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十話 あなたって何者なんですかっ!?
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「ここが貴女の部屋となります、メアリー様」
「……ありがとう」
自身がバルバトス国王であるサルバトーレの姪だった。
そんな事実を知らされたメアリーは驚きのあまり、呆然自失となってしまい、それを見かねたバルバトスによってメイドに連れられて部屋に案内された。……最もメアリーは未だにショックから抜け出してはいなかったが。
「おかしい、おかしすぎるって……」
部屋に備え付けられていたベッドに横たわり、メアリーは呟く。
「私は極力目立たないようにして生きたいと思っているのに……。それなのにどうして、どうしてこうも厄介ごとの方が後からどんどんやってくるというの!」
不満が言葉となって口からあふれ出てくる。
「大体、現人神って何なの! 魔力がないからってわけが分からない存在になるなんて聞いてないよ! それに加えて王様の姪とか……! 絶対に目立つに決まっているって! ……私って何かに呪われでもしているのかなあ……」
そこまで言うとメアリーはため息をついた。
そして、改めて部屋を見渡し――
「……あれ? ここどこ?」
ようやく自身が今いる場所に気が付いた。
「というか、広すぎるし、豪華すぎる……」
メアリーがいる部屋は孤児院の時に子供たちが寝ていた寝室よりもはるかに大きかった。
キングサイズとでも言うべき大きさを誇るベッドが置かれており、他にも机やタンスに本棚といった様々な家具も部屋にあった。それにもかかわらず、全く狭いと感じないほどに部屋は広かったのだ。
自身が寝ていたベッドもまるでお姫様ベッドのような天蓋が付いており、メアリーは自身がひどく場違いなところにいると感じ始めた。
「と、とりあえず、部屋から出てみるかな……」
落ち着かないメアリーはベッドから起き上がると部屋の扉から外へ出ていこうとし――
「お? どこに行こうとしているんだ?」
部屋のすぐ外でフォルカーに呼び止められた。
「え、あ、なんだ、フォルカーか」
「なんだとはなんだ。……それより、どこかに行こうとしていたのか?」
「いやー、まあね」
(部屋が豪華すぎて落ち着かないなんて言えないよ……)
メアリーを気遣って用意してくれた部屋だ。豪華すぎるし、広すぎて落ち着かないのでもっと質素な部屋にしてほしいと言うには気が引けたメアリーだった。
「それより、フォルカーはどうしてここに来たの? 近くに何か用でもあったりした?」
メアリーが尋ねるとフォルカーは気まずそうに頬をかいた。
「……メアリーに伝えていなかったことがあったから、来たんだ」
「私に伝えていなかったこと?」
一体何を伝えていなかったというのか、メアリーは首を少し傾げた後にフォルカーに先を促した。
「馬車の中でメアリーに王族が使う魔法についての説明をしようと思っていたんだが、あまりに衝撃的なことを知ってしまったからな。つい、忘れてしまっていたんだ」
「あれ? それって後で王宮魔術師に聞いてくれっていってなかったっけ?」
「……王宮魔術師に聞いてくれと言ったのは現人神そのものについてのことだ。現人神についての知識はいわゆる国の歴史に相当していてな。正直、俺よりも王宮魔術師の方がよく知っているだろうと思ったんだ」
(……それって勉強不足ってことでしょ! しっかり勉強しなさい、王子なんでしょうが!)
メアリーが考えたことが分かったのか、フォルカーは軽く咳をすると更に話を続けた。
「それはともかく。現人神が使う魔法については王族にしか伝わっていないことも多くある。それをメアリーに伝えようと思っていたんだ。……あまりに衝撃的なことを知ったが故に頭から抜けてしまってはいたがな」
「ああ、そういうことね」
(確かにフォルカーは馬車の中でプレートを見せてから、ずっと考えこんでいたもんね。……まあ、私的にはそのおかげで少しは心の準備ができたからありがたかったけど。……結局は心の準備を超える勢いで厄介ごとが舞い込んできたけどねっ!)
