8 / 20
八話 悲報。厄介の種が追加されました
しおりを挟む
「メアリー。こちらへいらっしゃいな」
「え? どうしたの?」
そろそろ王城へ行く馬車が来る時間となった時。
部屋の中でそわそわと落ち着かないメアリーをシスターが呼び寄せた。
「はい、これ」
「……何これ?」
シスターの手に持っていた物は金属のプレートだった。何やら文字が書かれているのが分かる。
幸いにも書かれていた文字は、エレナにせがんで読んでもらった本のおかげで読めそうだ。
「えーっと、メアリー……って私の名前?」
「ええ。メアリーが孤児院にやってきた時、貴女と一緒に置かれていた物よ。受け取りなさいな」
「う、うん」
メアリーはシスターからプレートを受け取った。
プレートは一見するとただの鉄製のように見えたが、どうも材質は異なるらしい。プレートには傷一つなく、メアリーが触った指の跡さえもプレートにはつかなかった。
「大事にしなさい。きっと大切なものなのだから」
「……分かった」
(きっとこれってこの世界の私のお母さんが置いていったものなんだろうな。……でも、孤児院に預けるんだよね? どうしてなんだろう)
メアリーは内心そう考えたが、口にすることはなかった。
その時、外から何やら音が聞こえてきた。
「……あら? もう来たのかしら」
シスターが音に反応し、部屋から出ていった。
(う……、いよいよ、か……)
真理が転生し、メアリーとなってひと月ほど。
魔法の儀を受けたせいで大きく変わることになるであろう生活が不安で仕方がなかった。
(こっそり、こっそりと生活できないかなあ……。いや、むしろ魔法のこと教えてもらったなら、そのまま孤児院に逆戻り! ……そう出来たらいいんだけどなあ……)
メアリーは心では孤児院にいたいと考えるが、出来ない理由があった。
それは――
(孤児院の生活をどうにかしないといけないからなあ……。何とかして王城で情報を得られるといいんだけど)
孤児院の援助をもらえるように交渉する。
それがメアリーから王城へ行かないという選択肢を消していた。
「さあ、メアリー。いらっしゃったわよ」
シスターに促され、メアリーは孤児院の外へ出た。
そこには二頭の白い馬に黒塗りの客室部分が付いている。
(良かった……。王族が乗るような金ぴかな馬車じゃなくて本当に良かった……)
メアリーが内心で安堵していると、御者の席にいたフォルカーの従者であるユダが降りてきた。
「メアリー様。どうぞ、こちらへ」
そして、メアリーに対して手を差し伸べて馬車の中へ促す。
「……頑張りなさいね」
「うん。……シスターも元気でね」
「あらあら。私はいつでも元気よ。……ふふふ、ありがとうね」
シスターの笑顔に見送られながら、メアリーは馬車へ歩いていった。
◇
(うう……。やっぱり、王城って目立つよね……。心配だ……)
馬車の中に入った途端、いよいよ自分が王城へ行くのだと実感し、不安になるメアリー。
そんなメアリーに声をかける者がいた。
「おい。……早く座ら――お座りください」
メアリーが声をかけられた方を見ると、そこにはフォルカーがいた。
「え? なんでフォルカーが……?」
「……貴女様を迎えに行くためですよ」
答えるフォルカーの歯切れがひどく悪い。
「そんなに慣れないんだったら敬語を使わなくてもいいよ?」
「……そういうわけにもいきませんよ。何せ、貴女は神と同一。つまりは現人神でいらっしゃるのですから」
「あらひとがみ?」
いまいちよくわからない言葉が出てきた。
繰り返したメアリーの言葉にフォルカーは頷くと続ける。
「現人神とは、古来私たちの国バルバトスを建国した人物がそうであったと言われている神と同一の存在です」
「それって神様とは違うの?」
「……神とは肉体を持たない存在であり、現人神のように現世に干渉することが出来ない、とのことだ」
「ふーん」
(あの転生するときに会った神様みたいな存在はこの世界に干渉することが出来ないってことなのかな?)
メアリーはフォルカーの言葉からそう考えた。
「詳しくは王城の王宮魔術師から聞くといい。俺もそれほど詳しいわけではない――ですから」
「……別に敬語で話さなくてもいいんだよ?」
「……すまないが、そうさせてもらうか……。どうも、年下の者に敬語を使うという状況に慣れてなくてな……」
(年下……? って、ああ! 私って今五歳なんだっけか!)
