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第33幕 再会Ⅱ
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7月22日の19時50分頃。
俺は喫煙所でタバコを吸って、武を待っていた。
あれから会社の状態は悪くなる一方だ。
社長も色々と動いているようだが、全く上手くいっていない。
スカンクなんて軽く開き直ってる。
叔父を捨てて、他の会社に行こうとしているじゃないのか?
武が喫煙所に入ってきた。
「お待たせ!とも!」
「ああ。武。」
「おつかれ。」
俺はタバコを潰して捨てた。
「場所は調べてあるから行こうぜ!」
「……。」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ!任せとけ!」
大丈夫か……?
任せとけとまで言ってるからまあいいか。
しばらくして
「やーっと着いたな。」
不安は的中した。
武の方向音痴は相変わらず治ってないらしい。
はじめて行く場所だと必ずこうなる。
ライブのときの待ち合わせで、武が寝坊したことがあった。
先にライブハウスへ行ってたら、俺らの出番直前でようやく来たのだ。
マップを見てても迷ったらしい。
今回も15分で着く筈が30分掛り、結局マップで調べたのは俺だった…。
「よーし。店に入るか!」
武を先頭に店へ入る。
横に働いてる女の子の写真がある。
ちか、しき、でん。
あの3人だ。
うん。
やっぱりすごく盛ってる。
他にも多くいるな。
マイ、りあ、なな、ヨル、ユイ………。
アサって子がいないな…。
男性スタッフがきた。
「いらっしゃいませ!ご指名ですか?」
「はい!ちかちゃんかしきちゃん、それかでんちゃんで!」
俺は初めてきたけど、そんな頼み方する人いないだろ。
多分……。
「すみません。ちかとしきは指名入ってまして………でんは少し遅れるようなんです。」
「んー。じゃあどうしようか?」
俺の方を見られてもわからんぞ。
「たまもとマイならすぐにご案内できるんですが…。」
「じゃあその子達で!」
いいのか?
それで?
俺はこっそりと
「いいのか武?」
と聞いた。
「ああ。とりあえず他の女の子とゆっくり飲んでようぜ。いつかまわってくるだろ。」
そうなのか?
わからんけど。
「大丈夫ですか?」
スタッフさんが聞いた。
「大丈夫ですよ!お願いします。」
武が元気良く答える。
「かしこまりました。」
「お飲み物は何にしますか?」
「ウーロンハイで。」
「ビールでお願いします。」
「かしこまりました。ではご案内いたします。」
店内は広かった。
綺麗なドレスを来たキャバ嬢たちが、いろんな年齢層の人に接客してる。
ん?
あの禿頭は……。
やば!
あれは日東部長!
部長もここの常連だったのか。
俺は顔が見えないようにそっぽを向いた。
幸いなことに俺らとは席がかなり離れている。
それに女の子に夢中そうだ。
あのむっつり助平め。
席に着いた。
男性スタッフがお酒を持ってきくれた。
俺は少し飲みながら
「武……客の中に部長がいた。」
「お前のとこの上司か?」
武もお酒を飲みながら聞く。
「そう……。遠いけど、あそこにいる。」
「目立つぐらい禿げてんな。」
「ニヤニヤしやがって。部下が殺されてるっていうのに…。」
その通りだ。
俺も来てる時点で人のことは言えないが……。
「あれってちかちゃんじゃないのか?」
ほんとだ。
よく見たら。
「あの禿げオヤジが指名してたのか。」
「これって何かの偶然か?」
確かに…。
綾葉の葬式に出てたキャバ嬢が会社の上司を接客してる。
部長の様子を見てると
「はじめまして!たまもでーす。」
「よろしくお願いします。マイです。」
女の子が来たようだ。
俺らが顔を向けると……。
少しの間、俺らの時間が止まった。
「ここちゃん?」
先に口が開いたのは武だった。
「な、なんであんた達が…」
顔がひきつっている。
大神心だ。
俺と小中高一緒だった。
「ここちゃん……。なんで?」
「ここちゃんはやめて!たまもって呼んでよ!」
確かにキャバ嬢からしたら本名じゃなく、源氏名で呼んでもらいたいだろう。
「悪い悪い。いやーまさかここで働いてたなんて知らなかったよ。」
「たまもちゃんの知り合い?」
マイさんが聞いた。
「はい…。」
「金髪の方は武で、もう1人は友和っていいます。」
「仲良さそうね。」
マイさんが微笑みながら言った。
「い、いや別に。」
「別にはないだろ?」
「なんだかんだ仲よかったよな。」
「な?とも。」
「あ、ああ。」
「大……、たまもさんは普段からここで働いてるの?」
危うく名前を出すところだった。
「たまもでいいよ。友和。」
「普段は他の系列で働いてるんだけどヘルプできてんの。」
「まあ元々はここが本職だったんだけどね。」
「なんで移ったんだ?」
武が不思議そうに聞く?
確かにここで今も働くぐらいなら、わざわざ移る必要はなさそうだが……。
「綾葉が入ってきたから!」
「2年ぐらい前に、前のお店で揉め事起こしたからって入ってきたの!」
2年前か………。
「嫌な予感してすぐに移ったわ。」
「嫌な予感?」
武が聞いた。
「あんたらだって知ってんでしょ?」
「あいつが性悪だってこと。」
俺は痛いほど思い知った。
今更だが…。
「すぐ縁切って他行って、ダメだと切ったやつに泣きつく。」
「寂しがり屋の癖に強がっちゃってさ。」
そう。
ほんとは寂しがり屋なんだ。
急に泣き出すこともあった。
それをいつも慰めるのが俺の役目だと思ってた。
でも……違かったようだ。
「都合よく使われたくないし、関わりたくもないから店長にお願いして移してもらったわけ!」
「No.1のちかさんやあそこにいるしきさん、でんさんやここにいるマイさんだって……。」
「綾葉から嫌な思いをさせられてた……。」
葬式の時、ボロクソに言ってたくらいだからな。
「たまもちゃん……。あまりお客さんの前でそういう話は……。」
「いいじゃないですか!」
「お互いに吐き出すもの吐き出しましょう!」
武……。
少ししか飲んでないのに酔ってるな……。
「よく言った!武!」
大神も……。
「お客さんがいいならいいと思うけど…。」
マイさんが複雑そうな顔をした。
「マイさんだって酷いこと言われてたらしいじやないですか!」
「そうね……。」
「ほら、私って胸無いしぽっちゃりしてるでしょ?」
「そんなことないです!綺麗ですよ!」
武がフォローする。
俺も頷いた。
細身ではないが、別に太ってるわけではない。
胸だってある方だ。
「ふふ。ありがとうございます。」
「そう言っていただけると嬉しい……。」
だが、その後少し悲しそうな顔をして
「でもね、あの子にはこう言われたの。」
「私は細くてEカップある。」
「どんな服も髪型も色も似合うんだ……って。」
「あなたのようなデブで貧乳は同じような髪型で、地味な服しか着れないって言われたの…。」
いくらなんでも酷すぎる。
「申し訳ないです。」
俺は頭を下げた。
マイさんに申し訳なくなってしまった。
「なぜ友和さんが謝るの?」
「…………。」
言いづらい……。
「い、いやそれは……。」
武が誤魔化そうとする。
「他の人たちとはどうだったんだ?」
「金玉。」
武……。
「はぁ?たまもだって言ってるでしょ!」
「酷い間違いよ。それ。」
「あ、ああすまん。間違えた。」
「まあ他の人たちもそれに近いこと言われたの。」
「あと客を強引なやり方で取られたりね。」
「強引?」
俺は気になった。
割り込んでベタベタするとか?
