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第二章 王都改革編
78、諸々の手続き(アルベルト視点)
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私の息子であるフィリップが、ティータビア様から知識を授かり宰相補佐に就任してから、この国は目に見えて良い方向に向かっている。
平民街が貴族街と同等なほど綺麗になり、スラム街は解体されて畑が増え、それによって収穫量は上がり、孤児院が作られて親を亡くした子供達が途方に暮れることもなくなった。さらに魔道具で綺麗な水がいつでも手に入るようになり、雨を降らせることもできるので水不足で作物が育たぬ心配もいらない。
たった数ヶ月でここまで変わるとは……心から驚くと共にとても誇らしい。私もフィリップに負けないよう、領民のために尽くさなくてはと気合が入る。
「ヴィクトリア、少し話があるんだが良いか?」
朝食後にフィリップが仕事に行くのを見送り、マルガレーテとローベルトが家庭教師と自室に入ったのを見届けてから妻に話しかけた。
「ええ、もちろん。あなたの執務室で良いかしら?」
「ああ、ヴィクトリアの仕事は大丈夫か?」
「半日程度なら問題ないわ」
ヴィクトリアは優しく微笑んで私の隣に並ぶ。本当に良き妻を得て幸せだな……この家族を守るためにも頑張らなくては。
執務室に入り、ヴィクトリアと向かい合ってソファーに腰掛けた。そして従者が水の入ったカップを机に並べてくれたところで、早速本題に入る。
「実は近いうちに領地へ行こうと思ってるんだ」
「……まだいつも向こうへ行く時期ではないけれど、何か問題でもあったの?」
「いや、そうじゃない。実は王家から連絡があって、給水器と降雨器を領地の広さと街の数によって、必要な分を準備してくれるらしいんだ。それで王都のように領地の改革をして欲しいということらしい」
王都が住みやすい街になり、領民には未だ苦しい生活をさせているという事実がとても心苦しかった。だから王家からのこの申し出は本当にありがたいものだ。
「あら、それは素敵ね。早く領民の生活を少しでも楽にしてあげなくては」
ヴィクトリアはそう言ってにっこりと微笑んだ。貴族の中にはこの提案を聞いて面倒くさいとか、領地まで行くのは嫌だとか、そんな声を上げている者もちらほらと見かけたが、私はそういう貴族の考えに全く共感できない。ヴィクトリアが私と同じ方向を向いてくれて良かったと心から思う。
そもそも民がいなければ貴族は暮らしていけないのに、その民を蔑ろにして、あまつさえ愚策や自己中心的な考えで苦しめるなど言語道断だ。ああいう者達は端から爵位を取り上げられたら楽なのだろうが……さすがにそんな過激なことはできないのが難しい。
「まず街を綺麗にしたら収穫量が増えるように改革をして、さらに衛生観念の話もできる限り浸透させてくる」
「それは大切ね。病気の蔓延は誰をも不幸せにするわ」
「ああ、後はフィリップから税の制度改革も早急にやるべきだと助言されたから、そこにも着手してこようと思う」
王宮では税制度の改革が始まったようだし、私は王弟でありフィリップの父親という一番情報を得やすい立場なのだから、貴族の見本として王家に追従しなくてはいけない。
今回はとにかくやることが多くて大変だろうが、できる限りのことをやってこよう。
「期間はどれぐらいになりそう?」
「そうだな……もしかしたら一ヶ月ほどは帰ってこないかもしれない。やはり街の外は危険だから、何度も行き来せずに一度で終わらせてしまいたいんだ」
「そうよね、分かったわ。では屋敷と王都での仕事は私に任せて、あなたは領地をお願いね」
「ああ、任せておけ。こちらのことは頼んだぞ」
そうして私はヴィクトリアとの話し合いを終え、領地に向かうための準備を開始した。
公爵家の領地は比較的王都から近く、領都までは馬車で早朝に出れば日が沈むまでには着けるほどの距離だ。よって野営の準備や、道中の食事の準備が必要ないのはありがたい。
またライストナー公爵家には馬車と馬もあるのでその手配が要らないため、特別に準備しなければならないのは護衛ぐらいだ。
貴族が領地に向かうときには、王家から馬車と共に騎士数名を護衛として借りることができるので、私はいつも騎士だけを借りている。
護衛として借りる騎士は騎乗ができる優秀な者達で、各領地にいる時にはその領地周辺の魔物狩りをしてくれるので、とてもありがたい存在だ。
「メディー、王宮に行きたいから馬車の手配を頼む」
「かしこまりました」
従者のメディーに手配を頼み、王宮に行くための準備を整えた。貴族が様々な手続きを済ませたいときには王宮の入り口でその旨を門番に伝え、中央宮殿の応接室で文官に対応してもらうのが普通だ。
私も例外ではなくその通りに手続きをし、中央宮殿前に馬車を停めて建物の中に入った。すると応接室には既に文官が二名立礼をして待っていた。
「ライストナー公爵様、ご足労いただきありがとうございます」
「こちらこそ時間をとらせてすまないな」
「いえ、お気になさらないでください。本日は護衛手配のお話でよろしかったでしょうか?」
