63 / 71
第62幕 真相
しおりを挟む
振り向いた顔。
見ただけで大谷幸代子じゃないことがわかった。
俺の………。
知っている顔だった。
「なん……で。」
三重がまた足を掴もうとする。
そしてまた腹を蹴り飛ばされた。
何度も。
自分が綾葉にやったように。
「なんでなんでなんでなんでなんで……。」
「うるさいんだよ!」
「抱かせてやったからって気安く触んな!」
もうわけがわからない状態だ。
武の奥さんは涙を流しながら膠着状態。
武の子供は椅子に縛られまま呆然としている。
涙の跡があるからずっと泣いていたんだろう。
俺と武はあまりにも信じられない光景に目を疑うばかりだった。
「ね?」
再び俺らの方を向く。
「大丈夫?」
「お兄ちゃん!」
「沙和子………。」
「なんでお前が……。」
「うん?」
「なんでって当然のことしてんだけど……。」
「このデブから守ろうと思って!」
再び三重を蹴り飛ばす。
「守るだって……?」
「人を刺したんだぞ?」
「それに映画が撮れるとか抱かれたとかどういうことなんだよ!」
意味がわからない。
なんで沙和子が三重と……。
「え~と~。それは~………」
沙和子が何か話そうとしたその時
'ガタ'
後ろから何かを置くような音がした。
そしてとてつもない勢いでそいつは沙和子に掴みかかる。
「どういうことだ?さわ。」
「この豚と寝たって?」
「しょうがないじゃ~ん。」
「そうでもしないとちゃんと演じてくれなさそうだし………いわゆる枕営業ってやつ?」
「昔はあったみたいじゃん?」
「女優が監督とヤッて仕事とるみたいな?」
「あ?でも今回のは逆か……。」
「あはははははは………。」
「笑い事じゃない!」
「お前は俺の女だ!」
「お前のために色々やってやったのにふざけたことを……。」
「は~~。」
「言ったよね?」
「私はお兄ちゃんを守りたいって。」
「そのために必要なことをしただけ。」
「ふざけるな!俺もさわのためにお義兄さんが犯人にならないように守ってきたんだ!」
「迷宮入り事件にしたいというから証拠も消して情報も流れないようにしてやったと言うのに……。」
「やってやった?してやった?」
「ほんとに上から目線だよね~。」
「自分だって楽しそうに撮影してたくせに……。」
「今まで鳥が動物を食べてる写真や動画ばかり撮って、それをネットにも上げてたよね?」
「でもそれだけじゃ物足りなくなってきてたんだって言ってたじゃん!」
「ぐ……それは。」
「は~~。しかもいつ私達付き合うってことになってたの?」
「確かに撮ってる写真いいなって思ってメッセージ送って知り合ったけどさ………。」
「ヤッただけで付き合うって話あったっけ?」
「まさか自分が愛されてたと思うの?」
「私が本当に愛してるのはお兄ちゃんだけなんだけど……。」
「この……。」
そいつは沙和子の肩から手を離して、スーツから何かを取り出そうとしたが
「まさか………。お前………。」
沙和子はそいつをナイフで刺した。
心臓があるところに深く差し込んで捻り込んでいる。
大鷲が血を流しながら倒れた。
まさかこいつも事件に関わっていたなんて……。
証拠や情報もなかったのは全て大鷲の仕業だったのか……。
「探しものはこれかな~?」
沙和子が何かを取り出した。
それは拳銃だった。
大鷲が気づかないうちに盗られて、撃とうとしたが取り出せなかったみたいだ。
「ほんとにみっともないよね~。」
「過去に鑑識経験があるから使えるって思ったのに………。」
「もういいや。」
「いくら車の中でキスされたからって何盗られてんの?」
「警察失格?」
「あっ!今更か?」
「ははははははははははははほははは。」
武がそれを見て少し後ろへ下がった。
すごい汗だ。
友達の妹が目の前で……。
元クラスメイトや警察をナイフで刺して銃を持っている。
信じたくない光景だった。
「沙和子………?」
「うん?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「……もしかして全てお前が考えたことなのか?」
「そう!」
「私が監督を務めたアスモデウスだよ!」
「なんで……」
「なんでこんなことを……。」
「お兄ちゃんの害になるやつのゴミ掃除!」
「あと映画好きのお兄ちゃんのために面白い映画を作ったの!」
「私が作ったオムニバス作品。」
「Splatter Museum!」
「略してSMだよ!」
「わかりやすいでしょ?」
三重のディスクにあった動画のタイトルだ。
沙和子は笑いながら話をしているが、訳がわからない。
ゴミ掃除?
映画撮影?
言ってることがめちゃくちゃだ。
妹がこんなことを……。
「沙和子……。」
「俺のためにやってくれたみたいだけど…。」
「何人殺したと思っているんだ!」
「しかも父さんや母さんまで……。」
大声を出してしまい、刺された傷が少し痛む。
「殺してないよ!」
沙和子が笑顔で答える。
「は?」
「何言ってんだよ!」
「あんな死体を弄ぶような真似をして……。」
「そう!弄びはした。」
「弄びはした?」
「うん。」
「殺しはしてないよ。」
「今しちゃったけど。」
「うーーん。」
「順々に話した方がいいかなー?」
「そ・の・ま・え・に」
「止血しないと。」
沙和子が周りを見渡す。
「武さん、救急箱はどこですかー?」
「出してくれると助かるんですけどー。」
「でも妙な真似はしないでくださいね。」
沙和子が手に持った銃をちらつかせる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
武がそっと動いて棚の中にある救急箱を取り出した。
「とも。見せてみろ。」
俺は刺されたところを見せた
「よかった…。そこまで深く刺さってないみたいだな。」
「消毒してこれで腹を抑えとけ。」
すごく痛い。
今までの傷とは比べものにならないぐらいにしみる。
俺は武からもらったタオルで腹を抑えた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「無理そうだったら今度話すけど……。」
「今でいい……。」
今度ってどういうことだ?
ここから今までの生活に戻れると思っているのか?
手でOKマークを作りながら
「おけ!」
と明るく言った。
「まずはノータリンの結婚式だね。」
「まあわかってると思うけど2人を殺したのはこのデブ。」
また三重を蹴り飛ばした。
もうピクリとも動かない。
「あの腐れビッチを殺すのにこいつが適任かなって思ったの!」
「でもムカつくことにこのデブは!」
また蹴り飛ばす。
「お兄ちゃんのことをよく思ってないみたいだし、妹って名乗ったら協力しなさそうって思ったの。」
「だからお兄ちゃんの卒業アルバムで1番地味そうなやつの名前を適当に名乗ったら信じたってわけ。」
「大谷って人、同窓会とかにも出てなかったみたいだし。」
「びっくりしたよ。可愛くなったなとか言ってさ。別人が名乗ってることも気づかない。」
「笑えるよね~。」
「まあヤらせろってうるさいからしたけど…。」
「…………。」
俺も武も言葉が出ない。
「そ・れ・で。」
「結婚式の神父を演じてくれたわけ。」
「資金とか裏で道具も提供してくれてさー。」
「神父役兼パトロンって感じかな~。」
「木原は……。」
「ん?」
「木原は誰が殺したって言うんだ?」
「誰だと思う~~?」
「沙和子!」
「ふざけないでくれ……。」
「ふざけてなんかないよ~。」
「お兄ちゃん、私にパズルクイズとか小さい頃やってくれたじゃん?」
「今回は私がクイズを出す方!」
「…………。」
「難しいかな……。」
「じゃあヒントをあげる!」
「作曲家が死ぬ運命を指し示したのは誰でしょう?」
「……………。」
俺は考えた。
運命を指し示したのは……。
運命の輪……。
その運命の輪になっていたのは……。
「まさか………。」
「木原の奥さん……。」
「ピンポーン正解!」
「流石お兄ちゃん!」
「おもしろい映像を見せるよ!」
沙和子が携帯を取り出し、見せてきた。
「少し小さいと思うけど我慢してね。」
少し遠いが、木原の背中が見える。
どこかの部屋に隠れて、後ろから撮ったもののようだ。
「おい!魚月いないのか?」
「みっくん………。」
「魚月!どうしたんだ?」
「……………。」
「おいおい。どうした?」
「まだ夕方だぞ?」
木原に抱きついたようだった。
「仕方ねぇな。飯の前だが…………。」
「なっ……。」
グチャグチャと音が鳴ってる。
木原を何度も刺しているようだった。
「みっくん。」
「私ね、みっくんとの子供ができたの。」
「でも………。」
「なんで……。」
「なんで……。」
「なんで……。」
「クラブ行って……。」
