石とビー玉

井野ヒマリ

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 午後11時前ともなると薬局内は静けさに包まれていた。
 聞こえるのはカタカタとキーボードを叩く音と、備え付けのテレビから流れるやけに小さな音のクラシック音楽だけだった。
 「一旦降ろしますね」
 彼が入り口から遠い場所にある柔らかなソファへと寝かしてくれる。
 「一応お名前伺っていいですか?」
 「宇野です、宇野ゆうと」
 「宇野さんですね、下は…」
 「優しいに人です」
  一瞬口角が上がった彼に眉をひそめていると、
 「すいません、僕と字が同じで…隼人って言うんです」
 そう示すように白衣の胸ポケットに付いた名札を見せられた。
 "水沢隼人" 
 名は体を現すとは上手く言ったものだ。
目の前の彼は、流れるように爽やかな名前に見合う風貌をしている。
 優しそうに垂れている瞳と同じブラウンの髪は、ところどころ跳ねていて動物番組で観たラマのようだ。
しかし鼻筋は通り唇は形が良くて、こんな状況で無ければ見惚れていたかもしれない。
 「胃薬は一錠で大丈夫ですか?」
 その言葉に我に返り、軽く頷いた。
 後ろ姿を眺めていた間にも、彼は手際よく調剤棚から目当ての薬を探してくれていたらしい。
 俺は渡されたものを水と共に飲み下した。
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