メアリーからすれば十歳であるフォルカーの方がはるかに年下だ。
しかし、メアリーの本当の年齢を知らないフォルカーからすれば、メアリーはただの五歳児だ。
フォルカーは王族ということでそれほど丁寧に話す必要がなかったかもしれない。そんなフォルカーにとって、メアリーの容姿はなおのこと敬語で話さなければならないという感覚を薄れさせていたのだろう。
「あはは。確かに私に敬語なんておかしいよね――ってうわ!」
笑っていたメアリーだったが、突然、馬車が揺れたために態勢を崩してしまった。
未だに立っていたことも原因だったのだろう。
何とか後ろに倒れることによって席に座る形となり、転んだりはしなかったが――
「うん? これはなんだ?」
メアリーの手に持っていたプレートがちょうどフォルカーの手の中に入るように飛んで行ってしまった。
「ああ、ごめんね。なんでもシスターが言うには私が孤児院に預けられる時に持っていたらしいんだ――」
「――そ、それは本当か!?」
「う、うん。そう、みたい」
メアリーが答えると何故かフォルカーは、そうか、とかまさか、といった言葉を繰り返すようになり、一人考え込んでしまった。
(何か気になることでもあったのかな?)
どうしてフォルカーがこのような状態になったのか分からないメアリーはただ困惑するばかりだった。
しかし、しばらくするとメアリーは気づいた。
フォルカーがこのように動揺するということはあのプレートに何かあるに違いないということ。
そう、それはつまり――
(ま、またなの!? また、厄介の種が増えたっていうの!?)
王城へ行く馬車の中。
メアリーの前途はまたもや波乱に満ちているようだった。
「え? どうしたの?」
そろそろ王城へ行く馬車が来る時間となった時。
部屋の中でそわそわと落ち着かないメアリーをシスターが呼び寄せた。
「はい、これ」
「……何これ?」
シスターの手に持っていた物は金属のプレートだった。何やら文字が書かれているのが分かる。
幸いにも書かれていた文字は、エレナにせがんで読んでもらった本のおかげで読めそうだ。
「えーっと、メアリー……って私の名前?」
「ええ。メアリーが孤児院にやってきた時、貴女と一緒に置かれていた物よ。受け取りなさいな」
「う、うん」
メアリーはシスターからプレートを受け取った。
プレートは一見するとただの鉄製のように見えたが、どうも材質は異なるらしい。プレートには傷一つなく、メアリーが触った指の跡さえもプレートにはつかなかった。
「大事にしなさい。きっと大切なものなのだから」
「……分かった」
(きっとこれってこの世界の私のお母さんが置いていったものなんだろうな。……でも、孤児院に預けるんだよね? どうしてなんだろう)
メアリーは内心そう考えたが、口にすることはなかった。
その時、外から何やら音が聞こえてきた。
「……あら? もう来たのかしら」
シスターが音に反応し、部屋から出ていった。
(う……、いよいよ、か……)
真理が転生し、メアリーとなってひと月ほど。
魔法の儀を受けたせいで大きく変わることになるであろう生活が不安で仕方がなかった。
(こっそり、こっそりと生活できないかなあ……。いや、むしろ魔法のこと教えてもらったなら、そのまま孤児院に逆戻り! ……そう出来たらいいんだけどなあ……)
メアリーは心では孤児院にいたいと考えるが、出来ない理由があった。
それは――
(孤児院の生活をどうにかしないといけないからなあ……。何とかして王城で情報を得られるといいんだけど)
孤児院の援助をもらえるように交渉する。
それがメアリーから王城へ行かないという選択肢を消していた。
「さあ、メアリー。いらっしゃったわよ」
シスターに促され、メアリーは孤児院の外へ出た。
そこには二頭の白い馬に黒塗りの客室部分が付いている。
(良かった……。王族が乗るような金ぴかな馬車じゃなくて本当に良かった……)
メアリーが内心で安堵していると、御者の席にいたフォルカーの従者であるユダが降りてきた。
「メアリー様。どうぞ、こちらへ」
そして、メアリーに対して手を差し伸べて馬車の中へ促す。
「……頑張りなさいね」
「うん。……シスターも元気でね」
「あらあら。私はいつでも元気よ。……ふふふ、ありがとうね」
シスターの笑顔に見送られながら、メアリーは馬車へ歩いていった。
◇
(うう……。やっぱり、王城って目立つよね……。心配だ……)
馬車の中に入った途端、いよいよ自分が王城へ行くのだと実感し、不安になるメアリー。
そんなメアリーに声をかける者がいた。
「おい。……早く座ら――お座りください」
メアリーが声をかけられた方を見ると、そこにはフォルカーがいた。
「え? なんでフォルカーが……?」
「……貴女様を迎えに行くためですよ」
答えるフォルカーの歯切れがひどく悪い。
「そんなに慣れないんだったら敬語を使わなくてもいいよ?」
「……そういうわけにもいきませんよ。何せ、貴女は神と同一。つまりは現人神でいらっしゃるのですから」
「あらひとがみ?」
いまいちよくわからない言葉が出てきた。
繰り返したメアリーの言葉にフォルカーは頷くと続ける。
「現人神とは、古来私たちの国バルバトスを建国した人物がそうであったと言われている神と同一の存在です」
「それって神様とは違うの?」
「……神とは肉体を持たない存在であり、現人神のように現世に干渉することが出来ない、とのことだ」
「ふーん」
(あの転生するときに会った神様みたいな存在はこの世界に干渉することが出来ないってことなのかな?)