「キャバクラ行って……。」
「なんで毎回別の人とセックスしてるの?」
木原が倒れた。
奥さんは木原の上に乗って腹を刺し続ける。
「みっくんはパパになるのに………私の旦那様なのに。」
ずっと腹を刺し続けている。
「みっくん答えてよ……。」
「ねぇみっくん。」
「必ず幸せにするからって言ったじゃん。」
「なんで嘘付くの?」
「私を捨てようとしてるの?」
「ねぇみっくん。」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ……」
何回も何回も刺し続けている。
少しして刺すのをやめて木原の顔を見つめる。
そして
「みっくん……。」
「これでずっと一緒だね……。」
「私も……この子も。」
そう言って木原の奥さんは自分の喉を刺して倒れた。
「木原は奥さんに殺されて奥さんは自殺だった………。」
「そう!」
「本当は奥さんは死ぬ予定じゃなかったんだけどねー。」
「思いが強すぎたみたい。」
「なんで奥さんが……。」
「私がキャバやクラブ、ラブホに出入りするところとかの写真を見せたから。」
「そんなことを……。」
「それで後押ししてあげたの!」
「私達がついてるから大丈夫。」
「あとのことは私達に任せてってね。」
「予定通り殺してくれるとこまでよかったんだけど~。」
「自殺しちゃって……。」
「どうしようかな?って思ったの……。」
「元々運命の輪はタイヤだけの予定だったからさ……。」
「それで閃いたの!」
「いっそのことこの人を運命の輪にしてみたの!」
「私って天才!」
「天才ってお前……。」
狂ってる。
解体しようと思ったのはその場で決めたってことだろ。
そんな簡単に人をバラバラにしようなんて……。
「次は開かずの番人だけど……。」
俺は心当たりがあった。
「大神………じゃないのか?」
「そう!あったりー!」
「付き合って頃に叩かれたって聞いてたから……。」
「そう!でもそれだけじゃないんだ~?」
沙和子が携帯で何かを検索して俺らに見せる。
海外のAVサイトのようだ。
制服を着ている2人がセックスをしている…。
男の顔はモザイクがかけられていた。
この場所とこのアングルは……。
あの倉庫の扉の上から撮ったように見える。
それに女の子は………。
大神じゃないか……。
「なんであのゲスがやったことを誰も話さなかったと思う?」
「動画で脅されてたから……。」
「そう!」
「元カノ達は気づいてなかったようだけど、こうやって動画上げてたみたいだね~。」
「しかもユーザー名がStudyで動画タイトルが倉庫 De Fuckとかダサくない?」
「ネーミングセンスなさすぎ!」
「しかもvol.10まで出てんの!」
沙和子が笑っている。
学は……。
10人の女性を晒し者にしてたのか……。
武は下を向きながら黙っている。
今まで学の本性が明らかになったが、リベンジポルノまでしていたことを知って、ショックを受けてるようだった。
「それを見せたのか?」
「うん。すっごい顔してたよ。」
「殺してやるってね。」
「そして倉庫近くまで久しぶりにどうって感じで誘惑して、頭を叩き割って去っていったって感じかな。」
「あそこも潰すとは思わなかったけど……。」
「女って怖いよねーー。」
「………。」
俺はそれより目の前にいる妹が怖かった。
人を殺人へと誘導してその死体をバラバラにしたり、粉々にしたり……。
そんなことを平然と行い、話すことができるなんて信じられなかった。
「まあ次は分かってると思うから先言っちゃうけど、あの部長さん。」
「臭いの殺しせば、会社の評判はどん底になる。」
「デブが新事業を考えてることや仲良いことも知ってたから、楽して再就職出来るかもって言ったら目を輝かせてたよ。」
「憎いやつ殺して、自分は大企業で働ける。」
「一石二鳥だよって!」
部長はそんなことであんな酷い殺し方をしたのか……。
「それにしてもすごいよ。あの人。」
「切ったお腹から腸を取り出して首絞めたんだから。」
「本当にできるとは思わなかった。」
「計算式や年号も手伝ってくれたよ。」
「父さんと母さんは?」
「…………。」
「父さんと母さんに殺される理由はないだろ!」
そう。
あの2人は他の人から恨まれるようなことはしていない。
ほかの被害者達とは違う。
「…………。」
「違うよ……。お兄ちゃん。」
「何が違うんだ?」
「2人は…………殺し合ったんだよ。」
「は?」
「何馬鹿のことを言ってんだ!」
「本当だよ………。」
沙和子が涙を流した。
何粒もぽろぽろと。
「お父さんは末期がんだったんだよ。」
「心臓の。」
「余命わずかだった……。」
「な、末期がん?」
「そんなこと………。」
「俺には一言も……。」
「心配かけたくなかったんだよ。」
「お兄ちゃんに……。」
「だから私が4つ目の作品を完成させたら、自分達が最後を飾るって……。」
「おい!言ってる意味がわからないぞ!」
「2人は沙和子のことを知ってたのか?」
「そうだよ。」
「…………。」
俺は言葉を失った。
2人も関わっていたなんて…。
信じられなかった……。
「私が生まれた理由はね………。」
「お兄ちゃんを守るためだったの!」
「俺を守るため?」
「お兄ちゃんは体が弱くて優しいから誰かにつけこまれたり、大変な目に合うんじゃないかって心配してたの。」
「特にお父さんは自分のように人から裏切られるようになってほしくないって思ってたの。」
「でも先に自分達は死んでしまう。」
「それで私を産むことにした。」
「…………。」
「私が大きくなるまではお父さん達がお兄ちゃんを守ってたの。」
「守る?」
「確かに2人は大事に育ててくれた……。」
「でもこんなことは今まで無かった!」
「………。」
「小学校の時の体罰教師を覚えてる?」
「体罰教師……。」
「女子生徒のパンツの写真を所持して捕まった人のことか?」
「そう!」
「高校のときの二股女は?」
「他にも男が何人もいることがバレて、その複数人から強姦されて精神病院で入院……。」
「その後自殺した……。」
「乗り換え女は?」
「その子の父親が不倫をしていて、発狂した母親によって一家心中……。」
「自分が答案用紙を無くしたくせに、お兄ちゃんのせいにして単位落とした大学の教授は?」
「未成年売春で捕まった。」
「まさか……。」
「全部父さん達が関わっていた……?」
「その人たちのことを調べて流したのか?」
信じられない。
信じたくない。
その時は偶然のことだと思っていた。
稀だが、時々こういう事件は起きている。
公務員のセクハラ、集団での強姦事件、未成年売春……。
自分の周りで偶然起きたことだと思っていた。
父さん達が……引き金だったなんて。
「そう!主に動いてたのがお父さんかな?」
「お母さんはサポートって感じ。」
「そいつらのことを調べあげて匿名で暴露したり、偶然を装って教えて後押ししてね。」
「お兄ちゃんを守るために動いてくれてたの!」
「そんな……。」
「全部俺のために……。」
「うん!」
「私も他の人から情報収集したりしてお父さんに教えてたってこともあったよ。」
「その力がここで役に立ててよかったよ!」
「そうか……。」
「前から沙和子も関わっていたのか……。」
「うん!」
「実はね、お兄ちゃんのことは東京に来てからずっと見守ってたの。」
「お兄ちゃんを苦しめるやつがいないかを……。」
「それで色々とわかったの。」
「みんなお兄ちゃんを苦しめる奴らばかり。」
「外面だけ取り繕ってる奴もいる。」
「だから私はそいつらに見合う舞台を用意したの!」
「ちょっと待てよ!」
「だからってなんで父さんと母さんは殺し合ったんだ?」
「おかしいだろ……。」
「全然……おかしくないよ。」
沙和子が再び涙を流した。
沙和子が流す涙は本物だ。
あの遊園地のときだって……。
あの涙は演技じゃなかった……。
「2人は愛し合っていたんだよ……。」
「お母さんはお父さんが死ぬなら私もって。」
「私も一緒に死んで呪いになってでもお兄ちゃんを見守ろうって……。」
「俺は………。」
「そこまで……。」
そこまでしてほしくなかったと言おうとしたが、言葉が出なかった。
どんな形でも俺を守ろうとした2人のことを否定してしまうからだ。
「お母さん……ほんとに優しい人だよね。」
「最後は2人向き合って同時にお互いの首にナイフを刺して寄り添って眠ったよ。」
「だから私は2人のために最高の舞台を用意したの!」
「2人が昔お兄ちゃんと一緒に行ったっていう遊園地で!」
「どうだった?」
「お父さんとお母さんの晴れ舞台は?」
「………。」
「もう落ち込むことないんだよ。」
「2人のことは寂しいけど、お兄ちゃんを苦しめる奴らはみんな消えた。」
「だからなんでウジウジしてるのって思ってたの。」