「簡単にいうと……枕だね。」
聞かなきゃよかった……。
いわゆる体の営業ってやつだろ……。
「名前忘れちゃったけど、最近殺された化粧品会社のごっついの?」
木原のことか。
「あと上司みたいな人?」
スカンクのことか?
「その2人とヤッてたみたい。」
「上司のほうは脱ぐともっと臭かったってぼやいてたらしいけどねー。」
「たまもちゃん……。その辺でやめたほうが…。」
「晃香さん今日来てないけど、時々来るんだから…。」
スカンクの名前だ……。
大神は笑っていたが、俺は絶望的だった。
あの2人と……。
木原には綾葉の写真を見せてたから知ってたんだろう。
だからあんなに勝ち誇っていたんだ。
「あのさ……」
俺は静かに言った。
「あ……友和、ごめん。」
「無神経なこと言っちゃって……。」
「たしか付き合ってたんだよね?」
「アサ………。」
「ん?」
「アサって源氏名だったんじゃないのか?」
「綾葉の……。」
重い空気になり、少し無言状態だった。
「うん………。そうだよ」
「一応No.1だった。」
「そうか……。」
係長からアサの名前を聞いてたのは、付き合っていた頃だった。
「俺はあいつらと穴兄弟か………。」
「あーははははははははははは………」
狂ったように笑っているが、もうどうでもいい。
「ちょっと友和!大丈夫?」
「大丈夫だったらこんなに笑ってない!」
「はーはははははははははひーひひひひひひひひ………………」
俺は………壊れた。
「と、とも。1回落ち着こう!」
「な?」
「友和さん大丈夫?」
みんな心配してる。
でも俺はもう……。
「学だけじゃなくて………あいつらまで。」
「あははははははははははははははは……」
「と、とも…。」
しばらくしてから笑い疲れて一息つく。
タバコが吸いたくなってきた。
「俺………タバコ吸ってくる。」
「喫煙所はどこ?」
「ここで吸っていいんだよ。」
「席以外で吸えるところ無いし。」
大神が答えた。
「そうか……じゃあ失礼するね。」
タバコに火をつけ、大神が入れた酒を一気に飲みほした。
俺の代わりに武が綾葉と俺のことを説明する。
マイさんは指名されたため、席を離れていった。
「ごめん…。友和。」
「何も知らなかった…。」
「別れたのかなとは思ってたけど、そんな辛いことがあったなんて…。」
「綾葉はずっと、ホストのこと自慢してたみたいだったから……。」
俺のことはみんなに言わないで、イケメンホストとの関係を自慢してたのか……。
もう嫌になってくる。
「学もか……。」
大神が暗い顔をする。
「その感じだと綾葉とそーゆー関係だったみたいね。」
「あいつは酷い男だったよ。」
「なんかあったのか?」
武が聞く。
「みんなの前じゃ好青年気取ってたけどさ……。」
「暴力とか酷かったよ。しかも見えないところ。」
「……お腹とかね。」
「おい!学が女に手をあげてたのか!」
「あまり大きな声出さないでよ…。」
「す、すまん。」
「なんだろ?支配欲ってやつかな。」
「自分の女は力で屈服させたいっていう気持ちが強かったんじゃない?」
「だから私も含めて長続きしなかった。」
「まあ……ニュースで見て殺されちゃったみたいだけど……。」
大神が悲しそうな声で言った。
「そうか…学がそこまでやってたとはな。」
少しの沈黙の後、武が聞いた。
「ちょっと待てよ?」
「そんなことしたら噂になってるだろ?」
「あいつの悪い噂なんて一切聞かなかった。」
幼馴染の俺もそんなこと知らなかった。
「それ聞く?」
「女にだって色々あるの。」
答えたくないようだ。
俺もそんなこと綾葉に言われたことがあったな…。
体調気遣っても「それ聞く?」っと……。
女の気持ちは正直わからない。
「で?他に聞きたいことは?」
「事件のこと調べてんじゃないの?」
「実はそうなんだ。」
「ともが疑われてんだ。」
「だから調べてるのね。」
「わかったわ。知ってる範囲なら答えるから。」
「サンキュー!ここちゃん!」
「だからここちゃんはやめてって!」
2人とも楽しそうだ。
冗談で笑い合える。
羨ましい。
「なあ、そのごっついの恨み買いそうなことしてなかったか?」
「そりゃあもちろんしてたよ。」
即答だ。
「どちらかといえばその上司の方が酷かったけど……。」
「さっき話した先輩達にあたりが強かったみたいで…。」
「可愛くないなとかおっぱい小さい、早くアサちゃんとチェンジしろとかね。」
「2人から好かれてた綾葉も調子に乗っていたんだって!」
あまりにも酷すぎる。
嫌われても仕方がないな。
「綾葉が入店する前もその2人を担当したことあるけど、ほんとに酷かった。」
「2年以上前からよく来てたのか?」
木原が行ったのは1回ぐらいだと思ってた。
「そう!常連だったの。」
木原の奥さんも可愛そうに……。
そんな前から旦那はキャバ行ってた上に、そこのキャバ嬢とヤッていた……。
そして一緒に殺されてしまうなんて……。
「あと他は……あそこにいるちかさんが接客してる人ね。」
日東部長のことだ。
「えらい人なんだろうけど、敬語口調でズバズバ嫌味言われてたみたいね。」
「綾葉も調子乗ってツルツルとかお饅頭みたいとか。」
綾葉もよくクビにならなかったものだ。
容姿が良くて金さえ儲ければ、何もかも許されるのか?