私がソファーに座ると文官二人も向かいに座り、無駄な話はせずに早速話が始まる。
「ああ、近いうちに領地に向かうため騎士を借りたい。期間は一ヶ月を想定している」
「比較的長い期間なのですね、かしこまりました。人数は三名でよろしいでしょうか?」
「問題ない」
文官達は小さな紙に私の要望をサラサラと書いていく。この紙が騎士団の方に行き、そちらで適切な者が選ばれるのだ。
「出発日は決まっていますか?」
「そうだな……明後日の早朝はどうだろう?」
「二日後でしたら問題ありません。ではその予定で空いてる者を手配いたします」
「よろしく頼む」
そこまで話をしたところで、文官はペンを置いて紙を折り曲げて懐に仕舞った。
「他には何か手続きしたいことなどはございますでしょうか?」
「ライストナー公爵領に支給される給水器と降雨器を受け取りたい」
「かしこまりました。今回領地に持っていかれるということですね」
「そうだ」
護衛の手配をしたいという要望で予想してたのか、隣にいたもう一人の文官が持っていた紙束を開いて中を確認する。チラッと見えた感じ、各領地の給水器と降雨器の必要個数が書かれているらしい。
「ライストナー公爵領では……こちらの数だけ支給になります」
そして目的の紙を見つけると、私が読めるように紙束を広げて固定してくれた。
「一度に全て受け取られますか? 何度かに分けることも可能ですが」
「一度に全てを受け取ろう」
「かしこまりました。紛失や破損をされてしまった場合、次は支給ではなく購入していただくことになりますのでお気をつけください。では現物を持って参りますので、少々お待ちください」
それから部屋に残った一人の文官と当たり障りのない雑談を交わしていると、魔道具を取りに行った文官は数分で応接室に戻ってきた。部屋を出ていった時との違いは腕に木箱を抱えているか否かだ。
「お待たせいたしました。こちらが給水器、そしてこちらが降雨器でございます」
木箱の蓋を開いてくれたので中を覗き込むと、そこには魔法陣が浮かび上がった青石があった。いや、青石ではなくて魔鉱石と言うんだったな。
「王都に設置されている給水器は岩の台座に嵌められていたと思うが、それはどうすれば良いのだ?」
「そちらは領地で工房に注文をしていただくことになっています。こちらが設計図です」
差し出された一枚の紙には、かなり細かく採寸が指定された設計図が描かれていた。これは向こうに着いたらすぐにでも頼まないとダメだろう。腕利きの職人でも時間がかかりそうだ。
「ありがとう。では全てもらっていく」
「こちらに受け取りのサインをお願いいたします」
「分かった。……これで良いか?」
「問題ありません」
先程の紙束の端に俺がサインをして、それを文官が確認して紙束を閉じたところで、今日やりたい手続きは終わった。
「今日はありがとう。騎士の手配が決まったら知らせてくれ」
「かしこまりました」
これでほとんどの準備は終わりだ。今回は多くの良い知らせがあるし、領地に向かうのがいつもより楽しみだな。
平民街が貴族街と同等なほど綺麗になり、スラム街は解体されて畑が増え、それによって収穫量は上がり、孤児院が作られて親を亡くした子供達が途方に暮れることもなくなった。さらに魔道具で綺麗な水がいつでも手に入るようになり、雨を降らせることもできるので水不足で作物が育たぬ心配もいらない。
たった数ヶ月でここまで変わるとは……心から驚くと共にとても誇らしい。私もフィリップに負けないよう、領民のために尽くさなくてはと気合が入る。
「ヴィクトリア、少し話があるんだが良いか?」
朝食後にフィリップが仕事に行くのを見送り、マルガレーテとローベルトが家庭教師と自室に入ったのを見届けてから妻に話しかけた。
「ええ、もちろん。あなたの執務室で良いかしら?」
「ああ、ヴィクトリアの仕事は大丈夫か?」
「半日程度なら問題ないわ」
ヴィクトリアは優しく微笑んで私の隣に並ぶ。本当に良き妻を得て幸せだな……この家族を守るためにも頑張らなくては。
執務室に入り、ヴィクトリアと向かい合ってソファーに腰掛けた。そして従者が水の入ったカップを机に並べてくれたところで、早速本題に入る。
「実は近いうちに領地へ行こうと思ってるんだ」
「……まだいつも向こうへ行く時期ではないけれど、何か問題でもあったの?」
「いや、そうじゃない。実は王家から連絡があって、給水器と降雨器を領地の広さと街の数によって、必要な分を準備してくれるらしいんだ。それで王都のように領地の改革をして欲しいということらしい」
王都が住みやすい街になり、領民には未だ苦しい生活をさせているという事実がとても心苦しかった。だから王家からのこの申し出は本当にありがたいものだ。
「あら、それは素敵ね。早く領民の生活を少しでも楽にしてあげなくては」
ヴィクトリアはそう言ってにっこりと微笑んだ。貴族の中にはこの提案を聞いて面倒くさいとか、領地まで行くのは嫌だとか、そんな声を上げている者もちらほらと見かけたが、私はそういう貴族の考えに全く共感できない。ヴィクトリアが私と同じ方向を向いてくれて良かったと心から思う。