「もうあんな奴らのことは忘れて、昔のように純粋で優しいお兄ちゃんに戻ってもいいんだよ!」
「俺は優しくない……。」
「ただ甘いだけだ。」
「人にも自分にも………甘いから裏切られてきただけだ。」
「全部……全部俺のせいだ。」
「お兄ちゃんは悪くないよ!」
「そうだぜ、とも!」
「お前は何も悪くねぇ!」
ずっと静かに話を聞いていた武が口を開いた。
沙和子が武に銃を向ける
「今は私とお兄ちゃんが話をしてるの。」
「邪魔しないでくれる?」
武の顔が青ざめる。
そして沙和子は話を続けた。
「悪いのは裏切ったほうだよ!」
「でも……この世界では人の心を傷つけた人は裁くことはできない。」
「嘘、裏切り、浮気、中傷、パワハラ、モラハラ……。」
「法に触れてなければ傷つけた側がいい思いをして高みの見物。」
「傷つけられた側は心を病んでそれを背負い続ける。」
「もし法に触れても民事で賠償金を払うだけ。」
「お金さえあればなんだって許されちゃう。」
「お金で人の心は癒えない。」
「そんなの不平等だと思うでしょ?」
「だから……。」
「消しちゃったほうが早くない?」
「だからって……。」
「人を死に追いやるなんて…。」
「やっぱりお兄ちゃんって優しいんだね。」
「誰にだってそう。」
「昔、私のためにパズルクイズを作ってくれたよね?」
「あの時すごく嬉しかった!」
「覚えてる?」
「ごめん……。」
「覚えてない……。」
「ひどーい。」
「仕方ないなぁ…。」
「真ん中に3、5、7文字目はAで最後の9文字目はO」
「それ以外は空欄。」
「空欄は5つの問題の答えで埋めるようになってるの!」
「………。」
「第1問。お兄ちゃんの血液型は?」
「答えは二文字。」
「O型……。」
「ピンポーン!」
「第2問。決められた運命を英語にすると?」
「答えは7文字。」
「Fortuneか?」
運命の輪で武との会話に出たことだ。
「ぶぶー。運命って他にも意味があって、それは幸運や先が読めない未来のことをいうの。」
「確実に決められた運命はdestinyって使うの!」
「これが答え!」
「第3問。安全は英語で?」
「答えは4文字。」
「………。」
「ごめん。わかんない。」
「英語苦手だったもんね。」
「それでお父さんと私がよく教えてた!」
「答えはsafe。金庫って意味もあるんだよ。」
金庫……
safe……
そういえば学の事件で……。
「4問。パソコンのキーボードで2と3の下にあるアルファベットは?」
23エニグマのページで見たことがある。
もしかして……。
「W……か?」
「ピンポーン正解!」
「5問。壺の音読みをローマ字にすると?」
「答えは2文字だよ。」
大体わかってきてしまった……。
これは……。
「ko………だ。」
「それで……埋めていくと小田沙和子になるんだろ?」
「問題の答えが漢字の1文字目になる……。」
「そう!思い出してくれた?」
「さわが英語教えてくれたから出来た問題だよって頭撫でてくれたよね?」
そうか……。
そういうことか……。
「もしかして今回の事件もこれが元になっているんだろ?」
「うん!確かにお兄ちゃんの言ってた10から数字が下っていくのも当たってるの。」
「また何かあった時のために続編が作れるようにね!」
「続編って………。」
「また何かあったとき同じようなことをしようと思ってたのか?」
「次は5から下がっていくように。」
「うん!」
「そうだよ!」
「三重の名前は?」
「あれはなんだったんだ?」
「あいつの名前数字ぽいから、それを足したり引いたりして指し示すようにしたちょっとした引っかけかな?」
「後付けだけど、こういうのあったほうが面白いと思って!」
「でもちゃんとお兄ちゃんだけの隠されたメッセージを用意してるんだ!」
「メッセージ?」
「うん?」
「ノータリンの結婚式で共通してるのは1つだけってあるけど……。」
「あれは誓いのキスのことを言ってるんじゃないの。」
「キスしてるけど、バツ印がついて花婿の血が口移しされていたでしょ。」
「血が足りない花嫁に別の血液型の花婿が血を与えて……。」
「共通したのは血液型のO型。」
それでわざわざ血を抜いて分けたのか……。
「次の運命 最終楽章は答えがシンプルなんだ。」
俺が……考えすぎていた。
矢印が指し示した文字が答えだったんだ。
答えは……。
「運命の輪が指し示していた文字。」
「die and go to hell。」
「これが答え。」
「次はもっと簡単!信用できるのはひとつだけってあったでしょ?」
そう……。
学は金庫にいた。
主人に見捨てられて信用できるもの……。
「金庫だろ?」
「あったりー!」
「金庫の裏側には英語でsafeの文字があったでしょ?」
「ここなら安全っていう意味も込められてるの!」
「それが答え。」
答えは既に書かれていたのか………。
「次は少し難しくしすぎたかな?」
「お兄ちゃんはエドワードゴーリーって人知ってる?」
「知ってる。絵本作家だろ?」
「アルファベット順にその名前の子供が死んでいく絵本がある……。」
「そう!」
「あの物語にさむいさむい氷の中でっていう文章があったでしょ?」
「………。」
「その絵本では氷の中にいたのはウィリーって子。」
「数学者は23番目のアルファベットの名前をもつウィリーを探してたの。」
「答えはW!」
「次もほとんど答えが出てるの!」
「蠱毒って虫を戦わせる行為っていう意味じゃなくて……。」
「最後に残った一匹を呪いとして使うことなの!」
「だから答えはベルゼブブを示してるんじゃなくて蠱毒のことを示してるんだよ。」
「2人の首に英語でKodokuってあったでしょ?」
「蠱毒は英語ではローマ字読みでkodokuになるの。」
「その頭文字をとって小田沙和子の名前が隠されてたのか……。」
「すごいでしょ~。」
「1年以上すっごい考えたんだから……。」
「みんなを共犯にしてか……?」
「共犯っていうならその刑事だけかな……。」
「カメラマン兼アシスタントって感じで。」
「殺した側は1つの物語だけ演じただけで、それ以外は関わってないよ!」
「じゃあ自分が殺した以外の事件は何も知らなかったっていうのか?」
「そうだよ!」
「裏で私がいるんじゃないかって思ってたぐらいかな?」
「先輩は家に行ったときなんか言いたそうだったんだよね……。」
「なんでもないで終わったけど…。」
大神は……。
罪の意識があったのかもしれない。
沙和子を止めようとした。
でも自分も人殺しだから何も言えなかった……。
「思えばあのビッチが始まりだったな~。」
「綾葉が?」
「うん。」
「ご飯に行ったとき聞いたことはブランド物のことだけじゃないの。」
「例えば……あのゲスチン野郎とヤッてることとか?」
学のことか……。
「本人は高校のときって焦って誤魔化してたけどバレバレなんだよねー。」
「嘘吐きすぎて自分の頭でも整理ついてないんじゃない?」
俺は……。
気づけなかったんじゃない。
気づく機会はいくらでもあった。
ただ……。
認めたくなかったのかもしれない……。
「それでビッチと昔は仲良くて、ゲスの元カノの先輩と話をしたの。」
「昔暴力振るわれていたことやキャバクラのこと、ビッチに恨み持ってそうなやつのことをね。」
「それで三重に繋がったのか?」
「うん。」
「その時デブから聞いたの。実はあいつ、サイトにハメ撮り載せてたんだぜって。」
「こいつもキモいよね~。」
「同級生のハメ撮りなんか見て…。」
おかしいと思った……。
何故沙和子がこんなサイトに辿り着いた理由が……。
「あとはお母さん経由で部長さんにあったの。」
「自分とお兄ちゃんが会社で酷い目に遭ってる話。」
「あのゴリラは外面は良く見せてたけど、お兄ちゃんがいない間、陥れるような陰口ばっかり言ってたらしいしね。」
「実際あの女とヤッてるし……。」
木原は以前から俺の陰口を言ってたのか……。
「それでゴリラの奥さんが図書館で働いてることを知って近づいたの!」
これで全て繋がった……。
「お前はそうやって情報を集めてたのか……。」
「うん!」
「でもね。それだけじゃないんだ!」
沙和子が銃を構え
「ね?」
「武さん?」
武に向けた。
「お、俺は……。」
武が一歩下がる。
「あのビッチさ、虚言あるくせにベラベラ喋るんだよね。」
「高校の時には経験人数30人はいたとか。」
「後ろも卒業してるとかね。」
「そんなキモいこと自慢されても困るんだけどね。」
「そ、それが俺とどう関係がある?」
武の額から汗を流しながら、チラチラと奥さんの方を見る。
「他に言ってたのは……。」
「バンドメンバーとは全員ヤッたって……。」
俺は武の方を向いた。
武も………。
そうだったのか?
