日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第31話 立検隊、戦車ト遭遇セリ

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 前日の夕刻、日本の第25航空戦隊や北東方面艦隊と別れた、帆船ティアマト号、アスターテ号と駆逐艦くぬぎは、夜半過ぎにはデ・ノーアトゥーン港沖に到着し、沖がかりをしていたが、港の安全が確認できる夜明けを迎えても、入港・接岸をしていなかった。

 櫟艦長の松戸少佐は、夜が明けてから、数度にわたり

「入港セザルナリヤ」

という信号を、ティアマト号へ送っていたが、いずれも

「暫ク待タレタシ」

との返答であった。

 なかなか入港しないことについては、ティアマト号に残留していた令川丸の副長大谷地中佐も不思議に思っていたから、何度かバース艦長に確かめたが、これについても

「入港準備中でございます。」

と回答が返るばかりであった。

「いくら帆船と言っても、入港に長時間の準備が必要とは思えない。」

 しびれを切らした大谷地がバースに詰問すると

「本艦にお乗りになっている、賓客のための準備でございます。」

という回答があった。

「賓客と言うと、イザベラ姫の事ですか。」
「仰るとおりでございます。第一級の賓客をお迎えするため、港ではそれなりの準備が必要になりますし、トゥンサリル城への沿道や、城に着いてからのお迎えなど、様々な準備が必要となるのでございます。ましてや、到着が遅れました分、その調整のために手間がかかって参ります。」

 大谷地の問いに対するバースの返答は、実務的で説得力があり

「それでは仕方がないですね。」

と答えざるを得なかった。


 それでも、昼を少し過ぎた辺りで、入港となった。
 元の世界でも、中型以上の船舶が入港するとなると、1時間やそこらは必要だが、風の力と人力の曳船では、接岸まで今少しの時間が必要となり、2時間半を要することとなった。

 艦首の客室で待機中の、大谷地中佐と清田上等兵曹以下の立検隊は、それでも接岸の目途が付いたのでホッとしていた。

 櫟の入港については、港内で木造船が衝突すると危険であることと、興味本位で小舟などに近付かれると困ることなどに加え、嵐が来れば別であるが、いったん沖がかりとして、ほかの艦が来るまでに住民が異文化に馴染む「慣らし」のために停泊することにした。
 したがって、通常、外国の港などに入港するときに行う登舷礼などは省略し、目立たないように振舞うことにした。 
 それでも

「異世界から来た鉄の船」

というだけで、街は大騒ぎになるのだが。

 ともあれ、ティアマト号はデ・ノーアトゥーン港に接岸した。

 ここから、イザベラ姫は、属領主代官の賓客として遇されることになるが、日本艦隊関係者は、少なくとも姫から代官グリトニル辺境伯へ正式に紹介してもらうまでは、単なる「姫の知り合い」扱いとなる。

 接岸直後、イザベラ姫の侍女であるアニタが大谷地たちが待機する部屋を訪れ

「皆様方には、危ういところをお助けいただきまことに感謝に堪えません。本来であれば、姫御本人か侍従のアールトが参上すべきところ、僭越ながら、王国騎士アニタが参った次第にございます。宥恕ゆうじょ賜りますれば幸甚でございます。」

と、頭を下げながら、これ以上ないくらいへりくだった口上を述べた

「アニタさん、そんなにかしこまらないでください。こちらとしては、姫君と親しく接していただくことは、むしろ光栄の極みなのですから。とにかく、よろしくお伝えください。」

 大谷地たちは、ティアマト号在艦中、何かと世話をしてくれたアニタ、ドーラ、ハンナ、ヒルダの侍女たちに、親しみと感謝の気持ちがあった。

「はい、それはもちろん。ただ、皆様も、私どもと一緒に、トゥンサリル城までご足労いただくことになっております。」
「それは、姫君がそのようにお望みなのですか?」
「左様でございます。」

 この会話を聞いていた清田上曹が

「中佐、私ら立検隊も、お城まで同行しなきゃならんのですかね。」

と大谷地に耳打ちした。

「今のを聞いていただろう。確かに『皆様』と言ったぞ、アニタ嬢は。」
「うへぇ。」

 清田は、思わず肩をすくめた。

 清田以下の下士官兵にとって、立検隊としてティアマト号に移乗したに過ぎず、当初は、すぐにでも令川丸に戻ることが出来ると思っており、今度は、デ・ノーアトゥーンに入港したのだから、駆逐艦へ移乗できると考えていて、およそ貴族に招待されるなどと、思ってもいなかったのである。

「困ったなあ。」
「何も困ることはあるまい。せっかくのご招待だ、美味い物でもたらふく食ったら良い。」

 清田は、思わず漏らした本音を大谷地に聞き咎められてしまった。
 無論、清田は、もてなしが嫌なのではなく、高級士官や貴族とこれ以上一緒にいるのが、気詰まりしそうで避けたかったのである。

「アニタさんたちと一緒にいるのは、楽しかったんだけどなぁ」
「あら、ありがとうございます。お城までは、私たち侍女がお供させていただきますわ。」
「え!?そうなんですか。そうであれば、ついでに、大谷地副長と俺たち4人は、ほら、服装を見てもらえば分ると思うけれど、格が違うので、馬車とか部屋とか、色々別々にしてもらえると、大助かりなんですが。」
「そうですわね。大谷地様はレイカワマルの代表、清田様ほかの皆様は、その随行とお聞きしておりますので、おそらくは馬車と部屋も、そのように扱われると思いますわ。」

