上 下
170 / 173
最終章 古代遺跡編

170、フィリップになった理由

しおりを挟む
 突然知らない場所に飛ばされたことに驚き動けないでいると、過去に一度だけ聞いた柔らかな声が頭に響いた。

 ――我が愛し子たちを救ってくれて、本当にありがとう。あなたには重い役目を背負わせてしまってごめんなさい――

 これは、ティータビア様のお声だ。

『あの、ここは……』

 なぜか声は出なくて心の中で問いかけると、ティータビア様には問題なく通じたようで、質問に答えてくれた。

 ――下界と私がいる場所のちょうど中間地点とでも言えば良いのかしら。とにかく、私の声がはっきりと届く場所よ。あなたが強い力を持つ神像に触れてくれたことで、ここに呼び出すことができたわ――

 そういうことか。俺が神像に、その中でも力を持ったものに触れないと話ができなかったのか。

 だからあの時は言葉が途中で途切れて……色々なことが繋がっていき、歪んだピースが正常に戻るような気持ちよさがある。

『ここは未来ですか? 私はなぜここに』

 ――そのことについて話をするわね。まずここはあなたが以前生きていた時から、ずっと先の未来よ。高度な文明を築いていた人間がここまで衰退してしまった理由は、闇の神の暴走なの――

 それからティータビア様が話してくださった歴史をまとめると。闇の神であるノルネア様が正気を失い、人類を文明と共に地中に埋めてしまったらしい。
 その際にほとんどの生き物は息絶えたが、ティータビア様は少しの人間だけ助けることに成功したそうだ。

 しかしその者たちは荒廃した世界でなんとか生きていくのに精一杯で、ほとんどの技術は廃れてしまった。

 そんな中でも人間はしぶとく生き残っていたが、闇の神の凶行に耐え、なんとか生きながらえていた魔物も存在し、次第に魔物の方が力をつけるようになっていたんだそうだ。

 長い年月をかけて人間は魔物に住む場所を追われ、そろそろ人類は滅亡するかもしれない……という瀬戸際に、俺は魂を連れてこられた。

 ティータビア様はノルネア様がこれ以上の凶行を犯して世界を壊してしまうのを防ぐため、ノルネア様を抑えることにほとんどの力を使っており、適当に取り出した俺の魂をフィリップに定着させることが精一杯だったらしい。

 ――あなたには、魔法陣魔法や文明の復活を頼みたかったの。しかしその事実を碌に伝えることもできなかったのだけれど、あなたはよくやってくれたわ。本当にありがとう――

『ティータビア様に謝意をいただけるなど、無上の喜びでございます。……今このようにお話ができているのは、先ほどの神像によるものなのでしょうか』

 ――ええ、あの神象は私が直接作り出したもの。そこに残っていた力を使って今は話をしているわ――

 ティータビア様が直接作られたもの。だからあんなにも惹かれたのかもしれないな。余裕ができた時には、あの神像はしっかりとした教会に運ぼう。

『そのような神像を拝することができ、恐悦至極にございます。……して、私の動きに不足などはありますでしょうか。もしありましたら、全力でティータビア様のために動く所存です』

 ――ありがとう。ではあと一つだけ、この世界のために動いてほしいわ。ノルネアを、消してほしいの――

 その言葉を聞いた俺は、しばらく言葉を発せなかった。闇の神であるノルネア様を消すなんて……ただの人間である俺にできるわけがない。

 ――難しく考えなくても良いわ。本当は私が一人で消し去れたら良いのだけど力が足りないの。そこで、少し手伝ってもらいたいだけよ。光のベールでノルネアを包み込んでくれれば、後は私の力で消し去れるはず――

 光のベールで闇の神であるノルネア様を包み込む……

『そもそも、ノルネア様は私と同じ世界にいらっしゃるのでしょうか。ティータビア様のような、別の場所にいるのでは……』

 ――いえ、ノルネアはこの世界を壊す時に、強大な力を行使するため下界に向かったの。そこを私が抑えつけているから、ノルネアはずっとあなたたちのところにいるわ――

『それは、どこに』

 生唾を飲み込みながら問いかけると、ティータビア様が指定したのは今俺たちがいる鉱山からそこまで離れていない、小さな山の頂上だった。
 そこにある洞窟の中に、ティータビア様によって強制的に封印されているそうだ。

 ――お願いよ。壊れてしまったノルネアを消し去らなければ、この世界に安寧は訪れない。あなただけが頼りなの――

 ティータビア様のその言葉にプレッシャーを感じて、拳をキツく握りしめた。しかし頭の中に浮かぶたくさんの大切な人たち……ティナ、父上、母上、マルガレーテ、ローベルト、他にも多くの人たちの笑顔が思い浮かび、決意を固めた。

 穏やかで平和な世界を取り戻すために、ティータビア様の手助けをしよう。

『私に、お任せください』

 ――ありがとう。この世界の救世主、そして私の愛しい子――

 その言葉を最後にまた視界が揺らぎ、気づいた時には神像がある地下の広間に戻っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...