そもそも民がいなければ貴族は暮らしていけないのに、その民を蔑ろにして、あまつさえ愚策や自己中心的な考えで苦しめるなど言語道断だ。ああいう者達は端から爵位を取り上げられたら楽なのだろうが……さすがにそんな過激なことはできないのが難しい。
「まず街を綺麗にしたら収穫量が増えるように改革をして、さらに衛生観念の話もできる限り浸透させてくる」
「それは大切ね。病気の蔓延は誰をも不幸せにするわ」
「ああ、後はフィリップから税の制度改革も早急にやるべきだと助言されたから、そこにも着手してこようと思う」
王宮では税制度の改革が始まったようだし、私は王弟でありフィリップの父親という一番情報を得やすい立場なのだから、貴族の見本として王家に追従しなくてはいけない。
今回はとにかくやることが多くて大変だろうが、できる限りのことをやってこよう。
「期間はどれぐらいになりそう?」
「そうだな……もしかしたら一ヶ月ほどは帰ってこないかもしれない。やはり街の外は危険だから、何度も行き来せずに一度で終わらせてしまいたいんだ」
「そうよね、分かったわ。では屋敷と王都での仕事は私に任せて、あなたは領地をお願いね」
「ああ、任せておけ。こちらのことは頼んだぞ」
そうして私はヴィクトリアとの話し合いを終え、領地に向かうための準備を開始した。
公爵家の領地は比較的王都から近く、領都までは馬車で早朝に出れば日が沈むまでには着けるほどの距離だ。よって野営の準備や、道中の食事の準備が必要ないのはありがたい。
またライストナー公爵家には馬車と馬もあるのでその手配が要らないため、特別に準備しなければならないのは護衛ぐらいだ。
貴族が領地に向かうときには、王家から馬車と共に騎士数名を護衛として借りることができるので、私はいつも騎士だけを借りている。
護衛として借りる騎士は騎乗ができる優秀な者達で、各領地にいる時にはその領地周辺の魔物狩りをしてくれるので、とてもありがたい存在だ。
「メディー、王宮に行きたいから馬車の手配を頼む」
「かしこまりました」
従者のメディーに手配を頼み、王宮に行くための準備を整えた。貴族が様々な手続きを済ませたいときには王宮の入り口でその旨を門番に伝え、中央宮殿の応接室で文官に対応してもらうのが普通だ。
私も例外ではなくその通りに手続きをし、中央宮殿前に馬車を停めて建物の中に入った。すると応接室には既に文官が二名立礼をして待っていた。
「ライストナー公爵様、ご足労いただきありがとうございます」
「こちらこそ時間をとらせてすまないな」
「いえ、お気になさらないでください。本日は護衛手配のお話でよろしかったでしょうか?」
私がソファーに座ると文官二人も向かいに座り、無駄な話はせずに早速話が始まる。
「ああ、近いうちに領地に向かうため騎士を借りたい。期間は一ヶ月を想定している」
「比較的長い期間なのですね、かしこまりました。人数は三名でよろしいでしょうか?」
「問題ない」
文官達は小さな紙に私の要望をサラサラと書いていく。この紙が騎士団の方に行き、そちらで適切な者が選ばれるのだ。
「出発日は決まっていますか?」
「そうだな……明後日の早朝はどうだろう?」
「二日後でしたら問題ありません。ではその予定で空いてる者を手配いたします」
「よろしく頼む」
そこまで話をしたところで、文官はペンを置いて紙を折り曲げて懐に仕舞った。
「他には何か手続きしたいことなどはございますでしょうか?」
「ライストナー公爵領に支給される給水器と降雨器を受け取りたい」
「かしこまりました。今回領地に持っていかれるということですね」
「そうだ」
護衛の手配をしたいという要望で予想してたのか、隣にいたもう一人の文官が持っていた紙束を開いて中を確認する。チラッと見えた感じ、各領地の給水器と降雨器の必要個数が書かれているらしい。
「ライストナー公爵領では……こちらの数だけ支給になります」
そして目的の紙を見つけると、私が読めるように紙束を広げて固定してくれた。
「一度に全て受け取られますか? 何度かに分けることも可能ですが」
「一度に全てを受け取ろう」
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木箱の蓋を開いてくれたので中を覗き込むと、そこには魔法陣が浮かび上がった青石があった。いや、青石ではなくて魔鉱石と言うんだったな。
「王都に設置されている給水器は岩の台座に嵌められていたと思うが、それはどうすれば良いのだ?」
「そちらは領地で工房に注文をしていただくことになっています。こちらが設計図です」
差し出された一枚の紙には、かなり細かく採寸が指定された設計図が描かれていた。これは向こうに着いたらすぐにでも頼まないとダメだろう。腕利きの職人でも時間がかかりそうだ。
「ありがとう。では全てもらっていく」
「こちらに受け取りのサインをお願いいたします」
「分かった。……これで良いか?」
「問題ありません」
先程の紙束の端に俺がサインをして、それを文官が確認して紙束を閉じたところで、今日やりたい手続きは終わった。
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