前の店を揉めてやめたのはそれが原因だろう。
「あの人も綾葉が入店する前からの常連で、よく私を指名してくれた。」
日東部長は未婚で金ありそうだからな。
「優しい人だよ。」
「私が学のことを愚痴ったら、許せない、殺してやりたいぐらいだって本気で怒ってくれた。」
殺すのはやりすぎだと思うが….。
「今日はちかさん指名だけど、時々私が移動したところにも来てくれたんだよね。」
「大抵部下2人と綾葉の話だけどね…。」
相当ストレスだったんだろうな…。
木原も係長に同調してボロクソに言ってだんだろう。
「私が知ってるのはこれぐらいかな。」
「あとは好きにしてていいと思うけど…。」
「ちかさん達に話聞くのはやめたほうがいいよ。」
「何でだ?」
武が不思議そうに聞いた。
「友和の顔を見てみ?」
「ん?」
武が俺の顔を見る。
「とも………………。」
俺の顔を見て絶句する。
相当酷い顔をしてるんだろう。
「そんな状態で綾葉嫌いの3人の話聞いたら身が持たないと思う。」
「もう聞くこともないなら早く帰ったほうがいいよ。」
「長居すると料金も高くなるし……。」
大神は立ち上がった。
俺は少し微笑みながら
「大神……。昔と変わらず優しいんだな。」
「ふん!別に……。」
「優しいとかじゃないし。」
「たまもって……もしかして玉藻前じゃないか?」
「覚えてるよ……。狐の妖怪だろ?」
「そう……。よく覚えてたね。」
「やっぱり変わらないな。」
「妖怪が好きでよく話をしてくれた。」
「友和しかこーゆー話聞いてくれなかったからね。」
「楽しかったな……。あの頃。」
「うん………。」
大神がそう答えた直後
「たまもちゃーん。ご指名入ったよ。」
とスタッフに呼ばれた。
「あ!今行きまーす。」
俺らのほうを振り返り
「またね。」
と言い、他のお客さんのところへ行った。
「よし!俺らもさっさとでるか!」
「追加料金かかったらもったいねぇし。」
武が立ち上がった。
俺も立ち上がりながら
「そうだな。」
と言い、2人で会計を済ませようと出口まで向かう。
その時……
「あー!小田君じゃないか?」
「奇遇だね~。一緒に飲まないか?」
酒飲んでいたことや大神との久々の会話ですっかり警戒を解いてしまっていた。
日東部長だ。
あと……。
さっきまでいなかったな。
部長以上に太っている人がいる。
歳は俺らと同じぐらいか?
まるで狸みたいだ。
俺らが席に近づくと
「小田、豪元。久々だな!」
太ってるやつに声かけられた。
こいつってもしかして?
「三重?」
この前武と話にでたやつだ。
下の名前は………思い出せなかったが。
「よっ!久しぶり!」
「三重たぬきちだっけ?」
武…。
見た目で適当に言ってるだろ…。
「はぁー?お前は人の名前をちゃんと覚えろ!」
「僕は三重二郎丸だ。」
「昔から変わってないな。」
高校のときから名前を間違えてたのか…。
「君は?」
日東部長が武に聞いた。
「豪元武です。友和の友達でたぬ……二郎丸とはクラスで一緒でした。」
また、たぬきち呼びするとこだったな。
「そうか~。いいな。」
「学友同士で久々の再会。君も一緒にどうかね?」
「ありがとうございます!失礼します。」
武に続き
「失礼します。」
と席に着くと、ちかとでんが俺らの酒を用意してくれた。
目の前が怖い。
日東部長と三重の間にちか、三重のとなりにでんがいる。
この前はコテンパンにされたからな。
「あー!この前あったお兄さんじゃない!」
ちかが言い
「ほんとーだ。お久しぶり!」
とでんが言った。
この2人…。
二重人格なのか?
それとも一部分記憶がなくなってるのか?
前と全然違うじゃないか…。
「小田君。ちかちゃんやでんちゃんと知り合いだったのか?」
部長に聞かれ
「知り合いっていうかなんていうか……。」
何言おうかわからない。
「アサの葬式の時、仲良く話をしたんですよねー?」
「オ・ダ・さ・ん。」
ちかの口は笑っているが、目が鋭い。
言ったらタダじゃ済まさない、そう言ってる気がする。
「あっはい。仲良く話をさせていただきました。」
とりあえず合わせておこう……。
「ちなみにお二人はどこで知り合ったんですか?」
「ともが働いてる会社の上司が三重と繋がりがあったなんて…。」
「すごい偶然ですね?」
武が聞いた。
この2人の関係性は謎だ。
職種も違うのに。
「あのくっさい係長と繋がってたんだ。」
三重が答えた。
よく部長の目の前で堂々と…。
「ええ!臭さのオリンピックがあったら間違いなく優勝ですよ。彼は!」
…………同類だったようだ。
「多くの経営者達が参加するパーティに行った時知り合ったんだ。」
「俺は親父のコネで、あいつは叔父のコネだとか?」
「その時可愛い子がいるんです!とか言われてここに来たのが始まりだったな。」
「まあ………あいつがいるとは知らなかったが。」
綾葉のことだろう。
「それから時々臭いのが、日東さんと最近殺されたゴリラを連れて、それで仲良くなったって感じだな。」
木原は嫌なやつだったが、最近殺されたゴリラ呼びは無いだろう…。
部長が「ぶっ」と吹いた。
「ぶちょー。大丈夫ぅ?」
ちかがタオルで部長の顔を拭く。
なんだその猫撫で声は……。
それに部長も部下が殺されてるというのに…。
「だ、大丈夫だよ……。ちかちゃん。」
大丈夫じゃないだろ!
自分の股間をよく見てみろ!
「まあ…あいつらは最悪だ。」
「臭いのはあいつにのぼせ上がって俺は次期社長だから偉いんだとかな。」
「ムカつくから今日は声かけずに日東さんと飲みに来たわけだ。」
「小さな会社でお山の大将気取りやがって…。」
「そうですよね!三重さん。」
部長……。
あなたもその小さな会社の社員なんだが…。
「あのゴリラも人を見下すような目も気に入らなかったな。」
「いつか蹴落としてやるって顔に書いてあるんだよ。」
意外にこいつ……。
俺より人を見る目があるのかもしれない。
「まあ、まさかちかちゃんとでんちゃんがここの嬢だって知らなかったな。」
「知っていれば早く指名してたのに。」
「そうだよ~。じろちゃんひど~い。」
ちかに言われてニヤニヤしながら「ごめん、ごめん」という。
気持ち悪い…。
「それでだな小田君!」
部長が立ち上がる。
腹がテーブルに当たって危うく酒がこぼれそうになった。
「この方が!私を拾ってくれるそうだ!」
「私はあの異臭物や傲慢ゴリラにいいようにやられてきた…。」
「やっと報われる時が来たんだ!」
「は、はい…。」
酒が入ってるとはいえ部下に言っていいことなのか?
