踊れば楽し。

紫月花おり

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第一章

第38話 混乱とともに!!?

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 紅い荒野で夜を明かした俺たちに奇襲をかけてきた鬼・浅葱を篝と天音が倒し、その戦闘を見ていた俺の中のが反応してしまったのをなんとか抑え込み、浅葱をけしかけた綺紗も去っていった──。
 なんだか短時間に色々あったものの…とりあえず、みんな無事……ではあったが、

「篝、ケガは大丈夫か……?」

 浅葱の茨のツルでケガを負った篝を心配してみるが、

「こんな掠り傷、すぐ消えるから大丈夫っ」

 そうにっこりと明るい笑顔で答えられた。
 篝いわく、妖というのは人間よりもケガの回復も早いらしい。
 まぁ、そうでなければ戦闘が日常茶飯事な生活なんて送ってられないだろうけど…。

「にしても、浅葱は大したことなかったが……この先、面倒なのが来そうだな」

 そう溜め息混じりに言う天音。
 相変わらず浅葱が可哀想な言いようではあったが、確かに…問題はこれからだ。
 綺紗の言葉通りなら、これからも俺や篝を狙った実力者刺客がやってくるということ──!?
 
「そうなるだろうね。宗一郎の存在含め、僕たちが行動を共にしていることも…すでに鬼の上層部に知られているだろうし」

「まぁ、綺紗ちゃんがどこまで伝えてるかは分からないけど……流石に人間に転生した状態だというのは信じないにしても、最悪…“紅牙は妖力を使えない状態”ということ位は伝わっているかもね」

 ……あぁ、俺と会った時の様子からして…綺紗は転生のことを知っていたのかもしれない。
 だが問題は、綺紗が鬼の上層部と繋がっているっぽいこと。
 それなら幻夜や篝の言うように、俺のこと…俺たちのことが伝わっている可能性が高いということか。
 ただ、妖的には転生は常識外だから上層部としては妖の紅牙のままの認識……言い換えれば、現時点で人間の俺は“妖力を使えない弱っている紅牙”だと思われている……?
 そんなの、鬼にとっては“紅牙抹殺の好機”でしかない。
 とにかく今分かるのは、やっぱり俺の命の危機だというのは変わらないということだ──!

「大丈夫だよ、宗一郎。オレたちが必ず守るからね」

 不安でいっぱいの俺に、彼方はそう優しく言ってくれたが、

「どちらにしても、早く思い出さないとまずいことに変わりはないけどな」

 天音の言葉で現実に一気に引き戻された。
 俺に紅牙の記憶が戻れば少しは妖気の使い方とかも分かるのだろうか……?

 と、その時。

「ん?」

 ふと、彼方が何かに気づいたように空を見上げた。
 つられて見上げると、黒い鳥がこちらへ向かってくる……?
 その姿に、天音が一瞬で青ざめた…!?

「やば……ぃっ」

 そんな天音の呟きにかまわず、黒い鳥…やや大きいカラスが近くの岩に降り立った。
 そして、そのカラスは彼方から天音へとゆっくり視線を移し、

『よぉ、カナタを探しに行ったアマネまで帰ってこないから…何をやってるかと思えば……』

 しゃべった…!?
 妖怪が目の前にいる状態ではあるが、やはりいきなりカラスがしゃべるのにはまだ驚きがある。
 そんな俺へと一瞬視線を向けたが、そのカラスはすぐに彼方を睨み付けた。