「どうしたんだ?」
「い、いやー、気にしないで……」
(自分で墓穴を掘って落ち込むとか、あほか私っ)
心配そうにメアリーを見てくるフォルカーから顔を背け、気分を入れ替えるように頭を軽く振った。
「そ、そんなことより、早く説明してよ」
「あ、ああ。わかった」
気にしていたフォルカーのようだったが、メアリーの言葉でいったん気にしないことにしたようだった。
「とりあえず、それなりに長い話となるのだから、部屋に入って話すとしよう」
そう言ってメアリーへ部屋に入るよう促すフォルカー。
その言葉を無下に出来ず、メアリーは大人しく部屋に戻った。
(せっかく落ち着かない部屋から出られたと思ったんだけどなあ……)
ちょっとだけ不満はあったが、さすがに顔には出さなかった。
◇
「それでは、説明をするとしようか」
「…………えっと、それよりも、これは……?」
早速説明をしようとするフォルカー。
しかし、メアリーはあることが気になってしまい、説明を聞く態勢に入れなかった。
メアリーは視線を気になっているモノ――ティーセット――に移す。
それはメアリーが部屋に入る前にはなかったものだ。というか、部屋に入った瞬間にティーセットが現れたように見えた。
(……いやいや、絶対に誰かが何かしているでしょう!)
現に今もメアリーとフォルカーが座った席の前に紅茶が置かれた。誰もいないはずなのに。
「ああ、気にする必要などないさ」
「そんなこと言われても気になるよ! だって、姿が見えないのにいきなり現れるんだもん!」
「……あー、説明していないのか……」
メアリーの言葉にフォルカーが困ったような表情へと変わる。
そして、唐突に手を叩いた。
「お呼びでしょうか、フォルカー様」
「え、わあっ!」
メイド服を着た女性。その姿が何の前振りもなく、目の前に現れたのだから、メアリーは驚いてしまった。
「ああ。メアリーにお前のことを説明しておいてほしいと思ってな」
「かしこまりました」
そう言うとメイド服を着た女性がメアリーの方を向く。
白色に薄く緑がかった髪を持つその女性は、あまり感情を出さないたちなのか、無表情のまま口を開いた。
「私はメアリー様のお付きのメイドをさせていただいております、マーシャ・リモンテと申します。以後お見知りおきを」
そう言って、頭を下げるマーシャ。
「よ、よろしく……」
メアリーが返すとマーシャが後ろに下がっていき、また姿が見えなく――
「――ってまだ急に現れたりしたことについて聞いてないよ! あれって一体どうやっていたっていうの!」
メアリーの言葉に半ば消えかけていたマーシャの姿が元に戻った。
「どうやって、ですか? ……魔法ですが」
「魔法? ……姿が見えなくなるなんて、魔法ってなんでもありなの……? というか、紅茶がいきなり入れられていたりするのって姿を見えなくしただけじゃないよね、絶対」
「それも魔法です」
「なるほどなるほど……ってどれもみんな魔法だっていうの!?」
「あー、ちょっといいか」
メアリーとマーシャの会話があまりにも不毛と感じたのだろうか。
フォルカーが二人の話を遮った。
「マーシャはギルドのSランク保持者なんだ」
「……ギルド?」
(それってまさかあのゲームとかでお馴染みの!?)
メアリーが期待で胸を膨らませている中、フォルカーが続ける。
「ああ。マーシャはバルバトス国にもほとんどいないSランクで、特に魔法に秀でているんだ。……最も使用する多くの魔法は普通の人では理解できないらしいが」
「な、なるほど。……あれ? ギルドのSランクってお金稼げるんじゃないの? クエストがあるんじゃ……?」
「趣味です」
「……え?」
メアリーの疑問にマーシャが即答する。
あまりにもあんまりな回答に思わず、メアリーは目を丸くした。
「Sランクともなるとギルドのクエストは大型の魔獣討伐や滅多に取れない素材の採取などしかなくなってしまいます」
(ふむふむ。確かにゲームでもランク上がるとそういうのばかりだったっけ)
メアリーが聞いている中、マーシャの勢いがだんだん強くなっていく。そして、何故かフォルカーは頭が痛むのか、額に手を当てていた。
「つまり――」
「つまり?」
「――可愛いものが足りないのです!」
「…………へ?」
メアリーの疑問を気にもせず、マーシャは語り続ける。
「私は小さい時から可愛い物が大好きでして、長い期間可愛い存在を見ることが出来なければ発狂してしまいそうになるんです」
(…………無表情ですごいこと言っている!?)