しかもうちの母さんと学友だろ?
かなり酔ってるな……。
「小田君!ぜひ君も一緒に働きたいと思ってる。」
「え?」
あんな酷い成績の俺を?
母さんの息子だからか?
「君もラフレシアとビッグフットにいいようにやられてきた同士!」
「一緒に大企業に入って、毒キノコとラフレシアを見返してやろうではないか!」
毒キノコ……。
恐らく社長のことだろう。
スカンクと同じキノコ頭だし……。
部長は社長からのあたりが強かったとよく聞いている。
内心嫌っているのだろう。
長年働いてても扱いは雑で、甥はやりたい放題。
俺のことは見て見ぬふりをされてきたが、部長も可愛そうな人だ。
「ありがとうございます……。」
部長にお礼を言いながら三重のほうを見る。
俺で大丈夫なんだろうか?
ニヤニヤしながら三重が
「まあ日東さんはともかくお前は保留だがな。」
「日東さん。こいつ使えるんですか?」
誘われてる側だが少し腹がたった。
前もそうだが、何故俺に対して嫌味なのか?
「お、小田君の成績はあまり良くないです……。」
あまりじゃない気がするが……。
でも、そうフォローしてくれるのはありがたい。
「でも!小田くんは今までシュールストレミングやキングコングにやられても辞めなかった忍耐力があります。」
「きっと三重さんの会社でも地道に頑張ってくれることでしょう!」
シュールストレミングはたしか世界一臭い缶詰だ。
悪口のレパートリーが多いな……。
「まあ考えときましょう。」
「まあ仕事は忍耐力だけじゃ務まらないですけどね。」
悔しいが三重の言う通りだ。
「ちなみに草尾化粧品は株価がどんどん下がってるぜ。」
ニヤニヤしながら三重が答えた。
「いつ潰れてもおかしくない状態だ。」
「丁度うちで化粧品部門を増やそうと思っててね。」
「そのためのヘッドハンディングだ!」
あんな事件が起きたからな。
既存から切られてしまってるのは事実だ。
「食品、飲食関係の三重グループに化粧品が加われば無敵ですな。」
部長の言う通りだ。
お弁当によく入れる冷凍食品や街中のファミレスとかは三重グループのものが多い。
勢いもある。
現状評判の良くない化粧品業界も、信頼性のある三重グループが仕切ればガラッと変わるだろう。
「無敵?」
「まだまだですよ日東さん。」
「まだまだ……と申しますと?」
「あと宿泊施設が欲しいですね。」
「その施設でうちの食品や化粧品などを販売。」
「化粧品を用いたマッサージ等のサービス!」
「儲かるぞ。これは!」
同じ七光りでも係長とは全く違う。
よく考えてる。
「それは素晴らしい!」
「ぜひそのマッサージも受けてみたいもんですな!」
「ね!ちかちゃん。」
「も~やだ~。」
「ぶちょーのスケベェ。」
あんたはまず股間のそれを鎮火させてくれ…。
立ってるから余計に目立つぞ。
俺らも恥ずかしい…。
「た、確かに。」
「さ、流石だな…。次期社長は…。」
笑いを堪えてる。
武……堪えてくれ…。
「だろ?」
「親父もそろそろ僕に任せてくれたらいいのに…。」
「早くおっ死んでくんねぇかなー。ははは」
なんてやつだ。
自分の家族にそんなことを…。
「ま!色々と決まったらまた連絡しますよ。日東さん。」
「ありがとうございます!」
日東部長が頭を下げる。
見事な禿頭がピカっと光り、
「小田君も気長に待っててくれ!」
と言われた。
「あ、ありがとうございます。」
三重のあの感じだと難しそうだが……。
「あ!そういえば…。」
武が思い出したように言った。
「三重。この前ギター買ったって言ってたよな?」
「ああ。結構高かったぜ!」
「見せてくれよ!見てみたい。」
三重が携帯を取り出し、写真を見せた。
「めっちゃかっこいいじゃん!」
「いいなー。」
武の目が輝いてる。
「今度見せてやろうか?」
三重が得意気に言った。
確かに高価そうなギターだが……。
金色でラメのあるフライングVだ。
なんかビミョーだ。
「いいのか?」
「いいぜ。仕事は自宅でやってることも多いから、空いてる時にでも見せてやる。」
三重は名刺に自分の住所を書き武に渡す。
「ありがとよ!今度見せてもらう!」
武が名刺を受け取りながら
「ギターは弾いてるのか?」
「いや。ただの飾りだよ。」
「こうゆーのが好きな女もいるだろ?」
そうだろうか……。
「ああ!確かにモテそうだ!」
武……本気で言ってるのか?
「小田は最近どうなんだ?女とかは?」
「いや……俺は特に無いけど。」
「そうだよな!お前根暗だもんな。」
こいつほんとにむかつくな。
「みっちゃん、そんなこと言ったらかわいそー。」
「やさしくしてあげて!」
隣のでんが言った。
どの面で言ってんだ…。
「あっ!そろそろ電車の時間が…。」
「すみません。自分達はそろそろ失礼しますね。」
武が言った。
ありがとう、武。
察してくれたんだろう。
それに色々知れたし、元々席が違う俺らが長居するのもあまり良くないと思う。
「もう帰るのかよ?」
「今日は僕の奢りなんだぜ。」
財布に入った札を見せつける。
10万以上は入っているようだ。
いちいち嫌味な奴だ。
「いや~悪いよ。あと飲み過ぎちまったしよ。」
確に武が飲んだのは5杯。
前に飲んだことを思い出す。
そろそろやばくなってくるころだ。
「そうか。じゃあな。」
「小田君。また月曜日からよろしく頼むぞ!」
「は、はい。失礼いたします。」
「日東さん、今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。豪元くん。」
俺らは三重の方を向き、
「三重。今日はありがとう。」
俺が言った後に
「たぬじろう。じゃあな!」
武……。
また間違えてる……。
「たぬじろうじゃねぇー!」
「あ…。ごめんごめん。」
そして俺らは会計を済ませて、外に出た。
俺は喫煙所でタバコを吸って、武を待っていた。
あれから会社の状態は悪くなる一方だ。
社長も色々と動いているようだが、全く上手くいっていない。
スカンクなんて軽く開き直ってる。
叔父を捨てて、他の会社に行こうとしているじゃないのか?