メアリーはフォルカーの言葉からそう考えた。
「詳しくは王城の王宮魔術師から聞くといい。俺もそれほど詳しいわけではない――ですから」
「……別に敬語で話さなくてもいいんだよ?」
「……すまないが、そうさせてもらうか……。どうも、年下の者に敬語を使うという状況に慣れてなくてな……」
(年下……? って、ああ! 私って今五歳なんだっけか!)
メアリーからすれば十歳であるフォルカーの方がはるかに年下だ。
しかし、メアリーの本当の年齢を知らないフォルカーからすれば、メアリーはただの五歳児だ。
フォルカーは王族ということでそれほど丁寧に話す必要がなかったかもしれない。そんなフォルカーにとって、メアリーの容姿はなおのこと敬語で話さなければならないという感覚を薄れさせていたのだろう。
「あはは。確かに私に敬語なんておかしいよね――ってうわ!」
笑っていたメアリーだったが、突然、馬車が揺れたために態勢を崩してしまった。
未だに立っていたことも原因だったのだろう。
何とか後ろに倒れることによって席に座る形となり、転んだりはしなかったが――
「うん? これはなんだ?」
メアリーの手に持っていたプレートがちょうどフォルカーの手の中に入るように飛んで行ってしまった。
「ああ、ごめんね。なんでもシスターが言うには私が孤児院に預けられる時に持っていたらしいんだ――」
「――そ、それは本当か!?」
「う、うん。そう、みたい」
メアリーが答えると何故かフォルカーは、そうか、とかまさか、といった言葉を繰り返すようになり、一人考え込んでしまった。
(何か気になることでもあったのかな?)
どうしてフォルカーがこのような状態になったのか分からないメアリーはただ困惑するばかりだった。
しかし、しばらくするとメアリーは気づいた。
フォルカーがこのように動揺するということはあのプレートに何かあるに違いないということ。
そう、それはつまり――
(ま、またなの!? また、厄介の種が増えたっていうの!?)
王城へ行く馬車の中。
メアリーの前途はまたもや波乱に満ちているようだった。
0
お気に入りに追加
1,997
あなたにおすすめの小説
異世界でドラゴニュートになってのんびり異世界満喫する!
ファウスト
ファンタジー
ある日、コモドドラゴンから『メダル』を受け取った主人公「龍河 由香」は
突然剣と魔法の世界へと転移してしまった。
メダルは数多の生物が持つことを許される異世界への切符で・・・!
伝説のドラゴン達の加護と武具を受けて異世界大冒険!だけど良く見たら体が?!
『末永く可愛がる為って・・・先生、愛が重いです』
ドラゴニュートに大変身!無敵のボディを駆使して異世界を駆け巡る!
寿命が尽きたら元の世界に戻れるって一体何年?ええっ!千年以上?!
ドラゴニュートに変身した少女が異世界を巡ってドラゴン達を開放したり
圧倒的な能力で無双しつつ尊敬を集めたりと異世界で自由にするお話。
※タイトルを一部変更しました。ですがこれからの内容は変えるつもりありません。 ※現在ぱパソコンの破損により更新が止まっています
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
美少女パパと最強娘! ~前世の娘がクラス召喚されてきた!? TS転生者のパパは正体を隠しつつ娘の為に頑張る! その美貌と悪辣さで~
ちりひと
ファンタジー
保険金殺人!? 人身売買!? 貴族の毒殺!?
TS転生者レヴィアがやらかす事はいつもシャレにならない。
中身は男だというのに、その所業は悪役令嬢顔負けの悪っぷり。美少女な見た目とお嬢様演技を使いこなし、ロクでもない夢の為に周囲を振り回す。
そんな彼女が冒険者として活動する中、偶然手に入れた謎の宝玉、“精霊石”。それがものすごい高値で売れる事を知ったレヴィアは、仲間二人(残念巨乳と田舎者ロリ)と共に売り場所求めて旅立つ。
精霊石。まさかコレが原因であんな事が起きるなんて。
悪気はなかった。珍しく悪気はなかったのに、精霊石によって日本の高校生がクラスごと召喚されてしまったのだ。その中には、愛しい前世の娘の姿もあり……。
――自信過剰! 悪いたくらみ! お嬢様演技!
これは、俺様なTS転生者が正体を隠しつつ娘の為に頑張る、コメディチック・冒険ファンタジーである。
※ 本サイトでの投稿は停止しております。五章の途中まではこちらにもありますが、続きは下記サイトでどうぞ。
なろう:https://ncode.syosetu.com/n6986ge/
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054896166447
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる