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第四章 交易発展編
167、奇跡(第三者視点)
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「さ、宰相様! 宰相様ー!」
ノバック王国の荒れた王宮内を、大声で叫びながら駆け抜ける男がいた。その男が走っていることで王宮の廊下に降り積もった土や埃が舞っているが、男は気にせず全速力で執務室に向かう。
そうして辿り着いた執務室の扉を開けると――
――そこには、これからの自国の未来に希望がないことを悟り、暗い表情で項垂れる男達がいた。
「これからどうするか……」
「陛下は、帰ってこられるだろうか」
「――信じたいが、可能性は低いだろう。それに例え帰られたとしても、それまで国が保つか……」
「皆様! ご報告があります!」
暗い男達に向かってここまで走ってきた騎士の男が声を張ると、男達は絶望を感じている表情で騎士に視線を向けた。
「……ついには魔物に外壁を壊されたか?」
「いいえ、違います!」
「……では井戸が枯れたか?」
「それも違います! 良いご報告です! 陛下が、我らが陛下が帰還されました……!」
騎士がその言葉を発すると同時に、執務室はまるで時が止まったかのように静かになった。そしてしばらくは誰も言葉を発さず……数十秒後に、宰相が声を震わせながら口を開く。
「へ、陛下が、ご無事で……帰られたのか?」
「そうです! しかもラスカリナ王国から援助をしていただけるみたいです! ラスカリナ王国の騎士が百人も、魔物を倒すために来てくれました……!」
普通なら他国の騎士が百名も自国の王都に来たとなれば顔色を悪くするのが普通だが、執務室内にいる男達は誰もが例外なく顔を喜色に染めた。
もうこの世界では国同士で争っている場合ではなく、魔物に対抗する人間が増えたというだけで喜ぶべきことなのだ。それが戦う術を持つ騎士なら尚更だ。
「な、な、なんということだ……! 早く私を陛下のところへ案内してくれ!」
「かしこまりましたっ」
それから宰相達がノバック国王を迎えに行き、王宮内はお祭り騒ぎになった。ラスカリナ王国の騎士達が馬車で運んできた食料を管理して配給する者、騎士達の住居を整える者、少しでも気持ちの良い王宮で過ごしてもらいたいと掃除を開始する者。
皆が昨日までとは打って変わって、生き生きと働いている。
「陛下……本当に、本当に良くぞご無事で……」
「宰相。留守の間は国を守ってくれて感謝する」
「いえ、いえ、私なんぞの苦労は陛下が帰還されるまで過ごしてきた日々と比べれば、砂粒ほどでございます」
「いや、それがそうではないのだ。確かにラスカリナ王国へ辿り着くまではかなり過酷だった。私のために命を落とした者が五名もいた。……しかし向こうに着いてからは、この世のものとは思えないほどに快適な生活をさせていただけた。宰相、ラスカリナ王国は凄いぞ」
ノバック国王のその言葉を聞いて、宰相は少し疑っている様子で曖昧に頷いた。
「それほど、でしょうか?」
「ああ、これは誇張でもなんでもない。お前もラスカリナ王国の騎士たちの様子を見ていればすぐに分かるだろう。そうだ、これを使ってみるか?」
そう言って国王が取り出したのは、持ち運びに特化させた形状の給水器だ。コップの上に給水器を設置して国王が魔力を注ぐと……一瞬でコップの中が綺麗な水で満たされる。
「な、な、ど、どういう……え!?」
宰相は驚きすぎて上手く言葉も出ないようだ。
「ははっ、驚いたか? これは魔道具というらしい。ラスカリナ王国にはこの技術があちこちに使われていた。水が出るだけでなく、他にも様々な現象が魔力を注ぐだけで起こせるのだ」
「……今、魔力を注がれたのですか?」
「そうだ。やってみるか? その水は宰相が飲むと良い」
「ありがとうございます。いただきます」
宰相は恐る恐るコップを手に取って口元に運び……水をぐびっと飲み干した。そして瞳を見開いて空になったコップを凝視して……瞳から涙を溢れさせた。
「こ、こんなに美味しい水を、久しぶりに飲みました」
「ははっ、そうだよなぁ。水が足りなくて雨水を溜めた水を飲んだりしてたからな」
「水とは、こんなに美味しいものだったのですね……」
それからしばらく泣きながら水の美味しさを語って、宰相は国王に教えてもらいながら給水器に魔力を注いだ。それによって水で満たされたコップを見て、宰相はまた瞳を潤ませる。
「この給水器はいくつもいただけたのだ。この街に住む皆に新鮮な水を配ることができる。食料も馬車で運んできたものだけでなく、これからも定期的に転移板で送ってくれるらしい」
「転移板とは、なんでしょうか?」
「遠く離れた場所に、一瞬で物や人まで送れる魔道具だ」
「……そのようなものまであるのですか?」
「ああ、本当に魔道具とは凄いぞ」
国王は希望に満ちた瞳でしみじみと呟くと、決意を込めた瞳を宰相に向けた。
「宰相、この国を建て直すぞ。ラスカリナ王国に頼りきりではなく、自力で国を豊かにしよう。そしていずれ、ラスカリナ王国に恩返しをしよう」
「かしこまりました。お供させてください……!」
二人の瞳には明日への希望が満ちていて、これからノバック王国が歩む道のりが、明るいものになることを予感させた。
~あとがき~
これにて四章は完結となります。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
次はついに最終章となります。
最終章はしばらくお休みをいただいて、上手く纏まってから投稿する予定です。一ヶ月か二ヶ月か、そのぐらいで投稿する予定ですのでしばらくお待ちいただけますと幸いです。
最終章は古代遺跡編となります。ついにこの世界の謎に迫るお話ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです!