武が喫煙所に入ってきた。
「お待たせ!とも!」
「ああ。武。」
「おつかれ。」
俺はタバコを潰して捨てた。
「場所は調べてあるから行こうぜ!」
「……。」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ!任せとけ!」
大丈夫か……?
任せとけとまで言ってるからまあいいか。
しばらくして
「やーっと着いたな。」
不安は的中した。
武の方向音痴は相変わらず治ってないらしい。
はじめて行く場所だと必ずこうなる。
ライブのときの待ち合わせで、武が寝坊したことがあった。
先にライブハウスへ行ってたら、俺らの出番直前でようやく来たのだ。
マップを見てても迷ったらしい。
今回も15分で着く筈が30分掛り、結局マップで調べたのは俺だった…。
「よーし。店に入るか!」
武を先頭に店へ入る。
横に働いてる女の子の写真がある。
ちか、しき、でん。
あの3人だ。
うん。
やっぱりすごく盛ってる。
他にも多くいるな。
マイ、りあ、なな、ヨル、ユイ………。
アサって子がいないな…。
男性スタッフがきた。
「いらっしゃいませ!ご指名ですか?」
「はい!ちかちゃんかしきちゃん、それかでんちゃんで!」
俺は初めてきたけど、そんな頼み方する人いないだろ。
多分……。
「すみません。ちかとしきは指名入ってまして………でんは少し遅れるようなんです。」
「んー。じゃあどうしようか?」
俺の方を見られてもわからんぞ。
「たまもとマイならすぐにご案内できるんですが…。」
「じゃあその子達で!」
いいのか?
それで?
俺はこっそりと
「いいのか武?」
と聞いた。
「ああ。とりあえず他の女の子とゆっくり飲んでようぜ。いつかまわってくるだろ。」
そうなのか?
わからんけど。
「大丈夫ですか?」
スタッフさんが聞いた。
「大丈夫ですよ!お願いします。」
武が元気良く答える。
「かしこまりました。」
「お飲み物は何にしますか?」
「ウーロンハイで。」
「ビールでお願いします。」
「かしこまりました。ではご案内いたします。」
店内は広かった。
綺麗なドレスを来たキャバ嬢たちが、いろんな年齢層の人に接客してる。
ん?
あの禿頭は……。
やば!
あれは日東部長!
部長もここの常連だったのか。
俺は顔が見えないようにそっぽを向いた。
幸いなことに俺らとは席がかなり離れている。
それに女の子に夢中そうだ。
あのむっつり助平め。
席に着いた。
男性スタッフがお酒を持ってきくれた。
俺は少し飲みながら
「武……客の中に部長がいた。」
「お前のとこの上司か?」
武もお酒を飲みながら聞く。
「そう……。遠いけど、あそこにいる。」
「目立つぐらい禿げてんな。」
「ニヤニヤしやがって。部下が殺されてるっていうのに…。」
その通りだ。
俺も来てる時点で人のことは言えないが……。
「あれってちかちゃんじゃないのか?」
ほんとだ。
よく見たら。
「あの禿げオヤジが指名してたのか。」
「これって何かの偶然か?」
確かに…。
綾葉の葬式に出てたキャバ嬢が会社の上司を接客してる。
部長の様子を見てると
「はじめまして!たまもでーす。」
「よろしくお願いします。マイです。」
女の子が来たようだ。
俺らが顔を向けると……。
少しの間、俺らの時間が止まった。
「ここちゃん?」
先に口が開いたのは武だった。
「な、なんであんた達が…」
顔がひきつっている。
大神心だ。
俺と小中高一緒だった。
「ここちゃん……。なんで?」
「ここちゃんはやめて!たまもって呼んでよ!」
確かにキャバ嬢からしたら本名じゃなく、源氏名で呼んでもらいたいだろう。
「悪い悪い。いやーまさかここで働いてたなんて知らなかったよ。」
「たまもちゃんの知り合い?」
マイさんが聞いた。
「はい…。」
「金髪の方は武で、もう1人は友和っていいます。」
「仲良さそうね。」
マイさんが微笑みながら言った。
「い、いや別に。」
「別にはないだろ?」
「なんだかんだ仲よかったよな。」
「な?とも。」
「あ、ああ。」
「大……、たまもさんは普段からここで働いてるの?」
危うく名前を出すところだった。
「たまもでいいよ。友和。」
「普段は他の系列で働いてるんだけどヘルプできてんの。」
「まあ元々はここが本職だったんだけどね。」
「なんで移ったんだ?」
武が不思議そうに聞く?
確かにここで今も働くぐらいなら、わざわざ移る必要はなさそうだが……。
「綾葉が入ってきたから!」
「2年ぐらい前に、前のお店で揉め事起こしたからって入ってきたの!」
2年前か………。
「嫌な予感してすぐに移ったわ。」
「嫌な予感?」
武が聞いた。
「あんたらだって知ってんでしょ?」
「あいつが性悪だってこと。」
俺は痛いほど思い知った。
今更だが…。
「すぐ縁切って他行って、ダメだと切ったやつに泣きつく。」
「寂しがり屋の癖に強がっちゃってさ。」
そう。
ほんとは寂しがり屋なんだ。
急に泣き出すこともあった。
それをいつも慰めるのが俺の役目だと思ってた。
でも……違かったようだ。
「都合よく使われたくないし、関わりたくもないから店長にお願いして移してもらったわけ!」
「No.1のちかさんやあそこにいるしきさん、でんさんやここにいるマイさんだって……。」
「綾葉から嫌な思いをさせられてた……。」
葬式の時、ボロクソに言ってたくらいだからな。
「たまもちゃん……。あまりお客さんの前でそういう話は……。」
「いいじゃないですか!」
「お互いに吐き出すもの吐き出しましょう!」
武……。
少ししか飲んでないのに酔ってるな……。
「よく言った!武!」
大神も……。
「お客さんがいいならいいと思うけど…。」
マイさんが複雑そうな顔をした。
「マイさんだって酷いこと言われてたらしいじやないですか!」
「そうね……。」
「ほら、私って胸無いしぽっちゃりしてるでしょ?」
「そんなことないです!綺麗ですよ!」
武がフォローする。
俺も頷いた。
細身ではないが、別に太ってるわけではない。
胸だってある方だ。
「ふふ。ありがとうございます。」
「そう言っていただけると嬉しい……。」
だが、その後少し悲しそうな顔をして
「でもね、あの子にはこう言われたの。」
「私は細くてEカップある。」
「どんな服も髪型も色も似合うんだ……って。」
「あなたのようなデブで貧乳は同じような髪型で、地味な服しか着れないって言われたの…。」
いくらなんでも酷すぎる。
「申し訳ないです。」
俺は頭を下げた。
マイさんに申し訳なくなってしまった。
「なぜ友和さんが謝るの?」
「…………。」
言いづらい……。
「い、いやそれは……。」
武が誤魔化そうとする。
「他の人たちとはどうだったんだ?」
「金玉。」
武……。
「はぁ?たまもだって言ってるでしょ!」
「酷い間違いよ。それ。」
「あ、ああすまん。間違えた。」
「まあ他の人たちもそれに近いこと言われたの。」
「あと客を強引なやり方で取られたりね。」
「強引?」
俺は気になった。
割り込んでベタベタするとか?