「まあ武さんは高校卒業後音信不通だったから、彼女持ちに手を出したゲスとは違うけど……。」
「た、確かに綾葉とは高校時代一度だけそうなった!」
「でも俺はともを裏切るようなことを一度もしてない!」
「うーーん。」
「実はね、私思ったことがあるの。」
「あくまで憶測になるけど……。」
「実はあのビッチもお兄ちゃんのことも…。」
「2人のこと好きだったんじゃない?」
好き?
どういうことだ?
「お、俺は……。」
武がたじろぐ。
「本当はその指は普通に動くんじゃない?」
「見てて思ったんだよね?」
「ノートをめくるときやビールを飲む時とか……。」
確かにそうだった……。
縫い跡はあるけど、居酒屋やDoDoのときも普通に動かしていた……。
「先輩から聞いたことがあったよ。」
「武さんは兄貴分で頼れるし、ルックスも良い。」
「でも彼女とかの話は聞かなかった…。」
確かにそうだった。
いつも音楽に夢中で俺らと常にいることが多かった。
「それとお兄ちゃんとあのビッチを見るときの目が他の人達とは違って見えたって。」
「そ、それは…………。」
武はなにか言おうとしているが、言葉が出ない様子だ。
「1人の男と1人の女を同時に愛してしまった…。」
「指のことを言い訳にして逃げたんじゃないの?」
武は黙ってる。
否定…………しないのか?
「でもあの女が死んで久々にお兄ちゃんに会えた。」
「1人死んでしまったけど、まだお兄ちゃんがいる。」
「だから尽くしてたんじゃないの?」
「過剰なまでにお兄ちゃんを気遣ってだよね?」
「武は友達で俺のためにやってくれただけだ!」
「そんな感情なんて……。」
「じゃあなんで奥さんや子供がいること言わなかったの?」
「それは……。」
武が言葉を詰まらせる。
それは俺もおかしいとは思ってた。
別に言っても困ることじゃない……。
なんで隠してたんだ?
「やましいことだから言わなかったんだよね?」
武は下を向いたまま黙っている。
「マスゴミがきたタイミングで武さんから連絡があった。」
「それもおかしくない?」
「………。」
俺は何も言い返せなかった……。
今思えばタイミングがおかしかった。
それにマスコミがどうやって住所を特定したのかを……。
「弱ってるところを助けに行く……。」
「全部自作自演ってわけ。」
「本当はお兄ちゃんと一緒にいたかっただけで、事件のことなんてどーでもよかったんでしょ?」
「そ、そんなことは……。」
「俺はただともの助けになりたくて……。」
「ふ~ん。」
「別に私は人のセクシャリティーを批判する醜い人間じゃないけど……。」
「まあ言いにくいことではあるよね。」
「あの女みたいにあたしは女でもヤレるとか、軽々しく口だけの自称バイはキモイって思うけど……。」
「あいつの場合はただの変態なだけ。」
「………。」
武は黙ったままだ。
俺は……。
なんて声をかけていいかわからない。
武が俺に恋愛感情があって、自分のものにしようと自作自演でマスコミに俺を売った……。
俺には理解出来なかった……。
好きな人を逆に貶めて自分がまるでヒーローになろうとした武の気持ちが……。
学や綾葉の時とは違う意味で心が悲しくなった。
「まあいいや!」
「マスゴミに売ったことはどうかと思うけど、一応お兄ちゃんを愛するもの同士だから許してあげる!」
「だからここはみんなで協力してこの場を乗り切ろう!」
「乗り切るって……?」
三重と大鷲はナイフで刺されて死んでいて、武の奥さんと子供は縛られてる
俺はナイフで刺されて血が出てる。
そんな状況で一体どうしようと…?
「うーん。」
「死亡推定時刻とかあるからな……。」
「デブが死んだ後に大鷲が死んだから……。」
沙和子が少しの間考えて
「そうだ!良いことを思いついた!」
と手を叩きながら言った。
「こんなシナリオはどう?」
「武さんに証拠を奪われたデブが、家族を人質にして脅迫するためにここへきた。」
「私達が辿り着いたときには、隙をついた奥さんがデブを殺害。」
「お兄ちゃんもとばっちりで刺されちゃって、大鷲は狂乱する奥さんから私達を守るために刺されて殺された。」
「私が大鷲に電話した履歴もあるし、指紋とかに関しては……。」
「まあなんとかなるでしょ。こいつでもできるんだし…。」
大鷲を蹴り飛ばした。
「……俺らがそれをすると思ってるのか?」
そんなこと……協力できるわけがない。
「うん!」
沙和子は当たり前かのように返事をする。
「ほんとはね、この事件は未解決のまま終わる予定だったんだよね。」
「証拠が出ないようにしてたのはそのためか?」
「そう!」
「それでお兄ちゃんは大企業に就職して先輩と結婚して、お金も貯めて好きだった音楽やパズルをしながら過ごすの!」
「お父さんとお母さんに見守られながら……。」
「これが私の夢!」
「そうか……。」
「じゃあこの事件は沙和子の名前を示してるだけじゃなくて、俺への理想も表してたのか……。」
結婚式…。
音楽…。
金庫は金…。
計算式のパズル…。
そして2人は呪いとなって俺を見守る。
「すごいでしょ~。」
「先輩も好きなのかな?っていう程度しか見てなかったんだけど、お兄ちゃんの写真撮るぐらい好きなんだよね。」
「きっと幸せになれるよ!」
それは幸せというのか……?
「部長さんにも促してたんだよね。」
「お兄ちゃんも一緒にって。」
それで部長は俺のことを推していたのか……。
「でもこのデブがあっさり証拠見つかるようなヘマするからさ~。」
「まあ武さんが持ってきた時点で私も開き直ったけど……」
「様子見に来たらお兄ちゃんのことを刺すし……。」
「私なんてディスク以外の証拠を見つけてきたのに……。」
「え?」
「大神も持ってたのか?」
「そう!記念としてね。」
「部長さんも持ってるよ!」
今回は偶然三重がバレただけ……。
みんな自分が殺した人の動画を持っていたのか……。
「やっぱりこいつ金以外使いものにならなかったな。」
三重を踏みつける。
「まあいいや。とりあえず後始末してお兄ちゃんを早く病院に連れて行かないと……。」
「後始末?」
始末ってなんだ?
