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第四章 交易発展編

159、ミルクの試飲と砂糖の原料

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 ホワイトカウのミルクはこうして沸騰させていると表面に膜が張ってきて、それを取り除くことが重要なのだ。この膜に人があまり口にしないほうが良い成分が凝縮するのだと、ハインツの時に読んだ本に書かれていた。
 それがどんな成分なのか、どんな悪影響があるのかまでは分からない。

「火にかけると固まるなんて不思議ですね」
「確かに……火にかけると溶けるものの方が多いよね。伯爵、この膜はスライムなどに処理をさせてください。間違えて人の口に入らないように」
「かしこまりました」

 それから何度か膜を取って、多めに五分間火にかけたところで鍋を火から下ろした。そして別の石の上に鍋を置く。

「熱したミルクはできる限り急速に冷やした方が品質向上につながるから、この後は氷などを使って冷やして欲しい。今は俺が冷やしちゃうよ」
「かしこまりました。ここで冷やすのにも氷を使うとなると、製氷器がかなり必要となりますね」
「そうだね。後は魔力をたくさん持っている人も必要かな」

 製氷器はいくらでも作れるけど、問題は魔力量だ。魔力が多い人をミルク製造のために雇わないとだろうな。まあその辺は、カルフォン伯爵が考えてくれるだろう。

 それから話をしながらミルクが冷えるのを待ち、完璧に冷えたところで俺はコップに少量ずつミルクを注いだ。足りない分は伯爵が提供してくれたコップを使っている。

「これで完成だよ。じゃあ皆で飲んでみようか」

 コップを手にした皆の顔を見回しながらそう言うと、皆は緊張の面持ちでコップの中にあるミルクを凝視している。やっぱり未知のものを口にするのは怖いか。

「俺から飲んでみるね。――うん! 美味しいよ!」

 これは良いミルクだ。このホワイトカウ、野生だったのに食べてるものが悪くなかったみたいだ。後はやっぱり採りたてっていうのが良いんだろうな。

「私もいただきます……本当ですね。とても美味しいです」

 次に飲んだのはティナだ。ティナはこくりと一口ミルクを飲むと、パァッと顔を明るくした。

「喜んでもらえて良かった。少し癖があるから嫌いな人もいるかなと思ったんだけど」
「私はとても好きな味です。もっとたくさん飲みたいですね」
「分かる。ゴクゴク飲みたい味だよね。これはクッキーと一緒に食べると凄く美味しいと思わない?」
「絶対に合います!」

 そう言ったティナの瞳はキラキラと輝いていたので、俺は心の中で絶対にティナとお茶会をしようと心に決めた。ミルクを使った美味しいクッキーを作ってもらって、お茶にもミルクを入れてミルクティーにしよう。楽しみだな。

「皆はどう?」

 俺がティナと話をしている間に皆もミルクを口にしていたので問いかけると、八割ほどの人達はすぐに美味しいです! と感想を述べた。しかし二割ほどの皆は首を傾げていたり、顔色が悪かったりする。

「微妙だと思った人は無理に飲まなくて良いよ。大多数は好きだけど、全員に受ける味ではないからね。ただこのまま飲むのが好きじゃない人たちも、ミルクを使った料理なら食べられることもあると思うから試してみて」
「ミルクは料理にも使えるのですか?」

 俺の料理という言葉に嬉しそうな声を発したのはカルフォン伯爵だ。飲み物だけよりも、料理に使える方が売れるから当然か。

「うん。代表的なのはシチューだよ。数日後にミルクがたくさん溜まったら作ってみようか」

 これでやっとシチューが食べられるな。コメも持ってきてるし、コメにかけたシチュー……絶対に確実に美味い。今からお腹が空きそうだ。

「じゃあミルクに関しての話はこのぐらいで良いかな。これからはホワイトカウの飼育環境を整えて、ミルクの交易体制を構築していこう」
「かしこまりました。フィリップ様、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね」

 そうしてホワイトカウに関する話はとりあえず終わりになり、俺はティナと伯爵家の屋敷にでも戻ろうかな……そう思っていたら、ヴィッテ部隊長に声をかけられた。

「フィリップ様、他にもいくつか見つけていた新たな植物を見ていただけませんか?」
「そういえば他にも見つけたって言ってたね。もちろん見るよ」
「ありがとうございます」

 ホワイトカウほどの驚きはないだろうと気軽な気持ちで頷くと、ヴィッテ部隊長は空間石からいくつかの植物を取り出した。俺はその植物を何気なく眺めていて……一つの植物が取り出された瞬間に、ガッと目を見開いた。

「そ、それ! その植物見せて!」
「こちらでしょうか……?」

 これは……あれだ、確実にテンカだ! 砂糖の原料!

「これめちゃくちゃ大切なやつだよ!」
「そうなのですか? ただそれはその一つしか見当たらなくて、周りにも同じものは生えていなかったのです」
「そうなんだ……」

 ということは、なんらかの理由で種が運ばれてきて、たまたま発芽したテンカがあったってことかな。でもそれでも別に良い。とりあえずテンカが存在しているという事実が大切だ。
 この領地にはなくても、周りの領地には確実にあるってことなのだから。

「カルフォン伯爵、これはテンカって植物なんだけど、砂糖という調味料の原料なんだ。ただこれ一つしか生えていないってことは、たまたま一つ育っただけで別の領地に群生してる可能性がある。その場合はそっちの領地の特産品になると思うんだけど、良いかな? それから伯爵さえ良ければ、この一つをサンプルとして譲ってもらえるとありがたい」

 俺のその言葉を聞いた伯爵は、すぐに頷いてテンカを俺に譲ってくれた。

「フィリップ様の願いならば断ることなどあり得ません。ましてやそちらを見つけたのは、フィリップ様が派遣してくださった騎士や冒険者ですから」
「理解してくれてありがとう。じゃあこれはもらっていくね」

 これでテンカも見つけやすくなった。次にヴィッテ部隊長達を派遣するのは、この周辺の領地にしようかな。
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