「簡単にいうと……枕だね。」
聞かなきゃよかった……。
いわゆる体の営業ってやつだろ……。
「名前忘れちゃったけど、最近殺された化粧品会社のごっついの?」
木原のことか。
「あと上司みたいな人?」
スカンクのことか?
「その2人とヤッてたみたい。」
「上司のほうは脱ぐともっと臭かったってぼやいてたらしいけどねー。」
「たまもちゃん……。その辺でやめたほうが…。」
「晃香さん今日来てないけど、時々来るんだから…。」
スカンクの名前だ……。
大神は笑っていたが、俺は絶望的だった。
あの2人と……。
木原には綾葉の写真を見せてたから知ってたんだろう。
だからあんなに勝ち誇っていたんだ。
「あのさ……」
俺は静かに言った。
「あ……友和、ごめん。」
「無神経なこと言っちゃって……。」
「たしか付き合ってたんだよね?」
「アサ………。」
「ん?」
「アサって源氏名だったんじゃないのか?」
「綾葉の……。」
重い空気になり、少し無言状態だった。
「うん………。そうだよ」
「一応No.1だった。」
「そうか……。」
係長からアサの名前を聞いてたのは、付き合っていた頃だった。
「俺はあいつらと穴兄弟か………。」
「あーははははははははははは………」
狂ったように笑っているが、もうどうでもいい。
「ちょっと友和!大丈夫?」
「大丈夫だったらこんなに笑ってない!」
「はーはははははははははひーひひひひひひひひ………………」
俺は………壊れた。
「と、とも。1回落ち着こう!」
「な?」
「友和さん大丈夫?」
みんな心配してる。
でも俺はもう……。
「学だけじゃなくて………あいつらまで。」
「あははははははははははははははは……」
「と、とも…。」
しばらくしてから笑い疲れて一息つく。
タバコが吸いたくなってきた。
「俺………タバコ吸ってくる。」
「喫煙所はどこ?」
「ここで吸っていいんだよ。」
「席以外で吸えるところ無いし。」
大神が答えた。
「そうか……じゃあ失礼するね。」
タバコに火をつけ、大神が入れた酒を一気に飲みほした。
俺の代わりに武が綾葉と俺のことを説明する。
マイさんは指名されたため、席を離れていった。
「ごめん…。友和。」
「何も知らなかった…。」
「別れたのかなとは思ってたけど、そんな辛いことがあったなんて…。」
「綾葉はずっと、ホストのこと自慢してたみたいだったから……。」
俺のことはみんなに言わないで、イケメンホストとの関係を自慢してたのか……。
もう嫌になってくる。
「学もか……。」
大神が暗い顔をする。
「その感じだと綾葉とそーゆー関係だったみたいね。」
「あいつは酷い男だったよ。」
「なんかあったのか?」
武が聞く。
「みんなの前じゃ好青年気取ってたけどさ……。」
「暴力とか酷かったよ。しかも見えないところ。」
「……お腹とかね。」
「おい!学が女に手をあげてたのか!」
「あまり大きな声出さないでよ…。」
「す、すまん。」
「なんだろ?支配欲ってやつかな。」
「自分の女は力で屈服させたいっていう気持ちが強かったんじゃない?」
「だから私も含めて長続きしなかった。」
「まあ……ニュースで見て殺されちゃったみたいだけど……。」
大神が悲しそうな声で言った。
「そうか…学がそこまでやってたとはな。」
少しの沈黙の後、武が聞いた。
「ちょっと待てよ?」
「そんなことしたら噂になってるだろ?」
「あいつの悪い噂なんて一切聞かなかった。」
幼馴染の俺もそんなこと知らなかった。
「それ聞く?」
「女にだって色々あるの。」
答えたくないようだ。
俺もそんなこと綾葉に言われたことがあったな…。
体調気遣っても「それ聞く?」っと……。
女の気持ちは正直わからない。
「で?他に聞きたいことは?」
「事件のこと調べてんじゃないの?」
「実はそうなんだ。」
「ともが疑われてんだ。」
「だから調べてるのね。」
「わかったわ。知ってる範囲なら答えるから。」
「サンキュー!ここちゃん!」
「だからここちゃんはやめてって!」
2人とも楽しそうだ。
冗談で笑い合える。
羨ましい。
「なあ、そのごっついの恨み買いそうなことしてなかったか?」
「そりゃあもちろんしてたよ。」
即答だ。
「どちらかといえばその上司の方が酷かったけど……。」
「さっき話した先輩達にあたりが強かったみたいで…。」
「可愛くないなとかおっぱい小さい、早くアサちゃんとチェンジしろとかね。」
「2人から好かれてた綾葉も調子に乗っていたんだって!」
あまりにも酷すぎる。
嫌われても仕方がないな。
「綾葉が入店する前もその2人を担当したことあるけど、ほんとに酷かった。」
「2年以上前からよく来てたのか?」
木原が行ったのは1回ぐらいだと思ってた。
「そう!常連だったの。」
木原の奥さんも可愛そうに……。
そんな前から旦那はキャバ行ってた上に、そこのキャバ嬢とヤッていた……。
そして一緒に殺されてしまうなんて……。
「あと他は……あそこにいるちかさんが接客してる人ね。」
日東部長のことだ。
「えらい人なんだろうけど、敬語口調でズバズバ嫌味言われてたみたいね。」
「綾葉も調子乗ってツルツルとかお饅頭みたいとか。」
綾葉もよくクビにならなかったものだ。
容姿が良くて金さえ儲ければ、何もかも許されるのか?