無表情でこんこんと語る。ただひたすらに語り続ける。
なかなかにやまないマーシャの語りを聞き続けていたメアリーは次第に精神的な疲れがたまってきてしまった。
助けを求めるためにフォルカーを見てみるとただ目をつぶって首を振るばかり。
(だから、頭が痛いって感じに手を額に当てていたのか……。こんなことになるってもっと早く知っていれば聞かなかったのに……)
今更ながらにトリガーを引いてしまったことを後悔し始めたメアリー。そんなメアリーの前でマーシャが口走った。
「――王宮は私が求める可愛い物がいないということもあってそろそろやめようかと思っていましたが、メアリー様が来ました。……私が求める可愛い存在が!」
「…………私?」
「はい、そうです! 貴女は可愛らしい! 私が見てきた中で最高の存在です!」
「あはは……」
厄介な人に目をつけられた。そんな思いからメアリーの口から乾いた笑いがこぼれた。
マーシャは何故かメアリーを見て、深く頷いた。
「……ええ。やはり、貴女にはそのような服は似合わない。待っていてください。今日中には貴女にふさわしい服を作り上げてきますので!」
そう言うなり、マーシャは走り去った。魔法も併用しているのか、そもそも素で早すぎるのか、その姿は見えなかった。
「……お付きのメイドって必ず必要なのかな……?」
「……父が許さないだろう。メアリーは現人神であり、俺の従妹なのだからな」
「……そっか。ちなみにメイドの変更って可能?」
「…………無理だ。あいつが他のメイドを軒並み押しのけてでもお前のメイドとなるだろうからな」
「…………デスヨネー」
(異世界にもクーリングオフ制度あったらなあ……)
そんな訳のわからない思考から出てきたメアリーのため息とフォルカーの疲れた表情で吐くため息が重なるのだった。
「……ありがとう」
自身がバルバトス国王であるサルバトーレの姪だった。
そんな事実を知らされたメアリーは驚きのあまり、呆然自失となってしまい、それを見かねたバルバトスによってメイドに連れられて部屋に案内された。……最もメアリーは未だにショックから抜け出してはいなかったが。
「おかしい、おかしすぎるって……」
部屋に備え付けられていたベッドに横たわり、メアリーは呟く。
「私は極力目立たないようにして生きたいと思っているのに……。それなのにどうして、どうしてこうも厄介ごとの方が後からどんどんやってくるというの!」
不満が言葉となって口からあふれ出てくる。
「大体、現人神って何なの! 魔力がないからってわけが分からない存在になるなんて聞いてないよ! それに加えて王様の姪とか……! 絶対に目立つに決まっているって! ……私って何かに呪われでもしているのかなあ……」
そこまで言うとメアリーはため息をついた。
そして、改めて部屋を見渡し――
「……あれ? ここどこ?」
ようやく自身が今いる場所に気が付いた。
「というか、広すぎるし、豪華すぎる……」
メアリーがいる部屋は孤児院の時に子供たちが寝ていた寝室よりもはるかに大きかった。
キングサイズとでも言うべき大きさを誇るベッドが置かれており、他にも机やタンスに本棚といった様々な家具も部屋にあった。それにもかかわらず、全く狭いと感じないほどに部屋は広かったのだ。
自身が寝ていたベッドもまるでお姫様ベッドのような天蓋が付いており、メアリーは自身がひどく場違いなところにいると感じ始めた。
「と、とりあえず、部屋から出てみるかな……」