「決まってるじゃん!」
「はい。武さん。」
武にナイフを渡す。
「こ、これをどうしろって言うんだ。」
急にナイフを渡され、手が震えてる。
「これで奥さんを殺すの。」
「な、何言ってんだ。」
「なんで俺が嫁を殺さなきゃ……。」
「何喋るかわかんないじゃん。」
「息子さんはまだ小さいから大丈夫だと思うけど……。」
沙和子は武の子供に近寄り、頭を撫でながら
「ねー。君は約束を守れるよね?」
武の息子は小さく頷いた。
「えらい。えらい。」
再び頭を撫でた。
「子供はいいよね。純粋だからさ。」
「でもその人は生かすと危ないから……。」
「武さんが止めようとしたところ、誤ってナイフが刺さったことにしよう!」
「な、なんで俺が……。」
「そっちの方がしっくりくるじゃん。」
「発狂した奥さんを旦那が止めようとした。」
「納得のいく説明になると思うけど……。」
「俺に……」
「そんなことは……。」
「また逃げるの?」
「好きな人から逃げて言い訳を繰り返して……。」
「奥さんとの結婚や子供を作ったのも逃げ口だったんじゃないの?」
「みんなのことを忘れるために。」
「………。」
「これでマスゴミの件は許してあげる。」
「お兄ちゃんも優しいからきっと許してくれるよ!」
「武さんの思いもきっと届くはず!」
そう言われた武は俺の方を向いた。
だが、俺は目を合わせられなかった。
武の気持ちには答えられない。
それに俺のことを売ったこともあり、複雑な気分だ。
「とも……」
武が呟いたような声を出す。
「うーん。」
「まあこれからまたやり直せばいいよ。」
「早く済ませちゃおう!」
沙和子が奥さんのところへ誘導しようとした。
だが、武は目が虚になって全てに絶望したような奥さんの顔を見て、後退りしながらナイフを落とした。
「何やってんの?」
「ちゃんと握ってなきゃだめじゃん。」
沙和子がナイフを拾う。
「やり直し……。」
「もう戻せないんだ。こんな状況で。」
「何もかも……。」
「おしまいだ………。」
「俺は……。」
「俺は……。」
「うわぁぁぁぁぁぁ。」
武が叫び出し、後ろを向いて走り出した。
沙和子は銃を向けて
「結局逃げるんだね。」
「まあ死んでからもずっと逃げてれば。」
と言い、逃げる武に向かって発砲した。
見ただけで大谷幸代子じゃないことがわかった。
俺の………。
知っている顔だった。
「なん……で。」
三重がまた足を掴もうとする。
そしてまた腹を蹴り飛ばされた。
何度も。
自分が綾葉にやったように。
「なんでなんでなんでなんでなんで……。」
「うるさいんだよ!」
「抱かせてやったからって気安く触んな!」
もうわけがわからない状態だ。
武の奥さんは涙を流しながら膠着状態。
武の子供は椅子に縛られまま呆然としている。
涙の跡があるからずっと泣いていたんだろう。
俺と武はあまりにも信じられない光景に目を疑うばかりだった。
「ね?」
再び俺らの方を向く。
「大丈夫?」
「お兄ちゃん!」
「沙和子………。」
「なんでお前が……。」
「うん?」
「なんでって当然のことしてんだけど……。」
「このデブから守ろうと思って!」
再び三重を蹴り飛ばす。
「守るだって……?」
「人を刺したんだぞ?」
「それに映画が撮れるとか抱かれたとかどういうことなんだよ!」
意味がわからない。
なんで沙和子が三重と……。
「え~と~。それは~………」
沙和子が何か話そうとしたその時
'ガタ'
後ろから何かを置くような音がした。
そしてとてつもない勢いでそいつは沙和子に掴みかかる。
「どういうことだ?さわ。」
「この豚と寝たって?」
「しょうがないじゃ~ん。」
「そうでもしないとちゃんと演じてくれなさそうだし………いわゆる枕営業ってやつ?」
「昔はあったみたいじゃん?」
「女優が監督とヤッて仕事とるみたいな?」
「あ?でも今回のは逆か……。」
「あはははははは………。」
「笑い事じゃない!」
「お前は俺の女だ!」
「お前のために色々やってやったのにふざけたことを……。」
「は~~。」
「言ったよね?」
「私はお兄ちゃんを守りたいって。」
「そのために必要なことをしただけ。」
「ふざけるな!俺もさわのためにお義兄さんが犯人にならないように守ってきたんだ!」
「迷宮入り事件にしたいというから証拠も消して情報も流れないようにしてやったと言うのに……。」
「やってやった?してやった?」
「ほんとに上から目線だよね~。」
「自分だって楽しそうに撮影してたくせに……。」
「今まで鳥が動物を食べてる写真や動画ばかり撮って、それをネットにも上げてたよね?」
「でもそれだけじゃ物足りなくなってきてたんだって言ってたじゃん!」
「ぐ……それは。」
「は~~。しかもいつ私達付き合うってことになってたの?」
「確かに撮ってる写真いいなって思ってメッセージ送って知り合ったけどさ………。」
「ヤッただけで付き合うって話あったっけ?」
「まさか自分が愛されてたと思うの?」
「私が本当に愛してるのはお兄ちゃんだけなんだけど……。」
「この……。」
そいつは沙和子の肩から手を離して、スーツから何かを取り出そうとしたが
「まさか………。お前………。」
沙和子はそいつをナイフで刺した。
心臓があるところに深く差し込んで捻り込んでいる。
大鷲が血を流しながら倒れた。
まさかこいつも事件に関わっていたなんて……。
証拠や情報もなかったのは全て大鷲の仕業だったのか……。
「探しものはこれかな~?」
沙和子が何かを取り出した。
それは拳銃だった。
大鷲が気づかないうちに盗られて、撃とうとしたが取り出せなかったみたいだ。
「ほんとにみっともないよね~。」
「過去に鑑識経験があるから使えるって思ったのに………。」
「もういいや。」
「いくら車の中でキスされたからって何盗られてんの?」
「警察失格?」
「あっ!今更か?」
「ははははははははははははほははは。」
武がそれを見て少し後ろへ下がった。
すごい汗だ。
友達の妹が目の前で……。
元クラスメイトや警察をナイフで刺して銃を持っている。
信じたくない光景だった。
「沙和子………?」
「うん?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「……もしかして全てお前が考えたことなのか?」
「そう!」
「私が監督を務めたアスモデウスだよ!」
「なんで……」
「なんでこんなことを……。」
「お兄ちゃんの害になるやつのゴミ掃除!」
「あと映画好きのお兄ちゃんのために面白い映画を作ったの!」
「私が作ったオムニバス作品。」
「Splatter Museum!」
「略してSMだよ!」
「わかりやすいでしょ?」
三重のディスクにあった動画のタイトルだ。
沙和子は笑いながら話をしているが、訳がわからない。
ゴミ掃除?
映画撮影?
言ってることがめちゃくちゃだ。
妹がこんなことを……。
「沙和子……。」
「俺のためにやってくれたみたいだけど…。」
「何人殺したと思っているんだ!」
「しかも父さんや母さんまで……。」
大声を出してしまい、刺された傷が少し痛む。
「殺してないよ!」
沙和子が笑顔で答える。
「は?」
「何言ってんだよ!」
「あんな死体を弄ぶような真似をして……。」
「そう!弄びはした。」
「弄びはした?」
「うん。」
「殺しはしてないよ。」
「今しちゃったけど。」
「うーーん。」
「順々に話した方がいいかなー?」
「そ・の・ま・え・に」
「止血しないと。」
沙和子が周りを見渡す。
「武さん、救急箱はどこですかー?」
「出してくれると助かるんですけどー。」
「でも妙な真似はしないでくださいね。」
沙和子が手に持った銃をちらつかせる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
武がそっと動いて棚の中にある救急箱を取り出した。
「とも。見せてみろ。」
俺は刺されたところを見せた
「よかった…。そこまで深く刺さってないみたいだな。」
「消毒してこれで腹を抑えとけ。」
すごく痛い。
今までの傷とは比べものにならないぐらいにしみる。
俺は武からもらったタオルで腹を抑えた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「無理そうだったら今度話すけど……。」
「今でいい……。」
今度ってどういうことだ?
ここから今までの生活に戻れると思っているのか?
手でOKマークを作りながら
「おけ!」
と明るく言った。
「まずはノータリンの結婚式だね。」
「まあわかってると思うけど2人を殺したのはこのデブ。」
また三重を蹴り飛ばした。
もうピクリとも動かない。
「あの腐れビッチを殺すのにこいつが適任かなって思ったの!」
「でもムカつくことにこのデブは!」
また蹴り飛ばす。
「お兄ちゃんのことをよく思ってないみたいだし、妹って名乗ったら協力しなさそうって思ったの。」
「だからお兄ちゃんの卒業アルバムで1番地味そうなやつの名前を適当に名乗ったら信じたってわけ。」
「大谷って人、同窓会とかにも出てなかったみたいだし。」
「びっくりしたよ。可愛くなったなとか言ってさ。別人が名乗ってることも気づかない。」
「笑えるよね~。」
「まあヤらせろってうるさいからしたけど…。」
「…………。」
俺も武も言葉が出ない。
「そ・れ・で。」
「結婚式の神父を演じてくれたわけ。」
「資金とか裏で道具も提供してくれてさー。」