前の店を揉めてやめたのはそれが原因だろう。
「あの人も綾葉が入店する前からの常連で、よく私を指名してくれた。」
日東部長は未婚で金ありそうだからな。
「優しい人だよ。」
「私が学のことを愚痴ったら、許せない、殺してやりたいぐらいだって本気で怒ってくれた。」
殺すのはやりすぎだと思うが….。
「今日はちかさん指名だけど、時々私が移動したところにも来てくれたんだよね。」
「大抵部下2人と綾葉の話だけどね…。」
相当ストレスだったんだろうな…。
木原も係長に同調してボロクソに言ってだんだろう。
「私が知ってるのはこれぐらいかな。」
「あとは好きにしてていいと思うけど…。」
「ちかさん達に話聞くのはやめたほうがいいよ。」
「何でだ?」
武が不思議そうに聞いた。
「友和の顔を見てみ?」
「ん?」
武が俺の顔を見る。
「とも………………。」
俺の顔を見て絶句する。
相当酷い顔をしてるんだろう。
「そんな状態で綾葉嫌いの3人の話聞いたら身が持たないと思う。」
「もう聞くこともないなら早く帰ったほうがいいよ。」
「長居すると料金も高くなるし……。」
大神は立ち上がった。
俺は少し微笑みながら
「大神……。昔と変わらず優しいんだな。」
「ふん!別に……。」
「優しいとかじゃないし。」
「たまもって……もしかして玉藻前じゃないか?」
「覚えてるよ……。狐の妖怪だろ?」
「そう……。よく覚えてたね。」
「やっぱり変わらないな。」
「妖怪が好きでよく話をしてくれた。」
「友和しかこーゆー話聞いてくれなかったからね。」
「楽しかったな……。あの頃。」
「うん………。」
大神がそう答えた直後
「たまもちゃーん。ご指名入ったよ。」
とスタッフに呼ばれた。
「あ!今行きまーす。」
俺らのほうを振り返り
「またね。」
と言い、他のお客さんのところへ行った。
「よし!俺らもさっさとでるか!」
「追加料金かかったらもったいねぇし。」
武が立ち上がった。
俺も立ち上がりながら
「そうだな。」
と言い、2人で会計を済ませようと出口まで向かう。
その時……
「あー!小田君じゃないか?」
「奇遇だね~。一緒に飲まないか?」
酒飲んでいたことや大神との久々の会話ですっかり警戒を解いてしまっていた。
日東部長だ。
あと……。
さっきまでいなかったな。
部長以上に太っている人がいる。
歳は俺らと同じぐらいか?
まるで狸みたいだ。
俺らが席に近づくと
「小田、豪元。久々だな!」
太ってるやつに声かけられた。
こいつってもしかして?
「三重?」
この前武と話にでたやつだ。
下の名前は………思い出せなかったが。
「よっ!久しぶり!」
「三重たぬきちだっけ?」
武…。
見た目で適当に言ってるだろ…。
「はぁー?お前は人の名前をちゃんと覚えろ!」
「僕は三重二郎丸だ。」
「昔から変わってないな。」
高校のときから名前を間違えてたのか…。
「君は?」
日東部長が武に聞いた。
「豪元武です。友和の友達でたぬ……二郎丸とはクラスで一緒でした。」
また、たぬきち呼びするとこだったな。
「そうか~。いいな。」
「学友同士で久々の再会。君も一緒にどうかね?」
「ありがとうございます!失礼します。」
武に続き
「失礼します。」
と席に着くと、ちかとでんが俺らの酒を用意してくれた。
目の前が怖い。
日東部長と三重の間にちか、三重のとなりにでんがいる。
この前はコテンパンにされたからな。
「あー!この前あったお兄さんじゃない!」
ちかが言い
「ほんとーだ。お久しぶり!」
とでんが言った。
この2人…。
二重人格なのか?
それとも一部分記憶がなくなってるのか?
前と全然違うじゃないか…。
「小田君。ちかちゃんやでんちゃんと知り合いだったのか?」
部長に聞かれ
「知り合いっていうかなんていうか……。」
何言おうかわからない。
「アサの葬式の時、仲良く話をしたんですよねー?」
「オ・ダ・さ・ん。」
ちかの口は笑っているが、目が鋭い。
言ったらタダじゃ済まさない、そう言ってる気がする。
「あっはい。仲良く話をさせていただきました。」
とりあえず合わせておこう……。
「ちなみにお二人はどこで知り合ったんですか?」
「ともが働いてる会社の上司が三重と繋がりがあったなんて…。」
「すごい偶然ですね?」
武が聞いた。
この2人の関係性は謎だ。
職種も違うのに。
「あのくっさい係長と繋がってたんだ。」
三重が答えた。
よく部長の目の前で堂々と…。
「ええ!臭さのオリンピックがあったら間違いなく優勝ですよ。彼は!」
…………同類だったようだ。
「多くの経営者達が参加するパーティに行った時知り合ったんだ。」
「俺は親父のコネで、あいつは叔父のコネだとか?」
「その時可愛い子がいるんです!とか言われてここに来たのが始まりだったな。」
「まあ………あいつがいるとは知らなかったが。」
綾葉のことだろう。
「それから時々臭いのが、日東さんと最近殺されたゴリラを連れて、それで仲良くなったって感じだな。」
木原は嫌なやつだったが、最近殺されたゴリラ呼びは無いだろう…。
部長が「ぶっ」と吹いた。
「ぶちょー。大丈夫ぅ?」
ちかがタオルで部長の顔を拭く。
なんだその猫撫で声は……。
それに部長も部下が殺されてるというのに…。
「だ、大丈夫だよ……。ちかちゃん。」
大丈夫じゃないだろ!
自分の股間をよく見てみろ!
「まあ…あいつらは最悪だ。」
「臭いのはあいつにのぼせ上がって俺は次期社長だから偉いんだとかな。」
「ムカつくから今日は声かけずに日東さんと飲みに来たわけだ。」
「小さな会社でお山の大将気取りやがって…。」
「そうですよね!三重さん。」
部長……。
あなたもその小さな会社の社員なんだが…。
「あのゴリラも人を見下すような目も気に入らなかったな。」
「いつか蹴落としてやるって顔に書いてあるんだよ。」
意外にこいつ……。
俺より人を見る目があるのかもしれない。
「まあ、まさかちかちゃんとでんちゃんがここの嬢だって知らなかったな。」
「知っていれば早く指名してたのに。」
「そうだよ~。じろちゃんひど~い。」
ちかに言われてニヤニヤしながら「ごめん、ごめん」という。
気持ち悪い…。
「それでだな小田君!」
部長が立ち上がる。
腹がテーブルに当たって危うく酒がこぼれそうになった。
「この方が!私を拾ってくれるそうだ!」
「私はあの異臭物や傲慢ゴリラにいいようにやられてきた…。」
「やっと報われる時が来たんだ!」
「は、はい…。」
酒が入ってるとはいえ部下に言っていいことなのか?
