上 下
136 / 173
第四章 交易発展編

136、領地改革

しおりを挟む
 俺がフィリップになってから三年以上が経過した。俺は十三歳となり、どんどん成長して今ではティナの身長を超えている。まだ成長期真っ只中で日々身長が伸びているので、最終的には高身長が期待できるだろう。

 父上は結構背が高いから期待してはいたんけど、予想以上に成長してるよな……十歳の時から背を伸ばすために頑張ってた甲斐があった。

「フィリップ様、大事なお話とは何でしょうか?」

 今俺がいるのはカルフォン伯爵家の応接室だ。目の前にはティナがいて、机の上には花の香りのする美味しいお茶と、カボで甘味をつけたクッキーが置かれている。
 今では高位貴族なら、お茶と軽食を楽しむぐらいの余裕はあるのだ。三年前に滅亡しそうになってた国だとは思えないよな……本当に頑張った。

「実はさ、今度ライストナー公爵領に行くことになったんだ」
「公爵領に。それはどの程度の期間なのでしょうか?」
「まだ正確には決まってないんだけど、短くても一ヶ月はかかるかなぁ」

 今回俺が公爵領に行くのは、公爵家の嫡男としてというよりも、王宮からの官使として行く。いつも森を探索している皆と共に領地へ行き、王都周辺にはない作物や魔物を見つけて、それをその領地で栽培してもらうのだ。
 そしてその作物と王都で作られている作物で交易をするように整えて、国全体が豊かになることを目指す。

 探索して栽培計画を立てて交易ができるように整えて、そこまでするのはかなりの時間がかかるだろう。

「一ヶ月は長いですね……」
「うん。もっと長くなるかもしれないから、ティナには話をしておこうと思って」
「途中で王都に戻られたりはしないのですか?」
「基本的には戻らない予定だよ。でも一つ考えてることがあって、転移板を作ろうかなと思ってるんだ」

 転移板とは、一枚の大きな魔鉱石に転移の魔法陣を刻んだもののことで、二つ作って初めて使えるようになる魔道具だ。二つが対になるように魔法陣に印をつけ、大量の魔力を消費する代わりに、片方の転移板の上に乗っているものをもう片方の転移板に移動させることができる。これは物だけでなく、人間など生物も移動可能なのだ。

 かなり便利で、これがあるだけで国の発展速度が格段に上がるから作ろうと思ってたんだけど、転移板にできるような大きな魔鉱石がなくて後回しになっていた。
 ちょうどこの前大きな魔鉱石が採掘されて、二つの転移板を作れる準備は整っているので、満を持して作ろうと思う。かなり難易度が高い魔道具作成だけど……なんとか成功させられるはずだ。俺もこの三年でかなりたくさんの魔道具を作って、腕を磨いたから。

「遂に転移板を作ることができるのですね! フィリップ様に何度か詳細を聞きましたが、国にとって有益なものとなることは間違いないと思います」
「そうなってくれたら嬉しいよ。争いの種にならないようにだけ気をつけないと」

 転移板は敵に渡ってしまったらかなり危険な物なので、その扱いはことさら慎重にする必要がある。とりあえず俺が最初に作る転移板は、公爵家の王都邸と領地にある屋敷の一室に設置して、そのどちらにも護衛兼見張りを置く予定だ。

「転移板が作れたら王都と領地を頻繁に行き来できるだろうから、ティナにも会いにくるね」
「ありがとうございます。お土産話を楽しみにしていますね」
「もちろん。新しい作物が見つかったらそれも優先して届けるから楽しみにしてて」
「まあ、それは素敵ですね。養父様と養母様の分もできればお願いいたします」
「それはもちろん」

 ティナは俺がすぐに頷いたのを見て、嬉しそうに頬を緩めた。ティナとカルフォン伯爵夫妻の関係は良好で、本当の親子のように打ち解けている。ティナは以前より毎日が楽しそうで、本当に良かったなとここにくるたびに思う。

 ちなみにティナは孤児院の仕事は続けている。しかし他にもやるべきことがあるので勤務日は以前より減らし、孤児院には別の職員も雇っている。そしてティナはその空いた時間で様々な勉強と、治癒のヘルプをしてくれているのだ。
 治癒院で働く治癒師は二人増えて全部で四人になってるけど、その四人で足りない場合のみティナが呼ばれることになっている。正式な治癒師ではないので基本的には顔を明かさないように、普通の患者対応はせずに騎士団の怪我を治癒するのがほとんどだ。

「私も別の街に行ってみたいですね……」
「本当? じゃあ許可が降りて転移板も成功したら、公爵領を案内しようか?」
「良いのですか!?」
「多分大丈夫じゃないかな……ファビアン様に聞いてみてになるけど。後はカルフォン伯爵夫妻にも」

 俺のその言葉を聞いて、ティナは瞳を輝かせて少し身を乗り出した。

「私が養父様と養母様にはお話をしておきます。フィリップ様は王太子殿下へ話をお願いいたします」
「了解。そんなに公爵領に行ってみたいの?」
「はい! 王都の外には出たことがありませんから、とても気になります。こことはまた違った植物があったりするのですよね?」
「気候が少しは違うからあると思うよ。ムギと似た主食になるイネや、砂糖の原料であるテンカって植物を特に探したいと思ってるんだ。まあその二つじゃなくても、なんでも新しい作物は嬉しいんだけどさ」

 イネやテンカはどんなに探しても王都周辺にはなかったからな……今でも冒険者や騎士達が頻繁に森に出入りしてるけど、見つかったという報告は来ていない。
 もう王都周辺にあって見つかっていないという可能性はかなり低いと思うので、見つけられるとすればそれぞれの領地の森だ。まだ王都以外はそこまで発展していなく、森の探索までは手が回ってないところも多いらしいから。

「砂糖とはフィリップ様がいつも欲しいと仰っているものですね」
「そうなんだよ。あれがあればこのクッキーがもっと美味しくなるんだ。後はイネもかなり欲しいよ」

 ムギがあって、パンやパスタなど美味しいものはたくさん増えたからこれ以上は贅沢かもしれないけど、やっぱりたまにはコメを食べたくなるのだ。トマトパスタも美味しいけど、トマトリゾットも食べたい。

「それらの植物が見つかると良いですね」
「うん。頑張って探してくるよ」
「良い報告をお待ちしています」

 そうして俺はティナに出立の報告をして、カルフォン伯爵夫妻にも挨拶をして屋敷を後にした。ティナと過ごす時間は穏やかで楽しくて、屋敷を出た馬車の中で俺は頬を緩めていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...