「神父役兼パトロンって感じかな~。」
「木原は……。」
「ん?」
「木原は誰が殺したって言うんだ?」
「誰だと思う~~?」
「沙和子!」
「ふざけないでくれ……。」
「ふざけてなんかないよ~。」
「お兄ちゃん、私にパズルクイズとか小さい頃やってくれたじゃん?」
「今回は私がクイズを出す方!」
「…………。」
「難しいかな……。」
「じゃあヒントをあげる!」
「作曲家が死ぬ運命を指し示したのは誰でしょう?」
「……………。」
俺は考えた。
運命を指し示したのは……。
運命の輪……。
その運命の輪になっていたのは……。
「まさか………。」
「木原の奥さん……。」
「ピンポーン正解!」
「流石お兄ちゃん!」
「おもしろい映像を見せるよ!」
沙和子が携帯を取り出し、見せてきた。
「少し小さいと思うけど我慢してね。」
少し遠いが、木原の背中が見える。
どこかの部屋に隠れて、後ろから撮ったもののようだ。
「おい!魚月いないのか?」
「みっくん………。」
「魚月!どうしたんだ?」
「……………。」
「おいおい。どうした?」
「まだ夕方だぞ?」
木原に抱きついたようだった。
「仕方ねぇな。飯の前だが…………。」
「なっ……。」
グチャグチャと音が鳴ってる。
木原を何度も刺しているようだった。
「みっくん。」
「私ね、みっくんとの子供ができたの。」
「でも………。」
「なんで……。」
「なんで……。」
「なんで……。」
「クラブ行って……。」
「キャバクラ行って……。」
「なんで毎回別の人とセックスしてるの?」
木原が倒れた。
奥さんは木原の上に乗って腹を刺し続ける。
「みっくんはパパになるのに………私の旦那様なのに。」
ずっと腹を刺し続けている。
「みっくん答えてよ……。」
「ねぇみっくん。」
「必ず幸せにするからって言ったじゃん。」
「なんで嘘付くの?」
「私を捨てようとしてるの?」
「ねぇみっくん。」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ……」
何回も何回も刺し続けている。
少しして刺すのをやめて木原の顔を見つめる。
そして
「みっくん……。」
「これでずっと一緒だね……。」
「私も……この子も。」
そう言って木原の奥さんは自分の喉を刺して倒れた。
「木原は奥さんに殺されて奥さんは自殺だった………。」
「そう!」
「本当は奥さんは死ぬ予定じゃなかったんだけどねー。」
「思いが強すぎたみたい。」
「なんで奥さんが……。」
「私がキャバやクラブ、ラブホに出入りするところとかの写真を見せたから。」
「そんなことを……。」
「それで後押ししてあげたの!」
「私達がついてるから大丈夫。」
「あとのことは私達に任せてってね。」
「予定通り殺してくれるとこまでよかったんだけど~。」
「自殺しちゃって……。」
「どうしようかな?って思ったの……。」
「元々運命の輪はタイヤだけの予定だったからさ……。」
「それで閃いたの!」
「いっそのことこの人を運命の輪にしてみたの!」
「私って天才!」
「天才ってお前……。」
狂ってる。
解体しようと思ったのはその場で決めたってことだろ。
そんな簡単に人をバラバラにしようなんて……。
「次は開かずの番人だけど……。」
俺は心当たりがあった。
「大神………じゃないのか?」
「そう!あったりー!」
「付き合って頃に叩かれたって聞いてたから……。」
「そう!でもそれだけじゃないんだ~?」
沙和子が携帯で何かを検索して俺らに見せる。
海外のAVサイトのようだ。
制服を着ている2人がセックスをしている…。
男の顔はモザイクがかけられていた。
この場所とこのアングルは……。
あの倉庫の扉の上から撮ったように見える。
それに女の子は………。
大神じゃないか……。
「なんであのゲスがやったことを誰も話さなかったと思う?」
「動画で脅されてたから……。」
「そう!」
「元カノ達は気づいてなかったようだけど、こうやって動画上げてたみたいだね~。」
「しかもユーザー名がStudyで動画タイトルが倉庫 De Fuckとかダサくない?」
「ネーミングセンスなさすぎ!」
「しかもvol.10まで出てんの!」
沙和子が笑っている。
学は……。
10人の女性を晒し者にしてたのか……。
武は下を向きながら黙っている。
今まで学の本性が明らかになったが、リベンジポルノまでしていたことを知って、ショックを受けてるようだった。
「それを見せたのか?」
「うん。すっごい顔してたよ。」
「殺してやるってね。」
「そして倉庫近くまで久しぶりにどうって感じで誘惑して、頭を叩き割って去っていったって感じかな。」
「あそこも潰すとは思わなかったけど……。」
「女って怖いよねーー。」
「………。」
俺はそれより目の前にいる妹が怖かった。
人を殺人へと誘導してその死体をバラバラにしたり、粉々にしたり……。
そんなことを平然と行い、話すことができるなんて信じられなかった。
「まあ次は分かってると思うから先言っちゃうけど、あの部長さん。」
「臭いの殺しせば、会社の評判はどん底になる。」
「デブが新事業を考えてることや仲良いことも知ってたから、楽して再就職出来るかもって言ったら目を輝かせてたよ。」
「憎いやつ殺して、自分は大企業で働ける。」
「一石二鳥だよって!」
部長はそんなことであんな酷い殺し方をしたのか……。
「それにしてもすごいよ。あの人。」
「切ったお腹から腸を取り出して首絞めたんだから。」
「本当にできるとは思わなかった。」
「計算式や年号も手伝ってくれたよ。」
「父さんと母さんは?」
「…………。」
「父さんと母さんに殺される理由はないだろ!」
そう。
あの2人は他の人から恨まれるようなことはしていない。
ほかの被害者達とは違う。
「…………。」
「違うよ……。お兄ちゃん。」
「何が違うんだ?」
「2人は…………殺し合ったんだよ。」
「は?」
「何馬鹿のことを言ってんだ!」
「本当だよ………。」
沙和子が涙を流した。
何粒もぽろぽろと。
「お父さんは末期がんだったんだよ。」
「心臓の。」
「余命わずかだった……。」
「な、末期がん?」
「そんなこと………。」
「俺には一言も……。」
「心配かけたくなかったんだよ。」
「お兄ちゃんに……。」
「だから私が4つ目の作品を完成させたら、自分達が最後を飾るって……。」
「おい!言ってる意味がわからないぞ!」
「2人は沙和子のことを知ってたのか?」
「そうだよ。」
「…………。」
俺は言葉を失った。
2人も関わっていたなんて…。
信じられなかった……。
「私が生まれた理由はね………。」
「お兄ちゃんを守るためだったの!」
「俺を守るため?」
「お兄ちゃんは体が弱くて優しいから誰かにつけこまれたり、大変な目に合うんじゃないかって心配してたの。」
「特にお父さんは自分のように人から裏切られるようになってほしくないって思ってたの。」
「でも先に自分達は死んでしまう。」
「それで私を産むことにした。」
「…………。」
「私が大きくなるまではお父さん達がお兄ちゃんを守ってたの。」
「守る?」
「確かに2人は大事に育ててくれた……。」
「でもこんなことは今まで無かった!」
「………。」
「小学校の時の体罰教師を覚えてる?」
「体罰教師……。」
「女子生徒のパンツの写真を所持して捕まった人のことか?」
「そう!」
「高校のときの二股女は?」
「他にも男が何人もいることがバレて、その複数人から強姦されて精神病院で入院……。」
「その後自殺した……。」
「乗り換え女は?」
「その子の父親が不倫をしていて、発狂した母親によって一家心中……。」
「自分が答案用紙を無くしたくせに、お兄ちゃんのせいにして単位落とした大学の教授は?」
「未成年売春で捕まった。」
「まさか……。」
「全部父さん達が関わっていた……?」
「その人たちのことを調べて流したのか?」
信じられない。
信じたくない。
その時は偶然のことだと思っていた。
稀だが、時々こういう事件は起きている。
公務員のセクハラ、集団での強姦事件、未成年売春……。
自分の周りで偶然起きたことだと思っていた。
父さん達が……引き金だったなんて。
「そう!主に動いてたのがお父さんかな?」
「お母さんはサポートって感じ。」
「そいつらのことを調べあげて匿名で暴露したり、偶然を装って教えて後押ししてね。」
「お兄ちゃんを守るために動いてくれてたの!」
「そんな……。」
「全部俺のために……。」
「うん!」
「私も他の人から情報収集したりしてお父さんに教えてたってこともあったよ。」
「その力がここで役に立ててよかったよ!」
「そうか……。」
「前から沙和子も関わっていたのか……。」
「うん!」
「実はね、お兄ちゃんのことは東京に来てからずっと見守ってたの。」
「お兄ちゃんを苦しめるやつがいないかを……。」
「それで色々とわかったの。」
「みんなお兄ちゃんを苦しめる奴らばかり。」
「外面だけ取り繕ってる奴もいる。」
「だから私はそいつらに見合う舞台を用意したの!」
「ちょっと待てよ!」
「だからってなんで父さんと母さんは殺し合ったんだ?」
「おかしいだろ……。」
「全然……おかしくないよ。」
沙和子が再び涙を流した。
沙和子が流す涙は本物だ。
あの遊園地のときだって……。
あの涙は演技じゃなかった……。
「2人は愛し合っていたんだよ……。」
「お母さんはお父さんが死ぬなら私もって。」
「私も一緒に死んで呪いになってでもお兄ちゃんを見守ろうって……。」