「もしかして、迎えに来たの? クロちゃん」

 彼方がいつもの調子でカラス…クロちゃんに声をかけると、ありえないほどに怒りをあらわにして、

『気安く“ちゃん”付けで呼ぶな! クロちゃんて言うなッ!!』

「えぇ? クロちゃんはクロちゃんでしょ」

 怒る理由がまったく分からないといった様子の彼方に深い溜め息をついてから、

『……とりあえず、大将からの伝言だ。“さっさと帰ってこい”とさ。もちろん大将はカンカンだぜ? カナタ?』

「うん、そうだろうねぇ…」

 その伝言ことばに苦笑をうかべる彼方。
 そして、クロちゃんは天音にギロッと視線を向けると、

『アマネも覚悟しとけよ?』

「──…」

 青ざめるを通り越して真っ白になる天音……。
 どうやら、話の内容からして天狗軍の総大将からの伝言を伝えにきたらしい。

『じゃ、オレは伝えたからな? これ以上ダンナたちを待たせない方が身のためだぜ? ククッ』

 そう意地悪そうに言い残し、カラスのクロちゃんは去っていった……俺をもう一度、ちらりと見てから。

「──…何なんだ? あのカラスは」

 飛び去る姿を眺めながら俺が聞くと、天音は深い溜め息とともに答えた。

「天狗軍軍師サマのカラスだよ…」

「彼方の白叡みたいな?」

 彼方と白叡みたいな主従関係なのかと訊ねてみれば、

「……いや、言ってみれば白叡は使役獣。空露くろは軍師サマの影…というより、分身に近いな」

「性格は違うけどね── 本体アイツとは」

 彼方と白叡はあくまでも、天狗とイヅナ。
 天狗軍軍師とカラスのクロちゃん…空露とは同一。簡単に言うと、その軍師の一部なのだそうだ。
 ただし、その性格は彼方いわく、違うようだが。

「……いやぁ、が奴の本性だと思うけどな」

「それは天音がその軍師サマを怖がってるせいじゃないの~?」

 ぼそりと言った天音に、間髪入れず篝がツッコミを入れた。

「な…ッ!? そ…そんなわけねぇだろ!!?」

 いや……すでにあのカラス…空露を見た瞬間からその表情は引きつっていたけど?

 そんな天音の反応にキャッキャッとはしゃぐ篝。
 そしてフォローも何もするでもなく、苦笑をうかべたままでいる彼方。
 いたたまれない状況に置かれた天音は、

「ともかく! とりあえずは戻るぞッ、彼方!」

「えぇ~…ッ!?」

 全力で嫌そうな様子の彼方の腕をガッシリと掴み、

「いや! 絶対ッ引きずってでも帰るッ!!」

 ……このやり取りを見るに見かねた…いや、呆れた様子の幻夜が小さく溜め息をつきつつ、

「そうしてあげなよ、そうしないと天音がまた痛い目にあうよ? ククク」

 あくまでも意地悪そうな微笑みをたたえてはいたが、幻夜の助け船的な言葉に天音は小さく何度も頷いていた。
 もう、あまりにも必死な様子に俺の方がいたたまれなくなってくるんだけど…?

「でも……っ」

 心配そうに俺を見つめた彼方に、

「大丈夫、宗一郎は僕が責任を持って人界へ送るよ」

 幻夜が彼方を安心させるように言うと、

「まぁ…確かに、このまま幻妖界こっちにいるよりは安全かもしれないね」

 篝の言葉に幻夜は頷き、

「人界でなら実力者でもそう派手に攻め込んではこないだろうからね」

 二人の言葉に渋々な様子ではあったが……

「……じゃぁ…せめて」

 彼方はその左手を俺に差し出すと……そこからいつものように白い獣…白叡が出てきた。

「白叡…」

『……』

 一瞬その紅い瞳と目が合う…が、ふいっと逸らされてしまった。
 当然、俺の呼びかけなんて無視された。

「白叡、宗一郎をよろしくね。何かあったらすぐに知らせるんだよ?」

『……あぁ』

 白叡も彼方の気持ちが分かっているのか、今回は素直に返事を返し…スウッと俺の左手先から中へと入った。
 それを確認すると、彼方は改めて俺を真っ直ぐ見つめ、

「宗一郎、必ずまた会いにいくからね。どこにいたって、オレたちにとって…オレにとって宗一郎は大切な存在、仲間だからね? どうか無事で……」

「…うん……」

 彼方の言葉と想い、そして俺を守ってくれる白叡を思い……俺は左手を固く握り締めて答えた。

 そのまま…彼方と天音を見送り、

「……さて、僕たちも行こうか」

 幻夜の言葉に頷く。
 幻妖界に連れてこられて、なんだかいろいろなことがありすぎたけど……とりあえずは俺も家に帰れるんだな。

「ボクも後から行くからねっ」

 “面白そうだから☆”

 あからさまにそんな表情を見せて笑う篝。

 篝が人界で何をしでかすか…若干不安にも思ったが、心強いことには変わりない。
 幻夜も篝の様子に小さく溜め息をつきつつも、きっと篝の存在は心強いと思っているだろう……たぶん。

 ──そして篝に見送られ、俺たちは人界へ。
 来た時同様どうやったか俺には分からなかったが…幻夜が俺の手をとったのとほぼ同時、目の前が濃い霧に包まれ──次に気付いた時には自分の家の前に、俺は幻夜と共に立っていた。
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