マリーゴールド

第64幕 家族

あれから1か月近くたった。
俺は元相棒が共犯者だったってことで1か月間謹慎処分。
その上始末書だ。
今は自宅でデスクワークをしている。

俺が現場に着いた時には、三重グループの跡取りと大鷲が血を流して倒れていた。
あと素っ裸で縛られていた豪元の奥さんと椅子に縛られた息子。
そして死んだ妹の頭を撫で続けている小田友和。
通報したのは豪元武だった。
1人であの現場から逃げだして、そこらへんを彷徨っていたらしい。
しばらくしてから正気に戻って、110当番をしたとのことだ。

生き残りの小田友和が疑われたが、大鷲が残したビデオカメラで全てが明らかになった。

本来はあの場も撮影するはずだったんだろう。だが、小田沙和子の言葉に逆上し、そして返り討ちにあった。
本当にデカ失格だな。
あいつは。

大鷲の自宅を調べたところ、証拠品が山のように出てきた。
現場の指紋などの証拠は鑑識時代の経験を活かして消していたんだろう。
俺に情報を持ってこなかったのも自分で潰したり、そもそも捜査なんてしてなかったからだ。

大鷲の家に残っていた証拠を元に日東と大神を逮捕した。

日東は、
「私は何もやっていない！」
「あいつの首に腸を巻いただけだ！」
と自白とも言える支離滅裂な弁護をして捕まった。
そのまま刑務所に入ったが、まさかの同室の囚人を犯しかけた。
本人曰く「我慢できなくて……。」だそうだ。
まあ相手の囚人も学生時代に5股ぐらいされて、強姦を主導したやつだった。
少年院入った後にまた同じような罪を犯して刑務所にぶち込まれた。

どいつもこいつもどうしよもない奴らばかり……。
そいつはおっさんに襲われたトラウマからブルブル震えているって話だ。

大神は素直に容疑を認めたそうだ。
看守に頼んで小田友和の写真を1枚飾って、恋しそうに眺めてるらしい。
飯もあまり取らずガリガリになっちまって、妖怪好きな女が人殺しをして妖怪みてぇになっちまうなんて皮肉な話だ。

飼っていた猫は弁護士が少しの間預かることになり、里親を探すそうだ。
逮捕されたやつのペットの面倒は国では補償されない。
同居人がいなくて、誰も動かなきゃ飼われていたペットはそのまま死ぬことになる。
ペットに罪はないんだがな。
だが、これが現実だ。

今回のように、被疑者のペットを預かってくれる弁護士がいることを耳にしたことがある。
大神の弁護士は快く引き受けたらしい。
飼い主が犯罪者になったが、大神の猫にも少しは救いがあった。
あとは良い里親が見つかるだけだがな。




そう……。
犯人逮捕で全ては解決しなかった。
大神の猫だけじゃない。
加害者や被害者の家族への影響も悲惨なものだった。

殺された側だとはいえ、大沢と里部の普段の行いがネットで書き込まれていた。
それにニュースで取り上げられた大麻所持と使用のことも。
相当恨みを買っていたんだろう。
お互いに異性をたぶらかしては傷つけてきたみたいだな。

2人の家庭環境や家族の情報が特定、晒された。
大沢の弟は元々精神に負担を抱えていた。
今回の件で余計に病んでしまい、精神病院に入院することになった。
冷遇して暴力を振るっていた大沢の両親はともかく、特に家庭環境に問題無く、反抗期から勝手に家を出てかれた里部の両親はいいとばっちりだ。





木原夫婦の親は取っ組み合いになりかけたらしい。
夫家族は殺された恨みを述べ、妻家族は不倫をした恨みを述べた。
もちろん殺したほうが悪いに決まっているが……。

最悪なことに、木原美喜男と性行為した奴らが匿名で週刊誌に暴露した。
人数は20人ぐらいで、木原の性癖などもおもしろおかしく取り上げられることになった。

そして夫家族は不倫しまくっていた奴の親として祭り上げられ、中傷された。
妻家族にも中傷はあったが、不倫をするような男に天罰を与えた家族として賞賛の声もあげられている。
どいつもこいつもイカれてるな。

暴露した女達も匿名だからとまるで被害者ヅラで言いたい放題だが、元々既婚者ってことを知っててヤッてたんだろ？
自分達も相手の奥さんを傷つけたことがわかっていないのか？
俺からしたらこの女共もこの事件を引き起こした原因の一つだ。
それについては触れずに、木原美喜男の家族に矛先が向くように仕向けている週刊誌もどうかしてる。