「俺は………。」
「そこまで……。」
そこまでしてほしくなかったと言おうとしたが、言葉が出なかった。
どんな形でも俺を守ろうとした2人のことを否定してしまうからだ。
「お母さん……ほんとに優しい人だよね。」
「最後は2人向き合って同時にお互いの首にナイフを刺して寄り添って眠ったよ。」
「だから私は2人のために最高の舞台を用意したの!」
「2人が昔お兄ちゃんと一緒に行ったっていう遊園地で!」
「どうだった?」
「お父さんとお母さんの晴れ舞台は?」
「………。」
「もう落ち込むことないんだよ。」
「2人のことは寂しいけど、お兄ちゃんを苦しめる奴らはみんな消えた。」
「だからなんでウジウジしてるのって思ってたの。」
「もうあんな奴らのことは忘れて、昔のように純粋で優しいお兄ちゃんに戻ってもいいんだよ!」
「俺は優しくない……。」
「ただ甘いだけだ。」
「人にも自分にも………甘いから裏切られてきただけだ。」
「全部……全部俺のせいだ。」
「お兄ちゃんは悪くないよ!」
「そうだぜ、とも!」
「お前は何も悪くねぇ!」
ずっと静かに話を聞いていた武が口を開いた。
沙和子が武に銃を向ける
「今は私とお兄ちゃんが話をしてるの。」
「邪魔しないでくれる?」
武の顔が青ざめる。
そして沙和子は話を続けた。
「悪いのは裏切ったほうだよ!」
「でも……この世界では人の心を傷つけた人は裁くことはできない。」
「嘘、裏切り、浮気、中傷、パワハラ、モラハラ……。」
「法に触れてなければ傷つけた側がいい思いをして高みの見物。」
「傷つけられた側は心を病んでそれを背負い続ける。」
「もし法に触れても民事で賠償金を払うだけ。」
「お金さえあればなんだって許されちゃう。」
「お金で人の心は癒えない。」
「そんなの不平等だと思うでしょ?」
「だから……。」
「消しちゃったほうが早くない?」
「だからって……。」
「人を死に追いやるなんて…。」
「やっぱりお兄ちゃんって優しいんだね。」
「誰にだってそう。」
「昔、私のためにパズルクイズを作ってくれたよね?」
「あの時すごく嬉しかった!」
「覚えてる?」
「ごめん……。」
「覚えてない……。」
「ひどーい。」
「仕方ないなぁ…。」
「真ん中に3、5、7文字目はAで最後の9文字目はO」
「それ以外は空欄。」
「空欄は5つの問題の答えで埋めるようになってるの!」
「………。」
「第1問。お兄ちゃんの血液型は?」
「答えは二文字。」
「O型……。」
「ピンポーン!」
「第2問。決められた運命を英語にすると?」
「答えは7文字。」
「Fortuneか?」
運命の輪で武との会話に出たことだ。
「ぶぶー。運命って他にも意味があって、それは幸運や先が読めない未来のことをいうの。」
「確実に決められた運命はdestinyって使うの!」
「これが答え!」
「第3問。安全は英語で?」
「答えは4文字。」
「………。」
「ごめん。わかんない。」
「英語苦手だったもんね。」
「それでお父さんと私がよく教えてた!」
「答えはsafe。金庫って意味もあるんだよ。」
金庫……
safe……
そういえば学の事件で……。
「4問。パソコンのキーボードで2と3の下にあるアルファベットは?」
23エニグマのページで見たことがある。
もしかして……。
「W……か?」
「ピンポーン正解!」
「5問。壺の音読みをローマ字にすると?」
「答えは2文字だよ。」
大体わかってきてしまった……。
これは……。
「ko………だ。」
「それで……埋めていくと小田沙和子になるんだろ?」
「問題の答えが漢字の1文字目になる……。」
「そう!思い出してくれた?」
「さわが英語教えてくれたから出来た問題だよって頭撫でてくれたよね?」
そうか……。
そういうことか……。
「もしかして今回の事件もこれが元になっているんだろ?」
「うん!確かにお兄ちゃんの言ってた10から数字が下っていくのも当たってるの。」
「また何かあった時のために続編が作れるようにね!」
「続編って………。」
「また何かあったとき同じようなことをしようと思ってたのか?」
「次は5から下がっていくように。」
「うん!」
「そうだよ!」
「三重の名前は?」
「あれはなんだったんだ?」
「あいつの名前数字ぽいから、それを足したり引いたりして指し示すようにしたちょっとした引っかけかな?」
「後付けだけど、こういうのあったほうが面白いと思って!」
「でもちゃんとお兄ちゃんだけの隠されたメッセージを用意してるんだ!」
「メッセージ?」
「うん?」
「ノータリンの結婚式で共通してるのは1つだけってあるけど……。」
「あれは誓いのキスのことを言ってるんじゃないの。」
「キスしてるけど、バツ印がついて花婿の血が口移しされていたでしょ。」
「血が足りない花嫁に別の血液型の花婿が血を与えて……。」
「共通したのは血液型のO型。」
それでわざわざ血を抜いて分けたのか……。
「次の運命 最終楽章は答えがシンプルなんだ。」
俺が……考えすぎていた。
矢印が指し示した文字が答えだったんだ。
答えは……。
「運命の輪が指し示していた文字。」
「die and go to hell。」
「これが答え。」
「次はもっと簡単!信用できるのはひとつだけってあったでしょ?」
そう……。
学は金庫にいた。
主人に見捨てられて信用できるもの……。
「金庫だろ?」
「あったりー!」
「金庫の裏側には英語でsafeの文字があったでしょ?」
「ここなら安全っていう意味も込められてるの!」
「それが答え。」
答えは既に書かれていたのか………。
「次は少し難しくしすぎたかな?」
「お兄ちゃんはエドワードゴーリーって人知ってる?」
「知ってる。絵本作家だろ?」
「アルファベット順にその名前の子供が死んでいく絵本がある……。」
「そう!」
「あの物語にさむいさむい氷の中でっていう文章があったでしょ?」
「………。」
「その絵本では氷の中にいたのはウィリーって子。」
「数学者は23番目のアルファベットの名前をもつウィリーを探してたの。」
「答えはW!」
「次もほとんど答えが出てるの!」
「蠱毒って虫を戦わせる行為っていう意味じゃなくて……。」
「最後に残った一匹を呪いとして使うことなの!」
「だから答えはベルゼブブを示してるんじゃなくて蠱毒のことを示してるんだよ。」
「2人の首に英語でKodokuってあったでしょ?」
「蠱毒は英語ではローマ字読みでkodokuになるの。」
「その頭文字をとって小田沙和子の名前が隠されてたのか……。」
「すごいでしょ~。」
「1年以上すっごい考えたんだから……。」
「みんなを共犯にしてか……?」
「共犯っていうならその刑事だけかな……。」
「カメラマン兼アシスタントって感じで。」
「殺した側は1つの物語だけ演じただけで、それ以外は関わってないよ!」
「じゃあ自分が殺した以外の事件は何も知らなかったっていうのか?」
「そうだよ!」
「裏で私がいるんじゃないかって思ってたぐらいかな?」
「先輩は家に行ったときなんか言いたそうだったんだよね……。」
「なんでもないで終わったけど…。」
大神は……。
罪の意識があったのかもしれない。
沙和子を止めようとした。
でも自分も人殺しだから何も言えなかった……。
「思えばあのビッチが始まりだったな~。」
「綾葉が?」
「うん。」
「ご飯に行ったとき聞いたことはブランド物のことだけじゃないの。」
「例えば……あのゲスチン野郎とヤッてることとか?」
学のことか……。
「本人は高校のときって焦って誤魔化してたけどバレバレなんだよねー。」
「嘘吐きすぎて自分の頭でも整理ついてないんじゃない?」
俺は……。
気づけなかったんじゃない。
気づく機会はいくらでもあった。
ただ……。
認めたくなかったのかもしれない……。
「それでビッチと昔は仲良くて、ゲスの元カノの先輩と話をしたの。」
「昔暴力振るわれていたことやキャバクラのこと、ビッチに恨み持ってそうなやつのことをね。」
「それで三重に繋がったのか?」
「うん。」
「その時デブから聞いたの。実はあいつ、サイトにハメ撮り載せてたんだぜって。」
「こいつもキモいよね~。」
「同級生のハメ撮りなんか見て…。」
おかしいと思った……。
何故沙和子がこんなサイトに辿り着いた理由が……。
「あとはお母さん経由で部長さんにあったの。」
「自分とお兄ちゃんが会社で酷い目に遭ってる話。」
「あのゴリラは外面は良く見せてたけど、お兄ちゃんがいない間、陥れるような陰口ばっかり言ってたらしいしね。」
「実際あの女とヤッてるし……。」
木原は以前から俺の陰口を言ってたのか……。
「それでゴリラの奥さんが図書館で働いてることを知って近づいたの!」
これで全て繋がった……。
「お前はそうやって情報を集めてたのか……。」
「うん!」
「でもね。それだけじゃないんだ!」
沙和子が銃を構え
「ね?」
「武さん?」
武に向けた。
「お、俺は……。」
武が一歩下がる。
「あのビッチさ、虚言あるくせにベラベラ喋るんだよね。」
「高校の時には経験人数30人はいたとか。」
「後ろも卒業してるとかね。」
「そんなキモいこと自慢されても困るんだけどね。」
「そ、それが俺とどう関係がある?」
武の額から汗を流しながら、チラチラと奥さんの方を見る。
「他に言ってたのは……。」
「バンドメンバーとは全員ヤッたって……。」
俺は武の方を向いた。
武も………。
そうだったのか?