 今度は、本音をアニタに聞かれてしまったが、その言葉は救いと言っても良かった。
 そして

「こいつは案外、楽をして美味しい目に遭えそうだ。」

と、清田は内心ほくそ笑んだ。

 清田の目論見はともかく、アニタの案内で甲板に出た大谷地以下の令川丸一行は、上甲板から岸壁を見下ろしていた。
 ティアマト号の舷門から岸壁にタラップが渡され、軍楽隊がファンファーレを鳴らし、カラフルで優美な服装の儀杖隊が整列して、姫の下船を待っている。

「お城の殿様がお出迎えされているのですか。」

 大谷地がバース艦長に聞くと

「いいえ、代理の使者がお出迎えに来られ、グリトニル辺境伯は、お城でお待ちのはずでございます。馬車で城へ向かわれる姫君を、正門で出迎えられる手筈と存じます。」

とのことであった。
 そういえば、豪華な馬車が舷門近くに停められており、使者と思しき偉そうな男性が、その傍に立っているのが見える。

 そして、もう一度ファンファーレが鳴り、儀杖隊が捧げ銃を行う中、イザベラ姫とアールトが現れ、使者は姫の前で恭しくお辞儀をすると、姫は跪礼きれいを返した。

 その光景を、船客と群衆が遠巻きに見守っていたが、使者と姫は、挨拶を交わすと、アールトとともに豪華な馬車に乗り込んだ。

「それじゃあ、私たちも参りましょうか。」

 アニタに促され、大谷地と清田以下4人の下士官兵も下船することにした。

 アニタが先刻言ったように、やはり大谷地のために豪華な馬車が用意されており、大谷地は、先ほどの使者の随行員3人と一緒に、その馬車へ乗り込んだ。
 清田たちのためには、装備品や無線機材も積まなければならないため、アニタが気を回したのか、箱馬車が2台用意されていた。
 1台目に清田とアニタ、ハンナ、ドーラが乗って、装備品若干を積み込み、2台目に兵3人とヒルダが乗り、残りの装備品と機材を積み込んだ。

 御者の鞭が唸り、3台の馬車は、イザベラが乗った馬車の後を追うようにトゥンサリル城へ向けて出発した。

 港からトゥンサリル城までは「3ノイル弱」の距離というから、5㎞ほどの距離であると思われ、馬車で順調に行けば2~30分である。

「あまり早く行っては、姫君の馬車に追いついてしまうのでは。」

 清田はそう心配したが、アニタによれば

「城の入り口が違うので、問題はない。」

ということで、これは杞憂に終わりそうであった。

 ただ、姫君一行をこの目で見ようとする見物客で、沿道は人だかりがしており、時折馬車に接触しそうで、車窓から見ていてもヒヤリとすることがあった。

 それなりに順調に進んでいた馬車が、行程の半分も過ぎたかと思われる辺りで動かなくなったが、周囲に人が多くなったところを見ると、どうやら群衆に道を遮られたようであった。
 前方を行く大谷地の乗った馬車の御者が、何かを怒鳴っているが、群衆の中の誰かが怒鳴り返しているようである。

「ねえ、どうしたの?」

 アニタが、前方の覗き窓から御者に事情を聞いている。

「沿道の見物人の話では、前の方に変な車がいて、姫様の馬車がそこで止まってしまったとかです。」
「変な車って?」
「何でも、茶色いまだらの鉄の車、とかで、よく分からんです。」

 この会話聞いた清田が顔色を変えて馬車の扉を開け、御者台に飛び乗ったが、あまりの勢いにアニタも面食らうほどであった。

 「やっぱりだ!戦車がいる。」

 清田の目には、道路の右端に止まった九七式中戦車や装甲兵車、その傍で停車しているイザベラ姫の乗った豪華な馬車が飛び込んできた。

「どうしたの、そんなに慌てて?」

 アニタが、怪訝そうに窓から顔を出した。

「戦車だよ!俺たちの世界から来た戦車がいるんだ!」
「『センシャ』って何なの?」

 いつの間にかアニタとタメ口で喋っているが、清田は気付かなかった。

「戦争で使う兵器で、砲を積んで走り回るんだ。後で見せてやるよ。」

 清田は、興奮気味に言った。
 言いながら、清田の目には、あのとんがり帽子の魔法使いの姿が映った。

「そうか。あの戦車は、北東艦隊の輸送艦に積んであったやつなんだ。魔法使いの…ソフィアさんだっけ、を護衛して来たんだ。」

 清田はいったん気を落ち着けて馬車の中に戻り、アニタに

「あれは、令川丸と一緒にいた艦に積んであった戦車だね。魔法使いのソフィアさんの姿も見えたよ。」
「あら、そうなの。ソフィアさんはミズガルズ王国の宮廷魔術師だから、姫様とはお知り合いでいらっしゃるから。」
「あ、そうなんだ。偉い魔法使いだったんだね、あの姉さんは。」
「ちょっと、『姉さん』なんて失礼よ。あの方、凄い魔術師なんだから。」
「そうなんだ。」

 アニタが戦車の威力を知らないのと同じように、清田もソフィアの凄さが分からないのかも知れない。
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