落ち着かないメアリーはベッドから起き上がると部屋の扉から外へ出ていこうとし――
「お? どこに行こうとしているんだ?」
部屋のすぐ外でフォルカーに呼び止められた。
「え、あ、なんだ、フォルカーか」
「なんだとはなんだ。……それより、どこかに行こうとしていたのか?」
「いやー、まあね」
(部屋が豪華すぎて落ち着かないなんて言えないよ……)
メアリーを気遣って用意してくれた部屋だ。豪華すぎるし、広すぎて落ち着かないのでもっと質素な部屋にしてほしいと言うには気が引けたメアリーだった。
「それより、フォルカーはどうしてここに来たの? 近くに何か用でもあったりした?」
メアリーが尋ねるとフォルカーは気まずそうに頬をかいた。
「……メアリーに伝えていなかったことがあったから、来たんだ」
「私に伝えていなかったこと?」
一体何を伝えていなかったというのか、メアリーは首を少し傾げた後にフォルカーに先を促した。
「馬車の中でメアリーに王族が使う魔法についての説明をしようと思っていたんだが、あまりに衝撃的なことを知ってしまったからな。つい、忘れてしまっていたんだ」
「あれ? それって後で王宮魔術師に聞いてくれっていってなかったっけ?」
「……王宮魔術師に聞いてくれと言ったのは現人神そのものについてのことだ。現人神についての知識はいわゆる国の歴史に相当していてな。正直、俺よりも王宮魔術師の方がよく知っているだろうと思ったんだ」
(……それって勉強不足ってことでしょ! しっかり勉強しなさい、王子なんでしょうが!)
メアリーが考えたことが分かったのか、フォルカーは軽く咳をすると更に話を続けた。
「それはともかく。現人神が使う魔法については王族にしか伝わっていないことも多くある。それをメアリーに伝えようと思っていたんだ。……あまりに衝撃的なことを知ったが故に頭から抜けてしまってはいたがな」
「ああ、そういうことね」
(確かにフォルカーは馬車の中でプレートを見せてから、ずっと考えこんでいたもんね。……まあ、私的にはそのおかげで少しは心の準備ができたからありがたかったけど。……結局は心の準備を超える勢いで厄介ごとが舞い込んできたけどねっ!)
「どうしたんだ?」
「い、いやー、気にしないで……」
(自分で墓穴を掘って落ち込むとか、あほか私っ)
心配そうにメアリーを見てくるフォルカーから顔を背け、気分を入れ替えるように頭を軽く振った。
「そ、そんなことより、早く説明してよ」
「あ、ああ。わかった」
気にしていたフォルカーのようだったが、メアリーの言葉でいったん気にしないことにしたようだった。
「とりあえず、それなりに長い話となるのだから、部屋に入って話すとしよう」
そう言ってメアリーへ部屋に入るよう促すフォルカー。
その言葉を無下に出来ず、メアリーは大人しく部屋に戻った。
(せっかく落ち着かない部屋から出られたと思ったんだけどなあ……)
ちょっとだけ不満はあったが、さすがに顔には出さなかった。
◇
「それでは、説明をするとしようか」
「…………えっと、それよりも、これは……?」
早速説明をしようとするフォルカー。
しかし、メアリーはあることが気になってしまい、説明を聞く態勢に入れなかった。
メアリーは視線を気になっているモノ――ティーセット――に移す。
それはメアリーが部屋に入る前にはなかったものだ。というか、部屋に入った瞬間にティーセットが現れたように見えた。
(……いやいや、絶対に誰かが何かしているでしょう!)