木原美喜男の家族は精神的に参ってしまい、最近できたよくわからん宗教にはまっちまったらしいが……。
そんなのにはまっても誰も救ってはくれねぇのにな。
金が吹っ飛ぶか、変なことに巻き込まれて事件になるかだ。




佐藤の旅館はリベンジポルノをした家族としてかなり糾弾された。
最近リベンジポルノはかなり問題視されている。
いくら元のサイトを消しても保存されて、他のサイトに上げられて一生残り続けるからだ。
いわゆるデジタルタトゥーってやつだ。
大神や他9人の女達はこれからネットで男共のオカズとして残るのだ。
佐藤学がここまでのゲス野郎だったとはな。

残された母親は死んだ息子を庇い続けた。

「本人達も同意の上でしていた。」
「撮られた方も悪い。」
いくらなんでもめちゃくちゃな弁護だった。
その発言は火に油を注ぎ、余計に中傷された。

そして佐藤の母親はとうとう頭がおかしくなった。

息子を復活させようと伝説やら黒魔術等を調べ尽くしていたらしい。
そして息子と同い年ぐらいの奴を誘拐して儀式をした。
生贄にすることで息子を蘇らせようとしたそうだ。

最近不審に思っていた他の従業員が発見して通報したが……。

4人殺されていたことがわかった。
3人は儀式のための生贄。

1人は息子を殺した大神の母親だった。
体の至る所が滅多刺しにされて、損傷が激しかったらしい。
息子を殺した恨みからか……。
無関係の母親を殺すとはな。
大神の母親もこの事件の被害者のようなものだ。

ネットで旅館の女将が息子を復活させようとするリゾートバイトという怪談があるらしい。

旅館の女将、息子を復活させようとしているという共通点から、本当にあったリゾートバイトと面白おかしくネタにされているとか。
当事者じゃない連中は言いたい放題だ。




三重グループは株価が大暴落。
社長の息子がカップル2人の頭を解体するという前代未聞の殺しをしたからだ。
子会社やグループ会社はとばっちりを受けることになったが、これをチャンスと他の飲食関係の企業が買収しようとしている状態だ。
当事衰退していた化粧品業界を乗っ取ろうとした三重だったが、まさか根こそぎ取られる立場になるとは皮肉な話だ。
飲食関係は大きく変わっていくことだろう。

三重の両親は事件のことと息子が死んだショックからぶっ倒れたらしい。
三重自身がグロテスクなフィクション作品を好むことからそれを与えた親と作品を作った監督やら会社がバッシングされた。
今までもそうだが、何かあるたびにこの映画やドラマを見ていたせいだとか、音楽を聴いてだからだ、このゲームをやっていたからだと何かと作品のせいにしたがる。
そう騒いでるくせに規制が入ると最近のテレビはつまらなくなったと文句を垂れる。
本当に調子がいいよな。
ある作品に憧れて事件があったのも事実だが、事件を起こしたのはそいつ自身の問題だ。
手当たり次第に罪をなすり付け合いしても何も解決にはならない。


草尾化粧品は案の定倒産。
社長は甥のパワハラ問題についても糾弾されるハメになった。
それでどこかに逃亡。
行方不明となった。
甥も殺されて会社が倒産するのも一見気の毒に見えるが、実は会社の金を横領していたらしい。
甥には好き放題やらせて自分も会社の金で甘い蜜を吸う。
明るみにならなかったらずっとこのままだっただろう。
それで逃走するなんて自分勝手な奴だ。
まあこれから明るい人生は送れないだろうがな。

他の従業員は失業保険をもらいながら、なんとか職を探しているようだが、履歴書に草尾化粧品が入っているだけで落とされるような状態らしい。
これから職を探すのは困難だろう。
そいつらには何も罪はないんだがな。
企業も自社の名前を守るためなら時には非情になるものだ。



日東の親はもう80歳を超えるっていうのに批判を受け続けている。
息子が草尾にやったように、家には23になる計算式の落書きで埋め尽くされた。
もちろん落書き犯の捜査はしているが、それを見てる奴らは「誰がやったが知らないけど良くやった！」だとさ。
テレビもまるで珍百景のように報道するから余計に面白がられている。
日東の親は残り少ない人生を息子やそれを面白がる人間に台無しにされたのだ。


大鷲の両親は首を吊った。
警官になった息子が猟奇殺人を撮影、証拠隠滅までしていてショックだったんだろう。
それともここから先、生きていても叩かれ続けると思ったのか……。
他の加害者家族達の状況を見るに地獄のような日々を過ごすのは間違いなかっただろう。
死ぬことが正しい選択だったとは言えないがな……。


