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十七話 ギルドの推薦状ってやっぱりないとダメですか……?

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「ここがギルドかあ……。ちゃんと登録できるのかなあ……」

 メアリーは酒場のような建物の前で呟くように言った。

「できますよ。ギルドは基本的に来る者を拒まないように規定されています。それに私がメアリー様にお渡しした推薦状を持っていれば、それなりのランクから始めることさえできるはずです」

「それなり、ね」

 メアリーはマーシャからもらった推薦状が入っている腰の鞄を見た。

(マーシャってSランクなんだよね。Sランクはギルドの最高ランクらしいけど、そのマーシャが書いてくれた推薦状なんて一体どんなランクにされちゃうんだろう……)

 マーシャの言葉に一抹の不安を覚えるメアリーだったが、ここに来る前のパステルとの会話を思い出した。


         ◇


『よいか。お主はマーシャに推薦状を書いてもらうように頼むのじゃ』

『推薦状? どうして、そんなものが必要なの?』

『推薦状はギルドの高ランクしか推薦できないものでな。それを持っているということはある程度の実力を持っていると判断されるのじゃ』

『ふーん。……あれ? でも、そんなものなくてもギルドに登録って出来るんじゃないの?』

『……正直言って分からん。ギルド登録を普通に行おうとすると、必ず魔力を測る必要が出てくるのじゃが、その際に魔力至上主義の行き過ぎた者がいないとは限らんでな。もしもそういった者が対応すれば登録を拒否される可能性があるのじゃ。……本来ならあり得んことなのじゃが嘆かわしいことに、な……』

『何それ……』

『仕方がないのじゃ。人の意識と言うものはすぐに変えられるようなものではないからの。しかし、推薦状を持っておれば、その魔力測定を拒否することが出来るのじゃ。推薦状を出されるほどの実力であるという証を持っておるのじゃから、そんなもの今更図る必要などないと判断されるということじゃな』


         ◇


 パステルの言葉が正しければ、メアリーにとって推薦状をもらうことは好都合だった。
 下手に魔力が全くないとばれてしまえば、現人神と知られてしまい、無駄に目立つことになってしまうし、魔力が少ないと判断されれば蔑視される対象となる。

 そのような事態を避けるためにもマーシャに頼んだところ、マーシャは快く推薦状を渡してくれた。そのため、メアリーは少し不安が和らいだ。
 しかし、それでも全く不安がなくなったわけではなかった。

「マーシャはギルドの中には入らないんだよね?」

「ええ。申し訳ありませんが。私は遠慮させていただこうかと。……私が入ると可愛くない仕事を押し付け――ごほんっ。厄介な依頼が舞い込むかもしれませんので、入りたくないのです」

「そ、そっか」

(そういえば、マーシャって可愛いものが足りないからギルドじゃなくて王城にいるって言っていたっけ……)

 今更ながらにマーシャが初めて会った時の言葉を思い出したメアリー。

「さて、それでは私はそろそろ王城へ戻ります。ご健闘をお祈りしております」

「あ、うん。ありがとう」

 メアリーの言葉を聞いたマーシャはいつものように姿を消した。

(……あ、パステル爺のこと言うの忘れてた。……ま、いいか)

 すぐに思い出すメアリーではあったが、すぐさま頭の隅に追いやるとギルドの扉を開くのだった。


         ◇


 中に入ってすぐに飛び込んできた光景はテーブルに座る多くの冒険者と思われる人々だった。
 彼らは思い思いに酒を飲みかわし、談笑している。
 まだ夜にもなっていないというのにかなりの人数がそこにいた。

 そして、次に目についたのは飲み食いする場所から少し離れた受付のような空間。そこには大きな掲示板が置かれており、色々な紙が貼りつけられていた。

(おおっ! これぞまさしく冒険者! それに、あれってもしかして、クエストってやつなのでは?)

 ゲームで見たことのある光景が広がっており、メアリーは目を輝かせながら周囲を見回した。
 その時――

「え、いたっ」

 突然、誰かがメアリーの後ろから当たってきたために思わず、メアリーは声を漏らして転びそうになった。
 後ろを見るとそこにいたのは――

「ちっ、お前か」

 あの魔法の儀で見たザンニーニだった。
 相も変わらずの豪奢な服をまとっており、この冒険者御用達の場所からひどく浮いていた。

「邪魔だ」

 そして、どうしてこんなところにいるのか、という思いから目を丸くしていたメアリーを無理やり手で押しのけるとザンニーニはギルドの奥へ移動していった。

「一体何の用事だったんだろう……?」

 理不尽さに怒りを覚えるよりも疑問が勝ったメアリー。
 しばらく考えていたが、特に思いつくこともなく、改めて辺りを見渡し――

「ギルドにようこそ。依頼を頼みに来たのかしら」

 いつの間にか近づいてきていたのか、女性に声をかけられた。

「え、あ、いえ。違います」

「あら。では、どうしてこちらに?」

 どうやらこの女性はギルドの職員をしているらしい。身に着けている名札のようなものが受付の向こう側にいる人々と同じだった。

「私、ギルドに登録しに来たんです」

「あら? そうなのね。なら、こちらにいらっしゃい」

 そう言って指さした先には、枠で仕切られた受付があった。

「ありがとうございます」

「別にいいのよ。これから一緒に頑張る仲間になるのだからね」

「あはは。頑張ります」

 女性に促されたメアリーは言われた受付へと移動し、女性も裏に回りメアリーの前に座った。

「さて。改めて名乗らせてもらうわね。私はギルドの受付をしているヨハンナよ。よろしくね」

「私はメ……マリと言います」

(危ない……! 名前も変えておかないと万一ってことがありえるもんね)

