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第三章 農地改革編

129、ダミエンの反応

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 ダミエンが部屋に来るのを心待ちにしつつティナと話をしながら待っていると、しばらくしてから急いだ様子でダミエンが部屋をノックして入ってきた。

「遅くなってしまってすみません。一人ぐずった子がいて」
「気にしないで。もうその子は大丈夫?」
「はい。他の子と掃除に戻ってくれましたので問題ありません。では失礼いたします」

 ダミエンが一言断ってから椅子に腰掛けると、ティナの部屋には沈黙が流れた。なんとなく緊張感のある雰囲気だ。俺はその雰囲気を少しでも早くいつも通りに戻したくて、急かされるように口を開いた。

「今日は時間を取ってくれてありがとう。実は大切な話があってダミエンを呼んだんだ。聞いてもらえると嬉しい」
「もちろんです」
「実は……俺とティナなんだけど、婚約することになったんだ」

 俺はダミエンがどれほど驚くかと覚悟しながらその言葉を告げると、予想に反してダミエンは、なんてことはないように頷いた。

「かしこまりました」
「……驚かないの?」
「いつかはこうなると思っておりましたので。フィリップ様のお気持ちは分かりやすかったですし、ティナの気持ちも見ていればすぐに分かりましたから。それに二人の雰囲気が途中からあからさまに変わりましたし……」

 マジか……めちゃくちゃ恥ずかしいな。そんなに分かりやすかったのか。ティナと今まで通りに過ごそうって決めて、気持ちを通じ合わせてからも普段通りにしてたのに。

「そんなに分かりやすかった……?」
「うん。ティナがめちゃくちゃ浮かれてたし」
「うぅ、恥ずかしい」

 ティナはダミエンから告げられた言葉がよほど恥ずかしかったのか、顔を両手で覆って顔を隠してしまった。しかし耳が赤いのが横から丸見えだ。
 まあ俺もティナのことは言えないだろうけど……顔が凄く熱い気がするのは気のせいじゃないだろう。

「お、オホンッ。あの、そういうことだから……ティナの上司であるダミエンにも知っておいてもらわないとって思って話をしたんだ」

 俺はわざとらしく咳払いをして、無理やり話を戻した。

「ティナは仕事を辞めるということでしょうか?」
「ううん。少なくとも結婚するまでは仕事を続けてもらえると思う」
「私はフィリップ様と婚約するためにカルフォン伯爵家の養子にしていただくんだけど、伯爵様が許可してくださったから仕事は続けられるの」

 ダミエンはティナのその言葉を聞いて、俺とティナが婚約をするという話では変化がなかった顔を変化させた。

「伯爵家の養子って……伯爵家の養子!? ティナが貴族様になるってことか!?」
「そうだよ。そうじゃないとフィリップ様に嫁ぐのはさすがに無理だからね」
「……そうか、確かにそうだな。――これからはティナ様って呼んだ方が良いのか?」
「ううん、ティナで良いよ。ただ公の場ではそう呼んでもらわないといけなくなるのかな」
「分かった。覚えておく」

 ダミエンはそこまで話してやっと落ち着いたのか、深呼吸をしてから口を開いた。

「ではティナは伯爵家の養子になってからも、孤児院に通って仕事をするということでしょうか?」
「そういうことになるね。住み込みじゃなくなるし、今まで通りにはできないと思うから配慮をお願いしたいんだ。あと結婚してからはさすがに働けないだろうから、そのことも頭の片隅に入れておいて欲しい」
「かしこまりました」
「もし人員が足りなかったらすぐに言ってね。できる限り早く補充するから」

 これからは教育を受けた平民も増えていくだろうし、孤児院で働く人を募集するのは難しくなくなるはずだ。それにダミエンが読み書き計算できるなら、もう一人はその能力がなくても問題はない。できれば教養がある人の方が良いのはもちろんだけど。

「そうだダミエン、近いうちにカルフォン伯爵夫人と私の部屋を整えるためのお買い物に行くんだけど、いつなら休めるかな?」
「そうだな……俺が王宮に行く日以外ならいつでも大丈夫だと思うぞ」
「分かった。じゃあそう伝えて、買い物に行く日が決まったら知らせるね」
「了解だ。できる限り早く知らせてくれるとありがたい」
「それはもちろんだよ」

 予想以上にダミエンが普通に受け入れてくれて、このあとティナが働き続けるのにも問題がなさそうで良かったな。

「そうだ、子供達にはどう説明するんだ?」
「子供達には私が養子に入ることは伝えるけど、それ以外はその時が来るまでは伝えないよ。ダミエンも婚約や結婚のことは秘密だから誰にも話さないでね」
「それはもちろんだ。……けど、貴族の養子に入るなんて理由をしつこく聞かれると思うけどな」

 そうなんだよな……それが一番の問題だ。そこはティナとも一番悩んだところだけど、最終的には貴族に関わることで今は理由が話せないと言うしかないという結論になっている。

「私が根気よく話をするよ。皆は良い子達だから理解してくれるだろうし、貴族に関わることは深追いしちゃいけないってことを学んでもらう良い機会でもあると思うから」
「確かにそうだな。じゃあ子供達への対処はティナに任せる」
 
 そうしてダミエンに伝えたいことは全部伝え終わり、これから先の対応についても話し合ったところで、部屋には穏やかな沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは優しい笑みを浮かべたダミエンだ。

「それにしても……本当に良かったな。ティナはフィリップ様と身分差があるから、これからどうなるのかと少し不安ではあったんだ。――ティナ、フィリップ様、改めて婚約おめでとうございます」
「ダミエン、ありがとう」

 ティナはダミエンからの祝いが嬉しかったのか、瞳に涙を光らせながら笑みを浮かべた。俺もそんなティナの表情を見て、自然と笑顔になる。

「ダミエン、ありがとう。これからもよろしくね。ティナのことも孤児院のことも」
「かしこまりました。精一杯頑張らせていただきます」
「ダミエン……これからも、よろしくね」
「おうっ、孤児院にいる時にはこき使ってやるからな」
「うん……うんっ、なんでも言って。頑張って働くから」
 
 それからは終始穏やかな雰囲気で話が進み、子供達の掃除が終わる時間になったところで、話し合いは終わりとなった。
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