現に今もメアリーとフォルカーが座った席の前に紅茶が置かれた。誰もいないはずなのに。
「ああ、気にする必要などないさ」
「そんなこと言われても気になるよ! だって、姿が見えないのにいきなり現れるんだもん!」
「……あー、説明していないのか……」
メアリーの言葉にフォルカーが困ったような表情へと変わる。
そして、唐突に手を叩いた。
「お呼びでしょうか、フォルカー様」
「え、わあっ!」
メイド服を着た女性。その姿が何の前振りもなく、目の前に現れたのだから、メアリーは驚いてしまった。
「ああ。メアリーにお前のことを説明しておいてほしいと思ってな」
「かしこまりました」
そう言うとメイド服を着た女性がメアリーの方を向く。
白色に薄く緑がかった髪を持つその女性は、あまり感情を出さないたちなのか、無表情のまま口を開いた。
「私はメアリー様のお付きのメイドをさせていただいております、マーシャ・リモンテと申します。以後お見知りおきを」
そう言って、頭を下げるマーシャ。
「よ、よろしく……」
メアリーが返すとマーシャが後ろに下がっていき、また姿が見えなく――
「――ってまだ急に現れたりしたことについて聞いてないよ! あれって一体どうやっていたっていうの!」
メアリーの言葉に半ば消えかけていたマーシャの姿が元に戻った。
「どうやって、ですか? ……魔法ですが」
「魔法? ……姿が見えなくなるなんて、魔法ってなんでもありなの……? というか、紅茶がいきなり入れられていたりするのって姿を見えなくしただけじゃないよね、絶対」
「それも魔法です」
「なるほどなるほど……ってどれもみんな魔法だっていうの!?」
「あー、ちょっといいか」
メアリーとマーシャの会話があまりにも不毛と感じたのだろうか。
フォルカーが二人の話を遮った。
「マーシャはギルドのSランク保持者なんだ」
「……ギルド?」
(それってまさかあのゲームとかでお馴染みの!?)
メアリーが期待で胸を膨らませている中、フォルカーが続ける。
「ああ。マーシャはバルバトス国にもほとんどいないSランクで、特に魔法に秀でているんだ。……最も使用する多くの魔法は普通の人では理解できないらしいが」
「な、なるほど。……あれ? ギルドのSランクってお金稼げるんじゃないの? クエストがあるんじゃ……?」
「趣味です」
「……え?」
メアリーの疑問にマーシャが即答する。
あまりにもあんまりな回答に思わず、メアリーは目を丸くした。
「Sランクともなるとギルドのクエストは大型の魔獣討伐や滅多に取れない素材の採取などしかなくなってしまいます」
(ふむふむ。確かにゲームでもランク上がるとそういうのばかりだったっけ)
メアリーが聞いている中、マーシャの勢いがだんだん強くなっていく。そして、何故かフォルカーは頭が痛むのか、額に手を当てていた。
「つまり――」
「つまり?」
「――可愛いものが足りないのです!」
「…………へ?」
メアリーの疑問を気にもせず、マーシャは語り続ける。
「私は小さい時から可愛い物が大好きでして、長い期間可愛い存在を見ることが出来なければ発狂してしまいそうになるんです」
(…………無表情ですごいこと言っている!?)
無表情でこんこんと語る。ただひたすらに語り続ける。
なかなかにやまないマーシャの語りを聞き続けていたメアリーは次第に精神的な疲れがたまってきてしまった。
助けを求めるためにフォルカーを見てみるとただ目をつぶって首を振るばかり。
(だから、頭が痛いって感じに手を額に当てていたのか……。こんなことになるってもっと早く知っていれば聞かなかったのに……)
今更ながらにトリガーを引いてしまったことを後悔し始めたメアリー。そんなメアリーの前でマーシャが口走った。
「――王宮は私が求める可愛い物がいないということもあってそろそろやめようかと思っていましたが、メアリー様が来ました。……私が求める可愛い存在が!」
「…………私?」
「はい、そうです! 貴女は可愛らしい! 私が見てきた中で最高の存在です!」
「あはは……」
厄介な人に目をつけられた。そんな思いからメアリーの口から乾いた笑いがこぼれた。
マーシャは何故かメアリーを見て、深く頷いた。
「……ええ。やはり、貴女にはそのような服は似合わない。待っていてください。今日中には貴女にふさわしい服を作り上げてきますので!」
そう言うなり、マーシャは走り去った。魔法も併用しているのか、そもそも素で早すぎるのか、その姿は見えなかった。
「……お付きのメイドって必ず必要なのかな……?」
「……父が許さないだろう。メアリーは現人神であり、俺の従妹なのだからな」
「……そっか。ちなみにメイドの変更って可能?」
「…………無理だ。あいつが他のメイドを軒並み押しのけてでもお前のメイドとなるだろうからな」
「…………デスヨネー」
(異世界にもクーリングオフ制度あったらなあ……)
そんな訳のわからない思考から出てきたメアリーのため息とフォルカーの疲れた表情で吐くため息が重なるのだった。
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