「まあ武さんは高校卒業後音信不通だったから、彼女持ちに手を出したゲスとは違うけど……。」
「た、確かに綾葉とは高校時代一度だけそうなった!」
「でも俺はともを裏切るようなことを一度もしてない!」
「うーーん。」
「実はね、私思ったことがあるの。」
「あくまで憶測になるけど……。」
「実はあのビッチもお兄ちゃんのことも…。」
「2人のこと好きだったんじゃない?」
好き?
どういうことだ?
「お、俺は……。」
武がたじろぐ。
「本当はその指は普通に動くんじゃない?」
「見てて思ったんだよね?」
「ノートをめくるときやビールを飲む時とか……。」
確かにそうだった……。
縫い跡はあるけど、居酒屋やDoDoのときも普通に動かしていた……。
「先輩から聞いたことがあったよ。」
「武さんは兄貴分で頼れるし、ルックスも良い。」
「でも彼女とかの話は聞かなかった…。」
確かにそうだった。
いつも音楽に夢中で俺らと常にいることが多かった。
「それとお兄ちゃんとあのビッチを見るときの目が他の人達とは違って見えたって。」
「そ、それは…………。」
武はなにか言おうとしているが、言葉が出ない様子だ。
「1人の男と1人の女を同時に愛してしまった…。」
「指のことを言い訳にして逃げたんじゃないの?」
武は黙ってる。
否定…………しないのか?
「でもあの女が死んで久々にお兄ちゃんに会えた。」
「1人死んでしまったけど、まだお兄ちゃんがいる。」
「だから尽くしてたんじゃないの?」
「過剰なまでにお兄ちゃんを気遣ってだよね?」
「武は友達で俺のためにやってくれただけだ!」
「そんな感情なんて……。」
「じゃあなんで奥さんや子供がいること言わなかったの?」
「それは……。」
武が言葉を詰まらせる。
それは俺もおかしいとは思ってた。
別に言っても困ることじゃない……。
なんで隠してたんだ?
「やましいことだから言わなかったんだよね?」
武は下を向いたまま黙っている。
「マスゴミがきたタイミングで武さんから連絡があった。」
「それもおかしくない?」
「………。」
俺は何も言い返せなかった……。
今思えばタイミングがおかしかった。
それにマスコミがどうやって住所を特定したのかを……。
「弱ってるところを助けに行く……。」
「全部自作自演ってわけ。」
「本当はお兄ちゃんと一緒にいたかっただけで、事件のことなんてどーでもよかったんでしょ?」
「そ、そんなことは……。」
「俺はただともの助けになりたくて……。」
「ふ~ん。」
「別に私は人のセクシャリティーを批判する醜い人間じゃないけど……。」
「まあ言いにくいことではあるよね。」
「あの女みたいにあたしは女でもヤレるとか、軽々しく口だけの自称バイはキモイって思うけど……。」
「あいつの場合はただの変態なだけ。」
「………。」
武は黙ったままだ。
俺は……。
なんて声をかけていいかわからない。
武が俺に恋愛感情があって、自分のものにしようと自作自演でマスコミに俺を売った……。
俺には理解出来なかった……。
好きな人を逆に貶めて自分がまるでヒーローになろうとした武の気持ちが……。
学や綾葉の時とは違う意味で心が悲しくなった。
「まあいいや!」
「マスゴミに売ったことはどうかと思うけど、一応お兄ちゃんを愛するもの同士だから許してあげる!」
「だからここはみんなで協力してこの場を乗り切ろう!」
「乗り切るって……?」
三重と大鷲はナイフで刺されて死んでいて、武の奥さんと子供は縛られてる
俺はナイフで刺されて血が出てる。
そんな状況で一体どうしようと…?
「うーん。」
「死亡推定時刻とかあるからな……。」
「デブが死んだ後に大鷲が死んだから……。」
沙和子が少しの間考えて
「そうだ!良いことを思いついた!」
と手を叩きながら言った。
「こんなシナリオはどう?」
「武さんに証拠を奪われたデブが、家族を人質にして脅迫するためにここへきた。」
「私達が辿り着いたときには、隙をついた奥さんがデブを殺害。」
「お兄ちゃんもとばっちりで刺されちゃって、大鷲は狂乱する奥さんから私達を守るために刺されて殺された。」
「私が大鷲に電話した履歴もあるし、指紋とかに関しては……。」
「まあなんとかなるでしょ。こいつでもできるんだし…。」
大鷲を蹴り飛ばした。
「……俺らがそれをすると思ってるのか?」
そんなこと……協力できるわけがない。
「うん!」
沙和子は当たり前かのように返事をする。
「ほんとはね、この事件は未解決のまま終わる予定だったんだよね。」
「証拠が出ないようにしてたのはそのためか?」
「そう!」
「それでお兄ちゃんは大企業に就職して先輩と結婚して、お金も貯めて好きだった音楽やパズルをしながら過ごすの!」
「お父さんとお母さんに見守られながら……。」
「これが私の夢!」
「そうか……。」
「じゃあこの事件は沙和子の名前を示してるだけじゃなくて、俺への理想も表してたのか……。」
結婚式…。
音楽…。
金庫は金…。
計算式のパズル…。
そして2人は呪いとなって俺を見守る。
「すごいでしょ~。」
「先輩も好きなのかな?っていう程度しか見てなかったんだけど、お兄ちゃんの写真撮るぐらい好きなんだよね。」
「きっと幸せになれるよ!」
それは幸せというのか……?
「部長さんにも促してたんだよね。」
「お兄ちゃんも一緒にって。」
それで部長は俺のことを推していたのか……。
「でもこのデブがあっさり証拠見つかるようなヘマするからさ~。」
「まあ武さんが持ってきた時点で私も開き直ったけど……」
「様子見に来たらお兄ちゃんのことを刺すし……。」
「私なんてディスク以外の証拠を見つけてきたのに……。」
「え?」
「大神も持ってたのか?」
「そう!記念としてね。」
「部長さんも持ってるよ!」
今回は偶然三重がバレただけ……。
みんな自分が殺した人の動画を持っていたのか……。
「やっぱりこいつ金以外使いものにならなかったな。」
三重を踏みつける。
「まあいいや。とりあえず後始末してお兄ちゃんを早く病院に連れて行かないと……。」
「後始末?」
始末ってなんだ?
「決まってるじゃん!」
「はい。武さん。」
武にナイフを渡す。
「こ、これをどうしろって言うんだ。」
急にナイフを渡され、手が震えてる。
「これで奥さんを殺すの。」
「な、何言ってんだ。」
「なんで俺が嫁を殺さなきゃ……。」
「何喋るかわかんないじゃん。」
「息子さんはまだ小さいから大丈夫だと思うけど……。」
沙和子は武の子供に近寄り、頭を撫でながら
「ねー。君は約束を守れるよね?」
武の息子は小さく頷いた。
「えらい。えらい。」
再び頭を撫でた。
「子供はいいよね。純粋だからさ。」
「でもその人は生かすと危ないから……。」
「武さんが止めようとしたところ、誤ってナイフが刺さったことにしよう!」
「な、なんで俺が……。」
「そっちの方がしっくりくるじゃん。」
「発狂した奥さんを旦那が止めようとした。」
「納得のいく説明になると思うけど……。」
「俺に……」
「そんなことは……。」
「また逃げるの?」
「好きな人から逃げて言い訳を繰り返して……。」
「奥さんとの結婚や子供を作ったのも逃げ口だったんじゃないの?」
「みんなのことを忘れるために。」
「………。」
「これでマスゴミの件は許してあげる。」
「お兄ちゃんも優しいからきっと許してくれるよ!」
「武さんの思いもきっと届くはず!」
そう言われた武は俺の方を向いた。
だが、俺は目を合わせられなかった。
武の気持ちには答えられない。
それに俺のことを売ったこともあり、複雑な気分だ。
「とも……」
武が呟いたような声を出す。
「うーん。」
「まあこれからまたやり直せばいいよ。」
「早く済ませちゃおう!」
沙和子が奥さんのところへ誘導しようとした。
だが、武は目が虚になって全てに絶望したような奥さんの顔を見て、後退りしながらナイフを落とした。
「何やってんの?」
「ちゃんと握ってなきゃだめじゃん。」
沙和子がナイフを拾う。
「やり直し……。」
「もう戻せないんだ。こんな状況で。」
「何もかも……。」
「おしまいだ………。」
「俺は……。」
「俺は……。」
「うわぁぁぁぁぁぁ。」
武が叫び出し、後ろを向いて走り出した。
沙和子は銃を向けて
「結局逃げるんだね。」
「まあ死んでからもずっと逃げてれば。」
と言い、逃げる武に向かって発砲した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる