの村行きの話だが、根拠地隊としての助力を検討しよう。根拠地隊司令官の桑園少将も、貴公の転移経緯から、内陸の状況や、資源探査に興味をお持ちになるはずだからな。俺から、陸軍の指揮官も含めて、話を通しておこう。」
「はッ、ありがたくあります。」
鹿島は、山花に頭を下げて言った。
花川に問われた鹿島は
「そうですね。正月とは思えない物々しさですね。」
と答えた。
ただ、今は異世界にいるとはいえ戦時中なのだから、正月だからのんびりするというのは、前提をはき違えているのかも知れなかった。
「とにかく、城へ行けば何か分るでしょう。」
「そうですね。」
二人は、足を速めた。
城に入った二人は、根拠地隊の事務室へ向かった。
「花川特務少尉、入ります。」
花川が先に部屋へ入ると、通信機に向かった通信兵と通信士のほか、25航戦参謀の山花大佐が椅子に座っていた。
「山花大佐、紹介したい人物がおります。」
花川は敬礼をしてから山花に言った。
「紹介だと?」
山花が怪訝そうに聞くと
「実は、我々以外にも、この世界へ転移した者がおります。こちらがそうです。」
花川は、手で鹿島を指した。
「陸軍第4挺身連隊第4中隊、帝国陸軍少尉鹿島源人であります。」
「挺身…ほう、じゃあ高千穂空挺隊の隊員だね。」
所属を聞いて山花は、すぐにレイテ降下作戦を連想した。
「はい、そうであります。重爆から跳下の最中、こちらの世界へ参った次第であります。」
鹿島がそう言ってから、花川は、今までの経緯をかいつまんで山花に説明した。
「なるほど。ギムレー湾に集結した我々以外にも、別ルートで転移した者がいたということか。さもありなん、だな。」
「と、申しますと?」
意味あり気な山花の言葉に、花川が聞いた。
「実はだな。潜水艦、それも米軍のものらしき潜水艦の活動情報が入ったんだ。」
「!?」
花川は、一瞬、声が出なかった。
元の世界で、膨大な艦船が沈められ、散々手を焼かされたあの米軍潜水艦が出没しているとなれば、こちらの世界でも、制海権が危うくなる。
「それで、駆逐艦、海防艦、駆潜艇は、全艦、デ・ノーアトゥーン港に集合となったので、上陸中の将兵も、急遽、呼び戻したという訳だ。」
「なるほど。それで、港へ急ぐ海軍将兵が多かったのですね。」
「それなら合点が行く。」
花川と鹿島は、先ほどの光景の理由が腑に落ちた。
山花の説明によれば、話は昨晩、つまり日本で言えば大晦日に遡る。
夜遅く、一羽の通信鳩が、迷い込むようにトゥンサリル城へ辿り着いた。
通信管に入っていた文面は、当初は、属領主府の役人が理解できない内容であった。
差出人は、イザベラ姫が乗っていたティアマト号の護衛を務めていたアスターテ号の艦長で、デ・ノーアトゥーン属領主府海事・軍務尚書レンダール男爵宛ての公文書の体を採っていた。
公文書といっても、緊急に発せられたため短く簡略化されていたが、要するに
「海中から出現した海賊に襲撃された。」
というものであった。
筆致の乱れが差し迫った危機を物語る文章であったが、要旨は
「海中から鉄の船が突然現れ、銃砲を放ち停船を命じたか思うと、国は不明だが、白い肌に青い目の男たちが乗り込んで来て、重要人物が乗艦していないかを確認した後、貴重品類を奪い、さらには、後に付いて来るよう命じたので、やむを得ずこれに従った。現在、西方に向け航行中。」
というもので、およその位置と時間が記されてあった。
「どうだ。どう考えても米軍潜水艦だろう。我が軍に青い目の潜水艦乗りはいないからな。もっとも、属領主府の連中には、何のことやらさっぱり分からんかったらしい。こちらから、推測ではあるがこれこれと事情を説明すると、大変な驚き様だったな。何しろ、異世界から今度は敵が乗り込んで来たのだからな。」
「確かにそうですね。」
花川が答えた。
「それで、海中から現れる船が、異世界、つまり俺たちの世界だが…そこから来たものに違いないのであれば、同じ世界から来た、我々日本海軍の出番となるという訳だ。」
「そうですが、潜水艦相手は厄介ですね。こちらの世界も海は広いですから、神出鬼没の潜水艦を探すのは、相当難儀すると思料されます。」
花川も、米軍潜水艦の脅威と対策の困難さは聞いていたから、やはり不安を感じる。
「今回、奴さんは、意図は不明だが、アスターテ号を拿捕している。これは、ある意味失策と言って良い。潜水艦は、位置を秘匿することでその優位さを担保している訳だが、アスターテ号を引き連れている限り、我々はアスターテ号さえ発見すれば、潜水艦もオマケで付いて来ることになる。」
「なるほど。それでは、水偵も出動となりますかね。」
「そうなるはずだ。」
花川が予想した通り、対潜用艦艇のほか、零式水偵、瑞雲と零式観測機も動員され、対潜掃討作戦が実施されることが、根拠地隊として決定され、準備が進んでいるところだったのである。
大晦日の半舷上陸で、上陸組は命の洗濯をしていたが、艦艇残留組は、出航・出撃準備を始めていたことになる。
「事態は切迫しているようですが、なぜ夜中に非常呼集を掛けなかったんですか?」
花川が当然の疑問を呈した。
「上陸組は、酒が入って大騒ぎだったろう。突然、特定した艦の乗組み将兵に集合を命じても、混乱して危なっかしいだけだろう。どのみち、将兵を艦へ移動させるより、艦をデ・ノーアトゥーン港へ移動させた方が手っ取り早いから、夜明けを待って集合を掛けても十分だったということだ。」
山花の回答に
「どのみち、陸戦隊の俺には関係なかったはずだよな。」
と花川は思った。
同時に、チラリとだけ、ソーニャとの事を思い出し、内心で照れた花川であった。
「まあ、そんな訳だが、それはそうと鹿島少尉。さっき聞いた貴公のエルフの村行きの話だが、根拠地隊としての助力を検討しよう。根拠地隊司令官の桑園少将も、貴公の転移経緯から、内陸の状況や、資源探査に興味をお持ちになるはずだからな。俺から、陸軍の指揮官も含めて、話を通しておこう。」
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