しかもうちの母さんと学友だろ?
かなり酔ってるな……。
「小田君!ぜひ君も一緒に働きたいと思ってる。」
「え?」
あんな酷い成績の俺を?
母さんの息子だからか?
「君もラフレシアとビッグフットにいいようにやられてきた同士!」
「一緒に大企業に入って、毒キノコとラフレシアを見返してやろうではないか!」
毒キノコ……。
恐らく社長のことだろう。
スカンクと同じキノコ頭だし……。
部長は社長からのあたりが強かったとよく聞いている。
内心嫌っているのだろう。
長年働いてても扱いは雑で、甥はやりたい放題。
俺のことは見て見ぬふりをされてきたが、部長も可愛そうな人だ。
「ありがとうございます……。」
部長にお礼を言いながら三重のほうを見る。
俺で大丈夫なんだろうか?
ニヤニヤしながら三重が
「まあ日東さんはともかくお前は保留だがな。」
「日東さん。こいつ使えるんですか?」
誘われてる側だが少し腹がたった。
前もそうだが、何故俺に対して嫌味なのか?
「お、小田君の成績はあまり良くないです……。」
あまりじゃない気がするが……。
でも、そうフォローしてくれるのはありがたい。
「でも!小田くんは今までシュールストレミングやキングコングにやられても辞めなかった忍耐力があります。」
「きっと三重さんの会社でも地道に頑張ってくれることでしょう!」
シュールストレミングはたしか世界一臭い缶詰だ。
悪口のレパートリーが多いな……。
「まあ考えときましょう。」
「まあ仕事は忍耐力だけじゃ務まらないですけどね。」
悔しいが三重の言う通りだ。
「ちなみに草尾化粧品は株価がどんどん下がってるぜ。」
ニヤニヤしながら三重が答えた。
「いつ潰れてもおかしくない状態だ。」
「丁度うちで化粧品部門を増やそうと思っててね。」
「そのためのヘッドハンディングだ!」
あんな事件が起きたからな。
既存から切られてしまってるのは事実だ。
「食品、飲食関係の三重グループに化粧品が加われば無敵ですな。」
部長の言う通りだ。
お弁当によく入れる冷凍食品や街中のファミレスとかは三重グループのものが多い。
勢いもある。
現状評判の良くない化粧品業界も、信頼性のある三重グループが仕切ればガラッと変わるだろう。
「無敵?」
「まだまだですよ日東さん。」
「まだまだ……と申しますと?」
「あと宿泊施設が欲しいですね。」
「その施設でうちの食品や化粧品などを販売。」
「化粧品を用いたマッサージ等のサービス!」
「儲かるぞ。これは!」
同じ七光りでも係長とは全く違う。
よく考えてる。
「それは素晴らしい!」
「ぜひそのマッサージも受けてみたいもんですな!」
「ね!ちかちゃん。」
「も~やだ~。」
「ぶちょーのスケベェ。」
あんたはまず股間のそれを鎮火させてくれ…。
立ってるから余計に目立つぞ。
俺らも恥ずかしい…。
「た、確かに。」
「さ、流石だな…。次期社長は…。」
笑いを堪えてる。
武……堪えてくれ…。
「だろ?」
「親父もそろそろ僕に任せてくれたらいいのに…。」
「早くおっ死んでくんねぇかなー。ははは」
なんてやつだ。
自分の家族にそんなことを…。
「ま!色々と決まったらまた連絡しますよ。日東さん。」
「ありがとうございます!」
日東部長が頭を下げる。
見事な禿頭がピカっと光り、
「小田君も気長に待っててくれ!」
と言われた。
「あ、ありがとうございます。」
三重のあの感じだと難しそうだが……。
「あ!そういえば…。」
武が思い出したように言った。
「三重。この前ギター買ったって言ってたよな?」
「ああ。結構高かったぜ!」
「見せてくれよ!見てみたい。」
三重が携帯を取り出し、写真を見せた。
「めっちゃかっこいいじゃん!」
「いいなー。」
武の目が輝いてる。
「今度見せてやろうか?」
三重が得意気に言った。
確かに高価そうなギターだが……。
金色でラメのあるフライングVだ。
なんかビミョーだ。
「いいのか?」
「いいぜ。仕事は自宅でやってることも多いから、空いてる時にでも見せてやる。」
三重は名刺に自分の住所を書き武に渡す。
「ありがとよ!今度見せてもらう!」
武が名刺を受け取りながら
「ギターは弾いてるのか?」
「いや。ただの飾りだよ。」
「こうゆーのが好きな女もいるだろ?」
そうだろうか……。
「ああ!確かにモテそうだ!」
武……本気で言ってるのか?
「小田は最近どうなんだ?女とかは?」
「いや……俺は特に無いけど。」
「そうだよな!お前根暗だもんな。」
こいつほんとにむかつくな。
「みっちゃん、そんなこと言ったらかわいそー。」
「やさしくしてあげて!」
隣のでんが言った。
どの面で言ってんだ…。
「あっ!そろそろ電車の時間が…。」
「すみません。自分達はそろそろ失礼しますね。」
武が言った。
ありがとう、武。
察してくれたんだろう。
それに色々知れたし、元々席が違う俺らが長居するのもあまり良くないと思う。
「もう帰るのかよ?」
「今日は僕の奢りなんだぜ。」
財布に入った札を見せつける。
10万以上は入っているようだ。
いちいち嫌味な奴だ。
「いや~悪いよ。あと飲み過ぎちまったしよ。」
確に武が飲んだのは5杯。
前に飲んだことを思い出す。
そろそろやばくなってくるころだ。
「そうか。じゃあな。」
「小田君。また月曜日からよろしく頼むぞ!」
「は、はい。失礼いたします。」
「日東さん、今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。豪元くん。」
俺らは三重の方を向き、
「三重。今日はありがとう。」
俺が言った後に
「たぬじろう。じゃあな!」
武……。
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「たぬじろうじゃねぇー!」
「あ…。ごめんごめん。」
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