豪元武は…………。









あれから数日後に死んだ。
自分のことを見透かされたように小田沙和子に諭され、家族や友人を見捨てたショックから飲み食いもせずに家にこもっていたそうだ。

奥さんも同じ状態だった。
犯されたことや旦那の裏の一面を知ってショックだったんだろう。
息子は何度か両親に話しかけたらしいが、ずっと沈黙状態。
冷蔵庫から適当に飲み食いしていたそうだ。

そして豪元武は一言妻に
「殺してくれ。」と……。
5歳の息子がいる前で……。
それを受け入れた奥さんは豪元武を包丁で刺し殺し、警察に出頭した。
息子は今、親戚で預かれないか話し合いが行われているらしいが……。
引き取ってくれるところがあるだろうか？
時には血縁関係であろうと相手が幼かろうと見捨てることがある。
皆、自分が可愛いからな。


結局この事件は小田夫婦と小田沙和子の自己満足で多くの悲劇をもたらした。

小田沙和子について調べたが、周りには区役所で働いていると言いつつ、実は親の仕送りや時々バイトして東京に住んでいた

それで兄の動向を自由に探っていた。
時には名前や職業を偽って、ターゲットの周りで情報を集めていた。
老人の家にあったレコードプレーヤーもそれで知ったんだろう。

奴の部屋には元々木原魚月に渡すはずだったディスクと小田夫婦のディスク、そしてもう一枚あった。
それはスタッフクレジットだった。

スタッフクレジットには……。



　　　　　　　　キャスト

ノータリンの結婚式

赤の花嫁 大沢 綾葉
白の花婿 里部 翔馬
神父       三重 二郎丸


～運命～最終楽章

作曲家    木原 美喜男
運命の輪 木原 魚月(特別出演)


開かずの番人

番人       佐藤 学
番人の主 大神 心


自己陶酔型の狂数学者

数学者  草尾 晃香
助手     日東 潮


scp-544-jp-ex(非公式)  蠱毒な放送室

本人役   小田 友和  
本人役　小田 沙和子
本人役   小田 和虎
本人役    小田 友三
             

                         監督・脚本
                         Asmodeus




5番目の事件の蠱毒な放送室の部分は答えに繋がるから紙には明記しなかったんだろう。
ふざけてやがる。

最後は監督挨拶だとかで小田沙和子がトチ狂ったこと言ってたな。
みんな楽しかった？とかお兄ちゃんのために撮った映画だとか。
とことこん頭の中が狂ってやがった。



それにしても………。

色欲の悪魔アスモデウスを名乗り、映画を作った小田沙和子。
調べてみるとアスモデウスは嫉妬や色欲を操る復讐と破壊の悪魔とあった。
人を操り、兄の復讐のために犯行を繰り返したこいつにはぴったりだ。

虫を暴食して呪いとなった小田夫婦。
実際にベルゼブブは争いを起こさせたり、殺人を行わせる悪魔らしい。
この2人は娘のように何も手を下していない。
そうなるように仕組んだだけだ。
こいつらもこの悪魔に当てはまってると言える。


他には……。

金の力で解決しようとし、他業種も乗っ取ろうとしていた強欲な三重二郎丸。

嫉妬から夫を殺害し、自殺した木原魚月。

元カレのリベンジポルノの怒りから殺人を犯した大神心。

楽して大企業に入ろうとした日東。

そして……。

自分の女だからと思い上がって協力し、上から目線で殺人現場を撮影していた大鷲。

それぞれが7つの大罪に当てはまるのは、何かの偶然か？
小田沙和子がそこまで考えてやったことなのか？

そして自分の名前と10～6までの数字を示した事件。
数字は続編とやらを作るため……。

兄を守るためにこんな凝ったことを考えるとは発想が恐ろしすぎる。
こんなにぞっとしたのは初めてかもしれない。


小田友和は………。
何をしているかは分からん。
謹慎中思うところがある。
俺が大鷲のことにもっと早く気づいていればと。
あいつは俺に情報が流れないように工作してやがった。
大した情報も持ってこない役立たずとしか見ていなかったのが、裏目にでた。
今更後悔しても遅いが……。

小田友和にイラついていたのは、昔の俺を見ているように感じたからだ。
人を信用しすぎた結果悲惨な末路を送る。
俺はそれを知っていた。
人を信用しすぎて病んだ甘ちゃんだと思ったんだ。
だが、小田友和は……。

家族が全員狂っていた。
行き過ぎた家族愛を知ってしまい、これからどうするんだ？
この残酷な世界に抗って生きていくのか？
それとも………。
考えたくはないがな。


俺は机の中から1枚の写真を取り出した。
この時の俺は明るい顔をしていたな……。

家族か…………。