蒼井美紗
ノバック王国の荒れた王宮内を、大声で叫びながら駆け抜ける男がいた。その男が走っていることで王宮の廊下に降り積もった土や埃が舞っているが、男は気にせず全速力で執務室に向かう。
そうして辿り着いた執務室の扉を開けると――
――そこには、これからの自国の未来に希望がないことを悟り、暗い表情で項垂れる男達がいた。
「これからどうするか……」
「陛下は、帰ってこられるだろうか」
「――信じたいが、可能性は低いだろう。それに例え帰られたとしても、それまで国が保つか……」
「皆様! ご報告があります!」
暗い男達に向かってここまで走ってきた騎士の男が声を張ると、男達は絶望を感じている表情で騎士に視線を向けた。
「……ついには魔物に外壁を壊されたか?」
「いいえ、違います!」
「……では井戸が枯れたか?」
「それも違います! 良いご報告です! 陛下が、我らが陛下が帰還されました……!」
騎士がその言葉を発すると同時に、執務室はまるで時が止まったかのように静かになった。そしてしばらくは誰も言葉を発さず……数十秒後に、宰相が声を震わせながら口を開く。
「へ、陛下が、ご無事で……帰られたのか?」
「そうです! しかもラスカリナ王国から援助をしていただけるみたいです! ラスカリナ王国の騎士が百人も、魔物を倒すために来てくれました……!」
普通なら他国の騎士が百名も自国の王都に来たとなれば顔色を悪くするのが普通だが、執務室内にいる男達は誰もが例外なく顔を喜色に染めた。
もうこの世界では国同士で争っている場合ではなく、魔物に対抗する人間が増えたというだけで喜ぶべきことなのだ。それが戦う術を持つ騎士なら尚更だ。
「な、な、なんということだ……! 早く私を陛下のところへ案内してくれ!」
「かしこまりましたっ」
それから宰相達がノバック国王を迎えに行き、王宮内はお祭り騒ぎになった。ラスカリナ王国の騎士達が馬車で運んできた食料を管理して配給する者、騎士達の住居を整える者、少しでも気持ちの良い王宮で過ごしてもらいたいと掃除を開始する者。
皆が昨日までとは打って変わって、生き生きと働いている。
「陛下……本当に、本当に良くぞご無事で……」
「宰相。留守の間は国を守ってくれて感謝する」
「いえ、いえ、私なんぞの苦労は陛下が帰還されるまで過ごしてきた日々と比べれば、砂粒ほどでございます」
「いや、それがそうではないのだ。確かにラスカリナ王国へ辿り着くまではかなり過酷だった。私のために命を落とした者が五名もいた。……しかし向こうに着いてからは、この世のものとは思えないほどに快適な生活をさせていただけた。宰相、ラスカリナ王国は凄いぞ」
ノバック国王のその言葉を聞いて、宰相は少し疑っている様子で曖昧に頷いた。
「それほど、でしょうか?」
「ああ、これは誇張でもなんでもない。お前もラスカリナ王国の騎士たちの様子を見ていればすぐに分かるだろう。そうだ、これを使ってみるか?」
そう言って国王が取り出したのは、持ち運びに特化させた形状の給水器だ。コップの上に給水器を設置して国王が魔力を注ぐと……一瞬でコップの中が綺麗な水で満たされる。
「な、な、ど、どういう……え!?」
宰相は驚きすぎて上手く言葉も出ないようだ。
「ははっ、驚いたか? これは魔道具というらしい。ラスカリナ王国にはこの技術があちこちに使われていた。水が出るだけでなく、他にも様々な現象が魔力を注ぐだけで起こせるのだ」
「……今、魔力を注がれたのですか?」
「そうだ。やってみるか? その水は宰相が飲むと良い」
「ありがとうございます。いただきます」
宰相は恐る恐るコップを手に取って口元に運び……水をぐびっと飲み干した。そして瞳を見開いて空になったコップを凝視して……瞳から涙を溢れさせた。
「こ、こんなに美味しい水を、久しぶりに飲みました」
「ははっ、そうだよなぁ。水が足りなくて雨水を溜めた水を飲んだりしてたからな」
「水とは、こんなに美味しいものだったのですね……」
それからしばらく泣きながら水の美味しさを語って、宰相は国王に教えてもらいながら給水器に魔力を注いだ。それによって水で満たされたコップを見て、宰相はまた瞳を潤ませる。
「この給水器はいくつもいただけたのだ。この街に住む皆に新鮮な水を配ることができる。食料も馬車で運んできたものだけでなく、これからも定期的に転移板で送ってくれるらしい」
「転移板とは、なんでしょうか?」
「遠く離れた場所に、一瞬で物や人まで送れる魔道具だ」
「……そのようなものまであるのですか?」
「ああ、本当に魔道具とは凄いぞ」
国王は希望に満ちた瞳でしみじみと呟くと、決意を込めた瞳を宰相に向けた。
「宰相、この国を建て直すぞ。ラスカリナ王国に頼りきりではなく、自力で国を豊かにしよう。そしていずれ、ラスカリナ王国に恩返しをしよう」
「かしこまりました。お供させてください……!」
二人の瞳には明日への希望が満ちていて、これからノバック王国が歩む道のりが、明るいものになることを予感させた。
~あとがき~
これにて四章は完結となります。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
次はついに最終章となります。
最終章はしばらくお休みをいただいて、上手く纏まってから投稿する予定です。一ヶ月か二ヶ月か、そのぐらいで投稿する予定ですのでしばらくお待ちいただけますと幸いです。
最終章は古代遺跡編となります。ついにこの世界の謎に迫るお話ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです!
蒼井美紗
応援ありがとうございます!
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