 思わず口に仕掛けた言葉を飲み込み、メアリーは名乗った。

「マリ、と。年齢と出身地は?」

「え、あ、えっと……」

(年齢は前世の時の年齢を言えばいいんだろうけど、出身地はどうしよう……! 日本なんて言っても絶対に分からないよね)

 悩むメアリーにヨハンナは首を傾げた。

「えっと、別にそこまで詳しいことを聞いているわけじゃないのよ? ……ちょっと目立っちゃうかもだけど、一応非公開ということにすることも出来るけど……」

(目、目立つ……! せっかく目立たないようにこの格好にしたのに……!)

 ヨハンナの言葉を返せず、どうしようかと迷うメアリーにヨハンナは何やら紙に書き込もうとしていた。

「非公開、と」

「ちょ、ちょっと待って! 十五歳に出身は――日本で!」

 予想外なヨハンナの行動に思わず、避けようと思っていた出身地を口にしてしまった。

「…………ニホン?」

 ヨハンヌが不思議そうに繰り返した。

(や、やっちゃったぁあああああああああ! どどど、どうしよう! 何とか誤魔化さないと! 嘘でもなんでもいいから! ……一つの嘘を本当らしくするためには七つの嘘が必要とか聞いたことあった気が……って余計に大変になっちゃうじゃん!)

 咄嗟に思い出した言葉はなおのことメアリーの焦りを増す結果となってしまい、余計に言葉が出なくなるメアリーだった。

「ああ! ニホンって銀翼の勇者の出身地じゃない! 随分と珍しい場所から来たのね」

「…………え?」

 合点がいった様子のヨハンナを前にメアリーは困惑の表情を浮かべた。

「あら? 貴女は知らないのかしら? 最近Sランクになった銀翼の勇者のこと」

「し、知らないです」

(……そんな中二病みたいなあだ名付けられている人なんて聞いたことないですっ)

 思わず、心の声が漏れてしまいそうになるメアリーではあったが、何とか外に漏らすことはなかった。

「ふーん?」

 しかし、どうやら表情には少なからず漏れているものがあったのか、ヨハンナは訝しんでいる様子だった。

「そ、それより! 登録するのに必要なことって他に何かあるんですか?」

「うーん。そうね。それじゃあ、魔力を測ってもらおうかしら」

 そう言ってヨハンナは立ち上がり、メアリーを他の部屋へ案内しようと――

「魔力を測るのは推薦状があるので大丈夫です!」

「……推薦状?」

 訝しそうな声を漏らすヨハンナを前にメアリーは持っていた推薦状を出そうと鞄の中に手を入れ――

「……あれ?」

 声を漏らした。

「どうしたの?」

 ヨハンナが不思議そうに訊ねてくるが、メアリーはその言葉を聞いていなかった。
 なぜなら――

(な、ない! ど、どうして! 絶対にここに来る前までは鞄の中に入れていたはずなのに! 推薦状が、推薦状が鞄の中にないなんて!)

 確かに鞄の中に入っていたはずの推薦状が入っておらず、ひどく焦っていたためだ。
 パステル爺からもらった鞄はそんなに多くの荷物が入るような大きさではない。せいぜい小物が少し入る程度だ。

 さらには鞄の中に入れているものといえば、推薦状ぐらいしかなかったはず。
 それにもかかわらず、鞄の中には何も入っていなかった。

「ち、ちなみに推薦状を持っていなかった場合ってどうにか魔力を測らなくて済んだりしませんか……?」

 一縷の望みをかけて恐る恐る訊ねるメアリー。

「ダメね」

「……ですよねー」

 すべなく返された言葉にメアリーは打ちのめされた。

「最も他の技能を示せることが出来れば、必ずしも行わなくてもよいのだけれど……。貴女は何か出来るものがある? ……正直、見た目からすれば、あるとは思えないのだけど……」

 今のメアリーの姿は女子高校生だった時のもの。日本にいた時でさえ、華奢であると言われていた容姿は今の世界だとひどくか弱そうに見えてしまう。
 しかし、見える姿は所詮見える姿に過ぎない。

(そう、つまり――強化すれば何とかなる、に違いない……!)

 メアリーはそう考えるとヨハンナに答えた。

「剣とか使えると思います! ……たぶん」

 冒険者といえば剣だよね、などという安易な考えから、ひとまず剣を使える設定にすることにしたメアリー。

「た、たぶんってどういうことなのよ……」

 あまりにもあんまりな言葉を聞いたヨハンナは口元を引きつらせ、そう答えるのだった。
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