踊れば楽し。

紫月花おり

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第一章

第21話 やっぱり、妖!!?

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 張り詰めるような…緊迫した空気の中、再び始まった二人の戦闘たたかい──
 一方は鉤爪(媚薬仕込み)、もう一方は日本刀の二刀流。

 蘭丸は鋭い鉤爪で篝の命を狩り獲るべく、確実に急所を狙う。
 だが、篝はそれを片方の刀で軽くさばき、もう片方で攻撃する。
 身長では蘭丸の方が優っていても、篝の間合いは広く、体格の不利さを感じさせない攻撃の重さがあった……!

 薄明かりの中、双方の攻撃が噛み合う硬く重い金属音が響き、激しい火花が散る──。

 ……俺から見ても、戦況は明らかに篝が優勢だ。 
 けして、蘭丸が弱いわけではない。
 ただ…篝の太刀裁きと身のこなしが、それをはるかに上回っているだけで……。
 
 これは、明らかに実力の差がある戦闘い。
 次第に篝の攻撃が蘭丸を追い詰め、その動きを確実に捉え始めていた──!

 蘭丸の表情が焦りと恐怖に染まっていくのとは対照的に、篝は攻撃の手を止めることなく……

「……なに? こんなものなの? ボクのために努力してきたのなら──もう少し楽しませてよ」

 その形の良い口元には……残酷な笑みをうかべている!

「──…ッ」

 それでも蘭丸は、恐怖を振り払うように更に攻撃を仕掛ける……!

 俺としては…まさか篝がこんなに強くて、しかもこんなセリフを言うなんて……思わなかった。
 が、これはやはり──“妖”故なのだろうか?

 そんな篝を見つめつつ、

「……篝…本気で殺る気かなぁ?」

 特に感情もこもらない彼方の直接的な言葉に、俺は……少し複雑な気分になった。

「どうだかなぁ……まぁ、楽しそうだがな」

 彼方の言葉を、天音も否定しない。 
 このまま二人の言うように、篝は蘭丸を殺す気なんだろうか?

 改めて二人の戦いに目をやると……お互いの間合いギリギリの距離で攻撃のタイミングを測っていた。
 だが、無傷で余裕の笑みをうかべる篝とは対照的に、蘭丸は追い詰められ傷つき…深手を負っている状態。
 にも関わらず──…蘭丸は、まさに獣の鋭い瞳で篝を睨みつけていた。

 これだけ実力差が明らかなのだから……篝が殺る気になれば、いつでもトドメを刺すことが出来るだろう。
 蘭丸だって、今のうちに退いた方が得策のハズだ。
 ……だが、お互いにそんな気配は皆無。
 篝はもちろん、蘭丸も戦いをやめるつもりはないだろう。
 それに、相変わらず幻夜も縁側から動かず二人の戦いを静観するのみ。 

 戦いの結末は……見る限り、篝の

 ──この戦闘いは、今まで俺が見てきたものとはまるで違う。
 俺が知っているのは白叡の一撃必殺の首切りのみだから……かもしれないが、こういう本格的…というか、じわじわしたものを見るのは正直少し戸惑う。

 一言で言うなら……“弱いものイジメ”とも言えるような状況??
 バトル漫画とかでよくありそうな状況だけど……実際見ると…しかも強い方が身内(?)だと複雑な気分になる。
 かといって、俺が止められる訳もない!!

 ただ、最初はほとんど二人の動きを捉えられなかった俺だが……蘭丸の動きがケガで鈍ったせいか、だんだん目が慣れてきたせいか、少しずつだが目で追えるようになってきた……!?
 篝や蘭丸の攻防の全てが見えているわけではないが、特に篝の動き、強さ……というか、いわゆるその華麗さに見入っている自分に気付いた。 

 その強さに魅了された…というべきだろうか……?
 そして、戦闘いを見ていた俺の中で何かが…高揚感にも似た感覚が疼き始めていた──。
 それは俺の中から湧き上がってくるような、まるで体中に熱い何かが駆け巡るような感覚? 
 抑えきれない──…衝動!?

 [戦闘いたい……ッ]

 俺の中に眠るが激しく叫んでいる……!?

 こんなこと今まで一度だってなかった。
 どんな格闘技を見ようが、それこそ今まで妖怪に襲われた時だって。
 一度も…一度だって、こんな気持ちになったことなんてない…んだ。

 なのに──…は……
 あまりにも、本能的な感覚──
 目の前で繰り広げられている戦闘をリアルに見て、感じているからなのか──? 

「……ッ宗一郎!??」

「…え……?」

 急に耳に入った彼方の驚くような声で、俺は我に返った……が、天狗二人が俺を困惑した表情で見つめている……?

