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第三章 農地改革編

95、報告

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 俺が二人に近づくと、二人も俺の方に歩いて来てくれてすぐに合流することができた。

「来てくださったのですか?」
「もちろんだ。フィリップならば心配はいらないと思っていたが、助力を願うほどの相手となると万が一ということもあるからな……心配したぞ」
「ありがとうございます。なんとか討伐することができました。正直、応援がなければ厳しかったと思います」

 俺が発したその言葉に事態の重さを改めて感じたのか、二人の表情が曇る。この街のほぼ全勢力でギリギリだったってことだから、上に立つ者としては大変な事態だよね。

「城壁の上から見てたんだけど、相当大きい魔物だったよね」
「うん。ジャイアントディアっていう魔物」
「そんな魔物いたっけ……少なくともよく現れる魔物一覧には、いなかった気がするんだけど」
「ジャイアントディアは遭遇したらよっぽど不運だと言われるほど、個体数も少ない魔物だったはずなんだ。だからその不運が今回襲ってきたのか、もしかしたら個体数が増えてるのか……そこは分からない」

 前者だと信じたいけど、常に最悪を意識しておくべき立場としては、後者の可能性も考慮しなければいけない。全国民に教育を受けてもらえるような整備も前倒しするべきかな……飢えに苦しむということは無くなってきたし、不可能ではないはずだ。

「フィリップ、とりあえず王宮に行こう。陛下と宰相様が待っているから、そこで報告をしてくれ」
「そうなのですね。分かりました」
「その前に、皆に指示をしないとだな」

 ファビアン様はそう呟くと、徐に近くにあった木箱の上に乗り、皆の視線を集めた。そして辺りが静かになったところで口を開く。こういう上に立つ者のオーラというか、皆をまとめる力はやっぱり凄い。

「皆の者、聞いてくれ。――皆のおかげで王都の、いや国全体の脅威であった魔物を討伐することができた。皆の働きに国民を代表して礼を言いたい。本当にありがとう。今日は各自そのまま休んでくれ。明日からもまた国のためによろしく頼む」

 ファビアン様の言葉によって皆の表情が変わった。さっきまで漂っていた疲れた雰囲気がなくなり、誰もがやる気に満ち溢れている。

「フィリップ、マティアス、王宮に戻るぞ」

 木箱から降りて俺達のところに戻って来たファビアン様は、凄いことをしたという意識はほとんどなく、淡々とそう告げた。当たり前のように人々をまとめて引っ張れるって、稀有な才能だ。

 そうして俺達はその場での会話はそこそこに、場所を王宮に移した。
 

 陛下と宰相様は執務室にあるソファーで待ってくれていたので、俺達三人は対面に腰を下ろす。

「まずはフィリップ、本当に無事で良かった。私達は強大な魔物が現れたという事実しか聞いていないのだが、何があったのだ?」
「ありがとうございます。……探索を終えて街に戻ろうと森の中を戻っていた時、ジャイアントディアという魔物に出くわしたのです」

 そこから俺はジャイアントディアを見つけてから討伐するまでを、事細かに説明した。その説明を聞いた陛下と宰相様は、お二人とも難しい表情で考え込んでしまう。

「そのフィリップ君が言うところの上位種、そういった魔物が増えているのならば問題だね」
「はい。しかし現状では、今回が不運だったのか増えているのか判断はできないのですが」
「確かにそうだが、楽観視するのは良くない。フィリップ、もしジャイアントディアのような魔物が増えているのだとしたら、どうすれば良いか案はあるか?」

 正直に言うとそこまで良い案はない。とにかくこの国には戦力が足りなすぎるし物資も足りないのだ。

「できるとしたら戦力を増やすこと、弱い魔物の数を減らして上位種の餌を減らすこと、その程度しかないと思います。あとは街の外の見回りを増やすことで、事前に魔物の接近を察知することはできますが……察知できたとして対処できるかは別問題です。しかし奇襲をかけられなければ今回のように街から離れたところに誘導もできますし、一定程度の効果はあるかと」

 ただ魔物を減らすのにも見回りをするのにも、やっぱり人手が必要なのだ。それも魔物に勝てる強い人材が。最終的には近道なんてものはないから、時間をかけて戦力増強をやっていくしかないという結論に至る。

「どれも実行には時間がかかるな」
「現状で着手できるのは、見回りの強化程度ですね」
「それも人手不足だろう?」
「そうですが、街中の警邏を減らして街の外に人手を増やすというのはありだと思います。スラム街の解体などさまざまな政策により、治安は以前より良くなっておりますので」

 宰相様のその提案に、陛下は少し考えた後で首を縦に振った。確かに今は街中よりも街の外に重点を置くべきだ。

「その方向性で見回りの強化をしよう。また見知らぬ魔物を発見した際の動きについても、民の安全確保を第一として定めるべきだな」

 そうして一応これからの方針が決まったところで、次はジャイアントディアの素材についての話に移った。

「ジャイアントディアは解体したのだったな。素材はどれほどあるのだ?」
「私の空間石に全て入っていますが、あと少しで入りきらなくなるほどに大量です。肉は到底貴族達でも食べきれないほどなので、無駄にせず消費する方法を考えるべきだと思います。ツノと皮は今すぐに加工する必要はないので、ゆっくりと使い道を考えれば良いと思います」

 現物を見せた方が良いかな……そう思って執務室をぐるっと見回してみても、あの大きなツノを取り出せる場所がない。

「陛下、王宮の空間石をお借りできますか? 素材をお見せしようと思ったのですが、取り出す場所が足りませんので」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます」

 俺は執務室の一角にあったテーブルと椅子、それからいくつかの棚を空間石に収納した。そしてその場所に肉が詰まった木箱と大きな一枚の皮、ツノを取り出す。

「おおっ、予想以上の大きさだ」
「これでも六つに分けたうちの一つなんです」
「なんと……想像できないほどだな」

 やっぱりツノの大きさに驚くみたいだ。ジャイアントディアはこのツノが本当に厄介なんだよね……こうしてマジマジとツノを見ることができるのが、なんだか不思議な感じだ。

「この木箱の中は全て肉なのかい?」
「氷も入っていますが、肉も結構詰まっています。その木箱があと百個以上はありますね」
「……それは凄いね。確かに貴族だけでは消費しきれない。肉は騎士達に分けて、残った分は平民に売ってしまおうか。無駄にするぐらいならば、価格を抑えて売ってしまった方が良いだろう」

 やっぱりそういう話になるか。売るとすればできる限り早い方が良いから、今日これからかな。

「ではこのあと文官達に手伝ってもらい、王都の各地域、給水器が設置された広場で売るのはどうでしょうか?」
「確かにそれが良いかもしれないね。私がこれから手配をしよう。フィリップ君は空間石から肉をそれぞれに振り分けてくれるかい?」
「かしこまりました」
「ツノと皮はどうする?」

 肉の行き先を決めたところで、皮の強度を確かめていた陛下が顔を上げた。

「その二つは武器と防具にするのが一番だと思います。ただ特にツノは加工が難しいですし、すぐにというわけにはいかないと思いますが」
「確かにそうだな。……ではとりあえず処理を完璧にしてから倉庫にしまっておくか」

 そうして素材の行き先がそれぞれ決まり、これから肉の販売をしなければいけないということで、今日のところは解散となった。

 俺は文官達に木箱ごと肉を渡していき、ツノと皮も担当となった人達に全て渡して今日の仕事を終えた。森の探索に行くだけだったはずなのに、長い一日になったな。
 そういえば探索の成果は報告できなかったけど……また明日で良いか。今日は慌ただしいし。
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