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第二章 王都改革編

87、攻撃見本と魔道具師

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 俺は皆にそう告げると一歩前に出た。そして一匹目は土属性で小さな石を作ってそれを頭に直撃させ、二匹目は風魔法で縦に大きい風の刃を作って胴体を真っ二つにし、三匹目は水魔法でビッグラビットの上から水を降らせて重さで飛べなくしてから、圧縮して相当な威力にした水を噴出させ、四匹目は火魔法でビッグラビットの全方向から火で攻めて逃げ場を無くし……、そうして四匹を順番に倒した。

 本当なら魔法陣を一つだけ描き同時に四匹倒すのも難しくはないのだけど、いろんな倒し方を教えるために一匹ずつ倒してみせた。

「フィリップは、凄いな……」
「予想以上だったよ」

 ビッグラビットの処理を騎士に頼んで振り返ると、ほぼ全員が口を開けてぽかーんとしている。そういえば俺って皆の前で攻撃魔法を使ったことなかったのか……それならここまで驚かれるのも納得だ。

「ありがとうございます。……皆さんは同じ魔法を何度も角度や速度、発射位置を変えて繰り返していましたが、当たらなければ属性を変えたり、広範囲に影響のある魔法にしたりといろいろ工夫が必要です」

 ただそれが難しいのは分かる。これは神聖語を完璧に理解し、その場で素早く魔法陣を構築することができなければ不可能だ。これからの授業は……神聖語と魔法陣の構築練習がメインかな。あとたまには実戦も挟んで、実戦慣れしてもらうことも大切か。

「今日で課題が分かったと思うので、その課題を克服するべくこれからはより頑張って下さい。ということで、ここで話していると危ないので街の中に戻りましょう」

 それからは手分けしてビッグラビットを運んで街中に戻り、冒険者と騎士には解体をお願いして、俺は平民と文官を連れて王宮に戻った。

「文官の皆さんはここで解散で構いません。平民の皆さんには残ってもらえますか?」
「かしこまりました。では私達は失礼いたします」
「はい。また次の授業で」

 中央宮殿の入り口で文官とも別れて、七人の平民と俺、ファビアン様、途中で合流したマティアスとシリルで会議室に入る。

「自由に座って下さい」

 授業ではなくこれからしたいのは話し合いなので、向かい合って座った。

「今日ここに集まってもらったのは、これから先の進路について相談をしたいからです。騎士、文官、冒険者の皆さんはこれから先もずっとそのままの職業ですが、皆さんはこれからが自由に決められます。私としては魔道具師として雇いたいのですが、嫌々働いても良い結果にはなりませんから、今一度意思確認をしたいと思っています」

 俺のその言葉にやっと魔道具師として雇ってもらえると思ったのか、皆の瞳が光り輝く。今までも授業に参加することで仕事ができない間の補填はしていたけど、やっぱり仕事をしているというのは気持ち的にも大切なのだろう。
 勉強して身に付いていることは分かっても、焦りが完全には無くならないだろうし。

「魔道具師として国に仕えたいと思ってくれている方、挙手をお願いします」

 俺がその言葉を言い終わるか終わらないか、そのぐらいのタイミングで全員が勢いよく手を上げた。冒険者を目指したい人もいるかな……って心配してたけど、全くいらない心配だったみたいだ。

「ぜひ魔道具師として雇っていただきたいです!」
「私もお願いします。国に雇っていただけるなど光栄です。貴重な知識をたくさん学ばせていただいたのですから、今度は私が国のために働く番です」

 礼儀作法等の授業は途中から増やされてかなり熱心にしていたので、もう敬語は完璧だ。誰もが積極的に働きたいと思ってくれて、本当にありがたい。

「ありがとうございます。いや、ありがとう。今までは教師と生徒だったから敬語を使ってたけど、これからは上司と部下になるからね。じゃあ皆を魔道具師として明日から国で雇いたいと思う。改めて、俺は宰相補佐で魔道具工房の相談役も兼任する予定のフィリップ・ライストナーです。これからよろしくね」
「よろしくお願いします」

 全員が声を揃えて挨拶をしてくれたところで、次はシリルを紹介する。

「そしてこっちが魔道具工房の工房長になるシリルだよ」
「シリルと申します。よろしくお願いいたします」

 王立の工房である魔道具工房を設立するにあたって、一番揉めたのは工房長を誰にするかだった。シリルは絶対に俺だと主張して、俺は絶対にシリルにすべきと主張してどちらも譲らなかったのだ。
 そこで結局は俺を相談役として工房のトップに据えることで、とりあえずの合意を得た。

「俺達二人が直接の上司だから、分からないことがあったら遠慮せずにいろいろ聞いて欲しい。俺には聞きづらかったらシリルを通してでも良いから、どんな些細なことでも質問してね」
「かしこまりました」

 身分差がある人達が集まった職場で一番問題になるのは、下の身分の人達が萎縮してしまうことなんだ。前の世界でもかなり問題になっていた……ミスをしたのに怖くて報告できなくて大事になったり、疑問点を質問できなくて勝手に進めて失敗したり。
 それを回避するためにも、誰もが声を上げやすい職場の雰囲気が一番大事だと思っている。魔道具工房では俺だけ身分が高いことになるから、皆を萎縮させないように気を付けないと。

 ハインツの時に王宮魔術師の上司でいたんだよな……爵位が低い者は上に従えばいい、平民なんて口を開くことも不敬だ、みたいな主張をしてた人が。実家がかなりの大貴族で辞めさせられなかったんだけど……あの人どうなったんだろ。皆が働きやすい職場になってたら良いけど。
 俺は昔の仲間を思い出してしまい、思わず感傷的になりそうなところで何とか思考を切り替えた。

「それから知ってると思うけど、こちらにいるのが王太子殿下のファビアン様、そしてその隣が俺と同じ宰相補佐のマティアス。一応紹介しておくね」
「ファビアン・ラスカリナだ。皆の働きには期待しているぞ」
「マティアス・クライナートです。フィリップと一緒に宰相補佐をしてるから、皆と関わることもあると思う。よろしくね」

 二人の挨拶にも皆が礼儀正しく頭を下げて、とりあえず今ここにいる人達の紹介は終わった。あとは働きながらその時その時で挨拶していけば良いだろう。それに授業でも関わりがあるから、初対面の人は少ないだろうし。

「じゃあ早速明日からの流れなんだけど、とりあえず皆には明日から毎日魔道具工房に通って欲しい。工房の場所はこのあと教えるね。それで住む場所なんだけど、文官棟に引っ越したい人はいる?」

 王宮で働く文官や騎士は、半数以上が王宮の敷地内にある騎士棟と文官棟で生活をしているのだ。しかし基本的には単身者用なので、家族がいる場合は街から通ってることが多い。

「私は住みたいです」
「僕も是非。朝が弱いので職場に近いほど有難くて……」
「了解、二人は文官棟希望だね。他の人はどう?」
「家族がいるので私はこのまま通いでお願いします」
「私も通いが良いです」

 そうして全員に希望を聞き、結局は三人が文官棟に引っ越し、四人はそのまま街に住み続けることになった。しかし四人の中でも、二人は家族ごと王宮近くに引っ越すことを考えているらしい。

「引っ越しの日とその前後は、休みを取れるようにするから遠慮なく言ってね」

 そこで俺は一度言葉を切り、一呼吸置いてから次の話に移るために口を開いた。
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