 なんだ?
 どうしたというんだ……?? 

「お前…妖気が……ッ」

 天音がそう言ったのと同時に、

「「「!!!?」」」

 篝、蘭丸がその手を止め、幻夜までが俺らのいる障子(の隙間)に視線を向けた……!?

 ──?
 何が起こったのか、一人理解出来てない俺……だが、

「こ…この気配は……っ」

 蘭丸が困惑げにそう口を開いた瞬間、

「幻夜くんッ!」

 篝の一声とほぼ同時に幻夜は立ち上がり、 

「……あとはよろしく」

 そう言って、何かを蘭丸に向けて投げた!!

「ッ!!?」

 それに慌てて反応しようとした蘭丸だが、それより早くその足元……影に突き刺さったのは黒い棒…いや、錫杖しゃくじょう!?

「くっ……!?」

 まるでその黒い錫杖に影を縫い付けられたかのように……動きを封じられたのか、もがく様な蘭丸に、その間合いを一気に詰めた篝!
 同時に、その手にしていた二本の刀が、再び変化し──

「ちょっ……!?」

 驚愕と狼狽した表情を見せた蘭丸に、

「またね? 蘭丸」

 篝はニッコリそう言うと……

 カキーーンッ 

 一本の太い、トゲ付き金棒に変化したソレで、フルスイングした……!!?

「覚えてなさいよ―…ッ!!!」

 そう叫びながら、遠くへ飛ばされた蘭丸──!
 それは…星の一つになったかと思うほどの見事なホームランで……キレイな軌跡を描き…蘭丸はその姿を消した。

 一瞬の間に起こった出来事…戦闘いの結末に、唖然としていた俺。
 ……だが、慌てる天狗二人同様、篝と幻夜も様子がおかしい?
 二人が駆け寄って来て、そのまま勢い良く俺らの前の障子を開け──

「「宗一郎!?」」

 二人の声がハモる……!
 ──だが、いったい何が何だか…何が起こっているのか、俺は理解が追いつかなかった……。

 何で皆…そんなに慌ててるんだ──?
 口々に皆が俺に向かい、妖気がどうの言っている……?

 四人の慌てている様子や、幻夜が隠れ家の結界を急いで強化しているのを……俺は訳も分からず、呆然と眺めていた。
 皆の会話なんてろくに耳に…頭に入ってこなかったが……どうやら、俺から妖気が出ているらしい──? 

 言われてみれば……俺の体から淡い光が出てる…のか?
 それに、体が熱いような気がする……??

 俺に分かるのはその位で──妖気が出てると言われても、もちろん俺には出してる自覚なんてなかった。 

「とりあえず、気配を抑えないと……っ」

 彼方は慌てて言ったが……そう言われても、俺にはどうすればいいのかなんて分からない…!

「宗一郎…ゆっくり深呼吸して、気持ちを落ち着けて……!」

 篝に言われるまま……ゆっくり息を吐く。
 俺はしばらく深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせることに専念する──…と、

「──…もう大丈夫そうだな……」

 天音が溜め息混じりに…ホッとしたように言う。

 ……どうやら、収まったのかな? 
 確かに俺の体から出てた光も消え、気分もいつもどおり……?

 すると、

「……だが…何でまた急に……?」

 天音が呟くように言う横で、彼方は俺に向かい、 

「……宗一郎…この前、白叡が手伝って一度妖気解放したんだって?」

 ……彼方は白叡から聞き出したのか、Sうさぎたちに襲われた時のことを言っている??
 確かにあの時……白叡の思惑で(?)、俺は妖気を引き出されたらしいから──。 

 彼方の言葉に思い当たった様子の俺に、

「──…てことは、一度解放されてるだけに出やすくなってる…ってことか……」

 溜め息混じりに結論を口にした天音。
 それに彼方は軽く頷いてから、

「宗一郎、もしかして…篝たちを見て何か感じるものがあった……?」 

「あ……う…ん、ちょっと……」

 そう言いかけた俺に、幻夜が……

「──戦闘いたくなったのかい?」

「……ッ!!?」

 言い当てられ、驚く俺。
 その反応を見た幻夜以外の三人が顔を見合わせた。 

 ──…確かに、俺は彼方と幻夜の言うように、あの戦闘いを見ていてそう感じたんだ。 

 “──戦闘いたい!”

 急に湧き上がってきたあの感覚…感情はまさに、その一言に尽きる……。
 何故、そう思った──?
 そんなこと……俺が知る訳ない。
 何より、俺自身は絶対に思うはずないことだ……!
 だが──…おそらく、この場にいる全員が同じことを考え、導き出している答え……

 これが紅牙の……“妖のさが”である、ということなのかもしれない─
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